魔法少女GL ~女の子たちの初手はいつだってルームシェア時空!!~ 作:MOPX
「お姉ちゃん!! 離れないでよ!!」
「わかってるって!! 加速加速ー!!」
言葉とともに勢いをつける少女。
それを諫めながら後を尾ける少女。
そしてそれに迫っていく怪物たち。
髪色が桃へと変わった少女は足を動かしながら、
口では悪態をついた。
「もう……こんなすぐにまた集まるなんて……!!」
「ゆめ!! 続けてはできないんだよね!? さっきの!!」
「できなくはないけど……数が多い!!」
「魔法力!! 時間を置かなきゃだもんね!!」
「それより何でこいつら私たちばっかり……!!」
「近くにいたから!!」
「関係ないわよ!! 学校でよく言ってるじゃない!!
モンスターに目的はないからすぐ逃げなさいって!!」
モンスターが来るのと反対方向に逃げるが、
家のある住宅街とは離れていくばかりだった。
それが少女を焦らす一因となっていた。
「ゆめ……!! 前……!!」
「……!!」
前方でも視界に入った黒い影が、時間とともに大きなっていく。
地面を這いよるその姿は蜥蜴の形をしていた。
数は、三体はいる。
桃の少女が口を鳴らす。
「ゆめ!! あそこを曲がろう!!」
「えっ!! あそこは……!!」
研究所。
提案した少女が、まさに連れ去られたことのある場所。
なるべく近づかないつもりでいたのに。
これではまるで追い込まれているような――。
後ろを走る少女は前を行く姉の背中を見つめる。
姉はなんのこともなく、門を通っていった。
対して桃の少女はまるで不快感が押し寄せてくるような、
胸が嫌なもので満たされ、息が詰まるような、感覚を覚えていた。
研究所と外界との境目であるそこをくぐる瞬間、不快さはピークに達する。
「ゆめ、大丈夫!?」
「私は平気よ!! それより……!!」
大きく体を振って、後ろを振り返る。
案の定というか、怪物たちは我先にと門にひしめき、こちらに向かっていた。
「くる……!!」
「お姉ちゃん!! 下がって!!」
「……ゆめ?」
数はもうはっきりとわかった。
後ろから来ていた三体、前から迫っていた三体。
だがさっきとは状況は変わっている。
先ほどは挟まれる形だったが、今度は怪物全てが前方の見える位置。
一か八か、やるしかない。
決意とともに白銀の棒に力を込める。
こいつらの目的が仮に姉なのだとしたら、
こいつらが運命の守り人だとでもいうのなら、
「私は田中ゆめ……運命を打ち砕く者!!
あなたたちなんて……粉々にしてやるんだから!!」
「ゆめ!!」
「ドリームドリルゥゥゥゥ!!!!」
棒を前へと突き出し、少女の体が桃の渦に包まれる。
そのまま異形の黒い群れへと飛び込んでいった。
「はああああ!!!!」
通りすがりに一体。
そのまま突っ切って一体。
「まだまだああああ!!!!」
向きを変えて一体。
歯を食いしばって一体。
「終わりよ!!!!」
負けじと押し込み一体。
我武者羅に突っ込んで――。
「きゃあ!!」
「ゆめ!!!!」
鈍い音と、軽い音。
桃の少女が弾かれるように、地面に転がる。
白銀の武器も、衝撃で離れたところへと落ちた。
黒い蜥蜴は尻尾に当たる部分を少女へと向けた。
少女はまだ起き上がれず、自分の身に起こったことすら把握できていなかった。
「くう……」
「ゆめ!!!!」
顔を上げると、そこには蜥蜴が尻尾に似た形状の部分を、
ケガキ針のように鋭いその部位をこちらに向けていた。
その部分に黒いモヤが集まる。
周囲が黒という異質な光に照らされ、
禍々しい空気を作り出す。
本能に訴えかける危険。
「何なのよ……こいつらは……」
やっとの思いで吐き捨てた言葉は、負け惜しみのようだった。
尻尾の先が、うずくまる桃の少女を捉えた。
「ゆめーーーー!!」
叫んだ少女はもう駆けだしていた。
白銀の棒をぶんどるように拾い上げると、
そのまま妹の前に立った。
「お姉ちゃ……!!」「魔法少女ーーーー!!!!」
尻尾は空気を引き裂くように、少女たちへと放たれた。
空気はひりついていた。
あるいは自分の恐れが、そう感じさせているだけなのかもしれない。
ベレー帽を手でおさえた。
必要はないとわかっていたが、何度もおさえた。
息を吸って、気持ちを整えて、また歩き出した。
私のお母さん、村田
病院で話すと、いつも私のことを気にかけてくれた。
テストでたまたま良い点を取ったことを報告すると頭をなでてくれた。
私のまとまらない話を、読書の感想を、さえぎらず全部聞いてくれた。
学校の様子を聞かれて、私は友達がたくさんいると嘘をついた。
だって、心配してほしくなかったから。
お母さんにはお見通しだったのだろう。
ちょっとずつ仲良しの子を増やしていけばいいって言ってくれた。
人間はみんな少しずつ違うけど、
自分のことを理解してくれる人間が、この世界のどこかにはいるって。
最後の面会の時に、お母さんから譲られたベレー帽。
その時どんな会話をしたのか定かには思い出せない。
きっと涙が、私の記憶を押し流してしまったから。
もう一度、私はベレー帽を手でおさえた。
一度は逃げ出し――じゃなくて見送った階段の踊り場。
その前まできていた。
怪物は変わらずいる。
魔法力を込め、丸めた両手を肩の上まであげる。
手から紫の光があふれ、みるみる大きな筒を形成していく。
砲身を黒い怪物どもに向けた。
「シャドーバズーカ!!」
筒から発射された紫の弾丸は怪物へと突っ込み、
破裂し、絵の具をぶちまけたように色彩が広がる。
心の中で小さくガッツポーズをすると、
そのまま階段を駆け上がった。
真田天、あなたがどこにいるか、わからないけど私は――。
「ひょえええ!?」
踊り場では黒く尖ったものが暴れ狂うようにのたうちまわっていた。
「うわああああ!! ほらほらほらあああああ!!」
めちゃくちゃに放った弾丸のうち、いくつかが命中する。
動きが小さくなった破片に今度は次々と着弾していき、
息を整えるころには完全に消滅していた。
「はあ……はあ……」
どうも尻尾は分離可能だったらしい。
気を付けなければ。
クレバーな戦い方が私のウリなのだから。
どこまで考えてたっけ?
そうそう。
真田天、あなたがどこにいるかわからなくても、私は戦うわ。
だって私が決めたことだから。
ここまで来て引き返すことなんてできないし、許されないから。
運命というやつがあるんなら、あの男を止めるのがきっと私の運命だから。
でもやっぱり、ちょっとだけ寂しいから――。
「……早く来なさいよね」
もう一度だけ、ベレー帽を手でおさえた。
「ばか……!! ばか……!!」
「……ゆめ? ……ぶじ?」
少女が二人、身を寄せ合っていた。
まるで世界に二人だけ取り残されたように。
その存在を重ねるかのように。
ぴったりと体を寄せ合っていた。
「なんでこんなことしたのよ……!! ばか……本当にばか……」
「だってわたしは……おねえちゃんだから……ゆめの……おねえちゃんだから」
脅威は過ぎ去っていた。
ほんの、数秒前に少女の咆哮とともに、
桃の渦が怪物を巻き込み、その胴体を完全に消滅せしめた。
「お姉ちゃん……!! お姉ちゃん……!!」
返事はない。
「だれか……だれか……」
返事はない。
「だれでも……いいから……」
――お姉ちゃんは私が守るから。
返事の代わりに、過去の自分の声が甦る。
「誰か……お姉ちゃんを助けてよお……!!!!」
一人分の慟哭だけが、あたりに響き渡った。
続