我、迷宮都市にて拳を極めし者   作:鬼の軌跡を見た神

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鬼と迷宮

 フレイヤとの話し合いが全面的に終わり、地上までオッタルによって送られていく豪鬼は、オッタルと会話を交わしていた。

 

 全面的にフレイヤからの協力を得て、この街唯一の【恩恵】を持たない冒険者として活動できることになった豪鬼は、オッタルに礼を述べる。

 

「ひとまず、助かったぞオッタル……うぬが我とただ争っておれば互いにただでは済まぬどころか、我がこの地に残ることなぞ能わなかっただろう」

 

 そう述懐するようにオッタルに謝す豪鬼。

 

「ふ、こちらも感謝はしておこう……俺にも越えるべき壁があったことと、新たな友ができたことの2つにな」

 

 対して、オッタルは頷き返し、より多くのものを得たと笑う。

 

 心地よい沈黙。男、というよりは漢2人。言葉はなくとも、それで十分だ。

 

 しばらくの沈黙を破ったのは豪鬼だ。

 

「うぬの言う迷宮とやら、今より足を運ぶつもりだ」

 

 その言葉にオッタルは豪鬼の方を見やり、助言をした。

 

「お前なら大丈夫とは思うが……あまり油断をするものではない。アレは迷い、躊躇い、そういった弱みにつけこむ。異常事態には警戒しろ」

 

 豪鬼は己が知らぬことは実直に学ぶことにしていた。故に、その助言を至言とし、心に深く刻み、戒めとした。

 

「うぬの言うところ、確かに覚えたぞ……ではな」

 

「あぁ。ではな」

 

 地上についたと共に、オッタルは背を向け、豪鬼は迷宮に向かい、それぞれに歩み出す。それぞれの口許には笑みが浮かんでいた。

 

 

 

 ──―迷宮、12階層

 

 豪鬼はオッタルと別れてから後、かつて己の好敵手……リュウが使っていたような、持ち運びのきくバッグの中にある程度の糧食を詰め込んだものを背に担ぎ、迷宮の中を恐ろしいほどのスピードで進んでいた。

 

「ふむ……迷宮、このような場があるとは。異界も極まればこうか」

 

 豪鬼は一人納得といったように頷いた。と同時、視界内にモンスターが映る。

 

「犬ころに醜悪な小人、それに影に蟻……ここはこやつらしか居ぬのか。なれば、より深くへ行くのみ……滅殺ッ! 【赤鴉豪焦破】!!」

 

 ただ一瞬で、焔が群れを貫き、片が付く。

 

「思うが……過剰か? まぁ、良いわ……む?」

 

 なぜか、迷宮が揺れている。そんな気がした。間違いなく、正常な迷宮ではないのだが、豪鬼は知らない。だが、そんなことを知らずとも豪鬼は感じ取れる。いや、豪鬼でなくても感じ取れるだろう。すぐ足元に、巨大な存在が接近していることは。

 

 瞬間、轟音。地が裂ける。

 

「ぬぅ!!?」

 

 豪鬼は、下から地面を突き破り現れた、巨大な蛇にその身を呑まれ、はるか下の未知なる世界へ突き進むこととなった。

 

 それが不幸か、と問えば、誰もが口を揃えて不幸にあたると言うだろう。誰にとっての不幸か、と言う点についてはわからないが。

 

 ──迷宮、X階層【大蛇の井戸】

 

 それに、意識はない。それに、理由はない。強いて言うならば、それは「運がないね!」と言われる類いの、いわゆる交通事故のような、と言ってもこの世界にはそういったものはないのであくまで天災のようなものだ。

 

 本体に攻撃性能はなく、本体に荒い気性はなく、されど迷宮を自在に移動し人を呑んでは下へ上へと送りやる。

 

 その性質から、【大蛇の井戸】と呼ばれ、冒険者からの渾名は【ラムトン】と呼ばれるそれは、とくに意味もなくいつも通り、不幸な犠牲者を呑んでより下へ下へと潜るだろう。

 

 ただ、いつもと違うところが2つあった。ひとつは、とんでもない力を持った鬼の気配にあてられて、普段よりもずっと上にそれが上がってきていること。もうひとつは、それが一番の被害者になるということだった。

 

 

 

 ──迷宮、50階層近辺、下降中

 

 豪鬼は大蛇の腹に呑まれていた。豪鬼としてもこの状況は甚だ不本意……というわけでもない。どうも、この蛇は下へと向かっているようなのだ。とあれば、適度なところで腹を内側から裂いてやれば良い。

 

 実際それが何時かなどはわかったものではないので、身支度を整え、気を迸らせ、殺意の波動を高めきる……臨戦態勢が整えばということにした。

 

「ぬぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ……おおおおおおおおおおぉ……!」

 

 今行っている気力の充填で、気も殺意の波動も十二分。故に、割腹式飛び降り下車は今から執り行われる。

 

「ウォオオオオァァァァァアッ!!!」

 

 渾身の気合いと共に、手刀を叩きつけ、気を爆破する。

 

 哀れな大蛇を置き去りに、飛び出したほぼ一時間ぶりの迷宮の空中、真下を見やるとなにやら言葉を発する蔓やらなにやらと融合した女。

 

 遠目に見えるのは冒険者か、ずいぶんとズタボロになっている。地には多くクレーターも刻まれており、何事かと思考を加速させる豪鬼であったが。

 

『【破壊ノ厄災 代行者ノ名ニオイテ命ジル 与エラレシ我ガ……』

 

 目の前のそれが唱えているなにかによって、大体の理解をした豪鬼は波動を最高潮と呼ぶほどに高める。

 

 オッタルにいくつか言われていたことのひとつに、『モンスターにはヒト型もいる』ということがあったななどと思い起こした豪鬼は、それを敵だと判断。人命が掛かっていると理解。躊躇いなく空中から体勢を整えて……

 

「我が【禊】、とくと味わえ! 滅殺ッ!!」

 

【禊】と呼ばれる、空中からのありったけの力と波動とを混ぜた単なる手刀……されど、全てを滅する絶技であるそれを叩き込む。

 

 上から、下まで。2つに割れ散るそれを尻目に、豪鬼は歩み始め、冒険者たちは武器を構えた。

 

「すまない、そこで止まってくれないか」

 

 槍を持った小さな男に声をかけられる。ひどく少年のようでいて、幾度も苦労した老年の雰囲気を宿す、そんな不思議な男だった。

 

「良かろう」

 

 この男だけではない、他のメンバーも含めて、ここにいるものは等しく強者だ。そう豪鬼の勘は判断している。

 

「結果的に僕らは君に助けてもらうことになった者たちだ。こちらは【ロキ・ファミリア】、遠征部隊。僕は団長フィン・ディムナ……君は?」

 

 フィンと名乗ったその男の問いに返すべき文はひとつ。

 

「我こそ、拳を極めし者。名は豪鬼」

 

「豪鬼、ね。わかった……悪いけどもう少しだけ、君の力を借りたい。見ての通りこちらはボロボロだ。そちらがどうして上から降ってきたのかはわからないけども……安全地帯のキャンプまで、少しばかり同行願いたい」

 

「良かろう。強者が死合わず死ぬことはあってはならぬ……共に行かん、道は知れているか」

 

 フィンは頷き、こうして【ロキ・ファミリア】と豪鬼の奇妙なパーティが上に登っていくのだった。

 

 

 

 ──―【勇者】

 

 実に驚いた。この頃は驚くことばかりだけど、とくに驚いたよ。【穢れた精霊】、アイズの力、精霊の力、僕らの協調……そして、【2体目】と、豪鬼。

 

 勝利を得て凱旋しようとする僕らの心を読んだかのような、二体目、あるいは復活した精霊。そして、全く同じあの隕石の魔法の詠唱を、天から降る手刀一撃で精霊ごと砕き割り、僕らの意識を鮮烈な、そして圧倒的な赤黒色に染めた豪鬼という男。

 

 はっきりと述べるなら、2体目の精霊よりも、遥かに僕は絶望した。豪鬼の纏う赤黒い覇気にも似る殺気は、人の持っていい物ではない……僕は少なくともそう思っている。

 

 少しの同道を取り付けて、ひとまず敵じゃないとわかって。これほどまでに安心すると思ったのははじめてだ。英雄らしからぬ心だけど……そう、思わざるを得ない。

 

 敵じゃなくて良かった、の他に、ひとつ思ったことがある。なぜかはわからないけど。

 

 まるで、父のようだ。僕はなぜか、そう思ったんだけど……わからない。アレが子持ちだとは僕には到底思えないしね……。

 

 そこまで考えたとき、後ろの豪鬼から、声がかけられた。

 

 

 

 前を行く小人の団長へ、声をかけた。

 

「あいすまぬ」

 

「なんだい? 豪鬼」

 

「あの芋虫はなんだ」

 

 ブクブクと膨れた、黄緑色の芋虫が這いずり、上を目指していた。

 

「……巨蟲? なんで……いや。そんなことはどうでもいい……上に急がなくては!」

 

「豪鬼! 私たちはアレに拠点を襲われて半壊したことがあるんだ! 溶解液を吐き出し武器や皮膚を溶解させ、倒すと弾けとんで液体を撒き散らす!」

 

 焦るフィンと、解説する副団長リヴェリア……移動の道中に、その場の人の名前は一通り名乗りを受け覚えている……の言葉を聞くに、相当なものがあるようだがと考えて、ひとつ不思議を語る。

 

「モンスターとやらは階層を移動しない……そう聞いたが」

 

「アレはイレギュラー……さっきの【穢れた精霊】の仲間みたいなものでね、階層を上に上にと上がりながら食いに食い、精霊に差し出すのを仕事としているんだ」

 

「ほう……なんと。急がねばならんとするのも理解する」

 

 ひとつ頷いてから、気を高める。練り上げるのは、殺意の波動ではなく、リュウの拳を受けて得た本来の波動。

 

「フィン。道は開いてやろう……走る準備をするがいい。あれだけのものを抜けていくにはうぬらのそれでは少し手間がかかりすぎる」

 

「……いいのかい?」

 

「二言はない。進め」

 

 気を高め、波動を練り上げ、青の波動拳を生成し……

 

「技を最大の敵に倣うとしよう!」

 

 さらに波動を大きく、強く。それから放たれる技の名は、リュウの切り札の一つ。波動拳を重ね、より大きな波動拳とする技ではあるが……

 

「【真空波動拳】ッ!!」

 

 放たれたそれは、丸い玉ではなく、青い光の線として現出した。これは、ある時ケンに連れられリュウが渡米した折、リュウが編み出した真空波動拳の形のひとつであり、アメリカでの己との立ちあいで見せた技だった。

 

 無論、貫通によく長けているのは言うまでもない。

 

 線上の敵を殲滅し、道を作り出すと、走ってその先へ向かう【ロキ・ファミリア】の面々を追い豪鬼もまた走り出そうとして……

 

「(後ろから来られると面倒なことになるか)」

 

【ロキ・ファミリア】のメンツが階層を抜けたのを確認してから、蟲たちの前に立ち塞がった。

 

「来い。うぬらなど物の数にもならんわ……!」

 

 そう言葉を発した瞬間、目の前の蟲らは敵を倒さんと飛びかかった。




技解説・【真空波動拳】編

リュウの超必殺技として語られることの多い技。波動拳を5つ重ねて放つので5hitする、というわけなのだが、一部作品ではなぜかビームになったりする。この辺はいろいろあるんだろう。

また、【真波動拳】というマジで単なるビームじゃないかそれ?という代物もあったりするが、今回豪鬼が放ったのはあくまで目で見たことのある【真空波動拳】である。

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