魔法少女GL ~女の子たちの初手はいつだってルームシェア時空!!~   作:MOPX

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第8話 さようなら、魔法少女

私は村田影、小学6年生。

 

学校の成績はまあ、良くはない。

運動ははっきりいって嫌いだ。

特にチームスポーツなんかは授業の前から億劫な気持ちになって休みたくなる。

やりたい人だけでやればいいのに。

 

趣味は読書。

趣味がないからこう言ってるわけじゃなくて本当に読書。

休み時間もだいたい本を読んで過ごす。

そうしているのが楽しいから。

 

私に転機が訪れたのはつい前のこと。

いつものように学校から家に速攻で帰宅して

本を読んでいた時、私は急に眠くなった。

 

その時に頭の中に湧いてきたイメージ。

夢というにはあまりにも生生しく、おどろおどろしい光景。

この世界が黒い物質に覆われ、死にゆくさまを見せられたのだ。

 

そしてその中心にいたのはあの男――私がこの世で最も憎悪しているあの男だった。

 

目が覚め、鏡の前に立つと頭のてっぺんが紫色を帯びていた。

直感的にわかった。

 

これは私に与えられた使命なのだと。

誰かのおかげか、何の因果か知らないが、今日も家に帰ってこないあの男に復讐をするチャンスが与えられたのだ。

 

あの男の、母を見捨てた男の企みなど粉々に打ち砕く。

空っぽだった私の胸に炎が灯ったようだった。

 

紆余曲折あったが私はあの男の企みを阻止する一歩前まできたのだ。

あとは、あの男の本陣へ攻め入るだけ、なんだけど……。

 

 

 

「真田天、あなた何を言ってるの」

 

目の前のもう一人の魔法少女、真田天に向かって言葉が漏れた。

呆れのニュアンスを多分に盛り込んだつもりだったが、

当の魔法少女は得意げな顔をしていた。

なんでやねん。

 

「うん、だから家から攻撃すればいいんだよ!! 影ちゃん!!」

 

「せ、説明になってない……」

 

なんなんだ、この子は。

 

正義感があり、思いやりがある。

真田家の母親に言ったことはこの短い付き合いで感じたことでもあり

決しておべんちゃらを並べたわけではない。

とはいえ、これはあまりにもあんまりだろう……。

 

私が軽い眩暈を覚えていると、真田家の父親が口を開いた。

正直、まともな人すぎて難敵だった。

 

「天……そんなことができるのか!?」

 

母親も続いた。

この人も平常時に出会ってたらめちゃくちゃ良い人だったと思う。

 

「それができるなら天は外に出なくてすむわね……!?」

 

どうもこの人たちはできる前提でしゃべっているらしい。

私は真田天に目をやった。

無駄かもしれないが、今度は疑念のニュアンスを込めてみる。

 

「うん……頑張ればできるかも――」

 

「いやいやいやいや!! ちょっと待ちなさい!!

頑張ればって!? できるかもって!? 何一つ根拠がないじゃない!!

それ、ほぼわかんないってことでしょ!!」

 

部屋は静まりかえった。

言った私もしばらくしてから後ろめたい気持ちになっていた。

 

言いすぎたかもしれない。

 

いや、伝えるにしても言葉を選び、相手の顔色をうかがえばいいのだ。

上手に生きてる人間は、それをやっているように思えた。

 

 

 

こんな性格だから私の周りには人が――。

 

 

 

「影ちゃん、私ね」

 

私の体はびくっと跳ねた。

いったい何を言われるか、それを考えての恐怖に違いなかった。

 

「少しでも可能性があるなら諦めたくないんだ」

 

真田天の瞳は私が今までに見た誰よりも澄んでいた。

そこにあるのは非難や恐れではなかった。

きっと純粋な願いなのだとわかった。

 

「私、算数も苦手でどうしたらできるかもわからないけど、

でも考えずに行動して誰かを悲しませたくない……のかな。

もう時間も少ないかもしれないけど、まだあるのなら考えたいよ……」

 

今一度、真田天が私の方を見た。

私はそれに応えて視線を合わせた。

逃げてはいけない、そう思った。

 

「こころちゃんもみんなも……私は助ける。だから……」

 

真田天は言うのを少し躊躇していたようだが、

意を決したのか言った。

 

「力を貸して……影ちゃん!!」

 

また、静寂が部屋を支配したがその意味合いは違っているように思えた。

真田家のお父さんは黙って下を向いていた。

真田家のお母さんは口を覆っていた。

 

私は少しの逡巡の後に、口を開いた。

 

「真田天、あなた魔法力の長距離攻撃の記録がどれくらいか知ってる?」

 

「その……ごめん……わからない」

 

申し訳なさそうにする真田天を尻目に、

私は頭にあったその数字をそのまま読み上げた。

 

「100キロメートルよ」

 

「100キロ!?」「ひゃ、100キロ!?」「まあ……100キロ!?」

 

真田家の驚きがサラウンドで聞こえてくる。

つかみは上々だ。

私はそのまま説明を続けた。

 

「以前……どんなくだらないことが書いてあるんだろうと思って、

魔法力の伝搬の本を読んだことがあるんです。

そこの前書きに書かれていた例ですが……100メートルの射撃攻撃の実験で

担当した魔法少女の調子が良かったのか悪かったのか、魔法力が暴発して実験施設を貫通していったそうです。

そのまま、同時刻の100キロ先の村で確認されました。

光は厳密には魔法力による副産物なのですが……100キロ以上届いたのは間違いないです」

 

真田天を含む真田家の面々は目を白黒させていた。

 

「これだけじゃないです。

海外でも癇癪を起した魔法少女の魔法力がドーム状に爆発し、

その光は宇宙まで届いたとも言われています」

 

「影ちゃん、つまり……!?」

 

「前例がある以上、可能性はゼロじゃないってことよ」

 

「そっかあ……!!」

 

真田家から歓喜の声がわく。

こんなに喜んでもらえるとは。

私はおほん、と咳払いをして気を取り直すと説明に戻った。

 

「ただしこれらの例は長距離攻撃用の魔法棒を用意した場合よ。

私たちはそれを自分で準備しないといけない」

 

「手伝うよ」

 

私と真田天が振り向くと、

真田家のお父さんとお母さんがにこやかな笑みを見せていた。

 

「こう見えて工作は得意なんだ。簡単な道具ならすぐ用意できる」

 

「私も……!! 天が頑張るなら、雑用でも何でもするわ!!」

 

「お父さん……!! お母さん……!!」

 

真田天はまるで雲の間から光が差したみたいな笑顔を見せていた。

そして、私の方を向くと改めて頭を下げるのだった。

 

「影ちゃんも……その……ありがとう!!」

 

「いいのよ。……その本に書いてあったの。

どんなに技術が発達しても魔法力には未知の部分が多く、

人間の本質に根差した力である。

だから私たちはまず人間のことを知らなくてはいけないって……」

 

だから、たまには――

 

人に付き合ってみようかという気分になったんだと思う。

 

「あら……!! とても素敵な考えね!! どなたが書いたのかしら?」

 

「……私の父です」

 

「あら? そうなの?」

 

誰が書いたのか言うつもりはなかったのだが、

私の口からはその言葉が漏れていた。

 

不思議そうにする真田家母を尻目に

真田天は「じゃあ!!」と声を出した。

 

もしかしたら話題を変えようとしてくれたのだろうか。

この子は勢いでしゃべっているだけかもしれない。

 

でも、そんな不思議な子に惹かれている自分がいるのも確かだった。

 

「なんなのよ……、あなたは」

 

漏れ出たその声は、自分でも驚くくらい穏やかなものだった。

 

部屋では、真田天を中心として作戦会議が始まった。

 

 

 

 

 

研究所、屋上への扉の前。

 

桃の少女と緑の少女はその目の前にまで来ていた。

 

「この先にお姉ちゃんが……!!」

 

桃の少女が息を切らして扉に手をかけたのを、

緑の少女が静止する。

 

「何ですか? 今更引き返すのはなしですよ?」

 

「いえ、作戦などは必要ないのですか?」

 

「いらないわ。何かいたら私が突っ込む。あなたは好きにして」

 

「……では、それで」

 

扉が開かれる。

と、同時に風が流れ込んでくる。

 

緑の少女はこの屋上に立っているハート型のアンテナを見据えた。

研究所のシンボルとして施工され、最先端の研究で利用されるはずだったそれは

今現在、絶望の象徴として黒い厄災をまき散らしている。

 

緑の少女はあたりを見渡し、

そのシンボルの傍にいた男を見つける。

男はこの場に似つかわしくないスーツを着ている。

 

男は身じろぎもせず、眉一つ動かさず、正面を向いたまま微動だにしていなかった。

そこには喜びも、悲しみも、驚きも、恐れも一切の感情が介在していないように思えた。

 

桃の少女も扉を開けるなりあたりを素早く確認した。

そして見つけた。

 

「お姉ちゃん!!」

 

悲痛さを帯びた叫びは、アンテナの根元にあるカプセル――

正確にはその中にいる少女へ向けられた。

 

 

 

 

 

「魔法棒かき集めてきた……!!」

 

「お父さん、すごい!! ありがとう!!」

 

じゃらじゃらと居間の机の上に白銀の棒が並べられる。

一般家庭ではまず見られない光景だった。

 

私はふうっと息を吐くと目の前にお茶が差し出されているのに気づいた。

 

「ふふ、影さんもお疲れ様」

 

「あ、ありがとうございます……」

 

私は真田家母が出したそれに手をつけた。

 

 

 

長距離攻撃に必要なもの、第一に武器。

 

 

 

武器は一般的な魔法棒を組み合わせて自作することになった。

魔法棒自体は単純な媒介に過ぎないのだから、

組み合わせて放射効率の良い形状にすればいい。

 

真田家父が近所を巡って余っている魔法棒をもらってくると言った時は度肝を抜かれたが、

顔が広いのか、日ごろの行いが良いのか事情を説明したら驚くほど気持ちよく集まっていった。

 

私はただの付き添い。

モンスターが現れたら危険だからと付いていったが結局何もしてなかった。

 

かすかな罪悪感を覚えながらも、その優しさに甘えてお茶を飲み干す。

目線を別の机に移すとこの辺り一帯の地図が広げてあった。

 

「そっちも上々のようね、真田天!!」

 

「えへへ。お母さんにも手伝ってもらったんだ~」

 

「ふふ、地図を眺めるの好きだから」

 

 

 

長距離攻撃に必要なもの、第二に位置関係の正確な把握。

 

 

 

地図には赤いバッテンで現在位置であるこの家の場所と、

攻撃目標である研究所の位置が記されていた。

 

現在位置を中心としてコンパスで綺麗な円が、

研究所のバツ印を通るように引かれている。

 

「方位磁石もあったわ!! これで方角もばっちりね……!!」

 

得意げにする真田家の母を見て、私もなんだか安心感を覚えた。

やっぱりこの親子は似ているのかもしれない。

 

「魔法のアンテナ……? の本だっけ?

それも木下さんから借りれたんだがこれでよかったかな?」

 

真田家の父が柔和な顔で私に確認した。

手には「魔法伝搬のいろは」と書かれた本が握られている。

 

私の家にあるものと同じ本だ。

 

私は黙って頷く。

真田天は「よし!!」と声を上げると、

ページをパラパラとめくり出した。

 

「真田天、後半に魔法棒の種類をまとめたページがあるはずよ。

そこで最も直線距離を出せる形状を探すの!!」

 

「うん!! わかった!!」

 

真田天に内容がわかるのかと一瞬、頭によぎる。

でも、何となく今回は大丈夫な気がした。

 

この子は人の思いを無下にする子じゃない。

そうでしょ、真田天。

 

「それじゃあ……私は何をしようかしら?」

 

真田家の母親が手持無沙汰なのかそわそわとしている。

 

その時だった。

さっき歩いたからか私のお腹が少し鳴った気がした。

(あくまでほんの少し)

 

「……お腹へった」

 

「……影さん? そうだ!! ご飯の準備をしましょう!!」

 

「え、いや!? そんなつもりで言ったわけじゃ全然なくて!!」

 

慌てふためく私をよそに、

真田家の母は我が意を得たりと喜んでいた。

 

「ふふ、いいのよ。軽食のつもりだったから。

もちろん遅くなるようだったら影さんもご自宅に電話していっしょに……」

 

「い、いいです!!」

 

私は反射的に断ってしまった。

正直、こんなこと言われたのは初めてだから

どう答えればいいのか、わからなかった。

 

考えてみれば他の人の家にあがらせてもらうの自体、

初めてだった。

 

「あの……真田光……さん」

 

なあに? と真田光さんはこちらに、にこやかな笑顔を向けた。

ポニーテールに、恐らく実年齢より幼い顔つき。

真田天の姉と言い張っても通りそうな気がする。

 

「できれば真田天……さんの好物を作ってもらえますか?

一説によると魔法力は気分にも左右されるので。

無理にとはいいませんが……」

 

「ふふ、魔法力は人間の力だものね!!

天にだけはハンバーグを焼こうかしら……。

あ、あと……」

 

あらためて私の方をまじまじと見つめる真田光さん。

何か粗相をしてしまったか。

緊張する私にまたも笑いかけるのだった。

 

「呼び捨てで大丈夫よ? 普段そう呼んでるんでしょ?」

 

「は、はい……!! 真田光……!!」

 

「え?」

 

不思議そうにしている真田光……さんの顔を見て

やっとこさ重大な間違いに気づくのだった。

 

「え? あ……? うわああああ!!

そうですよね真田天のことですよねなんでもないです

今のは無しです、うわああああ……穴があったら入りたい……」

 

「ふふ、私も呼び捨てで大丈夫よ。

なんだか若返った気分……」

 

顔からたぶん火が噴いていると思う。

そう思えるくらいには私の顔面は熱を持っていた。

ハンバーグくらいなら余裕で焼けそうな気がする。

 

キッチンへと向かう真田光さん。

その姿を見て私は名誉挽回とばかりに声をかけるのだった。

 

「あの……もしよかったら手伝わせてもらいます?」

 

 

 

 

 

居間では相変わらず真田天とその父親が例の本を読んでおり、

思ったよりも真面目に議論をしてそうであった。

時折、やれ父は若い時分に本を全く読まなかったから苦労しただの、

雑談のような話も聞こえてくる。

 

親子とはそういうものなのだろう。

 

真田天は父親の話をふんふんとにこやかに聞いていた。

果たしてこの子には思春期という概念はあるのだろうか。

 

途中で「こんな本を書くなんて影さんのお父さんはすごいんだなあ」という真田父の言葉が聞こえて、

私は手伝いに集中した。

 

 

 

「影さん、手慣れてるわねえ。助かるわあ」

 

「い、いえそれほどでも」

 

私は手伝いと言っても盛り付けられた皿を並べるとか、

指定された調味料を持ってくるとかその程度のことしかやっていない。

自分の家ではおばあちゃんの料理を手伝っているからもっと凝ったこともできるのだが。

 

あるいは、私の申し出を無下にしないように

真田光さんが気遣って仕事を用意してくれたのかもしれない。

 

真田家の面々は明るく、朗らかで、ともに助け合うようで。

 

家族というものは普通こうなんだろうか。

 

ふと寂しさが込み上げてきた。

 

まるで、この中で自分だけが異物であるような感覚。

 

「でも影さんも魔法少女なのよねえ。すごいわ~」

 

光さんの声で私は脳内の内省から

現実に引き戻された。

 

「その……私は全然正式な魔法少女じゃなくて……」

 

「ううん、さっき天に、普通の幸せを守ってあげたいって言ってくれたじゃない。

あれ、天もよく言ってるのよ。それが魔法少女なんだって」

 

初耳だった。

 

私は「真田天……!!」と言いたい気持ちを押さえて押し黙った。

耳が熱くなっているけど、もしかして真っ赤なのだろうか。

恥ずかしい。

 

「あ~、私もあと20歳若ければ天といっしょに魔法少女をやってるのになあ。

光ってシャイニ~ング、真田光!!」

 

「……」

 

ノリノリでブイサインを横にしたポーズをとる真田光さんに

私は何と言ったらいいかわからなかった。

 

「その……。おばさんが20歳若かったら真田天も産まれて……あ」

 

言ってから私はまたも失言をしたことに気づいた。

 

「あ!! その!! おばさんってお年寄りって意味じゃなくて……」

 

「くすっ、私はどっちでもいいのよ。もうこの歳だもの。

……でもね、天といっしょに戦いたいって気持ちは本当なの」

 

たどたどしく墓穴を掘っていく私に、真田光さんは微笑んだ。

 

「もしもその時は影さんもいっしょね」

 

私は返事をせずお皿を運んでいった。

口を開いたらまた失言しそうだったのが半分、

これ以上会話が続いたら恥ずかしさが臨界点を突破しそうだったのがほぼ半分。

 

母親の存在の大きさに、一抹の寂しさを覚えたのが残りわずか。

 

私は真田天の進捗を確認することにした。

その顔は先ほど話していた母親にやはり似ている。

 

真田光さんも小さいころはこんな感じだったのかな。

 

なぜか頭によぎったその考えを振り払って、

私は真田天に話しかけるのだった。

 

 

 

 

 

研究所の屋上。

 

桃の少女がカプセルに近づこうとするのを、

緑の少女が体を引っ張り、止めた。

 

喚くようにそれを振り払おうとする少女。

 

スーツの男は意に介するようでもなく、

一歩ずつ足を動かし、カプセルの横で静止する。

 

突如、黒い閃光が少女たちと男の間に走る。

 

反魔法力。

 

この世界でそう名付けられているものに違いなかった。

 

改めて手にした武器を構える魔法少女たち。

桃の少女も、独り言のように短く礼を言うと

今度は慎重な動きになった。

 

禍々しい黒いオーラをまとった男とは対照的に、

カプセルの中は桃色の光で満たされていた。

 

 

 

 

 

「あ、影ちゃん!! 準備、進んできたよ!!」

 

机の上にはテープで固定され、10倍程度に延長された魔法棒があった。

更にその先端部分には片側に魔法棒が少しずつ角度を付けて

半円を描いていた。

 

そう、これは――。

 

「ハルバード型魔法棒……!!」

 

「お父さんといっしょに作ったんだけどどうかな?」

 

「おお……!!」

 

その出来栄えは想像以上のものだった。

 

躍動感にあふれ、雄々しく、ダイナミックなシルエット。

それでいて直線部分と半円部分の比率も美しく、

洗練された何かを感じる。

半円の反対側にも携帯用の魔法棒がワンポイントで入れてある細かさも心憎い。

これにより無機的な図形の集合から、英雄が持つに相応しい武器へと昇華されている。

 

どうやら真田父が工作が得意と言っていたのは、伊達じゃなかったようだ。

 

仕上げは任せてくれ!! と真田父は再び作業に戻った。

 

凝り性なのか塗装まで行うらしい。

ここまで出来あがったのはこの人のおかげだろうから、

何も言わないことにする。

 

私は真田天にも労いの言葉をかけた。

えへへ、といつもの笑みを見せてご満悦と言った様子だった。

 

「それにしても魔法棒ってたくさん種類があるんだね!!

私、魔法少女なのにあんまり知らなくて……読んでると楽しいね!!」

 

無邪気にパラパラとページを捲る目の前の少女に私は苦笑した。

 

「そっちの方は広範囲型魔法棒だからあんまり参考にならないわよ~」

 

「そうなんだ。……あ」

 

真田天の手を止めたページにはハート形の形状が書かれていた。

 

「広範囲型……ね。あのシンボル、どうせあの男が研究のためって

名目で作ったんでしょ……本当に許せないわ……!!」

 

また怒りが沸々と湧き上がってくる。

 

研究のために家族を見捨て、

その挙句やっていることがこれだ。

 

どういう仕組みかは知らないが反魔法力を世界中にばら撒くつもりなのだ、あの男は。

 

「あの男だけは野放しにできないわ……

必ずやってやりましょう!! 真田天!!」

 

「……」

 

「む? どうしたの真田天?」

 

「……え。あ!! 何でもない!! そうだね!!

頑張らなきゃ……頑張らないと……」

 

「……真田天?」

 

「ご、ごめんね。私、部屋で少し休んでくる……万全でやらないとだもんね!!」

 

「あ、ちょっと……」

 

そのまま真田天は足早に去っていった。

ふと外を眺めると小雨が降っている。

雨は魔法力に影響しないはずだが、良い予兆とも思えなかった。

 

 

 

長距離攻撃に必要なもの、第三に魔法力の高い魔法少女。

 

 

 

あの賑やかな娘が何か心配事でもあるのだろうか。

私は真田天を追うことにするのだった。

 

 

 

勇んだ気持ちの横で何かが慌てふためいていた。

 

真田天の部屋、その扉の前で私は二の足を踏んでいた。

なにぶん、こんな経験は初めてなのでどうしたらいいのかわからない。

 

いきなり入るのも失礼だろうか。

かといってノックしたら笑われたりしないだろうか。

 

唸りを上げる私の思考。

一度止まってしまったから余計にドツボにハマっている。

私は自分のほっぺたを軽く叩くとドアに手をかけた。

 

いかにも今きたところで、そのまま「入るわよ~」と言いながら入る感じ。

これで行こう。

 

「真田天、入るわ……」

 

「あ!!」

 

ばたばたと慌ただしく立ち上がる音が聞こえた。

真田天は机に向かっていたのか、その傍に立っていた。

 

「ごめんね、影ちゃん!! 何かな」

 

「何かなって……あなた……大丈夫なの?」

 

「うん、私は大丈夫だよ」

 

「大丈夫って……」

 

私は目をそらした。

そして目に入ってしまった。

 

真田天の机の上にあったものを。

 

 

それは何も貼っていない空のアルバムだった。

 

 

「特に用はないの。あなたに何かあったらって……」

 

「そっかあ。今日の作戦、頑張ろうね!!

なんていったってみんなの平和がかかってるもんね!!

こころ……ちゃんも……」

 

「さ、真田天!!」

 

私は真田天に駆け寄っていた。

これが正解なのかはわからない。

 

でも体が既に動いていた。

 

「その……あなたも独りで悩まなくていいから!!」

 

「え……?」

 

「私、ずっと独りで悩んでいて……

でもあなたが話を聞いてくれて嬉しかった!!

友達って言ってくれて……嬉しかった」

 

「影ちゃん……」

 

「もう……、顔を上げなさいよ。

私は知らないけど助け合うんでしょ、友達って」

 

「影ちゃん……ありがとう……」

 

「はい、顔」

 

「うん」

 

「何があったか知らないけど話したくなったらでいいから」

 

「うん」

 

「うん、じゃどっちかわからないわよ?」

 

「うん」

 

「……わざとやってるわね」

 

「……うん、えへへ」

 

「えへへ、じゃないわよ。もう大丈夫そうね。

言い忘れてたけど今日のご飯はハンバーグだって」

 

「お肉!! やったー!!」

 

「一瞬で機嫌を直すな」

 

「影ちゃん」

 

「ほへ?」

 

「本当に、ありがとうね」

 

「……どういたしまして」

 

 

私が部屋から出るとき、アルバムはもう閉じられていた。

 

人が言いたくないこと、私だって聞きたくない。

 

私が居間に戻るころ、雨足はずいぶん弱まっていた。

 

 

 

 

 

研究所の屋上。

 

そこでは二人の少女とスーツの男のにらみ合いがまだ続いていた。

静寂を破ったのは桃の少女の一声だった。

 

「そこの人!! どういうつもりかは知りませんが

邪魔をするなら魔法力で攻撃します!! 人間ならば大丈夫ですよね!?」

 

「無駄ですよ」

 

答えたのは男ではなく緑の少女だった。

桃の少女が眉を吊り上げた。

 

「どういう意味ですか、それ!?」

 

話しても無駄なのか。

あるいは――。

 

自分の攻撃など無駄、という意味なのか。

 

「聞きたいですか?」

 

「聞きたくないです!! ドリームドリルゥ!!」

 

少女が正面へと差した魔法棒から魔法力を展開する。

螺旋状に伸びたそれが、少女の体を包み、そのまま突貫した。

 

一瞬で最大速度まで加速し、男に到達するはずだったそれは――

 

次の瞬間にはかき消え、弾かれた少女は尻もちをついていた。

 

「ぐ……反魔法力の密度が……」

 

「ふむ、既に最終変異は始まってるのでしょうか。

ともすればループを起こさせるのが最善ということも……」

 

「わけのわからないことを……!!」

 

「立ちなさい。あなたにも存分に役割を担ってもらわないと困ります」

 

「言われなくても……!!」

 

男の体から黒い霧が噴き出す。

それはしばらくすると液状になり、

床を這うようにまた男へと集まっていった。

 

男の体がみるみる、おぞましい化け物へと姿を変えていく。

 

それは屋上の大半を埋めるほどの巨体で、

太い四肢により支えられ、

背中の甲羅のような部分は不規則でいびつな模様を描いていた。

 

そして首の先には先ほどの男が生えていた。

 

怪物は首を上へと伸ばしきると少女たちの方へと向いた。

 

 

 

 

 

「何なのよ……あれ!?」

 

2階のベランダに並んでいた私たちは一様に驚きの声を上げた。

4人で双眼鏡を持ち攻撃目標である研究所の屋上を凝視している。

 

アンテナの根元には少女が入った謎のカプセル、突然出てきた化け物の先っぽにくっ付いてる男。

あれは――。

 

「こころちゃん!!」「あの男……!!」

 

私と真田天の声が重なる。

 

やっぱりそうだ。

あの男こそが全ての元凶。

そのせいであの男自身が見るもおぞましい姿に……。

 

「影ちゃん」

 

真田天があらためてこちらを見た。

 

「あのシンボルを魔法力で攻撃してモンスターを消滅させるけど……」

 

「なによ、今更確認することじゃないでしょ」

 

自分の声は震えていた。

 

「影ちゃんのお父さんも、モンスターに憑りつかれているだけとかだったら、

きっと助かるから……!! 魔法力は人を傷つけないから……だから……」

 

「……気休め、いらないわよ。どの道あれじゃあもう……」

 

自分でも情けないくらい弱々しい声が出ていた。

 

「暗くなってきたのにモンスターが消えない……

影さんの言った通りだな。すまない」

 

謝る真田父に私は手を振った。

この状況をすんなり信じる人はまずいなかっただろう。

 

「天……じゃあこれを」

 

「うん……ありがとうお父さん」

 

真田天が父親から魔法棒を受け取る。

それはあまりに長かったので、

寝かせた状態で、窓から射出されるようにベランダへと運ばれた。

 

魔法棒の重量は1本100グラムなので2キロ程度はあるはずだ。

真田天はその棒を寝かせるとひとまず研究所ではなく、小山の方へと向けた。

方位磁石で方角を正確に確認する。

 

「再確認よ。自分で言ってたと思うけど真田天は大砲タイプの攻撃はコントロールに自信がない。

だからいったん目標となる目印まで大鎌を伸ばす。

それを振り上げて、今度は研究所めがけて振り下ろす」

 

真田天が黙って頷く。

 

私は今度は真田家への両親へと目を向けた。

 

「魔法力は人を傷つけません……が、

その副産物で熱が出るので少し熱いかもしれません。

二人とも中で待っていただいても……」

 

「わがままかもしれないけど、見届けさせてほしいんだ」

 

「ええ、天が頑張るのだもの。……私たちだって戦わせてちょうだい」

 

私は頷いた。

心を許す人が近くにいれば魔法力も安定するはずだ。

ましてや、それが家族なら――。

 

私は余計な考えを振り払って真田天に向きなおった。

 

「真田天……お願いするわ。あなたから言うことある?」

 

「うん、お父さん、お母さん、影ちゃん。

本当に、本当に、本当に――」

 

金色のハルバートの根元から光があふれていく。

 

「ありがとう」

 

ハルバートの先から巨大な黄色の光が発射される。

それは小山をめがけて一瞬で伸びていき――

 

 

途中で止まった。

 

 

「頑張れ!! 天!!」

 

「フレ―フレー!! 天!!」

 

真田家両親の応援がむなしく響く。

伸びた光はせいぜい、100メートルくらいだった。

 

それでも、すごいのだ。

真田天も必死に歯をくいしばって魔法力を絞り出そうとしている。

 

でもそれ以上、光が伸びることはなかった。

 

 

これが現実だ。

 

 

やれ、お祭り気分で準備したが、

そんなことは結果には何も関係しない。

 

私の心には冷たい風がびゅうびゅうと吹いていた。

 

「むううううん!!」

 

真田天がそのまま魔法棒を振り上げる。

 

駄目。

やっぱり長さが全然足りていない。

 

「……もういいわ。無理よ」

 

真田天は反応しなかった。

 

「最初から不可能な計画だったのよ。

やる意味なんてなかった」

 

真田天は反応しなかった。

 

「聞いてるの!? もうやめてよ!! こんな無駄なこと!!」

 

真田天は――。

 

 

「無駄なんかにしないよ……」

 

のぞかせた瞳には強い光が宿っていた。

 

「私が頑張れば、それで全部済むんなら……」

 

魔法棒を持っていた手が強く握りしめられる。

 

「私が何とかする」

 

少女の髪が、強い風に吹かれたようにたなびく。

 

「だって私は――」

 

少女は口を開き、その名前を咆哮した。

 

「真田天だから!!」

 

 

 

「アークは天!!!! 私も天!!!!」

(少女は天に向かって叫ぶ)

 

金色の魔法棒の根元から壊れた蛇口のように黄色があふれ出す。

 

方位磁石が自らの役割を忘れたようにぐるぐると高速回転する。

 

黄色の光が、闇夜を裂いて一筋の光になった。

 

「す、すごい……!!」

 

「さすがは魔法少女ね……!!」

 

 

 

違う。

 

違う。

 

 

違う違う違う違う。

 

 

 

こんなの魔法少女じゃない。

 

 

 

真田天

 

あなたはいったい

 

なんなのよ

 

 

 

「魔法少女ォ!!!!」

(背中に日輪が顕現する)

 

 

 

私は帽子を押さえた。

でなければ魔法力で生まれた「風」で飛ばされていっただろう。

 

真田天を中心に、まるでそこを中心に、

全てを吹き飛ばすような熱と光と風。

 

「下がってください!!」

 

「何言ってるんだ……天が頑張っているなら俺たちも……!!」

 

「天を産んだ時に比べれば何でもないんだから……!!」

 

 

 

「ガルガンチュアァァァァアアアア……!!!!」

(全ての魔法力を解放する)

 

 

 

私は黄色の光に包まれた。

 

そこで見えたもの。

 

私と、桃色の髪の少女と、黄色の髪の少女。

 

黄色の髪の少女は、雨の中で泣いていた。

 

桃色の髪の少女は寄り添うように傘をさしていた。

 

私はそんな二人の様子を見て、背を向けて歩き出した。

 

そうだ、これは、こんなことが――。

 

「真田天!!!! あなたやっぱり記憶!!!!」

 

 

 

「アァァァァク!!!!」

(光の帯から更に巨大な鎌を発生させる)

 

 

 

「真・アークネオファイナル……」

(私の想い……)

 

「スラァァァァッシュ!!!!」

(こころちゃんを救えー!!!!)

 

 

巨大な光の鎌の先端は、

ゆっくりと弧を描き、

黒い霧の中心部へと向かっていった。

 

 

 

 

 

研究所。

 

「あなた……一体何をしようとしているの!?」

 

桃の少女が緑の少女に向かって叫ぶ。

緑の少女は黒い怪物の背中に自分の武器を突き立てようとしていた。

 

「魔法力を反魔法力にできるのなら、逆も然り」

 

緑の少女の武器から、緑色の太い触手が根のように張り巡らされる。

 

「フラワァァァァ!! エンプレ――」

 

少女が言い終わることはなかった。

 

途中で黄色の帯が天から降り、

怪物が頭上に黒いシールドを発生させた。

少女はその衝撃で振り落とされ、床に激突した。

 

「これは……!! なぜです」

 

緑の少女が涙声を絞り出した。

 

「なぜ私の目的を阻むのがあなたなのですか……天さん」

 

桃の少女はそれには目もくれず状況を確認した。

 

黄の魔法力を怪物は何とか防いでいるようだった。

あと一押しあれば――。

 

「真田さん……!!」

 

桃の少女はカプセルへと駆けて行った。

 

「もしもあの時のテレパシーが魔法力によるものだったなら!!」

 

桃の少女が武器を放り投げる。

その代わりに両手に力を込めて、咆哮した。

 

「魔法力!!!! 全開!!!!」

 

桃色の光が、カプセルを飲み込みあたり一面へと広がる。

それは上空の黄色の光と干渉した。

 

「お姉ちゃん!! 真田さんに声を聞かせてあげてー!!!!」

 

 

 

こころちゃん

 

……? 真田さん?

 

こころちゃんは大丈夫だから

 

よくわからないけどカプセルをぶち破って……

 

こころちゃんが戦わなくて済むように

 

あれ? このカプセル結構固いなあ……もう少し叩けば……

 

私がずっと、戦い続けるから!!!!

 

でも、いいかな――

 

 

光の鎌が、黒い盾を突き破り怪物へと突き刺さる。

 

 

黒い怪物の体から白い閃光がいくつも漏れだす。

やがて漏れ出た光はこの町を、この島を、この星を、この宇宙を包み込み――

 

全てをまっさらな状態に消し去った。

 

 

 

――私は絶対に償いきれない

  だって死ぬべきは私だから




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