入院生活数日。
あの青い目をした銀髪の子がよく隣の人の為にやってくることが分かった。盗みぎくつもりはなかったが、奏という名前らしい。
そいつは決まって俺の方にも来て、軽く話して帰っていくようになった。なぜ俺にかまうのかは……よく分からん。
寝たきりの彼に会いに来るのは奏のみだ。母親は__いや、考えるのはよそう。
ちなみに、俺のところに来たのは小町と親だけだ。似てるな、来る人少ないってとこが。あ、たまに黒服が来て欲しいもの聞いてくることがある。前回のこともあって、とりあえずイヤホン貰うことにした。
お、今日もドアのノックが。もう奏は帰ったし、小町かな。
「今日もありがとうな、こま……は?」
入ってきたのは黒髪ロングと金髪ツインテ、銀髪ショートにポニテの4人の女の子だった。誰だこいつら。こんな美少女に囲まれるような主人公は俺してないんだが
「うわ、ゾンビ……!?」
「志歩ちゃん……お礼に来たんだから隠れちゃダメだし、失礼だよー」
「……すみません」
「あ、あはは……」
おい、銀髪ショート。それ普通に傷つくだろうが。
そして、朧気ながらぼんやりと思い出した。この金髪ツインテ、車に轢かれかけた金髪ツインテじゃないか。
と、思い返していたら金髪ツインテが詰め寄ってきた。これはあれだ、陽キャの気配がする。
「とーにーかーくー! 助けてくれてありがとう、お兄さん!」
「……比企谷八幡」
「ほえ?」
「名前。比企谷八幡だ。別に好きに呼んでくれていいが……俺には妹がいるからな。その、お兄さんっていうのはなんか違うだろ」
「分かった、ひきぎゃ……八幡くん!」
「「「「…………」」」」
「私は天馬咲希、よろしくね!」
おい、今噛んだろ。呼びづらいからって名前呼びしやがったな、こいつ。しかもスルー。まぁ、べつに目くじら立てる程じゃないけど。
「……いきなり名前呼びはさすがにない。比企谷で」
「私は呼びやすいし八幡さんでいいかな」
「んー……比企谷さん、かな」
なんか、みんなでなんて呼ぶか考えてるんだが。いや、そんなお前らとつるむ気はこちとら全くないぞ?
「私、星乃一歌っていいます。八幡さん。その、怪我は大丈夫なんですか?」
「ん。ま、足だけだから命に別状はない。それに、全治1ヶ月だから前より短い方だからそんなに気にしなくていい」
「前?」
「前にも、道路に飛び出した犬を庇って轢かれたことがあるんだわ」
「はぁ……」
そんな他愛ない話をしながら、ちらりと陰に隠れた銀髪ショートをみる。あ、すぐにポニテの陰に隠れた。
そうして、苦笑いをしながらポニテ少女がおずおずと前にでる。
「志歩ちゃんがここまで怖がるの珍しいね。私、望月穂波っていいます。よろしくお願いしますね、比企谷さん」
「お、おう」
「そうだ、果物みんなで買ったんです。置いておきますね」
「そうか、ありがとな」
なるほど、つまり助けられたからお礼に直接会いに来てくれたわけだ。正直、感心した。前の時は助けたやつ直接会いにこないままあとからお礼で持ってきたクッキーを小町に平らげられたからな……
数日経ってからきたのは、事故を目の前で見たショックが少なからずあったのだろう。
と、思案を膨らませていると望月がさらに袋を差し出してくる。
「そうそう、小町ちゃんにお兄さんの好物をきいたらマッ缶が好きとお聞きしまして。買ってきたので、置いておきますね」
「!? ほんとか、サンキュ!!!」
なんだ、この至れり尽くせりは。小町が天使なら望月は女神まであるぞ。
しかも、マッ缶。病院食だった俺にはありがたすぎる。
「……比企谷。マッ缶の時だけ、喜びすぎでしょ」
「いいだろ別に。人生苦いんだから、コーヒーくらい甘いのがちょうどいいんだよ」
「何言ってんの……」
「……カッコいいー!!!」
「そ、そうか?」
なんか、銀髪ショートの子__志歩ちゃんっていってたか。そいつにジト目されたからいつもの決まり文句言ったぜ。
そしたら、金髪ツインテがなんかぴょんぴょん跳ね出した。咲希と言ったか、お前はうさぎか。金髪ツインテうさぎ……はっ、そのツインテ耳だったのか。
とまぁ、ふざけるのはさておき。だいたい共感も得られずに今の穂波みたいに苦笑いされるか、今の星乃みたいにひかれるかの2択なのだが。この反応は珍しいな。
「うわ、にやけてる……キモ」
「ちょ、志歩ちゃん!」
「大丈夫、言われ慣れてるから」
「だからって……」
銀髪ショートのきつい言動の子__志歩ちゃんと言うらしい__から罵倒が飛ぶ。が、何故だろう。不思議と胸が暖かくなる。あれ? 俺ってMだっけ?
「……八幡、さん?」
「泣いてる……?」
「え、あ、いや。大丈夫だ」
なんか、無駄に心配させちまったな……
「志歩……」
「……ごめん」
「や、気にすんな。生まれつきこんな目してる俺が悪い。直せるもんでもねぇけどな」
俺の自虐ネタも心配そうに見つめられる。あぁ、そうか。こいつら優しいやつなんだな……そうして、人を輪に引き込む。別に入りたくもないのにな。俺の苦手な人種だ。
そう自分で言いながらも、どこかこいつらを信じてしまう自分もいた。はは、もう諦めたはずなんだがな。
__どうして、諦めたんだっけか
「ねぇ、八幡さん。リンゴ食べる? 皮むきは得意なんだ」
「いや、大丈夫だ……って、もう綺麗に剥けてるし」
はえーよ。しかもうさぎだし。芸も細かい。
「得意なんだ。ほら、どうぞ」
「ん……」
ふむ、さすがにここまでされて断る訳にもいかないか。
ひとくち食べる。なぜか、普段家族で食べるリンゴとはまた違う味がする。
「……美味いな」
「そっか、よかった」
……このやり取りの間、望月は隣の宵崎を見て心配そうにしていた。ずっと寝たきりだもんな。
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その後もしばらく、この4人組と話を続けた。久々にかなり人と話した気がする。
「じゃあな。もう遅いし、気をつけろよ」
「八幡くん、またねー!」
「比企谷さん、また。リンゴ持ってくるね」
「えぇ、また来ますね」
「……じゃ」
そうして4人が離れて、静かになった病室。
俺は、頭を抱えていた。困ってるわけでは無い。単純に、頭が痛い。頭痛だから当然だが。
「…………はぁ」
なぜ寂しいと思ったのだろう。なぜ、恐怖から身がすくんだのだろう。昔から、女性と話す時はつい身構えてしまう。理由は不明。……いや、俺にはこれが普通だ。そう、俺はエリートぼっちなのだから。
そう言い聞かせてケリをつけた俺はいつも通り、俺がニーゴの曲を再生しようとスマホを手に取った時。スマホの画面が突然光り出す。
『比企谷君、今すぐセカイに来るように』
「…………」
うん、夢だな。これは。スマホからバーチャルシンガーのMEIKOが出てくるなんて夢に決まってる。
俺は反射的にスマホの電源を消して、その後部屋を暗くして寝た。