魔法少女GL ~女の子たちの初手はいつだってルームシェア時空!!~ 作:MOPX
「いやあ、でも私にしてはなかなかよくしゃべれたわよね。
次に会ったら魔法少女名を聞きだそっと」
「待ってええええ!! 影ちゃああああん!!」
「ひいい!? 穏便に別れたはずの魔法少女がすごい形相で追ってくる!?
名前バレてるし!! なんでええええ!!」
「逃げないでええええ!!」
追いかけっこが始まろうかという時に、
私の頭が働いてくれた。
私がハンバーグで思い出せたんなら、この子もきっとそうだ!!
「ハンバーグだよ!! 影ちゃん!!」
「何言ってるの!? 家に連れ込む気!?」
「そうだよ!! 家でいっしょに!! お母さんと準備してくれた!!」
「はああ!? あなたね……私のお母さんは……!!」
「私のお母さん!! お母さんも魔法少女の友達ができたんだねって喜んでて、それで……」
「へ、友達? 友達か~、ふひひ。……もう一回言って?」
「え? そこ……? 友達」
「いやあ照れるわね。そりゃあこんなかわいらしいお友達ができれば、お母様もさぞ喜びに……。
ん、んんん?」
「影ちゃん……?」
「おほおおおお!?!? そ、そうよ!! 私かわいらしいお友達って言われたわ!!
じゃ、じゃあ……あなたは!!」
「影ちゃん!!」
「真田天!!」
私たちは周りに通行人がいないことを確認し、
周囲の邪魔にならない程度に両手を繋いで回り出した。
その様子、遊園地のコーヒーカップのごとし。
「影ちゃ~ん!! 元気にしてた~!!」
「してたわ~!! 光さんも元気~?」
「うん元気~!! 今回もタイムマシン~?」
「図を書こうかと思ったけどもう面倒だからそれでいいわね!! ははは!!」
「あはははは……ふうう……」
「はは……ぜえ……ぜえ……」
私たちは回りすぎて気持ち悪くなってきた。
「やめよっか」
「……そうね」
傍にあったベンチに腰掛けると改めて話しをする。
真っ先に確認したのは、この世界がどうなったのかということだった。
「結局、あの後どうなったのかな……?」
私たちがこうして無事でいるということは、
目的は果たして平和になった、ということなんだろうか。
「……残念だけどね、真田天。今回も私、夢を見たの。
あの男がこの世界を、またも陥れる夢よ……!!」
「ええ!? また!? ……じゃあやり直しってことなのかな?」
「そんな顔しないでよ。あの男の企みなんて何度でもぶっ潰してやるわ……!!
今回はこうして私たちの記憶がすぐ戻ったから更に早く対処できるはずよ!!」
少し不安になった私に、影ちゃんの勇猛な声が励ましてくれた。
けれど、気がかりなこともある。
「……影ちゃんのお父さんも、助かるといいね」
「……何言ってるのよ。あの男はきっと自分からああなったのよ!!
自分をモンスターに改造して世界を征服するつもりだったんだわ!!」
「で、でも!! モンスターに操られちゃったのかも……!!」
「……。やめましょう。どちらにしろあの男が原因なのは間違いない。
今回は万全の準備をしましょう」
影ちゃんは少し考える素振りを見せたけど、
厳しい表情に戻ってしまった。
気を取り直して、といわんばかりに咳払いをした。
「さあ、真田天!! まずは仲間を集めましょう!!
今回は時間があるから頭数を増やすのよ!!」
「ラジャー!!」
私はびしっと敬礼を決めた。
前回は後手後手に回っていた感がある。
早めに行動を起こせればみんな助かるはずだ。
この町の人、影ちゃんのお父さん、私のお父さん、お母さん、
真赤ちゃん、花ちゃん、ゆめちゃん、そして――
「……こころちゃん」
私が漏らしてしまった一言を影ちゃんは聞き逃していなかった。
「え? ……そうよ!! 田中こころ!!
なんかすごい魔法力を持っていた気がするわ!!」
「え? え? こころちゃんは魔法少女じゃ……」
「さあ真田天!! まずは田中こころを探してスカウトするわよ!!
まだ門限はいいわよね!!」
「ちょ、ちょっと影ちゃ~ん……」
どこへともなく走り出す影ちゃんを私は追いかけていった。
鞄の中にはメモがあることを私は忘れてはいなかったが、
どうするべきかもわからなかった。
息を切らしてスピードダウンした影ちゃんに追いつく。
私は半分、上の空でいっしょに歩き回っていた。
頭の中には今日、会ったばかりのこころちゃんの笑顔があった。
またすぐに会えたら驚くかな。
こうして何度も会えるのは偶然じゃないのかな。
昔から、何度も何度も、いっしょに遊んで――。
「あ……」
私は気づいたら見覚えのある家の前に立っていた。
表札には筆書きで「田中」と書いてある。
「ちょっと真田天。ここが田中こころの家なの?
知ってたの?」
「近くだから……家」
いつの間にか、私の家の方へ引き返していたのだ。
それで途中で足が止まった。
「あ、確かに。でも同じ名字の可能性はないのかしら……」
「あの~」
「!!」
ハスキーで、興味津々で、どこか楽しそうな声。
振り向いたら、そこにはにこにこと満面の笑みのこころちゃん。
手にはレジ袋を持っている。
とっさのことで私がわたわたとしていると
こころちゃんの方から話しかけてくれた。
「やっぱり真田さんだ!!
何だかすぐ会えちゃいましたね、あはは!!
家、近くなんですか?」
私は目をそらして下を向いてしまった。
傍から見てたら頷いてるのか、俯いてるのかと取られると思う。
それでもこころちゃんは不思議そうな顔で
こっちをじっと見てくるからお見通しなのかもしれない。
「そっちの子は……マシンガン撃ってた子!!」
「よ、よく覚えてたわね」と、影ちゃんはめちゃくちゃ小声でささやいた。
こころちゃんと話すのは初めて(?)だからだろう。
こころちゃんはそんな様子をおかしそうに笑うのだった。
「二人とも戦っていた時はあんなにかっこよかったのに」
「えへへ、そうだったかな……。くすっ」
確かにモンスターを倒した時との差がすごい。
モンスターを倒した私と影ちゃんはへなへな。
対して助けられたはずのこころちゃんの威勢の良さ。
私は何だかおかしくなって、釣られて笑ってしまった。
影ちゃんも笑う場面だと思ったのか、
ぎこちなく歯茎を見せていた。
そんな私たちに、こころちゃんから提案をするのだった。
「あの~良かったら中に入りません? お礼もしたいですし」
田中家の一室で私と影ちゃんは
正座で、正面を凝視していた。
こころちゃんは飲み物とお菓子を取ってくると言って
足早に去ってしまった。
正座のまま影ちゃんは顔だけこちらに向けた。
「真田天、どうすればいいの、この状況」
緊張しているのか微妙に片言な日本語に私は答えた。
「とりあえず、いいんじゃないかな、待ってれば」
そう言う私も負けず劣らず、
映画で見たロボットのような発声になっていた。
「私は、無理だから、知らない人の家、頼んだわよ、真田天」
「わかった」
作戦タイムが終わると「お待たせ~!!」とこころちゃんが入ってきた。
手にはクッキーとコップが3つ乗ったお盆。
食べて食べてとそれを私たちの前に置いた。
「飲み物、オレンジジュースでよかったかな?」
「うん、オレンジ好き……いただきます」
「あはは。私もいただきます!!」
私は手を合わせてから、オレンジジュースをいただいた。
影ちゃんも落ち着かない様子だったが、私と同じようにコップに口をつけた。
「クッキー、私が焼いたんですよ!! よかったらどうぞ!!」
「そうなんだ……!! こころちゃ……田中さんはお料理が好きなんですか……?」
「うん!! 昔、誰かが私の作ったお菓子を……って聞いてないですね。
料理、好きですよ~」
「うん……クッキーおいしい……もしゃもしゃ……」
「ちょっと真田天」と私の耳元で影ちゃんがささやいた。
「こういう交流もいいんだけど魔法少女のことを話しましょう。
この子、すごい力があったはずでしょ……!!」
「えっ? 魔法少女!?」
「ひう!!」
こころちゃんの興味の先が唐突に影ちゃんに移った。
話しかけられた影ちゃんは蛇に睨まれた蛙というやつになっていた。
「え~あの~。あなた、田中こころさんには見たところ、
とてもとても、素晴らしい素質が、あ~」
目が泳いでいる影ちゃんと対照的に、
私の胸の鼓動は早くなっていた。
悪いのは影ちゃんじゃないんだ。
でももしここで、こころちゃんが魔法少女をやると決めたら――
一体、こころちゃんはどうなってしまうんだろう。
こころちゃんはうーん、と唸りながら影ちゃんの言葉を聞いていたが、
やがて、口を開いた。
「考えたことはあるんですよね。でも私、この通りで」
少し照れくさそうに、テストで悪い点を取った子のように、
こころちゃんは自分の頭をかいた。
揺れた髪の毛は、綺麗な黒色、
髪の先から根元まで、同じ地毛の色だった。
「で、でも!! 詳しくは言えないけどあなたにはすごい魔法力が眠っていて……!!」
「影ちゃん」
私は思わず口をはさんでしまった。
何を言うつもりなのか、自分でもわからなかった。
「こころちゃんは、魔法少女じゃないよ」
独り言のように出てきたその言葉は、
諭すようにも、悟っているかのようにも聞こえた。
その後は凪のように静かな会話が流れていった。
私と影ちゃんはお礼の言葉をかけられて、
そろそろ時間だからと外に出て、
見送りをされて、
それでとぼとぼと歩き出した。
お別れの時、また会えたらいいねって言われて嬉しかったけど、
私はぎこちなく笑みを浮かべることしかできなかった。
少しの間二人で黙って歩いていたけど、
影ちゃんが唐突に口を開いた。
「真田天」
「ご、ごめんね影ちゃん!! 私が勝手に……」
「いいわよ。誰にだって人に言いたくないこと、あるもの」
「影ちゃん……」
「さ!! 気を取り直して作戦を練り直すわよ!! まずは前回に起こったことのまとめを……」
その時、不意にこちらを呼び止める声がした。
私たちがびっくりして振り向くと、そこには見覚えのある子が立っていた。
ウェーブがかかったような綺麗な黒髪、この子は――。
「ゆめちゃん!! 無事だったんだね!! こんにちは!!」
「久しぶり……いえ、時間としてはすぐなのかもしれませんね。
ご無事で何よりです、真田さん」
私とゆめちゃんは軽く会釈をした。
影ちゃんもワンテンポ遅れて頭を下げたようだった。
「あなた、前の時に何をしてたの?」
「それはこっちの台詞です!!
結構待ってたのに来なくて研究所に乗り込んでましたよ!!」
影ちゃんが「う……」と口ごもった。
それに関してはむしろ私の方に責任がある。
「その……お父さんとお母さんを心配させたくなくて……それで……」
「家から攻撃したわけですね? まあそれはいいです結果オーライなので。
それよりも私が言いたいのはこれからのことです」
これから、という単語に影ちゃんが勢いよく反応した。
「そ、そうよ!! あなたも我が軍門に下りなさい!!
見たところまだ魔法力に覚醒してないようだけど……」
「お断りします」
「へ? ど、どうして!? 前はなんやかんや協力したじゃない!!」
「私にとって大事なのはお姉ちゃんです。
だからそばにいて守るって決めました。今度こそ……絶対に……」
言葉を放つゆめちゃんの目は凛然と輝いていた。
そのまま、瞳を私の方へ向けて、言った。
「お姉ちゃんを危険な目にあわせたら、
あなたでも許さないですから、真田さん」
「……うん。大丈夫だよ。
私もこころちゃんが平和に暮らせたら、それでいいから」
ゆめちゃんは静かに頷くと、
そのまま背を向けた。
私と影ちゃんはその様子をいつまでも、
呆然と眺めているのだった。
その後、田中家。
「ただいま」
「あっ、ゆめ。お帰り~。散歩どうだった?」
「まあまあ」
「あ、今日さ~実はモンスターに出くわしてさ~」
「軽いノリで言わないで」
「それで魔法少女の方に助けてもらったんだ~。いや~すごいよねえ。
実はさっきまで家にいたんだけど!!」
「……そっか。それで真田さんが」
「ゆめ? どしたの?」
「何でもない!!
お姉ちゃんは何も気にせずスイーツの本場で三ツ星パティシエでも目指してればいいの!!」
「三ツ星だなんて、ふふふ……。よ~し、お姉ちゃんケーキ作っちゃうぞ~」
「もう……単純なんだから……」
続