我、迷宮都市にて拳を極めし者   作:鬼の軌跡を見た神

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鬼は降り立つ

 そこは、古びた寺の外。草茂り風吹く空間。そこで、2人の男が戦っていた。

 

 かたや、白い胴着に赤い鉢巻を身に付け、かたや、黒の胴着を身に付け、赤銅の髪を後ろでまとめていた。2人の争いは、剣や銃を用いない、原始的な拳のやり取りに見えて、そういうわけでもない。

 

「波動拳ッ!!」

 

「豪波動拳ッ!!」

 

 青色の気弾と紫色の気弾が激突し、弾ける。

 

「どうした、小童。我に真なる風の拳とやら、見せるのではなかったか?」

 

「あぁ。俺は豪鬼……あなたに、この拳を見せるために来た。そして、戦いはここからだ!」

 

「望み、宿願遂に叶ったり……参れ! 小童!!」

 

「行くぞ!!」

 

 2人の男の拳が、足が、ぶつかり合い、剣のごとく火花を散らすかに思えるような戦いが始まった。

 

 

 

 

 

 戦いも、長引くことはあれど終わらないということはない。

 

「はぁッ……はぁッ……豪鬼……これが、風の、無の拳だ! 俺は、殺意の波動になど身を預けはしない!」

 

「実に見事だ。我に向かうに相応しい。故に……!」

 

 豪鬼、と。そう呼ばれた、黒の胴着の男は地に足を強く踏みしめて、気合いを練り上げるような姿勢をとる。その姿に、小童、と呼ばれた、白の胴着の男もまた、同じ姿勢をとり、各々に力強く声を出す。

 

「オオオオオオォォォォォ……!!」

 

「ヌゥゥゥゥゥォォォォ……!!」

 

 幾度となく、戦いのうちで繰り返してきた波動の練り上げ。それは、相手の間隙をついて行う、ほんの短い間のものばかり。

 

 故に、2人がこうして同時に、波動を練り上げることで、次の行動でこの戦いに終わりがつくことが確定した。

 

「さて、リュウ……とくと聞け。拳を天へ向け、膝と共に打ち上げる。神仏に弓引く、故に禁じ手。名をなんと言ったか、無論語る必要はないだろう」

 

「昇龍拳……俺が、あなたのようになりかけた、しかしならなかった、その理由を作り出した技だ」

 

「そうだ。では……」

 

 次の瞬間、豪鬼は黒い波動をその身に纏った。

 

「天より降り、敵を砕き、地を割る拳をなんと呼ぶ。刮目せよ、小童、いやリュウ! 我が最大の好敵手よ! これを……我が【禊】を!!」

 

 豪鬼は、姿をその場から掻き消していた。だが、リュウにはわかる。

 

「(殺意の波動。それを用い、豪鬼は俺の頭上にいる……感じ取れ。殺意を……その息を、風を!!)」

 

 リュウは惑うことなく、リュウ自身の拳に己の青き波動を纏わせた。

 

 上から、近付いてくる。確かに、そこにいる。もう、余裕はない。だが、リュウは落ち着いていた。限りなく引き伸ばされた、極限の集中が象る時間の遅延の中で、リュウは。

 

「本気を出せ!!」

 

 すべてを見切った。と同時に、砲声する。

 

「真!!」

 

 波動を纏った拳は電撃を走らせるがごとく、【禊】のために降る豪鬼の腹を叩く。

 

「昇龍拳ッ!!!」

 

 一度目の拳は、ショートアッパー。二段目こそ、本命。高く、天に向かって拳を突き上げ、飛翔。膝打ちで追い打って、飛んだリュウより高く、豪鬼の身体は打ち上がった。

 

「(あぁ……リュウよ。よくぞ、よくぞこの我を打ち破った。うぬこそ、真に拳を極めし者ぞ……天晴。未練、思うことなく……逝けるか)」

 

 そうして、打ち上がった身体が地に激突する感覚を覚えることなく、豪鬼の意識は失われた。

 

 

 

 

 

 音がする。声はしない。ひどく寒い。霊峰で修行をしているかのごとく、高所特有の遮るものはなにもない冷風が吹いていた。豪鬼は、目を開けて、空を見上げていた。

 

「(どこだ、ここは)」

 

 最初の思いはそれだった。次にくる思いは、

 

「(殺意の波動が、我が内にあるにもかかわらず問いかける衝動はない……リュウの拳は、我が殺意をも調伏したか)」

 

 感嘆。リュウという才能の大器が、ついに殺意の波動の対極たる無の波動に目覚めていたらしい。喜びに打ち震える……というわけでもなかったが、実に喜ばしかった事ではある。己を打ち破った男の先は、男なら誰もが気になる物なのだ。

 

「(ふむ……しばし、こうしてみるか)」

 

 豪鬼は、しばらく己の生を思い返すことに決めた。

 

 師……轟鉄に若きから剛拳と共に師事し、あるときに強きを求めて殺意の波動に目覚め、師轟鉄を己の最強と信じる奥義……【瞬獄殺】で滅した。

 

 それから、強者を求めて世界を渡り、多くの者を倒した。まず剛拳を殺した……後々、死んでいなかったと知った時には本当に驚いた……また、時に、降る隕石を砕いたことや、悪の組織の主格を一撃の下叩き伏せたこともあった。

 

 死にかけたこともあったし、寺……というよりは道場だったのだろうある地で女に救われ、女の願いを聞き届け女の夫とその息子を葬り去ったこともあった。

 

 息子のほうと戦っていたら葬ったはずの夫のほうに衛星兵器でぶち抜かれた、などという笑い話もあるが、まあ実に。

 

「思えば、我が人生は常に死合うことに満ち溢れていた」

 

 心からの述懐になる。多くの死合いを制して、生き残った。ついにリュウに敗れたが、なぜか己はどこともつかぬ不思議な場所で、まだ生きている。

 

 ここで、またリュウと、あるいはまだ見ぬ強者と死合えるのだろうか? 

 

 その自問への解は、即座に与えられることとなる。

 

「おい」

 

 声が耳を打ち、豪鬼は起き上がった。そして、声のした方を見て、小さく驚いた。猪のような耳を持つ、巨大な大剣を背負った筋肉質な男が立っていたから。

 

 あぁ、ここにも強者はおるか。そう、安堵した。

 

「ここはバベル……フレイヤ様の寝所の直上だ。こんなところになんのつもりで、なにをしていた」

 

「我にも分からぬ……と言っても、疑わしいだろう」

 

「……いや、俺にオラリオにおいてお前ほどの強者の心当たりはない。名の心当たりもまたなかろう。であれば、何らかによりここにいる、というのもまた、理解できなくもない……何らか、がなんなのかがわからんが」

 

 普段のこの男を知るものならば、この長い言葉に驚きを示すものが多いだろう。普段のこの男は一言二言で会話を済ませる。

 

 長い言葉が捧げられるのはもっぱら女神フレイヤに話しかけられたときだけだ。

 

「うむ……話の分かるようでなにより。我はいくつか、知りたいことがある……教えてもらえはせぬか」

 

 無論、そんなことを豪鬼は知らない。故に、問いを投げかける。猪のような耳を持つその男は頷いてから、こう、問いかけた。

 

「まずは名前を聞こう、珍客。俺はオッタル……【フレイヤ・ファミリア】の団長だ」

 

「オッタル……うぬの名、覚えたぞ。我は豪鬼……拳を極めし者なり」

 

「豪鬼……わかった。ついてこい。こっちだ」

 

 ひどく筋肉質な男2人は、そうして下へ、フレイヤの元へと歩みだしたのだ。

 

「ここだ……フレイヤ様! 上の気配の正体、連れて参りましたが」

 

 ドアを軽く叩き、オッタルは問いかけた。女神フレイヤ……信じられない話ではある。フレイヤといえば、宗教には疎かった豪鬼自らでさえ知っている、ギリシャあたりの有名な神々に名を連ねている神そのものであろう。

 

 そんなものと会えるとは、実に面白い場所だと豪鬼はひとり頷いた。

 

 豪鬼の西洋の神話への理解の関係で、オーディンとゼウスが混同しているがために、2つの神話が融合してフレイヤ…ひいては多くの神の神話を違えていることについて、後々とある神にツッコミを入れられることになるのだが、それはまた先の話だ。

 

「入っていいわ……おいで」

 

 中から澄んだ声がして、オッタルがこちらへ向き直った。

 

「入室の許可が出た。入ってくれ、豪鬼」

 

「邪魔をする」

 

 オッタルが扉を開け、フレイヤの右奥まで歩んでこちらへ向き直る。豪鬼は、確かな歩みと共に、なぜか履いていた草鞋で豪奢な絨毯を踏んでその前に立った。

 

 ひどく美しい女だった。なるほど、美の女神。そう納得せざるを得なかったが、魅了されることはなく、豪鬼は一言。

 

「まずはそこな男とうぬとに感謝する……どうにも、うぬこそこの塔に住まう尊き者ということは、ひどく非礼をしたことになる。それを排除せず、一時話をする寛大さに謝すこととする」

 

「豪鬼……だったかしら? 私の魅了が通用しない子は久しぶりよ。はじめまして……私はフレイヤ。【フレイヤ・ファミリア】主神、美を司る神よ。で、聞きたいことがあるというから呼んでみたのだけれど?」

 

 豪鬼はそういえばそんなことをオッタルに言ったな、と思い起こして、問いを投げかける。

 

「うぬの神智に問う。ここは、何処か。うぬらの言う、【ファミリア】とはなにか。そのあたり、聞かせて貰おうか」

 

「一つ目の問い、ここはどこかについてから。ここはオラリオ……迷宮都市オラリオ。ダンジョンという洞窟のような迷宮の出現と、その迷宮からの資源による一攫千金を求める冒険者とによって発展した、この世界の中心……強者の集う街よ」

 

 求めているものを、見抜かれたかのような答えに豪鬼は普段見せぬ笑みを浮かべた。ただし、その笑みは非常に恐ろしい、まだ見ぬ戦いを期待するものの笑みだったが。

 

「では、【ファミリア】については不肖、私からよろしいでしょうか「構わないわ」感謝いたします……豪鬼、【ファミリア】とは主神と、その恩恵を授かるもの……すなわち眷族との共同生活体のことだ」

 

 オッタルは説明をフレイヤから受け継ぎ、豪鬼に聞かせていく。

 

「つまり、うぬはフレイヤより下賜された恩恵を受け、その眷族となった者達の長ということか」

 

 豪鬼もまた、情報を得ることは万物を制すことに繋がると知っているから、学には貪欲であった。

 

「そういうことだ……【ファミリア】には系列と規模がある。我ら【フレイヤ・ファミリア】は探索系大規模ファミリアだ」

 

「その言い口では、探索系ではないファミリアがある、ということだな?」

 

「察しの通りだ。誰もが戦いを望むわけではない……故に、医療系、農業系といった俺たちを日常面で支える者達や鍛冶、木工といった俺たちの武器を造り出す者達がいる。そして、ダンジョンは探索系のファミリアにより攻略され、先に述べた彼らに素材や換金された金が回っていく。それがオラリオだ」

 

 豪鬼は頷いた。ダンジョンという不思議な洞窟ひとつが、街を象っているということは相当なことだ。いずれは行ってみるのも面白かろう、そう思った豪鬼だったが、フレイヤが声をかける。

 

「あぁ、貴方だからやるだろうと思っているけれど……神の恩恵を受けないものは【非戦闘員】として扱われダンジョンに潜るために必要な冒険者登録が出来ないの。だから【ファミリア】に所属するのは最低限の条件となっているのよ」

 

「ふむ……なるほど、資源として重要視されているからこその、責任の所在を表すための管理の側面もあるのだろう。理解する」

 

 フレイヤは内心、この男は見た目の筋肉質さからは想像も出来ないほどに理知と俯瞰に長けていると評価を上方修正した。

 

 魅了が効かない筋肉ゴリラ、それだけならマシだったのにな、と舌打ちを打ちたくなるような気持ちを押さえて、とりあえずフレイヤはそれを聞いてみようとした。が、先手を打たれていた。

 

「だが、そうだな。行く宛があるわけでなし。一時的にここに居を置かせて貰うことなどできるか?」

 

「……と、いうと?」

 

 豪鬼の考えはこうであった。

 

 ダンジョンでなら、強き者に、あるいはモノに出会えるやも知れんが、ダンジョンに潜るためには恩恵……というよりはファミリアへの所属実績が必要だ。ならば、どこか手頃なファミリアに籍だけ置いておくというのはどうだろうか、と。

 

 手頃なファミリアが、よりによってこの【フレイヤ・ファミリア】なのは命知らずというべきかなんというか。しかし、フレイヤとしてもその能力を見極めたいところではあったから、渡りに船と見て、豪鬼のその問いに肯定的な頷きをする。

 

「いいわ……いつでも【改宗】できるような恩恵を刻むことにするけれどいい?」

 

 その言葉に、否を唱えたのは豪鬼だ。

 

「その【恩恵】とやら、我には無用。疑うのであれば、そこな男と戦えば分かろうが」

 

「ほう……【恩恵】なしでやりあう気か?」

 

 豪鬼は言外に、俺は恩恵などなくともオッタルより強いだろう、と言っている。そして、このオッタルは冒険者として優れているだろうから、それに勝れば疑う余地は消えるだろう、とも。

 

 傲岸不遜、己の強さを信じる豪鬼の言葉であった。時間は早朝であったから、オッタルとフレイヤは意見を一致させた。

 

「分かったわ、【戦いの野】に案内させるから、そこで模擬戦をして。貴方がオッタルに勝てば、私のファミリアと私で貴方に協力してあげる。やれるわね、オッタル?」

 

「勿論です、フレイヤ様。この身はすべて、ことごとくにおいてあなた様のために!」

 

「善き哉……強者と仕合える機会がこんなに近いとは。やろうか、猪の。うぬの剣とやら、この豪鬼に刻み付けてみるが良い」

 

 楽しみで仕方ない、そう言わんばかり豪鬼は、鬼は笑った。

 




豪鬼が思い起こした過去は、ストリートファイターのものと鉄拳のものとがあります。

技解説・【禊】編
言葉通り、天に向かう昇龍拳の対極にあたる天から降り地を割る手刀。ベガを一撃で葬り去ったこともあるのはこれである。
次回以降の技解説のコーナーでいつか紹介するかもしれない【瞬獄殺】にイメージを奪われているが、ストリートファイターシリーズプレイヤーとしてはこっちを推していきたい。



次回はオッタルと仕合いです。死合いではありません。

原作で生存しているキャラを殺すつもりはございませんが、原作で他のキャラに殺されるキャラを豪鬼が殺す可能性はございます。

これからよろしくお願いすると共に、感想、評価等よろしくお願いいたします。
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