魔法少女GL ~女の子たちの初手はいつだってルームシェア時空!!~   作:MOPX

13 / 69
第6話 六つの交わらぬ道へ!!!! この先、魔法少女舗装中!!!!(後)

「こころちゃん!!!! こころちゃんが!?!?」

 

「えっ、その人もだれ? えっ? えっ?」

 

こころちゃんの名前を急に出されて、

私の頭はまるで湯沸かし器のように熱くなり、

背筋は感覚がなくなり凍っていくような思いにとらわれた。

 

「こころちゃーん!!」

 

全速力で走り出していたはずの私の体は、イメージに反して動いていなかった。

影ちゃんが私にしがみついている。

 

「放して!! こころちゃんが……こころちゃんが!!」

 

「待ちなさい!! 真田天!! この子が本当のこと言っているかわからないでしょお!!

あの男の仕掛けた罠かも!!」

 

「ずいぶんとご無礼ですね。そう受け取るのは勝手ですが私は一人でも行きますよ。

足を引っ張っていたベレー帽さん」

 

「な、なんですって~!!」

 

私に引きずられながら影ちゃんが声を上げる。

頭の理性的な部分は「まあまあ」と声をかけ、

二人を仲裁すべきと訴えているのだが、そんな余裕はなかった。

 

理性的でない、別の何かによる部分が脳内の司令塔を占拠し、

思いっきり私に走るように号令を飛ばしていた。

 

結局、私は影ちゃんを引きずるのに疲れてやっと止まることができた。

引きずられた影ちゃんも疲れた顔をしていたから申し訳ないことをした。

 

「はあ……はあ……ごめんね……影ちゃん」

 

「ぜえ……ぜえ……なんで戦ってもないのに、こんなに疲れないといけないのよ……」

 

私と影ちゃんはベンチに腰かけた。

離れたところにゆめちゃんが立っている。

 

私の頭は少しの冷静さを取り戻しつつあった。

顔を上げると研究所の屋上から相変わらず黒い霧のようなものが噴きあげている。

よく見ると、それは研究所のシンボルであるハート型の像から湧いているように見えた。

 

ゆめちゃんは息も絶え絶えな私たちを見て、やれやれといった表情を浮かべた。

 

「まったく、これから研究所に乗り込むのに何をやっているんですか。

私の話を信じていない方もいるようなので説明します。お姉ちゃんに何があったか」

 

「い、いちいち生意気な子ね!!」

 

影ちゃんがなぜか私の方を見ながら批難をする。

私はその様子を見て「まあまあ」と声を掛けるのだった。

 

「そうだ!! こういう時こそこれ……シャドーシアター!!」

 

影ちゃんの声に呼応して長方形が形作られる。

最終的にそれはビデオカメラのような形状になった。

 

「なんとこれに触りながらお話しするとその時のイメージ映像が出てきます!!

一人で遊べるし結構お気に入りの能力なのよね~。

まあ? あなたが良ければ貸してあげるんだけど?」

 

「いいです。普通にしゃべります。そんなことより魔法力を温存してください」

 

「な……!? あなたさっきから私に当たり強くない!?」

 

「ま、まあまあ!!

言葉だけより見た方が伝わりやすいかもしれないし!!

ほら!! ゆめちゃん!! 面白そうだよ!!」

 

影ちゃんがせっかく出したから、というのもあるが

率直な私の意見でもあった。

 

こころちゃんに何が起こったのか。

正確に知りたい。

 

 

 

が、最後の一言が余計だったらしい。

 

「何ですかその言い方!? 子供扱いしている……ええい!!

時間がもったいないですこれ使いますね!!」

 

「最初から素直にそうしてれば……!!」

 

「ま、まあまあまあまあ!!」

 

かくして、ゆめちゃんが紫の直方体に手を当てて

空中にそのイメージ映像が映し出されるのだった。

 

 

 

 

 

少女が部屋の中で寝そべって本を読んでいる。

読んでいるのは何の変哲もない偉人伝。

少女の傍らの小さなテーブルにはお茶が置かれている。

 

普通の人間の、普通の平和な日常。

多くのものがそう判断するに違いない。

 

玄関のインターホンが鳴る。

今、少女のいる部屋は2階だ。

1階の母親が対応するだろう。

 

これが日常に終わりを告げる瞬間とは思いもしなかった。

 

はあーい!! と母親の威勢の良い声が聞こえる。

 

少女は手にしていた本に栞をはさむと扉の方へ行き、聞き耳を立てた。

特に理由はない。

強いていうなれば、歳相応の好奇心が少女を突き動かしたのだろう。

 

「オタ、オタクノ、オタオタクノ、ココロサンハ……」

 

「え? 何ですか? はっきりしゃべってください」

 

若干の怒気をはらんだ母親の声。

 

「ココロ……タナカココロサンハ……」

 

「こころがどうかしましたか? 用がないなら帰ってください」

 

「お母さん、呼んだ?」

 

「もう、出てこなくていいから」

 

足音とともに少女の姉の声が聞こえてくる。

それを制するような母親の声がする。

 

「ココロ……ココロ……ウオオオォォォォ!!」

 

突然、風船が破裂したかのような音が聞こえた。

さっきまであった興味本位の感情はどこかに消えてしまった。

 

今、自分にあるのは恐怖なのだと本能的にわかった。

 

「こいつモンスター!? こころ!! 下がってなさい!! セイッ!! ハッ!!」

(おばさん!! 頑張れー!!)

 

鈍い音が家に鳴り響く。

 

「くっ!! 効いてない……!! ぐあっ!!」

 

「お母さん!!」

 

母親と姉の悲鳴が続けざまに聞こえてくる。

少女はただ足を震えさせて、じっとしていることしかできなかった。

 

「こいつ……!! よくもお母さんを……!! このー!!」

 

姉のドタドタ走る足音。

何かが割れる音。

叩きつけられるような音。

悲鳴。

 

「放せ……放せよ!!」

(こ……こころちゃん!!)

 

少女はうずくまり頭を抱えていた。

まるで頭が割れそうだと言わんばかりに苦痛で顔をゆがませる。

 

「放せ――――!!」

(こころちゃんうわああああ!!)

 

姉のその声で、まるで糸が切れたように

何かが少女の中で終わり、そして始まった。

 

少女の足はもう震えていなかった。

 

飛び降りるように階段を蹴り、玄関へと素早く向き直る。

そこには腹部を押さえている母親がいた。

 

「ゆめ……!! お父さんに連絡を!! 休日出勤で会社だから!! 早く!!」

 

「……お母さんは?」

 

「私はこころを追いかけるわ……!! まだ間に合うはず……!!」

 

「うん、電話する。……救急車を呼びに」

 

「ゆめ……? あなたその髪は……」

 

「これでお母さんは大丈夫。すぐ来るだろうから待ってて」

 

「ゆめ!! 待ちなさい!! ゆめ!!」

 

「お姉ちゃんは……私がなんとかする」

 

家から出た少女の髪は光を反射し、

鮮やかな桃色を帯びていた。

 

 

 

 

 

「うおおおおん……うわああああ……」

 

「真田天、うるさいわよ」

 

上映が終わり頭を抱えて唸り声をあげている私に

影ちゃんがぴしゃりと言った。

 

「途中でも『おばさん!!頑張れー!!』とか『こころちゃんうわああああ!!』とか……

イメージ映像なんだってば」

 

「意外と便利ですね、この能力」

 

「『意外と』は余計なんだけどお!!」

 

もはや互いに慣れた感じすらあるゆめちゃんと影ちゃんをよそに、

私は立ちあがった。

 

「行こう……!!」

 

「ええ、お姉ちゃんがモンスターに連れ去られたなら、

研究所にきっといるはず……わかるんです」

 

「こっちは最初からそのつもりだったしね。あの男が裏で手を引いたのかもしれないわ……!!」

 

「いざ!! 研究所へ!!」

 

私は魔法棒を頭の上でくるくると回して、

勢いよく前方に振り、ポーズを取った。

 

 

 

 

 

その衝撃で魔法棒は折れた。

 

「あれえ!?!?」

 

「さ、真田天!? あなた何してるのよ!?」

 

「大方無茶な戦い方ばっかりしてるから金属疲労がすごかったんじゃないんですか?」

 

血の気が引くとはこういう時のことを言うのだろう。

冷静なゆめちゃんの意見を聞いて、何も言うことができなかった。

思い当たる節がありすぎる。

 

何度見直しても魔法棒は途中から重力に引っ張られて、ぷらぷらしている。

 

「ゆ、ゆめちゃん予備とか持ってない? というかゆめちゃんのそれは……?」

 

「持ってません。私のは落ちているのを拾いました。有事なので」

 

「そ、そっかあ……」

 

私は必死に考えた。

研究所はこの分だと途中でモンスターに遭遇しそうだし、予備が使える状態にあるか最早わからない。

後は……。

 

「あ!! 家だ!! おうちに予備がある!! 取ってくるね!!

あ、お母さんにも遅くなるのを言っておかなきゃ!!

ゆめちゃんもお父さんやお母さんを心配させちゃ駄目だよ!!

じゃあ!! またね!!」

 

こころちゃんやみんなを一刻も早く助けないといけないのに、私は何をやっているんだ。

そんな思いで情けなくなりつつ、すぐに駆け出した。

結果、影ちゃんとゆめちゃんは置いてけぼりになり残されるのだった。

 

 

 

「ちょっと真田天!! 合流場所決めとかないとでしょ!!」

 

「研究所の前で落ち合いましょう。村田さんは真田さんを追いかけてください」

 

「え? いいけど……。あなたは?」

 

「私は一人でも行くので。あ、あと……」

 

「何よ? もう嫌味は聞き飽きたわよ」

 

「真田さん、頼りになるけど危なっかしいところもあるのであなたがフォローしてあげてください。

……お願いします。あとベレー帽とっても似合ってます」

 

桃の少女は頭をぺこりと下げた。

 

「えっ、そう? ……ありがとう」

 

「では、私は行くので」

 

「急に褒めだして……なんか調子狂っちゃうわね。

そういえば私、名乗ったっけ……?」

 

紫の少女は急いで先に行った少女を追いかけるのだった。

 

 

 

 

 

真田と表札が書かれた家の前。

 

「ご、ごめんね影ちゃん……私全力で走っちゃって」

 

「ぜえ……ぜえ……声出してたんだから止まりなさい……!!

前世はイノシシなの……!?」

 

影ちゃんは再び息も絶え絶えになっていた。

私の前ではビットちゃん(仮)が「どうですかー!! ご主人!!」と言わんばかりに跳ねていた。

影ちゃんが私を見失わなかったのはこの子のおかげだろう。

 

「影ちゃんも上がってお茶を飲む?」

 

「今はそんな悠長な……はあはあ……やっぱりもらおうかしら……」

 

私がドアに手をかけようとした、その瞬間。

ドアは外れんばかりの勢いで独りでに開いた。

 

「天!!」

 

声と同時に私は抱き込まれ、視界がなくなった。

でも、温もりと柔らかさに包まれているようで

全身の疲れや緊張がなくなっていくような感覚を覚えた。

 

その時になって初めて、自分が無理をしていたのに気づいた。

 

「よかったわ!! 無事だったのね!! 心配したのよ!!

お父さんも帰ってくるわ!! 私本当に心配で!! 今から探しにいくとこだったのよ!!

本当に無事でよかった!! 大変!! 擦りむいてるじゃない!! 早く消毒しなきゃ!!

怖かったでしょ!! もう大丈夫よ!! 本当に……天が無事でよかった……!!」

 

私は腕と胸でがっちりとホールドされ、身動きの取れないまま家へと引きずり込まれていった。

 

後ろで「真田天ー!?」と叫ぶ影ちゃんの声が聞こえる。

私は影ちゃんも入ってと言おうとしたが、もがもがと意味の分からない音になっていた。

 

今、私を引きずり込んだのはお母さん。

私が大好きな、私のお母さん。




  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。