魔法少女GL ~女の子たちの初手はいつだってルームシェア時空!!~ 作:MOPX
真田天:大学生。明るく、ものわかりがよい。田中こころのことが好き。
村田影:大学生。上二人の同居人。親から溺愛されている。
「初めまして……かな」
「うん、初めまして……だね」
異口同音に似たような言葉を発した2人の視線は同じ方を向いていた。
スーパーで買い物を終え、家路に付いている途中で発見したのはなんのことはない、ただの猫。
いつも通る道だがこのあたりでは見かけたことのない、ただの猫。
猫はこちらを一瞬向いたが、人間には興味ないと言わんばかりに去っていく。
かくして、未知との出会いはあっさりと終了した。
「行っちゃったね。野良猫さんだったのかな?」
少し残念そうに眉をひそめた隣の女の子。
いつまで経っても変わらずトレードマークであるサイドテールが風でゆらゆらと揺れている。
真田
いつまで経っても変わらず、私の大切な幼馴染。
「そうだね。首輪もしてなかったし」
私――田中こころはスーパーの袋を軽く持ち直しながら答えた。
今日はたくさん買い物をしたからLサイズの袋がぱんぱんで片手に1つ。
もうひとつの袋は天ちゃんが持ってくれている。
(筋トレついでに自分が両方持つと主張したが譲ってくれなかった)
「野良猫さん、エサとかどうしてるのかな。お腹減ってたりとかするのかな」
少し心配そうにする幼馴染にきっと大丈夫だよと答える。
やれ野生動物が放置されてるだの、そうした小難しい話はおいといて
彼らも自分の人生(人じゃないけど)を生きているのだ。
そこにとやかくと干渉をする必要はないというのが最近の私の考えだ。
たぶん、子供の頃なら出てこない発想だったと思う。
少ししょげている幼馴染の肩に、空いている方の手を乗せた。
暗くならないようにと、ドラマかアニメみたいに大げさに肩をポンポンと叩くと、
私の意図を汲んでくれたのか幼馴染がクスクスと笑顔を浮かべる。
この子には笑っていてほしい。
自分のわがままだとしても。
ありがとう、と言われたからどういたしまして、と返した。
昔からたぶん何度も繰り返して、これからもずっと繰り返すだろうやり取り。
言われた分だけ、こっちも言えたらいいな。
だって何度言っても全然足りないから。
それからはまっすぐに家に帰った。
野良猫みたいにどこかに行ってしまわないように、お互いの空いてる方の手をぎゅっと握りながら。
手を介して伝わってくる互いの鼓動が心地よかった。
ドア鍵が閉まっていたのを確認し、鍵を取り出して開錠した。
二人でふうっと息を吐くとテーブルに今日の戦利品を並べる。
しばらくの食料とジュース、切れていた生活用品。
これでまたしばらく戦線も維持できるというものだ。
といっても大学のテストもしばらくはないので単にのんびり生活するだけなのだが。
「いやーたくさん買ったね!お肉、お魚、お肉、お肉……」
朗らかに肉を見つめる幼馴染の顔は心底幸せそうだ。
思わず苦笑しながら「お肉率」と突っ込みを入れる。
「今日の料理当番こころちゃんだったよね!お肉料理、楽しみだなあ……」
「天ちゃん、よだれよだれ。あとお肉作るとは決めてないよ」
「えっ!?作らないの!?お肉!?」
「うそ。作るよお肉。鶏大根」
「きた!!鶏大根きた!!やった――――!!!!ばんざ―――――い!!!!」
「いや、喜びすぎでしょ」
あまりにも年相応とは思えないやり取りに
2人でけらけらと笑った。
「でも嬉しいのは本当なんだ。こころちゃんの料理、本当においしいから」
私に趣味・特技と呼べるものがあるとすれば料理だった。
子供のころから、最初はお菓子作りから始めて、少しずつ親の手伝いをすることも増えてきて、
一人で料理もするようになって……で現在に至る。
「天ちゃん」
「ほえ、何?」
戦利品の整理をする幼馴染にここぞとばかりに声をかけた。
「ありがとうね。私が料理をずっと続けてるの、天ちゃんのおかげだから」
「え!?私は別に……こころちゃんがずっと頑張ってたんだからすごいのはこころちゃんだよ!」
私が初めて作ったお菓子。
確か料理の番組だか動画だかを見て思いつきで親に材料をねだり、勢いで作ったもの。
休日、天ちゃんが遊びにくるから、びっくりさせようと準備したもの。
親の手伝いを突っぱねて作ったそれは、クッキーと呼ぶにはあまり不格好で
小さい私をがっかりさせるには十分な出来……いや不出来だった。
そのころは見栄っ張り(今はもちろん違う)だった私はたしか泣きながら
クッキーらしきものを捨てるとごね出した。
そこに天ちゃんが来訪して――私は最悪のタイミングだとその時は思ってて――
目の前のクッキーらしきものをおいしそうにほおばってくれたんだ。
『これこころちゃんが作ったの? すごいね!!』
あのクッキーの味がどうだったか私も覚えていない。
おいしかったはずはない、とおぼろげながらに思う。
でも天ちゃんのその一言で、雨の中、雲の間から一筋の光がさしたみたいに空気が変わって――
二人でクッキーの作り方とか、おしゃべりしながら楽しく完食したことははっきりと覚えている。
それからだ。
今度こそはちゃんとしたお菓子を作って、天ちゃんに喜んでもらおうって決めたのは。
「私が料理を続けてたのはいつもおいしい!って言ってくれる人がそばにいるからだよ」
「えっ!? それって……誰?」
少し頬を染めているあたり答えはもうわかっているのだろう。
それでも聞いてくるのが本当に愛しい。
わかっているなら、私も少しおふざけをしたくなった。
「んー、誰だと思う?」
「だ、誰?」
「じゃあヒントを出そうか。……今わたしの目の前にいる子」
「……っぷ。え~だれだれ~~」
「それでは発表します……正解は……」
「……ごくり」
「天ちゃんです!!優勝!!」
「やった――――!!」
両手を上げて喜ぶ幼馴染に盛大な拍手を送る。
出来レースなどと言ってはいけない。
公正に判断した結果だ。
「こころちゃ~ん」
「天ちゃ~ん」
「こころちゃ~~ん」
「天ちゃ~~ん」
精神年齢が限界まで下がった私たちは名前を呼び合うだけでコミュニケーションが取れる。
本当だ。
「こころちゃ~~~~ん」
「天ちゃ……」
「かあ~~~~~~!!最近の若い者は昼間っからベタベタと!!」
私達が目を丸くして同じ方を向くと居間でもう一人の同居人が憤然と立ち上がっていた。
その名前の通り、ソファの影になって気づいていなかった。
「影ちゃん!?いたの!?」
目をぱちくりとして聞いた天ちゃんに向かって、
プルプルと震えながら私達のもう一人の同居人――村田
「いました~。ちょっとソファで横になってました~」
「鍵かかってたから外かと思ってたよ」
私の言葉も気にせず影は話を続けた。
「黙って聞いてたら本当にあんたらねえ……
何が天ちゃん優勝~、やった~、よ!!
何がヒントを出そうか? いま目の前にいる子(ウィンク) よ!!
何が鶏大根……は私も楽しみだからいいや!!」
必死に眉間にしわを寄せまくしたてる影。
私たちはバツが悪いな~と思いながら見合わせて苦笑した。
本人が本気で激怒しているつもりらしいが、どこか可愛げが残っているのであまり怖くない。
擬音を当てるならぷんぷんとかわいい丸文字くらいが妥当だろう。
この村田影という子は、性根が優しい。
小学校に上がった後に知り合ったから天ちゃんよりは付き合いは短いが、
互いに気心の知れた仲だ。
「……というか大分前から起きてたんだね、影ちゃん。起こしちゃってた?」
申し訳なさそうに聞く天ちゃんだが、なかなか良いポイントに気づいた。
「いや、別に、最初から半分起きてたようなものだったし……」
「会話に割り込んでもらってもよかったのにな~影に気を遣わせちゃったか~」
「なっ……こころ!? 何言ってんの!? 私がいないとこでどんな会話してるか気になっただけなんだから!!
変に勘違いしないでよね!! ツンデレか!? 危ない!!」
何が危ないのか全然わからないがとりあえず笑ってしまう。
村田影、優しくて面白い子だ。
天ちゃんもよくわかってないのか、影ちゃんの好きなアイス買ってたから許して~と言っていた。
影はそれを聞くなり「本当!? じゃあ許すわ~」などと宣っていた。
怒りは数秒しかもたないとは言うが、もう少し粘ってもよいのでは……と思わずにはいられない。
その時、アイスにあっさりと買収された同居人のポケットからブルブルと振動音が聞こえてきた。
「はあ……。またかしらね」
困り眉をして携帯端末を取り出す影。
いつも通りなら相手は私達の知っている人物だ。
天ちゃんといっしょに戦利品の整理をしながら質問した。
「お母さん?」
「今日はお父さん。何か困っていることはないか?だって。
困ってたらこっちから連絡するって言ってるのに」
苦笑いを浮かべる影の顔は、どこか嬉しそうだ。
「影ちゃんの家族、本当に仲良いよねえ……」
「いい加減、子離れしてほしいんだけどね……。
昨日はお母さんだったから連携して日がかぶらないようにしてるわね。
なんならおばあちゃんからもくる。毎日くる」
「ふふ、それだけ影が大切なんだよ」
「そうは言ってもさ、もう子供じゃないんだから……」
「いやいや! ご両親にとっては影ちゃんはいつまでもかわいい子供だと思いますぞー!」
「何キャラよそれ……いや……本当に何?」
片付けはひと段落していた。
私はふうっと息を吐くとさっきまで影が寝ていたソファに腰かけた。
「まあでも、家族は仲良いのが一番だよ」
ぽつりと出てしまった一言で察したのか、影があ~と声を上げた。
「ゆめちゃん、親とまだバトル中なんだっけ?」
天ちゃんも心配そうに続いた。
「デザイナーさん、素敵なお仕事だと思うけどなあ。
あ、こころちゃん紅茶いる?」
もらう~と、ソファから手だけ出して答える。
大学生活が安定した今となって、妹のことは目下のところ一番の悩みと言えた。
田中ゆめ。
私のひとつ年下の妹だ。
私に似て、しっかりとした子なのだがどういうわけか我が強く、
それで親と冷戦状態に陥っている。
高三での進路調査。
妹にとって、人生で初めての大きな岐路と言ってよかった。
「はい、どうぞ」
天ちゃんが紅茶を机に差し出す。
私は改めてソファに座りなおして天ちゃんにお礼を言った。
紅茶をすする。
まるで大学に入る前の実家の様子が浮かぶようだ。
「ゆめちゃん、夢を叶えれるといいね」
「うん」
「ゆめだけにってね、あはは!」
「影、それは、ギャグ?」
「冗談でしょ、あはは……」
私の声色にびびったのか渇いた笑いをあげる影を尻目に、紅茶にもう一度口を付ける。
とても暖かい。
「ゆめちゃん、おばさんおじさんとはお話してるの?」
心配そうに眉をひそめる幼馴染に私はうん、と答える。
このおばさんおじさんというのは私と妹の両親のことだ。
「むしろよく話してたよ、その度にケンカになってた」
「あちゃあ……」
昔から熱心にイラスト(私にはよくわからないが要するに絵のこと)を描いていた妹は
ついに高校で実力がついてきたとその手の大学へ進学することを希望していた。
何でも今の時代だとインターネットに投稿すれば力量を測れるらしい。
(これまた私にはわからない話だが妹は大分多くの人から評価された、らしい)
妹は筋を通し、それを父と母に相談したが反応は当然というか冷ややかだった。
「お母さんが特に反対しててねー。
大学からだともっと早くから取り組んでた人には敵わないんじゃないかって」
「でもゆめちゃんも小さいころから絵を描いてたよね。ゆめちゃんの絵、私は好きだったなあ」
「まあでも厳しい世界らしいからね。ゆめが駄目とは私も思ってないけど」
「まあ親としては……って感じの反応よね」
「おじさんは?」
「お父さんは応援はするって言ってるけど……
業界のことをしっかり調べなさいって言ったのがゆめの逆鱗に触れてた」
「ええ!?なんで?」
天ちゃんも驚いているが、私の父に温厚なイメージを持っているからだろう。
人と、特に自分の娘と喧嘩してる様子など思い浮かばない。
自分も母はともかく、父と喧嘩した覚えはなかった。
「自分も知らないくせに偉そうにするなって……扉バーンしてゆめ!?ゆめー!?みたいな感じだったよ」
「ゆめ氏、荒れてるわね」
「なんやかんや筋を通そうとするからかなあ……」
紅茶にもう一度口を付ける。
その横から天ちゃんが心の底から心配そうな顔を見せるのだった。
「何だかつらいね、こころちゃんのお母さんもお父さんも言ってることはわかるんだけど……」
「まあね。うちの家族、みんな結構芯があるというか自分の意見を曲げないから」
「バトル系民族、田中一家って感じよね」
影を一睨みして私は話を戻した。
「話し合うのはいいけど私を引き合いに出されると困る。
前だけど居間で寝てたらお母さんがこころと同じ大学行けば~って言ってて急いで退散した」
「う~ん、それは大変だね……。こころちゃんは意見を出したりしないの?」
「ゆめの人生だからね。あんまり干渉したくないんだ」
「そっかあ」
デザイナーとやらのことはわからないが妹は自分の道をみつけた。
それを後押しも否定もせず、ただ見守るつもりだ。
きっと自分の力で進みたいと思っているはずだから。
いつの間にか天ちゃんがソファの隣にきていた。
私はそっとその方向に体を傾けた。
寄りかかれる誰かがいるというのは、こんなにも心が安心するものかと改めて思う。
妹にとってのそれは自分ではないようだが。
「まあ、進路といったら私らも3年後くらいには真面目に考えるわけだけどね」
影が話を戻してるようで、別の話題をふった。
本当にこういうところで気がきくから憎めない。
大学に進学した私達にとっての進路とは、すなわち就職先だ。
「進路かあ~。そういう影は何か考えてるの?」
「私? 大学にいる間に小説を一作当てて印税で生活するわ」
「ビックリするくらい具体的だね!! 影ちゃん!!」
「そのための教養だもの!! 当然よ!!」
小説とやらにも疎い私には冗談だか本気だかわからない。
「よくわからないけど、何冊くらい売るの、それ」
「そうね、全世界で1億部くらいで十分かなー」
「ということは……一人ノルマ5000万部かあ。頑張ろうね、天ちゃん……」
「5000万!? 部屋がぱんぱんになっちゃいそう、爆発しちゃわないかな……」
「あんたら、すごい失礼なこと言ってるわね」
青筋を立てる影を知ってか知らぬか天ちゃんが隣の私に聞いてきた。
文字通り手持ち無沙汰らしく、こちらの膝に手を乗せている。
「こころちゃんは? お料理、こんなにできるのにもったいないなあ……」
天ちゃんは私が料理人の類を目指していないのを知っている。
大きくなったから諦めたというわけではない。
最初から仕事にするという選択肢を考えてなかっただけだ。
だって大切な人のそばで、ごはんを作りたいと思っていたから。
「お料理はやらないけど食品関係はどうなかあ、なんてぼんやり思ってるよ。
ぼんやりだけど」
「そっかあ」
私たちも今日、買い物をしてきたが売り場に置いてある商品一つでも多くの人が携わっている。
メーカーだけではなく、流通、小売り……果ては消費者。
そうした流れの中に身を置くのも、また悪くないと思えるようになっていた。
私が答えると幼馴染はその言葉を何度も、かみしめるように笑顔を見せるのだった。
「そっかあ……!!」
「あ、そんな感じなんだ。私はてっきりスタントマンでも目指すのかと思ったわ」
「へ? 誰が?」
「あなた以外いないでしょ、田中こころ……」
特に理由も見当たらないがきっと村田家流のジョークなのだろう。
本当に思い当たる節がない。
「あんたは? 何か考えてるの、真田天」
「私も実は……ぼんやりとは考えていて」
あら意外、と影がすっとんきょうな表情を見せる。
自分は別に驚かなかった。
代わりに膝に置かれた天ちゃんの手に自分の手を重ねてみた。
天ちゃんはくすぐったそうに手をわきわきと揉み、
私の手をくすぐりかえしてきた。
「そこ、イチャつかない」
「あはは、いいよ」
「どういう意味よ……」
なおもくすぐりあってる様子を見て影が半ばあきれている。
いいよ、は心地いいよの意味だったが伝わってないかもしれない。
「で、あんたの希望は? 志望理由とともにお願いします」
急にかしこまった口調の影に天ちゃんがくすくす笑う。
おそらくは面接官のつもりなのだろう。
「はい、私、真田天はアニメとか玩具とかの業界に入りたいです!」
「とかのって何よ……」
「えーっとだから……」
「小さな子向けの、こう、作品に携われたらいいなって……」
言葉足らずの天ちゃんの代わりに私は言葉を継いだ。
きっとそれが正解だと確信していたから。
「魔法少女とかね」
「そう!! それ!! そんな感じ!!」
「ああ、そういう」
やっぱりそうだった。
そうじゃないかと思っていた。
だって私達も――
大好きだったから。
「流行ってたわよねえ、小さいころ。
私、青色の子が好きだったなあ」
「あれ、そうなんだ? 影ちゃん、紫の子の変身アイテム持ってなかったっけ?」
天ちゃんが不思議そうに聞く。
確かに影の家には何度も、数え切れないくらい訪れていたが、
その手の玩具は紫系統のものが多かった気がする。
私も影は紫が好きだと思い込んでいた。
「ああー……あれね。お父さんが誕生日に間違えて買ってきたのよ。
めちゃくちゃグズっちゃたなあ……あの時」
「そうなんだ……おじさん、おっちょこちょいなところありそうだもんね……」
「まあ普段見てなかったら紫色も青色も違いがわからないかもね。
後で知ったけど、お母さんも間違えてた。何ならお母さんの指示だった」
「博士、濡れ衣ですじゃん」
影の父はとある研究機関で最先端の研究をしている、らしい。
私達の間では博士という愛称がたまに使われる。
「まあでも紫の子もそれから注意して見るようになったし、好きになったからね。
別に……せっかく買ってきてくれたからとか、そういうんじゃないけど……」
そういう影は少し照れているように見えた。
本当に、仲の良い家族だと微笑ましくなる。
「天は黄色って感じよね。なんか」
「え? ……えへへ、そうかな?」
「そうでしょ」
私は紅茶にもう一度手を伸ばした。
天ちゃんと私。
二人合わせてその手のものは桃色と黄色でいっぱいだ。
だって二人でたくさん交換したから。
「うん……そうだね、黄色、大好き」
また手をわきわきとさせてくるものだから、
私も応戦して指でぺちぺちとリズムを刻んだ。
「なんだか話が脱線したわね。……何の話してたんだっけ」
「面接官殿、志望理由よろしいでしょうか」
「そう!それ!」
「面接官の方が忘れてちゃ世話ないね」
「そこ!静かにしなさい!!落とすわよ!!」
おほんと、わざとらしく咳払いをして影が言葉を続けた。
「で、何で魔法少女になりたいの真田天」
「影ちゃん、微妙に違うよ」
「ん? まあいいや志望動機とか趣味特技とかどうぞ」
あまりにも雑な面接官。
その面接官を採用する前提の会社ということでいいんだろうか。
「いやあ、やっぱり仕事って誰かの役に立つことだと思うんですが……」
「お、真面目に語り出したわね」
私は体の端から端まで、天ちゃんの言葉に集中した。
少なくともそれは、天ちゃんが考えた末の言葉に思えたから。
「じゃあ誰の役に立つのかなって考えたんです。
世の中、いろんな人がいろんな仕事をしてるから」
「……それで、小さな子供のために、ってこと?」
「もちろんそれもあるんですけど、それだけじゃなくて。
自分が小さい頃にそうしたものを楽しめたのって
誰かがそれを作っていてくれたからだって思って」
私は紅茶に口を付けた。
残りはもうだいぶ少ない。
「だからそうした人たちに力になれたらなあって……
まだ私に何ができるのかわからないけど、業界のことも調べて、自分のできることを
見つけていきたいなって」
「……」
「……」
私も、影も静かにしていた。
「あ、あの以上なんですけど!結果はどうかな……?」
「天ちゃん……」
「え、こころちゃん……?」
「本当に……立派になったね……!!」
「こ、こころちゃん!?」
感極まって思わず声が震え、
そのまま私は天ちゃんに抱きついてしまった。
「いや、こころもそれ何キャラよ……。
私もちょっと考えさせられたけど。ちょっとだけ」
自分のため、というより誰かのため。
幼馴染の発した言葉は実に我が幼馴染らしいもので、
それでいて私の胸をうった。
「天ちゃん……作ろう、小さな子向け作品。
動画とかでも流して、全世界1兆回数再生とか目指そう!!」
「1兆!?!? それだけ再生されてたら世界中の人が何回も見てるね。
そんな作品に関われたらいいなあ……」
「1億部をネタにしていた方々の台詞とは思えないんだけど」
天ちゃんは少し照れくさそうにしていたが、
顔が嬉しさで満ちていた。
夢を見続けて、それで夢を叶えられたらそれが一番良いことだと思うから。
私はふと思い出してカレンダーに目をやった。
予定では来週だった。
「みんなで集まるの久しぶりだもんね、こころちゃん」
横の天ちゃんが私の考えていることを察してか、笑顔をみせた。
私の顔にもきっと笑みがこぼれていたんだと思う。
「バーベキュー、なんか久しぶりよね。新生活ばたばたしてたし」
「でも卒業前にやったから1か月くらいかな?」
改めてこの1か月くらいの密度を実感する。
引っ越し、大学の準備、生活関係のあれこれ……。
みんなが新しい道に歩み出したということだ。
「花ちゃんと真赤ちゃん、会うの楽しみだね」
「まあ連絡見る限り奴らも元気そうだけどね。
花のやつ、飛び級する気満々みたい。なんか余力ありすぎて将来の研究ためにプログラム組んでるって言ってた」
「へ~よくわからないけどすごいね!」
「花、マッドサイエンティスト的なアレを目指してるのかな」
「映画の見過ぎ。大学生の発言じゃないわよ」
伊藤
私たちの昔からの友達。
24時間365日意味深なことを言うのが生来の癖で、
理由はわからないが何かと私に張り合ってくる。
マッドサイエンティスト、ぴったりだと思うけどなあ。
「真赤ちゃんも音楽続けてるんだよね。あの……ギターみたいなやつ」
「わかるわかる、あれ……ギターみたいなやつ」
「ベース」
「そう!それ!」
私も天ちゃんも音楽には疎い。
あんまり間違えると真赤が不機嫌になってしまうから気を付けよう、できるだけ。
高橋
これまた私たちの昔からの友達。
言動は何かとクールな子なのだが、その内に情熱を秘めている……はず。
その情熱を発揮することがあまりにレアなのでわかりにくい。
もっと自分出してこ、真赤。
「バーベキュー、ゆめちゃんは難しいかな……?
あ、もちろん大事な時期だからお話を出すのもよくないかもだけど……」
気分転換になるから誘うという考えも、
今は少しでも時間が惜しいだろうから誘わないという考えもある。
どちらも優しさから出たものだろう。
でも、天ちゃんはそんなことを悩まなくてもいい。
なぜなら――。
「前に話してみたけど余裕あったら出るって。精神的に」
「あ、話してんだ!」
「うん。まあ出てきたら愚痴でも聞いてあげてよ」
「それ、姉の役目じゃないの」
「姉にはなかなか心を開いてくれないからね……」
「こころだけに、なーんて……冗談でーす」
睨む前に発言を撤収する影。
ちゃんと学習している。成長の証だ。
ゆめは私たちチーム腐れ縁と仲が良い。
真赤あたりはゆめに信頼されているし、フラットに話を聞いて的確なアドバイスを出せるだろう。
きっと、姉である私より。
天ちゃんの手にもう一度、私は手をのばした。
そこにいることを確かめたかったから。
ぬくもりを感じた。
握られた手も、それに答えるように握り返してくれた。
大丈夫だよ、そう言ってくれてるように思えた。
もう一度紅茶に口をつけようとした。
空だ。
このお話はこれで終わりなのだろうか。
「天ちゃん」
「なーに?」
「紅茶、ほしくない?」
くすくすと笑う幼馴染。
どうやら伝わったようだ。
「うん、ありがとうこころちゃん」
「いえいえ、さっきのお返しだから」
終わりなんてない。
きっとこれからまた、何度でも、こうやって繰り返していけるから。
「はあ~またイチャつきだしたよ~。退散退散。
部屋でゲームするわ。ご飯できたら呼んで」
やれやれといった口調で出ていく影。
その様子を見て、天ちゃんが困ったように微笑むのだった。
「お父さんやお母さんってこんな気持ちだったのかな?」
私はぶっと吹き出してしまう。
確かに今の影は子供みたいだった。
でもそれでいいのだろう。
「きっと、ずっと、このままでいいこともあるよね」
「……うん」
淹れてきた紅茶を天ちゃんが手に取る。
その暖かさで、ほころんだ笑顔を見せてくれる。
私がいて
天ちゃんがいて
影がいて
花がいて
真赤がいて
そしてゆめがいる
どこにも存在しないかもしれないけど
でも、どこかには存在していてほしい
そんな世界
続