魔法少女GL ~女の子たちの初手はいつだってルームシェア時空!!~ 作:MOPX
死ぬのが、怖かった。
それをはっきり意識したのがいつだったかは思い出せない。
夜、電気を消してベッドで横になった後、しきりに恐怖に襲われるようになったのだ。
もしこのまま目が覚めなかったらどうしよう。
例えば急に災害が起こって、私がそれに巻き込まれて死んだら
私は死んだことにすら気づかないんだろうか。
死んだらどうなるんだろう。
夜、寝ている時は何も考えれない。
そんな状態が永遠に続くんだろうか。
嫌だ。
涙が流れてきた。
私は自分が好きだ。
それはすなわち自分が考えていることそのもので
私の思考だ。
これがなくなってしまったら私は私じゃなくなる。
どんなにくだらなくても、ちっぽけでもこれが私の世界を形作るもので
私の全てだ。
私は神様を信じない。
だから自分自身に祈る。
どうか私の体が滅んでも――
私の思考だけは、永遠に残りますように。
私は目を覚ますと汗でびっしょりになっていた。
特に趣味でもないカーテンの柄、
その間からもう起きろと言わんばかりに朝の陽ざしが差し込んでいる。
伊藤花、小学6年生。
今日も目覚めは最悪だった。
朝、一日で最も憂鬱な時間。
私はさっさと着替えると、
ぬいぐるみやファンシーなインテリアでいっぱいな自分の部屋を後にした。
まるで絵本から飛び出してきたようなピンクや花柄の極彩色のそれは――
いつ見ても自分の部屋とは思えない趣味の悪さだった。
既に電気が点いている居間に入る。
棚に置いてあるパンから、適当に今日の朝食を選ぶ。
特に味わって食べるとか、そういう習慣もないので
さっさと嚙んで、砕いて、飲み込んで、それでおしまい。
だいたい、この作業が終わったあたりでその人はやってくる。
ああ、憂鬱だ。
私はその人に連れられて化粧台の前に座る。
耳障りな、甲高い、猫撫で声で今日も言うのだ。
「今日はどのお花にしようか」
知るか、どうでもいい。
どうせ私の声なんて聞いていないのだろう。
好きなように選んで、好きなように飾り付けてくれ。
私はこの茶番地味た、愚かで、この世で最も無駄な時間が
一秒でも早く終わることを望むだけだ。
私の頭に、ひとつずつ花が飾り付けられていく。
数に比例して私の吐き気も増していくが、
何とかこらえていく。
終わった時、鏡には頭に大量の花をつけた少女、
いつもの私がいた。
今日はアネモネ、ゼラニウム、クロユリというチョイスだった。
もっともこの女は、花の名前すら覚えていないかもしれないが。
私の方は何物かもわからぬ物体を付けて出歩くのは嫌だったから必死に覚えた。
満足気に笑みを浮かべる女に、私も安心をした。
今日はすんなりと終わってくれた。
そういえばと、学校をどうするか聞いてきた。
私は今日も気分が悪いことにして休むことにした。
(今この瞬間、気分が悪いのは紛れもなく本当だったが)
普通は1週間も学校を休むともっと大事になりそうだが、
幸か不幸かこの女は私の学業に興味がないようだった。
女が自分の部屋へと戻っていき、私は改めて鏡をみた。
名前になぞらえたと言わんばかりの大量の花。
頭につけているのである意味で普段は視界に入らなくて済んでいるのだが、
こうして目にするとやはりげんなりとした。
昔、こんなものは付けたくないと勇気を出して言ったことがあった。
結果はヒステリックで耳障りな叫び声が返ってきただけだった。
それ以降は私は黙ってこの時間をやり過ごしている。
更に不愉快なのは私の魔法力はこの花をつけている状態の方が高いということだった。
魔法力は認識の力、と博士の著書にも書いてあった。
誠に遺憾ながら、これを付けた状態こそが「伊藤花」であると自分でも認めているのだ。
ただ、この花をもぎ取った瞬間こそ、魔法力が最も高くなるのは
私にとって救いだった。
さあ、やっと自由な時間だ。
自由、すなわちそれ幸福。
今日は博士の著書を読み漁ろう。
ここ数日甦ってくる断片的な記憶。
それを解き明かす切っ掛けがあるかもしれない。
今日、手に付けたのは「誰でもわかるガルガンチュア理論」からだった。
前書きによると、もともとタイトルは「子供でもわかる」という文言が
使われる予定だったが博士の意向により「誰でも」という表現になったらしい。
とても素晴らしい発想だ。
大人になっても稚拙な考えしか持たない者も腐るほどいるだろう。
それでも大人と子供を並べると、その関係の無意識の強弱は変わることはない。
労力でどうにかできないものは、基本的に嫌いだ。
肝心の本の内容だが、主には魔法少女が戦闘する際のノウハウや
特性の分類わけが為されていた。
このあたりに関しては今更なので読み飛ばす。
私が手を止めたのは身体強化に書かれた項目。
『魔法力は基本的に外気に出てからは物質には作用しないが、
体内に有している段階では体細胞等に影響を与えており――』
じっくりとなめるように読み込む。
髪色が変わるのも詰まるところ魔法力が最も多いのが頭部だから、らしい。
だとすれば人間の脳にも与える影響が大きいのだろうか。
例えば、夢だとか。
博士がもともと細胞の研究をしていたらしいので、
その筋にも精通しているのかもしれない。
私は期待とともに文字を読み進めた。
しかし目立った成果はなかった。
内容をまとめると今後の医療とかにも役立つかもね!としか書かれておらず
具体性に欠けていた。
本に栞を挟んで寝っころがる。
見たいのはそんな日和った内容ではないのだ。
例えば永遠の命を手に入れるにはどうすればいいかとか。
魔法力で寿命を延ばすことができるなら願ったりだ。
それなら永遠と言わずとも、他の人間よりかは長く生きれるだろう。
私は当初の目的を思い出して魔法力と脳に関する本を漁った。
しかし既に読んでしまった本も多く、行き詰っているといえた。
そうこうしているうちに昼が過ぎ、普通に学校通っていたら下校している時刻となった。
今日もあまり成果はなかったが、まあ退屈な学校生活を送るよりかはマシだろう。
クラスメイトの持ってきたプリントが積まれた状態になっているが
気にしないことにした。
ふうっとため息を吐く。
一体いつになったらあの夢の意味がわかるのだろう。
そう、私に救いを与えにきた天使が舞い降りたのだ。
荒れ果てた、茫々とした、町は廃墟と化し、地は割れ地獄のような世界に現前したのだ。
あの姿はまさしく――。
その時、居間に置いてある電話がけたたましく鳴った。
頭がむず痒くなってきた気がした。
虫の知らせ、ならぬ花の知らせ。
この予感に従うのも癪だったが、
私はなりふり構わず電話の受話器を取っていた。
「もしもし、伊藤さんのお宅でしょうか?」
まるで、名水のせせらぎ。
昇りゆく朝日。
天からのお告げ。
感じる。
この日の憂鬱な気持ちが全て晴れ、
一日の活力がチャージされていくのを……!!
「まあ、天さん。こんにちは……!!」
努めて、平常時の声を出す。
嬉しい声色は、それでも残っていた。
「あ。花ちゃん!! 今週ずっと学校お休みって聞いたんだけど……
体調、大丈夫?」
私の脳内にいくつかの選択肢が浮かぶ。
『たった今、大丈夫になりました(はあとマーク)』
がっつきすぎだろうか。
しかし天さんの声にヒーリング効果があるのもまた事実。
学会は彼女の声を周波数で解析すべきだろう。
まあもともと元気なのだが。
『実はまだ……グッ……ゴホゴホ!!』
同情を誘う作戦だ。
だが、清廉潔白な私はこんな手段は取りません。
何より大事な天さんを悲しませることになるのですから。
私が体調を崩したままとなれば、天さんはおんおん泣くでしょう。
頭に浮かんだのも不思議なくらいです。
『一週間休んだのでもう大丈夫です』
無難。
面白みがない。
日和りすぎだろう。
しかし、まだ勝負どころではない。
ここでは溜めを作り、本当の決戦の時に仕掛けるという考えも――。
「……花ちゃん? どうしたの?」
「あ!? いえいえ!! 一週間休んだのでたった今大丈夫になりましたのよ!! ゴホゴホ!!」
「え!?」
やってしまった。
全部乗せ欲張りセット。
血の気が引いていくのがわかる。
しかし天さんは――。
「よくわからないけど元気になったんだね!! 声も元気そう!!」
嗚呼。
この優しさが私を駄目にさせるのです。
ちゃんと声色で推し量ったあたり、私と天さんの絆の勝利でしょう。
天さんはこちらの体調を確認すると、
実は、と切り出しました。
クラスが違うので学校のことではない。
普通に考えたら魔法少女の活動に関してでしょう。
もちろん、おデートの線も捨ててはいないです。
いや、しかし私は天さんのお気持ちを第一に考えているので――。
「もしよかったら」
続く言葉に私は耳を傾けた。
「明日会えないかな?」
「ほああああ!!!!」
どんがらがっしゃん、と擬音が聞こえそうな勢いで私は倒れた。
「は、花ちゃん!?」
「い、いえ!? 何でもない!! 何でもないのです!!
少し床がめり込む勢いで倒れただけです!!」
「大丈夫なの……?」
「ええ!! それはもう!! 待ち合わせは!?
いつ!? どこで!? 地球が何回まわった時!?」
「ええっと……学校近くの公園で2時……どうかな?
まわった回数は……わかんない、えへへ」
「わかりましたわ!! 午前2時ではないですわよね!?
卸売市場ではありませんものね!! おほほ!!
しっかり準備をして待っております!! では!!」
「あ……!! 私だけじゃなくて……」
私は勢いで電話を切ってしまった。
これ以上、会話が長引いて約束が反故になるリスクを考慮してのものだった。
天さんと待ちに待ったおデート。
これで胸が高鳴らずにいられるでしょうか、いや、それはない。
私は意気揚々と部屋に戻ると小難しい本を放り投げて
天さんとの逢引の計画を練り出した。
最後に他にも誰か来るようなことを言ってた気がするが、
気のせいだろう。