魔法少女GL ~女の子たちの初手はいつだってルームシェア時空!!~ 作:MOPX
モンスター対策部はいつも通り静かだった。
整然と並んだデスクに座る人影はまばらで、
落ち着いた午後の風景を映し出していた。
一番奥、組織を束ねる首長が座るその席はというと、
人が座っているのがはっきりとわかった。
「博士、いるね」
入ってすぐに真赤ちゃんが確認をした。
真赤ちゃんはもともと博士に用があったから、
そのためでもあるのだろう。
「あの男……!! 家には帰らないくせにのうのうと仕事を……!!
やっぱりあの男が全ての元凶なのよ!!」
真赤ちゃんがはいはい、と流して影ちゃんがぷりぷり怒った。
よくわからないが二人とも距離感がつかめたのだろう。
真赤ちゃんには私たちがどうしようとしているか、軽くお話をした。
積極的に協力は……と反応が返ってきたが、止めたりもしなかった。
「影ちゃんは作戦通りここで待機だね……!!
真赤ちゃんは……どうしよっか?」
「じゃあ僕も付いてく。どのみち博士と話すし」
「頼んだわよ……!! 真田天!! 高橋真赤!!」
私は鞄に入れていたヘルメットを取り出してかぶる。
真赤ちゃんの本気だね、との言に私は微笑んで返した。
そう、本気だ。
机の間、狭い通路を真赤ちゃんと縫うように進む。
前にもこうして二人で進んだことを思い出す。
あの時も緊張したが、今回の緊張はもっと違う種類のものだ。
心臓の鼓動が早くなるのがわかった。
私と真赤ちゃんは一番奥のその席までたどり着いた。
博士の両の目が、こちらを向く。
その眼は私とも真赤ちゃんとも視線が合わず、
ちょうど私たちの間くらいを見ているようだった。
私は魔法棒を取り出して握った。
何か起こってほしいのか、何も起こらないでほしいのか。
わからない、わからないけど。
少しでも、できることは全部やって、それで――。
戦わなくていい子が戦わなくてすむ世界。
そんな世界を守る。
「高橋君、きてくれたね。真田君は……一体どうしたのかな?」
博士が立ち上がり、私たちの前へと出た。
手に汗がにじんでいるのがわかった。
もし本当に何かが起こるんなら、
ここからは気を抜いていい瞬間はないのかもしれない。
「真田さんからどうぞ、良くも悪くもすぐ終わるでしょ」
真赤ちゃんの言葉を受けて、緊張感が最高まで達したのがわかった。
私は魔法棒を振り上げて黄の刃を展開した。
「博士!! ご容赦ください……!!」
振り上げたそれは、振り下ろせずにいた。
人に武器を振るうという事実が私をぎりぎりのところで踏みとどまらせて、
いや、躊躇させていた。
「それは良くない行為だ」
博士が抑揚のない声を発した。
そこには焦りも驚きも、感じられない。
「魔法少女手帳にも記載がある。
魔法力をアンチマジック・モンスター以外に無暗に行使すること、これを禁ずると。
場合によっては手帳を剥奪することになる」
「真田さん」
真赤ちゃんが諭すような口調で言った。
「もういいんじゃない? 博士、全く焦ってないよ。きっと君たちの目論見は外れたんだ。
それがわかっただけでも……良しだと思う」
真赤ちゃんの言っていることはいつもためになる。
真赤ちゃんは私よりもいろんなことを深く考えているし、頭の回転も早い。
だから納得のできる結論を出してくれる。
「真赤ちゃんの言う通りだと思う……でも」
これはきっと、頭とは違う部分で感じていることなんだ。
「これは私がやらないといけないことだから!!」
「よくぞ言ったわ!! 真田天!!」
対策部の一室に高らかに声が鳴り響く。
私が振り返るとそこには影ちゃんがしっかりと立っていた。
「影ちゃん!! 出てきちゃったの!?」
「もう関係ないでしょ!! それより問題は……!!」
影ちゃんの苦虫を嚙み砕いて口から出してしまいそうな形相。
その視線の先には悠然と構える博士がいた。
「よくもそんなツラして立っていられるわね……!!」
「……」
博士は何も答えない。
「お母さんは……ずっと待っていた!!
あんたみたいな酷い人間でもずっと待っていた!!
病院のベッドの上でずっと待っていた!!」
博士は微動だにしない。
「でもあんたは……帰ってこなかった!!
研究だ魔法少女だ、そんな理由で帰ってこなかった!!
何日待っても……帰ってこなかった……」
博士の心は果たして何を映しているのだろうか。
「何か言い返さないの!? これだけしゃべったのよ!!
何か……何かあるでしょう!! ねえ!?」
「……」
「ああ~~~~!!!! ムカついてきたわ!!!!
くらいなさい!!!! シャドー手榴弾!!!!」
影ちゃんが勢いよく振りかぶる。
そして手をダイナミックに動かして放たれたそれは――。
すっぽ抜けて関係のない職員さんへと命中した。
「ああ!!」
職員さんが小さく悲鳴をあげる。
痛みはないはずだが、ちょうど本人とパソコンの間に
手榴弾が放り込まれたのでまぶしかったかもしれない。
そのままうずくまると「真面目に仕事をしてるだけなのにどうして……」と頭を抱えてしまった。
真赤ちゃんが「ひどいノーコン……」とつぶやいているのはさておき、
私はその机へと急いでいくのだった。
「ご、ごめんなさい!! わざとじゃないんですけどお仕事の邪魔しちゃいましたよね!!
ほら、影ちゃんも謝ろう!!」
「わ、わかってるわよ!! いやでも……。
こんなことになったのもあんたのせいよ!! 恥を知りなさい!!」
影ちゃんはなぜか博士へ怒りを向けていた。
今回ばかりは博士じゃなくてもリアクションに困ったと思う。
「ほら!! 何か言いなさいよ!!」
「警備員」
「な……!?」
博士は既にデスクの電話を手に取っていた。
恐らくは研究所内の警備員室に電話をかけている。
警備員さんは秒でやってきた。
そのまま現行犯で影ちゃんを取り抑える。
「ちょ、ちょっとお!! 相手が違うでしょ!! 世界を滅ぼすのはその男よ!!」
「君は正式な魔法少女ではないはずだ。じきに警察も来る。補導をされる」
「え、影ちゃん!!」
私の叫びもむなしく、影ちゃんは既に部屋の外へ連行されようとしていた。
「真田天!! こうなったらあなたが頼りよ!! 必ずその男に一発……
じゃなくて世界を救うのよ!! 頼んだわよ!!」
「影ちゃーん!!」
「真田天ーー!!」
今生の別れと言わんばかりに叫んでしまったが、
警備員さんも職員さんも真顔だった。
扉がぴしゃりと閉まると部屋の中は一転して静かになる。
間を置いて真赤ちゃんが口を開くのだった。
「これじゃあ魔法少女じゃなくて非行少女だね、なんちゃって」
結局、その後は真赤ちゃんと博士がお話を始めた。
私は完全に強襲のタイミングを逃していたが、確認したいこともあった。
それこそが真赤ちゃんと博士のお話の中にある。
「……ということだ。高橋君、正式にチームを移る件が決定した。喜びたまえ」
「博士、ありがとうございます!! 真田さん、今まで世話になったね。
抜けちゃうことになるけど……」
「うん、いいの。真赤ちゃんが本当にそれを望んでたって、私は知ってるから」
人事異動のお話。やっぱりそうだった。
だとするならここが正念場、もとい魔法少女場だ。
「それにしてもパーティまで開くなんて、いいんですか博士?」
「ああ……いいとも。盛大なパーティには盛大な食がつきものだ。
出すものも既に決まっている……それは……」
「……商店街のトクジョウお寿司の出前、十三皿」
「!!」
「……? 真田さん、お寿司食べたいの?」
時間が巻き戻っても、みんな前とは同じ行動を取るわけじゃない。
影ちゃんとこのお話をした時の予想。
それは、その人が迷うようなことは迷って別のことをすることがあり、
絶対にこうした方が良い、と思えることはまた同じように行動する、というものだった。
だったら――。
もし博士が少しでも魔法少女を集めるために同じようにパーティーを開くのであれば――。
その選んだメニューに問題がないと確信しているのであれば――。
今回も必ず、トクジョウのお寿司がパーティーのテーブルに並ぶことになるのだ。
「……その通りだ。よくわかったね、真田君」
真赤ちゃんは一瞬目を見開いた後、その顔つきは思案するものに変わった。
「はい、あとお願いがあるんです。やっぱりもう一度……」
影ちゃんの騒動で棚上げになってしまったが、
結局まだ試してはないのだ。
「ご容赦ください!!」
私は魔法棒を取り出し、再度、大鎌を構えた。
今度はしっかりと博士の方を向けて。
「……伝えたはずだが? 場合によっては魔法少女手帳を剥奪することになる」
「……それって許可を得ずにやった場合ですよね?」
真赤ちゃんが真剣な顔つきで博士を見つめた。
「僕、聞いたんです。真田さんが不思議な夢を見て、そこで博士がモンスターに憑りつかれてるって」
真赤ちゃんのお話は私が伝えた通りではない。
きっと何事も起こらなかった時のためにお話を整えてくれている。
「魔法少女が予知夢をした例もあるんですよね?もしかしたら真田さんが『見た』ものもその類かもしれない」
「……真赤ちゃん!!」
真赤ちゃんが援護してくれている。
いつかは半分くらい信じていた私のお話を、
たぶんもっと信じてくれたんだ。
「……まさか魔法研究所の所長が魔法少女の直感を信じないんですか?」
「はっはっは!! これは参ったな!!」
博士は呼気を噴出するかのような笑い声をあげた。
「今日はもう定時か……? 定時になったら人は家に帰る……もう帰らねばなあ!!」
――博士は最近、家に帰っていない。
「アークスラッシュ!!!!」
これで何かが起こるのか。
何事もなく、博士の体を刃が横切るのか。
あるいは、反魔法力の手ごたえがあり、それを消滅させるのか。
結果はどちらにもならなかった。
黄の刃は空を横切っていた。
博士がさっきまでいたはずの場所には誰もおらず、
当の博士は遥か後方の窓際まで移動していた。
何も変わりがない、直立不動のままで。
「……伝えたはずだ」
博士の体から黒いモヤが吹き出す。
「それは『良くない』行為だと!!」
研究所内に非常ベルの高い音が鳴り響く。
反魔法力報知器が作動したんだ。
「真赤ちゃん!!」
「みなさーん!! 訓練を思い出して落ち着いて非難してくださーい!!」
警報機がモンスターの発生場所を告げる。
場所はもちろんモンスター対策部だった。
私は博士に向かって魔法棒を構える。
博士は足元から反魔法力を発生させると、
滑るような動きで扉へと突進し、そのまま出ていった。
「真赤ちゃんも避難して……!!」
「そうするつもりだけど……それじゃあ真田さんは?」
「私は博士を追いかけるよ!!」
「いや、危険でしょ。僕は言ったからね!! 後味悪いから避難してよ!!」
真赤ちゃんの声を背に受けて、私はもう駆けていた。
これで対処できれば前のようにはならない。
そしてそれができるのはきっと私だけなんだ。
だって私は、真田天だから。
道では二人の少女が並んで歩いていた。
背の高い方の少女が何かを見つけたのか、その目線を上げた。
「あ、鳥の巣だ。もぬけの殻ってやつか~残念」
「お姉ちゃん、人の敷地内なんだからジロジロ見ないでよ」
「あはは、ごめんて。でもヒナとかもいなさそうだね」
「まだこの時期だもの。きっと巣だけ作って子育てはこれからよ」
「そうなんだ~。また来たら育っているところ見えるかな?」
「見えるんじゃない。育っているところも……」
小さい方の少女は口ごもり、
それでも我慢できなくなったように言葉を発した。
「……巣立ちも」
「……ゆめ?」
静けさが場を包んだ。
「……どうして別れなんてあるんだろう。悲しいだけなのに」
「……うん。親鳥とヒナは別れちゃうもんね。それでも……」
背の高い方の少女は、その視線を妹へと向けた。
「……私はゆめと別れたくないな」
「……な!? そういう話はしてないでしょ!!
お姉ちゃんは本当に読解力もデリカシーもないんだから……!!
というかもしかして私をヒナに例えた!? 子供扱いしないでよ!!」
「あはは、はいはい」
「はい、は一回!!」
続