我、迷宮都市にて拳を極めし者   作:鬼の軌跡を見た神

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仕合う鬼、当たるは猪

 場所を移し、【戦いの野】。ここは【フレイヤ・ファミリア】が行う共同訓練の場であり、空に日のあるうちは優秀な医療班のもとに殺し合いが行われる場所である、らしい。

 

 らしいというのは団長のオッタルが自ずから語ったことであり、己は一切見たことがないからだ。聞いたことだけを事実と考えたくないからこそ、実際に見に行くのが豪鬼の在り方のひとつであったかもしれない。

 

 前を歩むオッタルがこちらへ向き直ったがために思考を止める。

 

「ここの奥だ……俺は支度をする。これよりこの男に案内をさせよう」

 

「良かろう……一任する。それで、うぬが先の案内か」

 

 この男、と呼ばれ豪鬼に視線を向けられたエルフは一礼し、声を出した。

 

「話は今さっき聞かせて頂いた。私はヘディン、我らが主神フレイヤ様と団長オッタルの委任を受け、貴方の案内をさせて貰う者となる。よろしく頼む」

 

「ヘディンとやら、うぬもまた強者か。いずれ見える時を待つ……今は我を導け」

 

「いずれ、必ず。では客人よ、こちらへ」

 

 日頃語気の荒いヘディンではあるが、此度はフレイヤ直々に『お願い』を受けたからか、神に対してのみ用いられる敬語を豪鬼に用いている。

 

 いつかの戦いを夢想してかヘディンの頬が一瞬つり上がり、そして豪鬼を後ろにして奥へと歩みだしていったのを送ると、オッタルもまた用意をすべく歩み出した。

 

 

 

 

 

「この扉を開けば模擬戦の場として用意したフィールドがあります……ルールについては審判を務める者からお聞きください。それでは」

 

 そう告げるヘディンに対し、豪鬼は言葉なしに頷いて、手を保護するためにいつからか使うようになった荒縄を改めて巻き直す。

 

「行くか」

 

 一言、己に告げる。戦いだ、と。

 

 慎重に扉を開けるなどそこに待ち受ける猪人に礼を失する。大きく、己はここにいると宣言するつもりで、豪鬼は扉を両手で力強く弾いた。

 

 ズドンッと豪快な音が響いて、扉が開けっ放しの状態で固定される。広い、広い荒野のような、戦うに相応のステージと、その奥に大剣を突き立てて待つ猪人を確認し、その前に立つ。

 

「来たな、豪鬼」

 

「うぬの大剣、この豪鬼が叩き折りに来たぞ……強者を喰らう、それこそが戦い。さぁ、うぬが喰らうに相応しいか見せてみよ……!」

 

 一触即発の空気、今にも戦いを始めそうな二人に……

 

「待ってくれ客人、我らが女神が定めたもう神聖なる模擬戦規則を明かし、理解して貰わねば困る」

 

 見事に割り込んだダークエルフの男。

 

「ぬ? これは礼を失した、謝す。して、うぬの名は」

 

「我が名はヘグニ。此度の模擬戦の審判を務める者だ。それでは規則を読み上げる……」

 

 豪鬼は、ヘディン、ヘグニと並ぶ名を聞き、強者と見えること自体はそう難しくもなさそうだとこの世界に喜びを覚えつつ、規則を聞いていた。

 

 殺しなし、今後に影響の出ることもなし、それ以外ならなんでもあり、シンプルだったがゆえに覚えることは少なく、戦う準備の段階まで場が進みつつあった。

 

 目の前の猪人……オッタルと少しの距離を取り、構えを取る。殺意の波動を総身に漲らせ、身体から黒の波動が漏れだし始める。オッタルから見れば、目も赤く輝きだしているのがわかっただろう。

 

「ほう……それが豪鬼、お前の構えか」

 

「構えよ猪人、ただ戦うことのみを思え。これぞ我が殺意の波動よ」

 

 オッタルもまた構える。大剣を地に刺したまま、背に負った大剣を構え、もう片手を地に刺した大剣に添える。

 

 辺りに殺気が満ち溢れつつある。豪鬼のものと、オッタルのものと。それを観戦する女神やその眷属は、いつにもまして強大なオッタルの気配と、それに対して一切劣ることのない豪鬼の殺意とを感じ取っていた。

 

 そうして、互いに接近戦の準備と見えた、その瞬間。

 

「それでは……模擬戦、始め!」

 

 ヘグニの声と、

 

「豪……」

 

 豪鬼の手中に紫色の弾が生成されるのと、

 

「ッ!!」

 

 オッタルが大きく飛んだのは同時だった。

 

「波動拳ッ!」

 

 オッタルのいた場所を、紫色の弾が貫いた。

 

「行くぞ豪鬼ィ!!」

 

 地を蹴りつけ距離を詰め、大剣を振るうオッタルに対し、豪鬼はバックステップで距離を置いた。

 

「ほう……だが逃げてばかりではなんともならんな、豪鬼」

 

「うぬも言うではないか……次はこちらの番だ」

 

 駆け出す豪鬼。人かと疑うような速度でオッタルへ迫り、殴り込む。無論大剣の腹やらなにやらでガードをするわけだが、ガードをするたびに後退しているのではないかという疑惑が出るほどに重たい拳であった。

 

「ふんッ! はぁッ! 存分に味わえ……!」

 

「これは……重い、格闘とは思えぬほど……一度離れろッ!」

 

 大剣を大振りして距離を取らせ、次なる攻勢をと考えようとしたオッタルだったが、大剣をかわしながら目の前に飛び込んできた豪鬼に目を見開く。

 

「甘いわ……【豪砕】ッ!!」

 

「ッ! うおおおおぉっ!!?」

 

 瞬間、肩を掴まれたと思うと、オッタルは宙を舞っていた。飛びかかった豪鬼は、飛びかかった姿勢からオッタルの頭上を通り、肩を掴むと自分の足を大地につけんとする勢いを利用して投げ飛ばしたのだ。

 

 もちろん、受身を取り、即座に立ち上がるが、その受身の間に豪鬼もなにかしら手を打ってくるだろうと読み、大剣を即座に盾にした。

 

「【赤鴉豪焦破】!!」

 

 その判断は正しく、炎で出来た弾のようなものが大剣に当たり消えた。だが、それのみで終わらないのが豪鬼。

 

「グォッ!?」

 

 大剣を盾とした結果、豪鬼の姿が視界に写っていない時間を生み出してしまったオッタルに、弾の後を追って飛び込んだ豪鬼の打ち上げるような蹴りが入る。

 

「その身でとくと味わえィ、滅殺ッ!!」

 

 上に駆け上がるように竜巻のように回転する蹴りを放ち、空中で前蹴りから回転蹴りで地上にオッタルを叩きつける。

 

 オッタルが防戦一方である事実は、ファミリアの者たちには、ひどく信じがたいものを見ているような、と形容されていた。

 

「ふふふ……ははははははははッ! やるな、豪鬼……!」

 

 戦意をより別の形へと高めたオッタルは、久しぶりの強敵の、その強大さに笑う。その強大さを持っていてくれることへの、感謝を示すために。

 

「まだ戦は始まったばかり……うぬもこれだけではないだろう」

 

「無論!」

 

 長い戦いになる。周りの人と神とはみな、そう思った。

 

 

 

「「(短期に決めきる、それ以外のことはない……)」」

 

 少しの打ち合いの後、豪鬼が大きく吹き飛ぶ前に黒い波動を纏って地を殴り、空へ。そのまま急降下の飛び蹴り……【天魔空刃脚】を喰らわせようとして、オッタルが距離を取ったことで空振り。

 

 そんなやりとりを経て、二人は確信した。

 

「(この猪人、手合いとしてはいつか出会った伏した虎に似る。長引けば長引くほどに、強くある意思が、実際に人を強くする。であれば、勝ちを得るべきは今か)」

 

「(この男、おぞましいまでの力だ。俺ですら、及ぶかどうかわからない。しかし長く戦えば勝てる、その保証もない。であれば、勝ち目があると断言できるのは今だ)」

 

 偶然か必然か、生み出された再びの距離を置いた対峙。

 

 2人の休息、あるいは準備時間が重なり生まれた間隙。

 

「オオオオオオオオオオオォ……ッ」

 

 豪鬼が力強く、その身の波動を色濃く纏わせる。己の一撃の中で、最高の技を見せ、それで終わりにする。故に、早く本気と全力、どちらも見せよ。

 

 そう、その姿はオッタルに語りかけるようで、オッタルは高らかに詠唱を始めた。

 

「【銀月の慈悲、黄金の原野、この身は戦の猛猪を拝命せし。駆け抜けよ、女神の真意を乗せて】」

 

「やめろオッタルッ! それを撃てばアレとてただでは……!!」

 

 ヘグニには申し訳ないが、アレ……豪鬼に、これを撃たねばそれこそ奴が言う礼を失する、という奴だろう。男同士のやりとりは、最強の一撃のぶつけ合いで決めるが良いと相場は決まっていた。

 

「喰らえ豪鬼ィッ! これぞ、我が至高の一撃……【ヒルディスヴィーニ】……ッ!!」

 

 なにもかもを爆砕する、究極にして窮極の一撃が解き放たれる。そして、対する豪鬼は。

 

「覚悟は良いか」

 

 ただ一言。そうして、豪鬼は右足を上げ、左足のみで立つ独特の姿勢を取った。

 

「ウオオオッッッ!!!」

 

「【阿修羅閃空】」

 

 吼えるオッタルの目の前で、猛獣の咆哮のような声が聞こえたような気がした。

 

 次に、オッタルが見たのは、聞いたのは。

 

「一瞬千撃」

 

 襲う一撃を、『すり抜けて』、身体に拳を撃ち込んできた、あり得ない現実と、それを為した男の声。

 

「抜山蓋世」

 

 凄まじいスピードで己の身体が殴打されている。オッタルはそれを自覚した。しかし、もうどうすることもできない。

 

「鬼哭啾啾」

 

 身体に拳とは思えぬ衝撃が刻み込まれているような気がしている。いや、恐らくは気のせいではないのだろう。あの、波動拳。それを拳から体内へ撃ち込む……そういったことで、より確実に仕留める必殺の技。

 

「故豪鬼成……これぞ、我が奥義【瞬獄殺】。善き勝負であった。また、仕合う日を待っているぞ、強き者、猪人オッタルよ」

 

 これこそが、豪鬼の必殺とする奥義。オッタルはその場に倒れながら、こちらに背を向けて立つ豪鬼を見上げた。その背に浮かぶ、【天】の一文字に、己の敗北への悔しさを酷く感じながら。

 

 勝者の豪鬼は、技を放った姿勢のまま、ヘグニと名乗る審判へ目線を向ける。

 

「……ッハ……そこまで、勝者っ、豪鬼……救護班!! 早く、早くオッタルをッ!!」

 

「その必要はない」

 

「なんだと?」

 

「見よ」

 

 指差した先、意識を一瞬飛ばしたが即座に戻ってきていたオッタルが、立ち上がろうとしていた。

 

「実に見事……強き者、まさしく強き者よ。強く、毅くある、あり続ける。……鬼に落ちずして成すそれが如何に難しきことか」

 

 救護班として呼ばれていたヒーラーの女が駆けよって診察をしながら具合を本人から聞き出しているのを、豪鬼は眺めていた。

 

「オッタルさん、大丈夫ですか?」

 

「だいぶ打ち据えられたが……奴、規則の通りあの技が人を殺め得るとわかって、多少妥協していそうだったな」

 

「わかるか、猪人」

 

「無論だ……故にこそ、悔しさが残る」

 

 その言葉に大いによしと首を振った豪鬼は、背を向けた。

 

「我はうぬらの神と話がある故、行くが」

 

「待て、豪鬼。俺も行こう」

 

「仕合のうちに【瞬獄殺】をその身に受けたのだ、安静にすれば良い物を。善い、では導け。汝の神の元へ」

 

「ふっ……こっちだ」

 

 豪鬼が手を差し伸べ、オッタルがその手を取って弾みをつけ立つ。リュウと争い、負けるまでの豪鬼というものを知る者が、ひとりでもいるならば、恐らくは豪鬼を名乗る偽物とでも断じそうだが、ここにいるのはリュウに変えられた、新たな鬼。

 

 猪人が生来初の友となった豪鬼は、歩みながらにして拳を握りしめ、改めて思いを深める。ここには強者が、きっと多くいる。それと出会うことがただ楽しみだ、と。

 

 己の最大の好敵手の言葉をふと思い出して、口に出す。

 

「ふ……俺より強い奴に会いに行く、か。それもまた、我が鬼の道とは外れる。だが……悪くない」

 

「豪鬼……?」

 

「あい済まぬ。思考に耽っていた……行こうか」

 

 豪鬼とオッタルはフレイヤの元へ、ゆっくり歩んでいった。

 

 

 




技解説・【瞬獄殺】編

弱p弱p→弱k強pのコマンドと、「一瞬千撃」のカットイン、それに背中の【天】の字でお馴染みの豪鬼といったらこれという技。無敵移動技の【阿修羅閃空】で接近、掴んでから高速で【殺意の波動】の籠った拳を叩き込み、体内で波動拳を炸裂させて敵を滅殺する。

オッタルに撃って死んでないのは「鬼哭啾啾」あたりまで波動拳を炸裂させていないのと純粋にレベルによる肉体の強化があったのとが重なっている。

今回は以上となります。次回もまたよろしくお願いします。

感想と評価を貰えるとモチベーションが上がって次書く速度が上がりますので何卒よろしくお願いします。

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