魔法少女GL ~女の子たちの初手はいつだってルームシェア時空!!~ 作:MOPX
私は真赤ちゃんに話を始めた。
なるべくは順を追って話そうと心掛けたが、
どの順番だとそう言えるのかはわからなかった。
前の時も真赤ちゃんが異動願いを出していたこと、
それを私が手伝っていたこと、
真赤ちゃんの異動記念パーティーで博士の様子がおかしかったこと、
私がモンスターを倒しに行き、そこで影ちゃんに出くわしたこと、
その時も時間が巻き戻っていたらしいこと、
研究所が反魔法力をまき散らしていたこと、
博士のこと、
私がそれを家から攻撃したこと、
気づいたらこうして時間が戻っていたこと。
一気に説明したから10分もかかっていなかったと思う。
でも、私の体にはぐっしょりと汗がにじんでいた。
真赤ちゃんは静かに、最低限の相槌を打ちながら
私の話を聞いていた。
その表情から私の話をどう受け止めているのか読み取るのは難しい。
お話の締め方がわからなかったので以上です! と言って打ち切った。
真赤ちゃんはまずは「お疲れ様」と短く言うと黙ってしまった。
内容について考え込んでいるのかもしれない。
あるいは、私が傷つかない表現を探してくれているのかもしれない。
真赤ちゃんが口を開いた。
「つまりこの世界は時間が巻き戻ってて、
真田さんと村田さんって子はその記憶が残っている、と」
「そう!! そんな感じ!!」
私はひとまず話が伝わっているようで安心した。
が、真赤ちゃんは難しそうな顔を作っていた。
「まず、先に言っておきたいんだけど、
僕は真田さんが軽い気持ちで冗談や嘘を言う子じゃないと思ってる」
「じゃ、じゃあ……」
「でも同時に、こんな話をいちいち真に受けていたら
人生無理だろって思うよ、僕は」
私のお腹が、特に胃のあたりがきゅっと引き締まるのを感じる。
何か言わなきゃいけなかったけど、私は何も言えなかった。
「そんな顔しないでよ……。全部が全部信じてないわけじゃないよ。
どこだったか忘れたけど予知夢の例はあるらしいからね」
「やっぱり……チームを移っちゃうの?」
「まあね。君の話が本当だったとして、
博士が僕のパーティーで事を起こす理由はないように思う。
別の用件で人を集めるだけじゃないかな、たぶん」
なるほど、と私は感心してしまった。
信じてないとはしつつ、
真面目に考えてくれているのが嬉しかった。
「まあ頭にはちゃんと入れておくよ。特に博士には注意する」
「うん……ありがとう」
「感謝されてもって感じだけど」
私は結局、それで良しと思った。
少しでも真赤ちゃんの危険が減れば、今はとりあえずそれで。
真赤ちゃんが警戒してくれれば、周りの子の危険も減るだろう。
私はこの会話で生じた疑問を投げかけてみた。
それは今後のためでもあった。
「真赤ちゃんはどうだったら私の話を本当だって信じてくれた……?
やっぱり図を描いた方が良かったかなあ」
私は黒板の方を見ながら言った。
チョークの色も各種そろっているし、
やたらカラフルな図が描けそうな気がする。
「説明よりも根拠かなあ。
君と村田さんって子の記憶だけだから」
「……人の心は覗けないから。うん、そうだね」
「ん、まあそういうこと。
話を聞く限り魔法少女ってことくらいしか共通点がなさそうだし、
それなら全世界で記憶を持っている人がいそう」
またも私は真赤ちゃんの話に感心した。
その点については私と影ちゃんも考えていなかった。
「真赤ちゃん、気を付けてね……本当に安全第一だよ……!!」
「普段からヘルメットを忘れない子に言われると説得力が違うね。
……僕は君の方が心配だけど」
「え?」
思ってもみなかった一言に私はたじろいでしまった。
モンスターとの戦闘のこと、だろうか。
「言ったでしょ。今の話、君と村田さんって子が言ってるだけだって。
その子が適当なことを言って、君はそう思わされてる……
正直、それが一番心配だよ」
私の胸がみしみしと痛んでいく。
真赤ちゃんは私のことを心配してくれているんだ。
でも、この場にいない影ちゃんのことをとやかく言うのもよくないと思った。
それでも私は声をあげていた。
「影ちゃんは、友達だから……。私は信じてるんだ」
「そっか。まあでも何かあったら言ってよ。相談くらいには乗る」
「……うん」
「だからそんな顔しないでって。真田さん、素直すぎるからさ。
ちょっと心配になっただけ」
「うん……今日はありがとうね。
真赤先生……勉強になりました!!」
私がびしっと敬礼を決めると、真赤ちゃんはやっと笑ってくれた。
私たちが外に出るとDチームの四人は鞄を置いてドッジボールをしていた。
考えが足りない私でも真赤ちゃんを待っていたのだとすぐわかった。
真赤ちゃんは輪の中に戻っていった。
私は手を振って、お別れして、
歩く速さを減速して、その後姿が離れていくのを見ていた。
その時、私の頭の中にあった感情はわからない。
私の知らないはずのものだ。
別れはどうしてこんなにもつらいのだろう。
だから私は、せめて私がそばにいて、少しでも力になれればって――
ちょっとだけでもいいから、前を向いてほしくて。
自分を呼ぶ声にも気づかずに、祈りに似たその感情を思い出した。
私が真田天を呼んでも返事はなかった。
明らかに上の空といった様子で反応がない。
真田天!! と語気を強めるも効果がなくて、面白くないので
ほっぺたをつついたらやっとこっちを向いた。
全く、これから二人三脚でやっていくのに先が思いやられる。
「あ……影ちゃん……」と微妙に間が抜けた声がする。
「お疲れ様。なにしょぼくれてんのよ」
軽い反発を期待して投げた言葉だったが、
真田天はぎこちなく笑みを浮かべるだけだった。
そういえばこういう子だった。
「人にわかってもらうのって難しいなあって」
「ふうん。私のことをもっとボロクソに言った方が
引き込めたんじゃないの、高橋真赤」
「え……? 影ちゃん!? 聞いてたの!?」
言い出す必要なんてなかったんだけど。
この子の落ち込んだ表情を見ていたらつい言ってしまった。
「ビットちゃんで……?」
「あれは魔法力のソナーだから細かい音は拾えないわ。他のこともできるけど。
廊下で聞き耳を立ててたのよ。……視線がつらかったけど」
結局、真田天がうまく説明、もとい勧誘できているか気になった
私は廊下をうろうろしていた。
真田天と高橋真赤は廊下側の席で話をしていたから
そのまま聞いてしまった。
「その……影ちゃん」
「いやーごめんなさいね。私もあなたがどうしゃべるかハラハラしてさあ……。
でもそんなに悪くなかったんじゃない?
高橋真赤の言っていることももっともだし、明日からまた頑張りましょう!!」
私は努めて明るい声を出した。
真田天がどう説明しているか気になったかは本当だが、
きっと理由の全部ではなかった。
私は自分がどう言われているか怖かったんだ。
高橋真赤が私のことを疑った時、
本気で恐怖を感じた。
もしも、本当に全部が私の妄想に過ぎなかったら。
もしも、何も起きない世界で私が喚いているだけだったら。
もしも、真田天が私から離れてしまったら。
逃げ出してしまいたかった。
でも、次に続いた言葉を聞くことができたから。
「真田天」
「なに?」
「信じてくれて……ありがとうね」
この世界がどんなものであっても。
お互いを信じていれば、独りじゃない。
自分もこの子のことを信じてあげたい、そう思った。
私と真田天は、その日初めていっしょに帰った。
途中までだったけど。
空は曇りだった。
「万物を包み込む優しき影、だね」
突然そんなことを言うものだから私は笑ってしまった。
「なによ~。笑いものにしてるの?」
「違うよ。良い言葉だなって。あれ自分で考えたの? すごいね!!」
私は少し悩んだが、言うことにした。
「お母さんが言ってたのよ。私の名前、そういう意味だって」
「影ちゃんのお母さんって……その!! ごめん!!
話したくなかったら……」
「いいのよ。私が話したくなったから。
お母さん、もう死んじゃったの。
もともと体が弱くて、私が物心ついた時から入院してたわ」
真田天は何も言わずにこちらを見ていた。
「でも別に悲しくはなかったのよ?
お母さん、いつも笑顔で私の話を聞いてくれた。
このベレー帽もね、お母さんからもらったの」
私の口からは次々と言葉があふれてきた。
本当は誰かに話したかったのかもしれない。
「……私が許せないのはあの男よ。
お母さんが亡くなった時、あの男は海外でのうのうと研究をしてたのよ……!!
信じれる!? お母さんはずっと待ってたのよ……ずっと……独りで……」
私の体を柔らかい感触が包んだ。
体は真田天に抱きしめられていた。
人の体ってこんなに暖かいものだったんだ。
零れ落ちた雫は、私の頬をつたって
いま、こうして抱きしめてくれている子の
肩に落ちていった。
お互いにしばらくそうしていると、
たぶんやめ時がわからなくて、
なんだか照れくさくて、
お互いの匂いが――。
「真田天、結構汗かいてるわね……」
さすがに、臭うというのは禁句だと思った。
「……そう? 真赤ちゃんとお話する時、頑張ったからかな」
今日はお互いに家に帰って、
案を練りつつ休もうということになった。
どのみち伊藤花は体調が悪いようで今日は話せない。
私と真田天は、分かれ道で別れた。
しばらく歩いて、ふと寂しくなって振り返ったら、
目が合ってしまった。
それがおかしかったのか、真田天は笑顔で思いっきり手を振っていた。
私も負けないように思いっきり手を振った。
誰もが、いつかは別れてしまうけど、
心はいつも繋がっていれば、なんてね。
続