魔法少女GL ~女の子たちの初手はいつだってルームシェア時空!!~ 作:MOPX
「これで良し、大丈夫? しみない?」
「うん」
私の腕には絆創膏が貼られていた。
お母さんはほっと安心したようで、
次の瞬間には飲み物を出すから!! とキッチンの方へと小走りで進んでいった。
居間にあるモニターからは研究所から黒い霧が噴出している件について、
ニュースが流れているようだった。
「どうするのよ……真田天!!」
「え? どうってこれから研究所へ……」
「母親にちゃんと説明できるの!? 擦り傷で大騒ぎしてるじゃない!!
というかあなたやっぱり怪我してたわね!! 気づかなくてごめんね!!」
「いいよ!!」
「そこにだけ反応するな!!」
「あらあら仲良しさんね~お父さんも早く帰ってこれるといいんだけど……」
休日出勤って嫌ね~と言いながら、お母さんがお茶を3人分持ってきた。
もちろん、私とお母さんと影ちゃんの分だ。
「あなたは影ちゃんって言うのね? 天がお世話になっております。
仲良くしてくださいね。私は
「あ、はい。お世話になっております。村田影です。
真田天……さんですが本当に正義感が強く、思いやりもある子です。
研究所がこうなっているのにも……その……いても立ってもいられないのではないかと思います」
「まあ……!! 丁寧な子……!!」
影ちゃんは顔の向きを変えて、モニターをわざとらしく見つめていた。
「あら……これってここのことよね。怖いわ~。今日はもう外に出ない方がいいわねえ」
モニターでは近年まれにみるモンスターの大量発生としてこの地域が取り上げられていた。
私は心配そうにモニターを見つめるお母さんを見て、申し訳ない気持ちがわいてきた。
もしそのまま研究所に行っていたら、お母さんはずっと心配したままで、外に飛び出していたかもしれない。
お母さんが危ない目にあうのは、嫌だ。
でも、こころちゃんやみんなを早く助けに行きたい。
きっとそれができるのは魔法少女だけだから。
私の頭にぐるぐるといろんな思いが渦巻く。
研究所に戻ると言ったらお母さんはどんな顔をするだろう。
私の帰りを待つ間、お母さんはどんな顔をするのだろう。
もしも私が帰って来なかったらお母さんやお父さんはどんな顔をするのだろう。
まるでお母さんの娘の私と、魔法少女の私が引き裂かれるような感覚。
本当に体が2つあれば、片方はお留守番して片方はみんなを助けに行けるのにと思った。
影ちゃんはぎこちない口調でお母さんに話しかけ始めた。
「えーその、お宅の真田天……さんなのですが実に魔法力が高くて……」
「そうらしいわねえ。それで他の子より忙しくなっちゃって……
でも天は宿題も頑張ってて偉いのよねえ」
私は嬉しくて、気恥ずかしくて「そんなことないよ」って言いながら下を向いた。
熱を感じる。
たぶん、顔は赤くなっていたと思う。
影ちゃんはバツが悪そうに渋い顔をしている。
お母さんを説得するための言葉を考えてくれているんだ。
でも、私はどうすればいいのかわからなかったから
またしても下を向いてしまうのだった。
「でも私も安心したわ。こんなにかわいらしい友達ができてて。
天、昔はすごく引っ込み思案で……」
「お、お母さん!!」
「そ、そんなにかわいらしいかな、ふひひ……。
って、そうじゃなくて!!」
影ちゃんが声を張り上げる。
完全にお母さんのペースだったからここで攻勢に出るのだろう。
「もうざっくり言います。この星に危機が迫っています!!
私はタイムマシンに乗って滅亡しかけていた未来から来ました!!
だんだん思い出してきたんですけど、この研究所の事件が全てのきっかけ!!
これを止めれるのは私たち魔法少女だけ!!
だから行かなくてはいけない!! 以上です!!」
「え、ええ……? タイムマシン……?」
やっぱり気になるのはそこだよね。
私も結局よくわからなかった。
「それでタイムマシンはどこにあるの……?」
「いや、まあ、ないんですが」
「ないの!?」
お母さんと影ちゃんはなんだかどこかで聞いたことがあるようなやり取りをしていた。
影ちゃんが「親子……!!」と小さくつぶやくのが聞こえる。
私は影ちゃんとお母さんのやり取りに口を挟めなかった。
きっと私の心は、まだ揺れ動いてるのだろう。
「ご、ごめんね影さん。信じてないわけではないのだけど……
お母さんこの手のお話に弱くって……」
「いえ、そんな気はしてたので大丈夫です。
はあ……また同じ説明をするのかと思うと頭が痛いわ。
まだ猶予はあるはずだけど……」
私は相変わらず、うつむいたままだった。
私が何も決めれないから、全部が大事で全部を守りたいから
結局、全部影ちゃんに押し付けてしまっている。
影ちゃんはそんな私に口元を緩ませて
気遣うような笑みを見せてくれた。
「そんな顔しないでよ。フォローしろって頼まれたし。
こんな話、実のお母さんにはしにくいでしょ。
私だって、もしお母さんがいたら……」
影ちゃんは言いかけて何でもないわ、と話をやめた。
その顔は、寂しそうで、悲しそうで私には何も言うことができなかった。
研究所の前では一人の少女がたたずんでいた。
その片手には白銀の棒、もう片方にはぎらぎらと光る黒の金属棒が握られていた。
「……遅い!!」
少女は無人となっていた門を素通りすると研究所の敷地内へと侵入した。
「全く……こういう時ってなんやかんや来てくれるものじゃないんですか!!
お姉ちゃんと真田さんはいつもいつも……」
「いつもっていつだろう……」と、
自らの口から出た言葉に首をかしげつつ、少女は進むのだった。
「正面は……やめておきましょう。
私がお姉ちゃんをさらった奴ならそこにモンスターを集中配置する」
少女は壁を背にしながら、研究所の外周を伝うように移動を開始した。
壁を曲がるにあたっては、素早く体をひねり白銀の棒を構える。
辺りを見渡し安全を確認すると再び進みだした。
ちょうど半周、最初の位置から反対側まで来たところで少女は足を止めた。
「ここでいいかな……。今こそ魔法少女有事単独行動権を行使します!!!!」
少女が窓ガラスの前で黒い方の金属棒を振り上げた。
「世界の命運と研究所の窓ガラス!! どっちが大切か!!」
少女が金属棒をガラスに思いっきり叩きつける。
打ち付けた位置からガラスに複雑なヒビが入っていった。
※良い子は真似しないでください!!
「遠心力を付ければ……!!」
少女は少し離れ、ハンマー投げの要領で軸足を中心に回転を始めた。
そのまま限界まで勢いがついたところで、金属棒をガラスに放り投げた。
派手な音とともにガラスが内側へと飛び散っていく。
少女は「よし」と声を上げると、研究所の一室へと侵入した。
そのまま素早く周囲を見渡し、何もいないことを確認した。
はずだった。
「ずいぶんとかわいらしい侵入者ですわね」
「!!」
少女が振り返った先にいたのは
頭につけた花を轟轟ときらびかせ闇に浮かぶ別の少女だった。
「そうねえ……影さんのお話、ちょっとわかってきたかも」
お母さんがほっぺたに手を当てながら答えた。
私はそれがお母さんが物事を悩むときの癖だと知っている。
「本当ですか。良かったです。図を改良したかいがありました。
それで真田天……さんですけど」
その時、インターホンが鳴った。
お母さんが瞬時に立ち上がり、
影ちゃんにちょっと待ってね!! と声をかけると玄関へと走っていった。
私ももしや、と思い玄関へと駆けだした。
「いやあ!! 駅も混乱しててさ……!! 帰るの大変だった!!
うお!! 天!! ちゃんと帰ってたな!! 心配したんだぞ!! 偉いぞお!!」
お父さんが私を抱え上げる。
私はやはり罪悪感を覚えたものの、
お父さんの両腕に持ち上げられ気恥ずかしいような、嬉しいような気持ちになるのだった。
「ん!? そっちの子は!? 天の友達か!?」
お父さんとお母さんと私、同じ方向に視線を向ける。
私たちの視線をあびせられた影ちゃんは「説明する人が増えた……」とうなだれていた。