魔法少女GL ~女の子たちの初手はいつだってルームシェア時空!!~ 作:MOPX
研究所の一室では少女たちが相対していた。
その手には武器が、しっかりと握られている。
「……お久しぶりですね、伊藤花さん」
「ご機嫌うるわしゅう、田中ゆめさん」
どちらもが言葉に反し、目は笑っていなかった。
互いの不自然な動きを見逃さんと言わんばかりに見つめ合っている。
5秒も立たないうちに桃の少女が別の方向、
部屋の扉のある方へと向いた。
「行くのですか? ではごいっしょに」
「怪しすぎるわ、あなた」
「何を……、互いの持っている情報を交換するだけでも有益とは思いませんか?」
「いらないわ。私はお姉ちゃんのことだけわかってればいい。この世界を救うのはついでよ」
「なるほど……それこそが、あなたがこの世界で……いや」
緑の少女の体は外からの月明りを逆光として、
凛然と輝いていた。
「このループで引き継いでいる記憶というわけですか」
聞き慣れない言葉は、緑の少女を無視しようとしていた桃の少女を引き留めた。
「わけのわからない言葉を使ったって無駄よ。世界がどんな仕組みかなんて私は興味がない」
「ふふ、青いですわね。世界を正しく知ることは世界を制することです」
「あなたは世界征服でも目指しているの?」
「私もそこまで奢ってはいませんよ。私は自分と天さんがつつましやかに暮らせればそれで……」
「嘘ね」
「……なんですって?」
獲物を狩らんとする獰猛な瞳と、純粋無垢な瞳が再びぶつかった。
「あなたがここにいること自体が不自然だと思っていました。
きっと誰かが助けに来るってことだけは覚えていたのでしょう?
自分独りでは黒幕のところまでたどり着けないとわかっていたから。
でも、それが真田さんかどうか、あなたは覚えていなかった。
恐らく、あなたが本当に大切なのは自分だけ――」
白銀の魔法棒の先端が、桃の少女の目と鼻の先まで突き付けられた。
緑の少女の、頭に付けた花が怪しく光っている。
「生意気ですわよ」
「よく言われます」
静寂とともに時間は流れていく。
しばらくすると棒の先端は下がっていった。
「やめましょう。私たちが争う理由はありません。
というより見るからに物騒な物を持っていてあなたの方が強そうです」
「どうも。私としても別に」
では、と緑の少女が片手を差し出した。
桃の少女は黒い方の武器を置くと、その手に応え自分の手を出した。
手と手が重ならんかという時、渇いた大きな音が鳴る。
それは互いの手を、勢い良くはたいて、衝撃により生まれたものだった。
「最後にひとつ。私が天さんとつつましやかに暮らしたいのは嘘ではありません」
「そうですね。私も言いすぎました。ごめんなさい」
「いえいえ、私も頭に血がのぼっていき、血管がぶち切れかけてしまいましたわ。
わかっていただければいいのです。本当に私は天さんと静かに、平和な日常を送れたらそれでいいのです」
緑の少女は桃の少女に対して、口元をゆがませ初めての笑顔を見せるのだった。
「……永遠に、ね」
桃の少女はその姿には一瞥もくれず、扉を開いた。
「お父さん、どう? わかった?」
「うーん、ぎりぎり。つまり影さんは未来からきた人でこの世界の危機を伝えに来たと」
お母さんはほっぺたに手を当てながら、お父さんは腕組みをしながら話している。
影ちゃんはさすがに疲れたのかジュースをがぶがぶと飲んでいた。
「でもさ、モンスターって夜になったら消えるんだろ?
そのタイミングでたぶん研究所に人がいっぱい調べにいって大丈夫って話になるんじゃ」
お父さんの疑問に影ちゃんがジュースを置いて答えた。
「今回のは消えないんです!! だんだん思い出してきました……!!
たぶん、ばらまかれてるモンスターたちは人を襲うのを目的とはしていない……。
もっとこの星にとってまずいことをしようとしているんです!!
なんか嘘っぽくなったけど本当です!!」
「いや、影さんのことを疑っているわけではないのだけど……」
お父さんはうーん、と唸ってしまった。
「やっぱり、一日様子を見るのはどうかな。
夜にモンスターが残るのかもそれで確認できるし……」
「そうねえ。もしそうだと明日は会社も学校もお休みなのかしら。
私は影さんがお家に帰れるかが心配なんだけど……」
「確かに。電話してあげた方がいいんじゃないかな」
「わ、私の話は今いいんです!!」
私はずっとお話を聞いていた。
お父さんとお母さんが、私と影ちゃんのことを心配してくれているのが
痛いほど伝わってきた。
だから何も言えな――。
「あなたはどうなの!? 真田天!?」
影ちゃんは必死な目で私を見てきた。
たぶん、影ちゃんももう限界なのだろう。
もしも無理だったら自分独りでも行く。
影ちゃんの澄んだ目、真剣な顔つきはそう訴えていた。
そうだ。
私が何も言ってないから影ちゃんにまで迷惑をかけているんだ。
何か、何か言わないと。
こころちゃん、真赤ちゃん、花ちゃん、今日パーティに参加してた子たち、
ゆめちゃん、私のお父さんにお母さんに、こころちゃんのお父さんとお母さん、
町の人たち、悪い人かどうかはまだわからないから博士、
そして目の前にいる影ちゃん。
みんなが、みんなが悲しい思いをしなくてすむ道。
――留守番をしている私と魔法少女として戦う私。
閃光が走ったようだった。
私はすくっと立ち上がった。
ただごとではないと思ったのか、影ちゃんもお父さんもお母さんも
息をのんで私の次の言葉を待っているのがわかった。
久しぶりに口を開いたからか、閉じていた唇が離れる時の音が聞こえた。
私はゆっくりと、口を開いた。
「影ちゃん、私は――」
場の緊張が高まってたのがわかって、私は一呼吸をおいた。
「私はお父さんとお母さんを悲しませるのは良くないことだと思う」
桃の少女と緑の少女は研究所の最上階にまで登っていた。
「予想通り、モンスターがうじゃうじゃいましたね。私の敵ではなかったですけど」
「少し休憩を取りましょうか」
「いらないです。お姉ちゃんは屋上にいるはず……ここまで来たら私独りでも……」
「聞きたくないのですか? この先に何が待ち受けているのか。いえ、何が起こるのか」
「……何が起こるか? あなたの言うところのループですか? 興味ないですが」
「もっと正確に言えば起こさなくてはいけないのです。
確実に……その原理を把握し……あわよくば自由に……」
「……ひとつ聞かせてください。
ループという単語からは何回も繰り返す前提を感じます。
今回の件、これが初めてじゃないんですか?」
「ふ、ふふふ……」
「なに……?」
「まさか……一度や二度などと……ふふふ、あはははは!!
本当にお姉さんのことしか覚えてらっしゃらないのね!!」
「……」
静かで、薄暗い、何もない空間に
似つかわしくない少女の笑い声がこだまする。
「別にこれが何度目だって関係ありません。
私はお姉ちゃんを助けるだけです。
でも、こんなことが繰り返されてるなら……」
笑い声をかき消すように鈍い音が鳴り響く。
桃の少女は金属棒を思い切り壁へと叩きつけていた。
「お姉ちゃんは一体どれだけ苦しめばいいの……!!」
「笑いすぎましたわ、ごめんなさい。その武器物騒だから捨てましょう?」
「何があるかわからないから当然持っていきます。
こうしてあなたを黙らせることができましたし」
肩をすくめる緑の少女を尻目に桃の少女は再びしっかりとした足取りで進むのだった。
「待ってて……お姉ちゃん!!」
「それがあなたの答えなのね……真田天」
影ちゃんはまっすぐに私を見据えていた。
私もそれに応えるように視線を合わせた。
これ以上、逃げたくなかったから。
「天……!!」
「そうよね!! 天が急いで行かないといけない理由なんてないものね!!」
お父さんとお母さんの弾むような声が聞こえてくる。
私のことを本気で心配してくれていた証拠なのだろう。
影ちゃんは私に背を向けて立ち上がった。
その表情は見ることができない。
「いいんです。何となく引き離すの心苦しいって私も思ってたから……」
影ちゃんの声は震えていた。
お父さんがそれに答える。
「ごめんな影さん。家族ってのはたとえ世界が滅んでも……
いや、最後ならなおさら一緒にいたいんだ」
「その気持ち、わかります」
影ちゃんは短く言うと、一歩踏み出した。
私は慌てて声をかけようとしたが、当の影ちゃんに遮られた。
「それがわかるからこそ私はあの男を許しておけない……!!
ここでお別れよ真田天。
いいの、あなたが今持ってる、こんな普通の幸せを私は守りたいと思ってるから」
「え、影ちゃん。その……話を……」
「さようなら……真田天!!」
動こうとした影ちゃんの肩はがっちりと掴まれていた。
「いや、君もダメだろ」
「そうねえ、外が安全になるまでもう少しいても……」
「さ、真田家両親……!!」
影ちゃんは歯茎が見えるくらい
歯を嚙みしめて、すごい顔をしていた。
私はそんな影ちゃんが安心できるようにと、つとめてにこやかに声を出した。
「大丈夫だよ影ちゃん。私も戦うから」
「は!?」「ええ!?」「え!?」
ほとんど同時だった3人の驚く声が重なる。
今度はお父さんとお母さんが明らかに動揺していて、
申し訳ない気持ちになった。
「天……その、友達が大切なのはわかるんだが考え直してくれないか?」
「そうね、こんな時に外に出るなんて私たちでも無理よ」
「大丈夫だよお父さん、お母さん。私は家にいるよ!!」
「ちょっとちょっと真田天!!
あなた数秒ごとに適当なこと言ってない!?
どういうつもりなの!? ねえ!? ねえ!?」
私は窓の方へと向かった。
研究所の方向からは変わらず黒い霧が噴出している。
2階のベランダからならば、よく見通せるだろう。
私は家にいる。
そして魔法少女として戦う。
私はみんなの方を向き直って言った。
「家から攻撃すればいいんだよ」
続