魔法少女GL ~女の子たちの初手はいつだってルームシェア時空!!~ 作:MOPX
私と真赤ちゃんが異動のことを知らされてから1週間後の日曜日。
私たちは研究所の食堂に集まっていた。
全員ではないが近所の魔法少女の子たち、もちろんDチームの子たちも集まっている。
「それではみなさま、飲み物はいいかな?」
博士が掛け声をあげる。
私は近くの子の紙コップを確認する。
あ、と声を上げる子がいたからお茶でいいか聞いて注いであげた。
「それでは高橋真赤君のDチーム復帰を祝って……乾杯」
かんぱーい!!
声の直後にクラッカーの音が4つほど上がる。
Dチームの子たちが鳴らしたのだ
輪の中心にいるのはもちろん真赤ちゃんだ。
真赤ちゃんは照れているのか顔を少し赤くして、
マフラーを両手でもふもふと触っていた。
拍手がパチパチとどこからともなく聞こえる。
私も、できれば一番大きな音が鳴るように力の限り拍手をした。
机にはお寿司とチップス系のお菓子が数袋。
みんなが食べれるようにお皿が用意されている。
普通、こうしたお菓子は袋のまま食べるから、
パーティーという特別感があって自然と楽しくなってきた。
だいたいの子たちは同じチームだとか、仲の良いグループで固まっている。
こう言ってはなんだが、お寿司が目当ての子も結構いそうだと感じた。
それでもいいのだろう。
私は今日の主役の方へと顔を向けた。
だって真赤ちゃんがあんなに嬉しそうなのだから。
「天さん、大トロはいかがでしょうか?」
「あ、花ちゃ……」
言いかけて私は声が止まった。
花ちゃんの取り皿には各テーブルから集まったであろう大トロの軍団が形成されていた。
「で、できればいろんな子が食べれた方がいいんじゃないかなあ……。
私はタコもイクラも好きだし……」
「タコとイクラですわね!! 合点承知ですわよ!!」
まるで自分が握るかのように気勢の良い声をあげる花ちゃん。
とりあえず大トロ軍団は解放されてみんなつついている。
花ちゃんが他テーブルへバイキングしている間に私は玉子を食べた。
おいしい。
テーブルを見るがやはり赤身系の売れ行きが良いように見えた。
きっと好きな子が多いのだろう。
私は特に好き嫌いもないのでいろんなものを食べた。
さっきお茶を注いだ子とも少しお話をする。
やっぱりお寿司に釣られたようで両親から是非食べに!! と言われたらしい。
私がお寿司好きな子が多いのかなあと言ったら「だってトクジョウだよ!?」と
腕をぶんぶん振って力説されてしまった。
お寿司の入った真っ黒な入れ物を数えてみると十三。
確かに壮大な光景かもしれない。
うちのお父さんとお母さんは今ごろ何を食べてるんだろう、と少し考えてしまった。
パーティーも予定の時間の中ほどになったころ、
真赤ちゃんが私に話しかけてくれた。
私は持っていたオレンジジュースを胸の側へと下ろした。
真赤ちゃんはだいぶ話し込んでいたのか、いつもより顔色が良いように見えた。
「真田さん、パーティー楽しんでる?」
「あ、真赤ちゃん。あらためて異動おめでとう!!」
「うん……ありがと。……そのさ」
「?」
私は真赤ちゃんの顔を覗き込んだ。
真赤ちゃんは少し伏し目がちに、それでも最後にはこちらの目を見て話してくれた。
「異動異動って言ってたけど真田さんと伊藤さんのこと、別に嫌いじゃなかったから……」
「うん!! 私は大丈夫だよ!! 花ちゃんには伝えとくね」
真赤ちゃんの後ろではDチームの4人が嬉しそうに――いや今日からは真赤ちゃんを入れて5人だ。
「真赤ちゃん、みんな待ってるよ」
私が促すと真赤ちゃんは名残惜しそうにしつつも背中を向けた。
その時、小さくつぶやいた言葉が聞こえた。
「嫌いじゃなかったって……何でこんな言い方しかできないんだろう……」
ちょうどその言葉が言い終わるかだった。
聞き覚えのある警告音が鳴り響く。
先ほどまで、嬉しさと喜びで満ちていた食堂が困惑と恐れで支配される。
モンスター出現のアラート。
休日でも出勤している人もいるのだろう。
いつも通り鳴り響いた。
出現地点と数が読み上げられる。
ここから近く、でも数は1体。
「真田君、行ってくれるか?」
声に驚いて振り返ると傍らにはいつの間にか博士がいた。
私はできるだけ大きな声で返事をした。
もちろん「はい!!」と。
「真田さん、僕も……」
「真赤ちゃんはこのパーティの主役でしょ? 待っててよ!!」
「でも……じゃあ博士、他の人を」
「許可しない」
「え?」
博士の有無を言わさない物言いに真赤ちゃんが驚きの声をあげた。
たぶん、真赤ちゃんの判断では数人で行くのが当然だったのだろう。
「でも、魔法少女がこれだけいて……?」
「高橋君、真田君は非常に優秀な魔法少女だ。
何も心配はいらない……そうだろう?」
博士が私の方を向く。
自分がすごいかはわからないが、
一人で十分ならそれに越したことはないとも思った。
だって他の人はその分、戦わなくてすむから。
私は頷くと食堂を出てロッカーへと向かった。
今日はパトロールの予定もなかったので、ヘルメットと魔法棒を取りに行かなくてはいけない。
早くみんなを安心させてあげよう。
足はもつれそうな勢いだったが、何とか押さえつけて速さに変えていった。
「……最近モンスター対策部へのクレームが増えてる理由、わかった気がするよ」
「天さん、行かれましたか」
「伊藤さん? てっきり無理にでもついていくものだと思ったけど」
「いえいえ、私は本当に天さんのことを考えてますので」
「……?」
「では、私も」
「どこに行くのさ?」
「ふふ、トイレです」
「……あっそう」
「タコとイクラはあなたに託します」
「こんなにいらないよ」
「私にも、もう必要ありませんので」
研究所の近くの野山。
私は少し進んで山へと入り、モンスターが発生した地点に駆け込んだ。
駆け込んだのだが……。
「何もいない……?」
ある程度近くにモンスターがいる時のあの感覚。
ある種の不気味さのようなあの感覚が全くなかった。
モンスターの行動パターンはいまだ謎に包まれていて
被害を出す前に消えていく例もある。
私がここに来るまでの間に消滅したのだろうか。
あるいは近くに魔法少女がいて対処してくれたのか。
何となく胸騒ぎのようなものを感じた。
あたりを確認して何もなかったら急いで戻ろう。
私が足を一歩踏み出したその瞬間だった。
「!!」
私は魔法棒を構えた。
木々の間から何かが動くのが見えたからだった。
小型で球体の浮遊物。
私はそれを追った。
やっぱりモンスターが潜んでいたのだろうか。
野山を駆け回るのは慣れっこだ。
足元に気を付け、時に木の根っこを飛び避けながら加速をつけていく。
視界が開けた小道に出て私はついに球体に追いついた。
と、同時に構えを解いた。
遠くから見た時にはわからなかったが、
暗めの色に見えた球体の色合いは正確には紫色だった。
紫色は魔法少女の色。
近くに魔法少女がいるということだろうか。
握りこぶしくらいの紫の球体はおろおろと行き場に悩んでいるように見えた。
「半使役タイプかな? 案内してもらえると嬉しいなあ」
球体はなお、小刻みに短く直線移動をしている。
おそらくは主である魔法少女からの指示が出てないのだろう。
「大丈夫だよ。魔法少女を――あなたのお友達を傷つけたりはしないから」
球体はなお、くるくるとその場を旋回している。
ものごとはじっくり考える子らしい。
「うーん……、そうだ!! 戻ったら研究所にお寿司があるんだけど
あなたと魔法少女さんも良ければいっしょに……」
「ほ、本当!!」
「!!」
声の方を向くと紫色のベレー帽が木の陰からはみ出ていた。
この子はあの時の……。
「影ちゃん?」
「わわ!! しまった!! 謀ったわね魔法少女!!
まだ心の準備が……こうなったら……逃げる!!」
「あ!! 足元に気を付けないと!!」
「へ? わわ……!!」
影ちゃんがよろけて膝をついたので私とビットちゃん(仮)は急いで駆け寄った。
衝撃で影ちゃんの帽子が地に落ちる。
紫色の帽子で見えなかった部分から、綺麗な紫色の髪が現れる。
頭頂部からうっすらと色づいたそれは、まるで水彩画のような色合いだった。
影ちゃんが慌てて帽子を拾い上げる。
私は影ちゃんが帽子をかぶりなおすのを待ってから話しかけた。
「影ちゃんも魔法少女だったんだね」
「……知らない」
「え?」
「魔法少女なんて知らないって言ってるのよ!!
あの男はそのためにお母さんを……!! 見放したのよ!!」
「ちょ、ちょっと落ち着いてよ。私も落ち着きがないってよく言われるけど
深呼吸したらだいたい解決するよ? スウゥゥゥゥ……」
「なにが魔法少女よ!! こんな力があったってお母さんは……!!
あなただって利用しているだけなんだから!!
だから……だから……友達なんかじゃ……」
「友達だよ」
「……!!」
私は影ちゃんが何を言っているかはわからない。
でも、影ちゃんがなんとなく優しい子だとはわかるから。
だから、きちんと話したいと思った。
「……あなた、本当にお人よしね」
「うん、たまに言われるかも」
小道の傍らにベンチがあったので私と影ちゃんはそこに腰かけた。