魔法少女GL ~女の子たちの初手はいつだってルームシェア時空!!~   作:MOPX

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第3話 実録!!!! 魔法少女のナイショのイチニチ!!!!(後)

私の前にはまた、荒涼とした大地が広がっていた。

私は独りで、じっと、動くこともできずにそこにいた。

眼前に輝くは黄色い光。

 

その中から純真無垢な少女が姿を現すのだ。

 

私は涙を流し出す。

 

ああよかった。

これで救われるのだ。

これで――。

 

そう思った時に私は目を覚ました。

今日は大当たりの夢だ。

いつもよりかは清々しい気分で、朝のルーチンに入るのであった。

 

お昼を早めに食べるとすぐに、私は決戦の地(公園)へと向かった。

予定通り、12時より前には着いていた。

 

何も時間を間違えたわけではない。

1秒でも長く天さんといれる時間を作りたかったのがひとつ。

『うふふ、今来たところですの』と言ってみたかったのがひとつ。

天さんが時間を間違えて素で来ているのではないかと思ったのがひとつだった。

 

そそっかしいところもありますからね、彼女。

そんなところもかわいいのですが……。

 

とりあえず辺りを見渡したが、それらしき人はいなかった。

ちょっぴり残念な気持ちに駆られつつ鞄から本を取り出す。

 

待ち時間が長くなるのは想定していたので博士の本を持ってきた。

私はベンチに腰掛けると本を読みだした。

さしもの博士も恋と魔法力の相関については研究していないだろう。

 

しかし、いいのです。

なぜなら私と天さんは運命を超えたドス赤い糸で繋がれているので。

この待ち時間も今日という日を彩る良いスパイスになるに違いありません。

 

そう、運命なぞ私には必要ない。

 

そんなことを考えながら本を読み進めていた私ですが、ある変化に気づきました。

公園の向かい側のベンチに人が座っている。

それ自体は珍しいことではないのですが、こちらをちらちらと見ている気がするのです。

そしてこちらが見返すと明らかに目をそらすのです。

 

これは怪しい。

 

ベレー帽をかぶったその少女は基本的には私と同じように本を読んでいるようだった。

自分のものと違って小さな文庫本だが。

待ち合わせだろうか。

 

別に張り合うわけではないのですが、天さん以上に胸が高鳴る待ち人などいないでしょう。

私が時間を確認するともう1時半。

刻一刻と近づくその時に私の緊張も高まっていくのがわかります。

 

そもそもベレー帽の少女に見覚えがあった気もしたのですが、

まあ気のせいでしょう。

 

 

 

「ごめん!! 待ったー!?」

 

走り込みながら大声で言う少女を私の目がとらえる。

私は本を鞄へ放り込むとすぐさま立ち上がった。

 

黄色いコートに身を包み、その天使――失礼、天さんは姿を現した。

私はまるで心が洗われるような気持ちになりながら、用意していた言葉を口にするのだった。

 

「うふふ、いま来た……」「来たわね真田天!! 10分前だから全然いいわよ!!」

 

ベレー帽の女はいつの間にか隣にいた。

さも、いっしょに待ってました!!と言わんばかり。

 

気づいたら天さんと親し気に話しているではないか。

 

「早めに出たんだけど……二人とももっと早かったんだね!!」

 

「いやー、こういうの初めてだから30分前に来て本読んでたわー!! なはは!!」

 

「花ちゃんも寒くなかった?」

 

「いえ……いま来たところですので……」

 

「え? あなた私より早く来てなかった……?」

 

私は一睨みしてベレー帽の女を黙らせた。

女は移動して天さんの隣へと陣取ってしまった。

 

いきなり出鼻を挫かれ、憤怒の感情がふつふつと湧いてきたが、

ニコニコとこちらを見る天さんの笑顔で気を取り直すのだった。

 

私たちは天さんを中央にベンチに腰かけた。

そういえばこれから何をするのか、話さねば。

 

「天さん、これからのご予定は?

私は実は行きたい場所とか考えたのですけれど……」

 

「え? そうなの? えーっと実は話したいこともあって……」

 

「真田天、私たちは遊びに来たのではないわ。はっきり否定しましょう」

 

「は? 何ですかあなたは? そもそも誰なのですか?」

 

目を伏せるベレー帽の少女。

え?と驚きの声を上げる天さん。

 

どうやら私とこの少女の挨拶が済んでるものだと思っていたらしい。

どちらも天さんとしか話してなかったので致し方なし、ですわよ。

 

「えーっと、じゃあ自己紹介からだね!!

この子は影ちゃん!! とっても面白くて思いやりのある子なんだ~。

先週のモンスターを倒すときに手伝ってくれた子!!」

 

「よ、よろしく……。村田……影……です……」

 

天さんの説明でようやく私は合点がいった。

そういえば西部劇に出てくるならず者のノリで銃を乱射していた人がいた気がする。

 

「それから花ちゃん!! 私たちモンスター対策部Cチームのリーダーなんだよ!!

周りにすごい気を配れて、私もお世話になりっぱなしなんだ~」

 

「まあ、天さん。いくらでもお世話させていただきたいですわ。できれば生涯……。

あ、伊藤花です。以後、お見知りおきを」

 

私は軽い会釈をした。

同年代ならば角度15度で十分であろう。

 

「それで天さん、お話というのは何でございましょう?」

 

私は天さんのお話を優先することにした。

理由は単純。

天さんの気分を私の都合で害する必要はないからだ。

 

「うん、これはとっても大事な話なんだけど……」

 

「手筈通り行くのよ、真田天」

 

ベレー帽の少女、改め村田影が天さんに指示を出している。

少し高圧的ではなかろうか。

 

「えー、古今東西、時間を遡るということをテーマにしたフィクションは数多くあります……。

さながら時空を超えた旅行。この普遍的なモチーフが私たちをこれ程までに惹きつけるのはなぜでしょうか……?」

 

私は聞き入ってしまった。

こればっかりは天さんの美声だけが要因ではなかった。

 

時間の概念。

それは私の悩みの根源とも言えたからだ。

 

「物語の主人公たちは時にはタイムマシン、時には不思議な力で過去へとタイムトラベルいたします……。

さて、これらの人類の夢ともいえる現象が、果たして私たち自身に起こらないと言えるでしょうか……?」

 

私はふんふんと頷いた。

確かにそうだ。

時間を、やり直しさせできれば私は――。

 

「えー、おほん。信じられないかもしれませんが……

花ちゃん!! 私たち過去に戻っているの!! 信じられないかもしれないけど、信じて!!」

 

「信じます」

 

「え!?」「早っ!?」

 

驚く天さんへと私は高らかに宣言するのでした。

 

「私が天さんのことを信じないと思いましたか?

天さんがそう言うのなら、そうでしょう」

 

「花ちゃん……!!」

 

天さんの驚嘆の声で私の胸が満たされる。

そう、これだ。

私の求めていたシチュエーションは。

 

「なんだか高橋真赤の時と違いすぎて軽く混乱してるのだけど!!

真田天、この人いつもこんな感じなの……?」

 

聞き慣れたその名前を私の耳が拾う。

 

「真赤さん? 真赤さんにも話したのですか?」

 

「うん、真赤ちゃんも半分は信じてくれて。

でも行動はいっしょにしないことになったの……」

 

私は頷いた。

高橋真赤という人間は慎重だ。

だからこそ一定の信頼がおけるのだが。

 

「真赤さんのことは放っておきましょう。

彼女はそういう人です」

 

私は思ったままに言った。

目の前の天さんがなぜか悲しそうな顔をしたが、

その理由はわからなかった。

 

それからは時間が戻る前の世界、

既に起こったことであり、この世界ではこれから起こることを聞いた。

聞きながら私はこの話が真実であるという確信を深めていった。

聞けば聞くほどに記憶が掘り起こされるという感覚があったからだ。

不思議な夢が前の世界で起こったことという説明を受け、

はからずも私の今週の疑問は解決することになった。

 

 

「なるほど……博士が黒幕でこの世界に災いをもたらす、と……」

 

私は確認のため復唱した。

自分にとっては時間が戻ったことよりも

そちらの方が驚くことだったのかもしれない。

 

「ええっと、まだ決まってはないんだけど少なくとも前の世界だとそうで……」

 

「……そうよ。あの男はいつだってそうよ!!

今も世界を滅ぼすために研究に明け暮れているのだわ!!」

 

ベレー帽の少女、村田影の方を向く。

こんな感情的な意見を述べる人間が博士の娘というのは、にわかには信じがたい。

 

私は初めてその少女に対して発言した。

 

「あなたは博士の著書を読んだことがあるのですか?

生命の神秘や命、そうしたテーマが科学的な視点に基づいて述べられており……」

 

「はっ、何が生命の神秘よ……。そのために家族を犠牲にしたんだからね。

何でそんなことができるのか、私にはそっちの方が謎よ」

 

「……何ですって?」

 

「まあまあ!! 私も難しいお話は得意じゃないんだけど……、

それができる人はすごいって思うし、でもでも家族を大切にしたいって気持ちも大切で……」

 

私と村田影が天さんの方を向いた。

 

「つまり……人を尊敬したり、大切にしたいって気持ちはいっしょで……どうかな?」

 

天さんが上目づかいでこちらを見ている。

健気にもこちらに期待を寄せる視線に、私の怒りは瞬く間に鎮火された。

 

「上目づかいでの誤魔化し!! ちょっとあざといわよ真田天!!」

 

きいきいと鳴り響くような叫びに私はまたしても苛立ってしまった。

そもそも天さんが諫めなかったら取っ組み合いになってもおかしくなかったのだが。

喧嘩上等、ですわよ。

 

「全く……影さんと言いましたか? なぜあなたのような方が天さんの隣に――」

 

 

 

世界が揺れた。

視界が霞み、ぐるぐると回転している。

 

一瞬、天変地異が起こっているのかと思ったが

どうやらおかしくなったのは私の方だった。

 

体全体がよろめき、もはや座っているのか倒れたのかもわからない。

 

天さんが私に声をかけてくるのがわかった。

 

「来るなあ!!!!」

 

その言葉は、私から発せられたらしい。

 

わけもわからないまま私は正気に戻った。

血の巡りは、むしろ良くなっていた。

 

記憶もしょせんは脳に蓄積された情報にすぎない。

例えば体の傷が過去に戻ればなくなるように、

記憶も消えて然るべきなのだ。

 

それが私たちから消えずに残っている。

簡単な話だった。

 

「――私たちの記憶は魔法力に刻まれている」

 

魔法力には時空を超える力がある。

だからこそ、こうして過去とやらに戻っている。

魔法力だけが、繰り返される世界の中で保存され、蓄積され、更新されていく。

 

心配そうな顔の真田天――天さんに私は大丈夫なよう伝えた。

黄色いコートはさながらあの夢に出てきた救いの光を連想させた。

あれも私の記憶なのだ。

 

やはり私と天さんは運命で繋がっていたのだ。

 

なぜか、田中こころの顔が浮かんだ。

憎たらしく満面の笑みを浮かべている。

 

鞄に入れていた無線機が鳴った。

それはモンスターという単語と発生場所を伝えてきた。

 

ちょうどいい。

 

私は魔法棒を取り出すとモンスターが発生した地点へと駆けだした。

天さんの隣にいるべきは田中こころでも村田影でもない。

 

私だ。

 

そのことをわからせるために、

私の力を無慈悲に見せつける。

 

モンスターは手足の短い、不格好なワニの形状だった、と思う。

私は頭に付いた花を全てむしり取り、魔法力を解放すると

一心不乱で武器を振るった。

 

振った回数に対して攻撃は通っていなかったように思う。

それでも無我夢中に、振った。

 

途中で黄色い鎖が敵に巻き付き、紫の弾丸が撃ち込まれていく。

たまたま振り回していた魔法棒と、タイミングが合った。

 

大きな敵がいた空間がすっぽりと消え、

残されたのは激しい息遣いと汗だけだった。

 

「協力できるの、これ?」

 

吐き捨てた村田影の言葉だけが耳に届いた。

 

 

 

 

 

「花ちゃん、怪我とかなかった……?」

 

「ええ、大丈夫です」

 

「うん……よかった……」

 

「……はい」

 

私と天さんは商店街のアーケードを歩いていた。

村田影は用件は伝えたからと、あの後に別れた。

自分としてもその方が都合が良い。

当初練っていたおデートのプランの全部とは言わず半分くらいは達成できそうだ。

 

もっとも、会話はお世辞にも盛り上がっているとは言えなかった。

 

頭がいつもより軽い。

モンスターを駆除する時に落としたと言えば納得するだろう。

私が気にした様子を見せたからか、天さんが心配そうにこちらを見た。

 

「やっぱりないと気になる?」

 

清々とする、とは言えないので私はお茶を濁した。

 

「天さんはどんな花が好きですか?」

 

せめて付けるなら意味を見出したい。

そう思っての質問だった。

 

「……あ! 花ちゃん、あのお店入ってもいい?」

 

天さんの向いた方には小さな雑貨屋があった。

 

予定にはない店だった。

 

「ええ、構いませんが……」

 

「やった!! じゃあ入ろ~。いろんなものがあるんだよ!!」

 

二人きりになってから初めて笑顔を見せてくれた。

その笑顔がいつも、私にだけ向いてればいいのに。

 

店はこじんまりとしており、通路も狭かった。

そこによくわからない模様のシールやら、

謎の生物がぶらさがったキーホルダーがひしめきあうように並んでいる。

 

こんなものでも、自分の部屋にある目にきついピンクよりはマシかもしれない。

 

天さんはすぐに目当ての物を見つけたのか、こちらへ寄ってきた。

 

「もう少し見て回ろうか」

 

恐らくは私に気を遣っての言葉だろうとわかった。

なので私は丁重にお断りし、レジへと向かった。

 

天さんが会計にその品を差し出して、私は初めてそれが何だったかわかった。

緑の葉がいくつか重なった髪飾りだった。

 

その深緑は夏の生い茂った、活き活きとした自然を連想させた。

天さんの黄色い髪と合わせても明るい感じが強調されそうだ。

そう、まるでこの世界を照らす太陽にのように、

さしずめ緑は生命を運び、息吹いていく大地だろうか……。

 

調子が出てきて私の気分も回復してきた。

やはり天さんは滋養強壮の塊、ですわよ。

 

店から出て、大事そうに袋を抱える天さんを眺めて

私は高揚感を覚えた。

早く、髪飾りを付けた天さんを拝見したい。

あわよくば髪飾りが似合っていることを確認するため、

顔を近づけ、その匂いを、全てを感じ――。

 

「花ちゃん!!」

 

「ぶっ!! 何でしょうか天さん……おほほ」

 

急に天さんがこちらを振り向くものだから、私はむせそうになった。

ややヨコシマな思いを持っていたので、

見透かされたのかと焦ったがどうも違うらしい。

 

先ほどまで大事に持っていたその袋を、

手を伸ばし私へと差し出したのだ。

 

「天さん……?」

 

その行為の意味がわからず、ほうけてしまった。

 

「花ちゃんへのプレゼント!! いつもお世話になってばっかりだし……

これがあったらお花がない時でも頭に付けれるかなって……」

 

私はあまりのことに口を両手で覆ってしまった。

 

「そんな……私が天さんから受け取るなど……できません……」

 

「今日だって花ちゃんがモンスターを倒したし、普段のお礼だと思って!!

それに……」

 

「それに?」

 

「今月はまだお小遣いに余裕がある!!」

 

手に腰を当てて仁王立ちをする眼前の少女へと吹き出してしまった。

天さんも笑っていた。

 

嗚呼、知らなかったけど――。

 

 

幸せってこういうものなのだろうか。

 

 

「それじゃあ!! はい!!」

 

そう言って、改めて袋を差し出す天さん。

その仕草はさながら、物語の中で騎士へ褒章を差し出す王女様のようで――。

 

 

「――っ!!」

 

 

頭に激痛が走った。

通り抜けていったのは痛みだけではない。

ある日の、劇の様子。

そのイメージが私の頭に駆け抜けていった。

 

「花ちゃん!?」

 

「大丈夫です……!!」

 

私は姿勢を直すと袋を半ばつかみ取るように受け取った。

 

なぜ今、あの時のことを思い出したのだろう。

私は脚本を担当したものの、そのせいで練習には時間を割いておらず、

真赤さんは酷い棒読みで、

天さんは――。

 

「花ちゃん……本当に大丈夫?」

 

心配そうにする彼女に、

私はきっと信じられないといった表情を浮かべていたのかもしれない。

 

 

 

真田天は、演技が上手い。




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