魔法少女GL ~女の子たちの初手はいつだってルームシェア時空!!~ 作:MOPX
私が目を覚ますと、そこは自室の布団だった。
目を覚ましたのだから当然だろう、と自分でも不思議に思う。
カレンダーを見るが、日付がぱっとわからない。
どうやら寝ぼけているみたい。
お母さんの呼ぶ声が聞こえる。
私の大好きなお母さん。
お父さんも食卓で待っているはずだ。
そうだ、今日は休日。
私は急いで着替えを済ませて食卓に着いた。
お父さんと学校のことや魔法少女のことをたくさん話す。
食事が終わったら、片づけでお母さんのお手伝いをした。
何となく、そうしたかったから。
食事を終えると外に出る準備をする。
今日はパトロールの日だからちょっとだけ特別。
ヘルメットと魔法の棒(物干し竿みたいな見かけ)を忘れない。
そう、私は魔法少女。
名前は真田天。
外に出るとお父さんとお母さんが見送りに出てくれた。
休日のパトロールではいつもこうして外に出てくれる。
きっとこうして送り出してくれるのも、当たり前と思っちゃ駄目なんだよね。
私が魔法少女のお仕事をした日、晩御飯がいつも私の好物なのは偶然じゃないよね。
そう思って私はできる限りの笑顔で挨拶をするのだった。
「お父さん、お母さん、いつもありがとう」
急なことに驚く顔をする二人に私は続けるのであった。
「真田天、行ってきます!!」
商店街は騒然としていた。
いつもそこそこの人が集まり、
そこそこの賑わいを見せるこの一角ではあるが、
今日のそれは別種のものであった。
商店街の前には丸太ほどの太くて黒い線がとぐろを巻いていた。
少し離れたところで、
髪が緑がかった少女と、赤みがかった少女はそれを観察している。
「アレ型かな……これ、臭わなきゃいいけど。やだなあ……」
髪の赤みがかった少女が開口一番、文句をつけた。
「……」
「伊藤さん? どうしたの? 早くやっつけて帰ろうよ」
「真赤さん、あなたは運命や宿命と言ったものを信じますか?
それが自分にとって都合の良いものでも、悪いものでも」
「ええ……? 明らかに今、話すことじゃなくない……?」
「まあ、いいです。お互い話したくないこともあるでしょうしね」
「いや、僕は別に何もないのだけど……」
「遅刻遅刻ー!!」
「あ、ああ……この声は!! この声は……
いつだって忘れはしない!! 私の運命そのもの……!!」
(泣き崩れるように膝をつく)
「大げさすぎてどうしたのかと思ったよ」
「アークは天!! 私も天!!」
(上下にはっきりと伸ばした手を半円状に!!)
「魔法少女ォ!!」
(しっかりと空気を吸って~吐いて!!)
「ガルガンチュアアアアアァァァァ……」
(すごい巻き舌)
「アァァァァク!!」
(左手は横、右手は前に力強く!!)
とぐろが解けるようにその先端を向ける。
向かう先は、辺りを照らす黄色い光の中心だった。
「アークチェーン!!」
私は短く持った魔法棒、
その後端を素早く怪物へ向ける。
黒い怪物の体にはみるみる鎖が巻き付いていき、
その動きは封じられた。
「アークカッター!!」
私は黒い線状の怪物の急所、
前方の付け根を切り落とした。
切り離された前方部分は消滅したが、
後方部分はしぶとく、じたばたと動いていた。
そのために縛り付けておいたのだ。
「アークチェーン……スーパー!!」
魔法棒の後端から光が吹き出す。
鎖のひとつひとつがその大きさを増していき、
思い切り締め付けあげる。
黒い部分が、委縮するように、段階ごとに縮む。
最後には後方部も粉々に砕けて消滅していった。
「お見事……お見事です……はあ……はあ……
いきなり天さんの戦闘姿をみることができるなんて……!!」
「真田さんお疲れ様。伊藤さんはさっきからこんな感じ」
「花ちゃん!! 真赤ちゃん!!」
同じチームの伊藤花ちゃんと高橋真赤ちゃん。
研究所で合流の予定だったが、
途中でモンスターが現れたため、こうして現場へ直行した。
「……」
「伊藤さん、次どうするの?」
「……え? とりあえず天さんに水を渡して間接キッスを……」
「冗談だと受け取るね」
私はなぜだかそのやり取りが微笑ましくって、
二人をずっと見ていた。
なんだかこういうやり取りも久しぶりな気がする。
私は盛り上がっている二人とともに、
商店街の中へ入り、残った1体の怪物を探すのだった。
こうしている間にも怪物が急に暴れ出すかもしれない。
私たちが魔法力を噴出しモンスターをおびき出そうかと言っているその時だった。
小さな女の子が泣きながら走ってきたのだ。
女の子は私に抱きつくと、しばらくすすり泣いていたが、
私が髪の毛を魔法力をためてサイドテールを動かす一芸を披露すると喜んでくれた。
落ち着くと、お話を聞くことができた。
曰く、怪物に襲われ危ないところを別の女の子が
囮になってくれ――。
「行かなきゃ!!」
「天さん!?」
「真田さんどうしたの!?」
「ごめんね!! 花ちゃん真赤ちゃん!! 女の子をよろしく!!」
私は二人に手を挙げながら叫ぶと、全速力で走り出した。
早く助けに行かないと。
私が、やるんだ。
「天さん……!! これが運命だとでも言うのですか……?
真赤さん、女の子をよろしくお願いします。私は追うので……!!
待ってくださいまし!! 天さん!!」
「え、ちょっと君まで!?」
残された赤の少女は自分より小さい子に一芸をねだられ、
しょうがなく髪の毛を逆立てるのを披露するのだった。
女の子が襲われたという商店街の脇にある公園。
私の目に飛び込んできたのは、
さっきと同じタイプだが、はるかに巨大な怪物。
既に戦闘モードに入っていて
倒したやつの2倍くらいの高さは誇っていた。
そして、それに対峙している身構えていた少女がいた。
「こころちゃん!!」
女の子が、こちらの声に反応する。
私は素早く魔法棒を逆向きに構えると鎖を射出した。
「アークチェェェェン!!」
今度は最初から太い鎖。
怪物の体を一回りすると完全に動きを封じ込め――。
「うわ!!」
怪物がじたばたと鎖ごとこちらを揺さぶる。
私は魔法力を込め、何とか押さえつけた。
「大丈夫ですか!!」
「大丈夫……早く逃げて!!」
女の子からこちらへ声が飛んでくる。
私はできるだけ、余裕に見えるように女の子に声をかけたつもりだったが
逆に無理をしているように聞こえたらしい。
女の子は心配そうに眉を下げている。
ごめんね。
私がもっと強かったら。
こころちゃんは――。
怪物は標的を変えるつもりはなさそうだった。
まだ少女の方を向いている。
相手はこっちだ。
そう念じながら魔法力の出力を上げる。
怪物はなおも暴れこちらを揺さぶってくる。
魔法力の大半を相手を押さえつけるのに使っている。
この状態で攻撃するのは――。
「シャドーマシンガン!!」
どこからか紫色の弾丸が飛んでくる。
遠くからめちゃくちゃに撃たれた弾丸の一部が
怪物へと着弾する。
「こいつでとどめよ!! シャドーバズーカ!!」
先ほどよりも遥かに大きな弾が怪物へと突き進み――
それは怪物の横へと逸れていった。
「ああああ!! 外れた!!」
遠くから謎の叫び声が聞こえてくる。
でも大丈夫だ。
鎖を消滅させる。
素早く魔法棒を長く構える。
一撃必殺の大鎌モード。
紫の弾が着弾するとともに魔法力の爆風が起こる。
そして、たじろぐ怪物にの隙をついて飛び込んだ。
「アークトリプルスラッシュ!!」
体のひねりを利用した空中三回転。
蛇の姿をした怪物は不格好に四分割され、消えていった。
私はすぐさま態勢を立て直し、
先ほどまで怪物と対峙していた少女の方を確認した。
「すごい……!!」
「こころちゃん……!!」
なぜだろう。
私は涙を流していた。
そんなに褒められたのが嬉しかったのだろうか。
私は少女に近づくとそっと抱きついた。
たぶん、そんなことはするべきではなかった。
でも何故か、してしまった。
先ほどまで勇敢に構えていた少女は
気が抜けたのか、こちらに身を預けていた。
耳元でちょっと照れくさそうにささやくのが聞こえた。
「あはは……無茶して魔法少女の方にご迷惑を……」
「ううん、いいの。こころちゃんが無事だったら。
それが魔法少女のお仕事だから」
「あれ? 名乗りましたっけ。……初対面ですよね?」
「うん、初対面……だよ。こころちゃんと私は初対面」
「そうですよね。なんか不思議」
そう、不思議だ。
何があってもこうして出会えるのだから。
もしこれに名前を付けるのなら――。
「運命。それは果たして救いなのか呪いなのか」
花ちゃんの声が聞こえる。
どうやら私の後ろにいるらしい。
「あなたも魔法少女ですか?
今この方に助けてもらって――」
「私はあなたに……運命などに屈する気は毛頭ありません……!!」
「え、ええ!?」
花ちゃんとこころちゃんは何かをしゃべっていたが、
私の頭には入ってこなかった。
本当にこころちゃんが無事だったんならそれでいいんだ。
これでこの件は一件落着。
めでたしめでたし。
とは、ならなかった。
渇いた銃声が響き渡る。
鳥が驚いて何羽か飛んでいった。
私たち3人が音の方を向くと、
紫色のベレー帽をかぶった子が、銃を上空へ向けていた。
音はどうも魔法力によるものらしい。
ベレー帽の子はまだ物足りなかったらしく
マシンガンらしき武器を空中に乱射しだした。
「こいつは堕落した魔法少女たちの日常に終わりを告げるファンファーレよ!!
これから何が起こるのか……興味があるやつはついてきなさい!!」
私たち3人があっけに取られている間にその子は消えていった。
ならずものでしょうか、と花ちゃん。
魔法少女っていろんな人がいるんですね、とこころちゃん。
ファンファーレってどういう意味だっけ、と私は思った。
要するに誰もついていかなかった。
その後、私たちは真赤ちゃんと合流した。
真赤ちゃんは保護者を待っている間に
ほっぺをぷにぷにされてたりしたらしい。
その子も無事引き取られたようだった。
私は頭のどこかで4人でどこかに寄ろうという話にならないか期待したが、
そうはならなかった。
こころちゃんはお使いの途中だったらしく、買い物をして帰るとのことだった。
私は、心のどこかで寂しさを覚えつつもしょうがない気持ちもあった。
いいんだ。
どこかでこころちゃんが元気でいてくれたらそれで――。
「はい!! どうぞ!!」
なんて思ってたら私はこころちゃんからメモが書かれた紙を受け取った。
これは――。
「で、電話番号!? そんな……まだ準備が……」
慌てふためく私に真赤ちゃんが突っ込んだ。
「いや、何を想像してるの。後でお礼にってことでしょ。
魔法少女手帳の個人情報取り扱い規則に従えば問題ないんじゃないかな」
「……」
「伊藤さんもそれでいいよね」
「ええ……ここで妨害をするのは私のポリシーに反するので……グギギギィ!!……」
「獣の唸り声かと思ったら歯ぎしりの音だった。すごいや」
結局、代表ということで私が受け取った。
私はそれを大事に折りたたんで、自分の鞄に入れた。
こころちゃんは別れるとき、ずっと「またね~」と手を振っていた。
だから私も手を振ってそれに応えた。
ずっと、ずっと、こころちゃんの姿が見えなくなるまで。
それから今日のパトロールも終わりということで
花ちゃんとも真赤ちゃんともお別れした。
真赤ちゃんはいつも通り「さようなら」と短く、
花ちゃんも少し考えごとをしていたみたいだけど、
帰るころには何事もなさそうに手を振ってくれた。
何かありそうだったら、また明日に相談に乗ろう。
二人と別れて、少し早いけど後は家路につくだけ、
のはずだった。
後ろから何となく気配がした。
私は瞬時に振り向き、勢いよく魔法棒を構えた。
「ま、待った!! 怪しいものでは……ないわよ!! 魔法少女!!」
「あれ……あなたは……?」
私の目の前にいたのは先ほどのベレー帽の少女だった。
どうやら私の後をつけていたらしい。
「さっきはありがとう!! お礼を言いそびれちゃって……」
「ふ、ふふ!! そんなことはいいのよ!!
あなたも、なかなかやるじゃない魔法少女!!
爆風で援護した甲斐があったわ!!」
「え? 確か『外れた~!!』って……」
「そ、そんなことはいいでしょ!!」
確かにそんなことは些細なことかもしれない。
それよりもこうして、この子が話に来てくれたことが嬉しかった。
何となく、本当に何となくだけど仲良くなれそうな気がしたんだ。
「と、とにかく!!
これからお世話になるかもしれないからよろしく!!
その~……できればお名前を……」
「私? 真田天だよー。あなたは?」
「真田天、ね!! 私はこの世界の平和を陰ながら守るもの……
ミステリアスシャドーよ」
「ミステリアスシャドー……!!」
初めて聞く名前だ。
こうしたネーミングを聞くと自分の知らないところで
戦っている人がいるようでワクワクしてしまう。
「あの……もうちょっとお話を……!!」
「ふふ……そろそろ限界なの……
一人の時を狙ったけど結構、心臓バクバク言ってる。
しゃべる練習しなきゃ……。じゃ、またね!!」
「あっ!! またね!!」
文字通りあっという間に少女は走り去ってしまった。
私は秘密の友達ができたみたいで嬉しい気持ちになった。
さあ、家に帰ろう。
今日の晩御飯は確かハンバーグだ。
お肉なのだ。
……。
ふと気になった。
なぜ今日はハンバーグと思ったんだっけ。
朝、お父さんやお母さんと話したんだっけ?
いや、話さなかった気がする。
パトロールの日はいつもそうだから?
お肉料理が多いけど、いつもハンバーグではない。
そうだ。
別の誰かに教えてもらったんだ。
私を慰めてくれて、それでその時についでに――。
『言い忘れてたけど今日のご飯はハンバーグだって』
「ん? んん……?」
どこかで聞いたような声が頭で鳴り響く。
というよりついさっき聞いた気がする。
ついさっき話したのは、誰だったか。
「ああ~~~~!!!!」
火が付いた導火線が、ついに火薬に到達して爆発する感覚。
私の頭の中ではさっきの子のリアクション集が爆発していた。
「待ってー!! ちょっと待ってー!!」
私は猛然とさっきの少女が消えた方へ駆け出した。
彼女はミステリアスシャドーなどでは……ない!!
曲がり角を直感で進む。
迷えばそのまま見失うだけだ。
遠くに紫が見える。
私はその一点に向かい突き進んだ。