ダンジョンで美食を探究するのは間違っているだろうか? 作:水豚(すいとん)
究極の美食。それ様々な美味いものを食べ比べ剪定し、その食べたものにとって一番美味しいと感じた料理または食べ物を指す。
しかしその判定は人によってまちまちであり、ある者がパスタ好きだとするとパスタ料理を究極としまた、ある者がスープ系が好きだとするとスープ系の料理を究極と選ぶように判定の難しい物だ。その為、優劣を付けるのではなくその食べた者にとっての究極が一番と宣う者もいるが俺はそうは思わない。だって前にそれを参考に食べ歩きを行ったら酷い目にあったから。いやぁーいなごの佃煮はまだいけるけど蜂はちょっと無理。
────だからこそ俺は考える。
この今、俺が置かれている状況ならば、誰もが認める究極の美食を探し求める事が出来るのではないかと。
※※※
……気付いたら見知らぬ獣道でつっ立ってた。
いや、一体全体どういう事だよ。さっきまで俺は道場で剣道の稽古をしながら今夜の夕食に想いを馳せていたはずだ。なのになんで、突然こんな場所で俺は立ってるんだ!?
汗臭い匂く、建物内を充満していた嫌な匂いは爽やかな森特有の植物と土の混じった匂いに変わり、木で作られていたはずの床は無造作に草が生えた土へと変わる。視線を右へ向けると森、森、樹海の三連コンボ。左に向けても森、川、樹海の別コンボ。空気は湿気が多いのか肌にべたつき重い。
あまりの状況にふと、現実逃避に空を見上げる。そこでは大きな太陽がこんにちわと燦々と輝き。その空では目を凝らしてでしか見えないが大きな鳥が悠々と飛んでおり、その鳴き声が森中をこだまする。
「あははは……不幸だ────ぉ?」
某幻想を右手でぶっ壊すマンの如きセリフが口から溢れたが、何かおかしかった。
「あ、あー。マイクチェック、ワン、ツゥー、ドライ」
────声が変だ。具体的言うとまるで顔面型ロボに支配される世界でスナイパーガールキメてる痴女や手のひらサイズの高性能ロボが一般に広まってる狂った世界の一作目ヒロイン、お兄様なヤベェ魔王が入学する学校の風紀員長を勤めてるポンコツのような声が聞こえる。────まて、待てよ。諦めるのはまだ早い。取り乱すな。あのキャラも言ってただろ、男はハートは熱く頭はクールにってよ。……よし。まずはアレだ。
「……し、シドーはメカメカ団のアイツとどう言う関係なのだぁ! ────ってオイ!」
CV井◯ 麻◯奈ってマジかよおおおおお!?
適当に似てる声だなぁー、なんて考えてたけどコレってマジかよ!?
よく見ると目線はいつもより若干高く、俺には無いはずの胸が邪魔で地面を見る事ができない。身に付けている物も道着と防具だと思っていたが違う。それは白銀に輝く、俺の見たこともないまるで騎士の如き鎧だった。
な、なんで俺はコレに気が付かなかったのか……
生唾を飲み込み、左側に見えた川へと足を運んで自身の顔を覗き込んだ。
そこには俺の顔が写っているはずであり、こんなにも緊張しなくても良いはずなのだが……現実は残酷。見覚えの無い顔、不安そうな表情をしている美人がそこには写っていた。
ま、マジかよ。誰だぁ、テメェ。
日本人とは程遠く、どちらかと言うとイギリスなどの欧州人に近い顔立ち。長い眉にクリクリとしたその瞳はエメラルドかの如く綺麗な緑色だ。長い髪は風でなびき金色の煌めきを日の光により輝かせ、その頭に乗せてる特徴的な髪飾がよく似合う────端的に言うと美人な女性の顔だった。
「な、なんです……の」
お、思わずお嬢様口調が出るぐらいには驚いてるぜ。ヤベェ、ヤベェ。妙に声質が合ってるだけにマジでヤベェ!
俺ってばいつのまに性転換に加えて全身整形、声帯変更までやってたわダァ!?
「お、落ち着くんですのよ私。ちょっとお嬢様口調が似合う声になっただけですわ」
あ、ヤベ。段々癖になって来たぁぁぁぁ。耳が心地すぎるぅぅぅ。……っふぅ。脳内で達しちまったぜ。
それはともかくまずは状況の整理だ。このままだと俺の頭の中は混乱しか生まねぇ。
まず一つ目。
俺はさっきまで道場で剣道の稽古をしながら夕食の事を考えていた。
んで、次に気付いたら時にはいつの間にか森のど真ん中の恐らく獣道で突っ立てたって訳だ。
ンンンンンン。リンボじゃないけとそんな感想が出てくるぐらいにはしょっぱなから意味不明ですねぇぇ。最近の転移物の物語でも、もうちょっと説明があるのにコレはひどい。
二つ目。
女になっていた。うん、何がともあれ俺の息子は使用する機会が無いままに消失してしまったのはよく分かってワイトは悲しい。
三つ目。
巨乳美人────ファ◯キュー!
なんでやなんでや! 貧乳好きの俺に対しての嫌がらせか! スズカさんを見習えよ。アニメ版で胸を盛られて大炎上したあの子をなぁ!
「……っとと。思考がズレた。胸の大きさなんて後だ後。今は此処がどこだと言う事に集中しよう」
少なくとも日本では無さそうだ。剣道の修行と称して何度か山にサバイバルしに行った経験があるからわかるが、あたり一体に生えてる植物に見覚えはない。気候的にアマゾンとか熱帯気候の森でない事は確かだが油断はならない。病原菌を持った虫だとか毒蛇などのその他に住み着く危険性生物がいるかもしれないんだからな。
そう考えたのでフラグが立ったのだろうか────目の前から草木をかき分ける音が聞こえた。
「────ッ!?」
マジかよ。俺ってば中々のやらかしをしてしまったんじゃなかろうか。
何かの気配がどんどんと近付いて来るのを感じ。そしてそれは姿を表す。
「ギギギ、ガガガ」
一見して背丈は子供ほど。だがそんな体に似つかわしくない不自然に膨らんだ大きなお腹、見るものに嫌悪感を抱かせる凶悪な面した生き物が飛び出して来た。身に付けている物は腰布とボロボロの剣。その生き物は俺では理解不能の言葉を喋り続けながら目は血走らせ興奮し、舐め回すように俺を眺めている。そして俺にはその姿に、妙に見覚えがあった。
「────ご、ゴブリン、だと!?」
ゴブリン。最近のファンタジーモノの物語にはお決まりと言って良いぐらいには登場するモンスター。んで、その性格は一部の例外を除き全作品共通で残虐非道な性格をしており、なによりも一番ヤベェのは男は殺し女は自分のこしらえた巣へと拐うって点にある。攫われた女性の末路は想像に固く無く、その末路は死ぬまで使われ続けるだろう。
「ま、不味い」
そんなモンスターが目の前にいる。元の男でも十分アウトだが今は女。それだけなら野球で言うツーアウト状態なのだが、女となった俺の体は世間一般的に見れば極上の女と言っても過言ではない。なのでスリーアウト、きっと今頃ゴブリンの欲情し、どうやって俺へあんなことやこんな事をやろうかと企んでるに違いない。
「────ッ」
このままではヤバイ。そう思い無意識的に腰へ手をやった。
その動きをしたからだろう。目の前のゴブリンは明らかに興奮した状態で涎をたらたらと出しながら武器を捨て、突っ込んできた。
い、いやぁぁぁぁ! 意味のわからない状態で死にとうないぃぃぃ!!!
無意識的に腰へやった手が何かの触れ、感触を伝える。そのままにソレを掴み取り、俺は────抜き去った。
「──はぁぁぁぁ!!!」
俺が抜き去った物をゴブリンへと叩きつける。そしてそれは結果的に言えば正解であった。
「ぎゃぎゃぎゃ──!?」
俺の視界いっぱいに真っ赤な赤い血飛沫が舞う。叩き付け────斬りつけた結果ゴブリンの体は真っ赤な血液を撒き散らしながら空高く舞い上がり、落ちる。ピクピクと一瞬震えた後に動かなくなり、血生臭い水溜りを作りながらゴブリンは事切れた。
俺はその光景に唖然となり、手にした物へと目を向ける。
それは一振りの直剣。
真っ白に輝くヒビのいくつも入った刀身。青いレリーフが施された彫刻にも見えるそれは刀身に入ったヒビから炎を噴出させながらも確かに俺が払った証拠である血液を滴りさせながら、そこにあった。
噴出する炎に暑さは全く感じさせず、本来重いはずの直剣は普段払っていた竹刀とそう変わらない。
ま、マジかよ。俺ってばこんな物持ってたのか。てか、えぇ。青い炎まで漏れ出してるのに一切何も感じないでマジィ?
唖然としながらも剣を払い、刀身ならついた血を払う。それでも死体から流れ続ける血によって血生臭い匂いが充満して鼻が曲がりそうだ。
まぁ、前にマチェーテ一本でクマとガチバトルした時よりマシか。あの時は俺も死にかけたからなぁ。
「と、とりあえずコレ……どうしよう?」
ゴブリンの死体。多分このままだと血の匂いに誘き寄せられて他の奴も来るだろうし────うンンンンンン。どうしたものか。
そうこうしている内にポトリ、と手に何か触れた感触があった。
何かと見てみるとそれは水。不思議に思い空を見上げても雨が降ってるわけでも無く、天気は快晴そのものだった。それでも落ち続け、地面を濡らし続ける正体不明の水。
そんでもってもう一つ、違和感がある。なんでさっきから俺ってばゴブリンの死体に視線が釘付けになってんだ?
手元に落ちて来た水を見ても、空を見上げ天気を確認しても、最後には何故かゴブリンの死体を見てしまう。死体なんだから当然嫌悪感を感じるはずなのだが、何故か何も感じず全くもって俺はどうじてない。人形の生き物を初めて殺したと言うのに────
「あ────ぁ────」
声は俺の意識と関係なしに自然と漏れた。一歩一歩自然と足が歩み出し、血に濡れるなど関係なしに死体の違くで座り込む。謎の水は先程より量を増して落ち続け、やがてはその正体に気付いた。
あ、なるほど。コレってば涎か。
そう認識した途端酷い空腹が、飢餓感が俺の体を襲い思考が定まらなくなって来た。
あぁ、あぁ、お腹すいた。 お腹がくぅくぅ鳴りました。
真っ赤な何かを俺は手に取りそして────食らった。
※※※
暗闇に光る炎の灯り。だがそれは決して優しい光では無く、ゴブリン達にとっては絶望すら希望に感じれるほどの恐怖の光であった。
最初は簡単だった。この森へ迷い込んだ女を集団で襲い掛かって拐い、自分達の巣へと持ち帰って楽しい事をするだけと考えていたんだから。
だが、仲間の1人が我慢ならなかったのか独断先行。
ソレを急いで追いかけた他のゴブリン達。1人だけ楽しい思いをさせてたまるかと、言う思いだったんだろうが彼らの見たモノはおかしかった。
確かに女がいた。その後ろ姿でさえもゴブリンの欲情を誘い、今すぐにでも襲いたくなるような極上の女が。しかし、その女は何かをしている。くちゃくちゃと水の跳ねる音。嗅ぎ覚えのある匂いが充満し、その匂いと女のやっている行動の正体に気付いた瞬間欲情の興奮は吹き飛んだ。
食っているのだ、俺たちの仲間を。
両手を真っ赤に染めながら既に事切れている仲間の腹を割き、肉を剥ぎ取って食べている。その光景はまさに狂気そのもので、ゴブリン達は未知への恐怖に体を震わせ後ずさる。そのせいだろうか。バキッと仲間の1人が枝を踏んでしまう。女は音がした瞬間ピタリと食べるのを止め、ゆっくりとこちらへ振り返った。
「────アハ」
それからは地獄であった。突如炎を吹き出す剣を手に取ると仲間が1人2人と斬られ、悲鳴を上げる間もなく死んで行く。森の奥へ逃げようにも、炎がまるで意思を持ってるかの如く逃走経路を塞ぐように広がり逃げることも出来ない。仲間が次々と殺され、やがては最後の一匹に。
そいつは死に物狂いで逃げ惑うが抵抗虚しく頭を掴まれ、捕まってしまう。武器で腕を攻撃するも、全く効いている様子は無くジリジリと頭を掴む力が増していくのみ。そのまま頭を潰されてお終いかと思われたが突然、高く持ち上げられ首に痛みが走った。首を噛みちぎられたのだ。
声を出そうにも声帯を持って行かれたようで、空気の抜ける音のみ出るばかり。
最後にそのゴブリンが見た光景は口元を血液で真っ赤に濡らし、頬を染めながら仲間の肉を貪る女の姿であった。
※※※
気付いたら俺は全身血まみれで立ってたぜ☆────って怖いわ!
「お、落ち着いて。落ち着くんですのよおれぇ」
肉片が刀身にこべりつき、あたり一体まるで火災現場の跡地の如く酷い状態。そんでもって俺はその爆心地の如く真ん中に突っ立てるって訳よ。
意味がわからないって? 大丈夫、俺も完全には分かっていない。けど、これだけは把握している。結論から言おう、俺は多分だけどゴブリンを食べたと思う。
強い飢餓感は人間を狂わせるって言うが本当だな。だって夢中に食べてたみたいでその前後の記憶無いもん。でも、これがまた美味かったんだよなぁ。初めて食った高級ステーキの如く絶品で。確かにゲテモノだと思うけど過去にクマをその場で捌いて食ったことあるから今更感があるんだよなぁ。
「とりあえず、この状況をなんとかしませんと」
恐らく返り血? だらけの俺の体にあたり一面焼け野原。何があったかはわからないけど、これだけは言える。今の状況の俺、怖くね? そう思った俺は急いで川を目指して歩き出すのだった。
俺の名はまだ分からない。何が原因でどうして女としてこの森にいるかわからない。けどまぁ、これから探して行けばいいか。
なるべくならバーゲストの悪食を生かしたいよね☆