魔法少女GL ~女の子たちの初手はいつだってルームシェア時空!!~   作:MOPX

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第7話 決戦!!!! 魔法少女は屋上で待ってます!!!!(前)

廊下には早いリズムで足音が鳴り響いていた。

廊下は走ってはいけないとどこでも相場が決まっているが、

頭はそのことをしっかり考える余裕などなかった。

 

たぶん今は、走るべき時。

刻まれている足音の主は私だ。

 

「待ってくださーーーーい!!」

 

私、真田天の声が前方へと響く。

その声は、いまだに鳴っている警報機の音を通り抜けて、

博士の背中に届いたはずだった。

 

博士の後ろ姿は曲がり角にさしかかると一時停止し、直角に曲がっていった。

相変わらず氷上を滑るように、なめらかな動きをしている。

 

博士の足元からはやはり黒いモヤが噴き出していた。

 

魔法棒に添えた手を強く握りなおす。

博士がもし、前と同じ状態ならきっと大きな怪物へと変貌してしまうだろう。

双眼鏡で確認したその姿では、博士の顔は青白く、焦点は定まらずまるで――。

 

頭から必死にその光景を振り払う。

少なくとも、博士に巣くう反魔法力を消さなければ。

 

直角の通路を跳ねるように曲がる。

 

博士の姿を確認する。

引き離されてはいないが、距離を詰めれてもいない。

 

対策部を出た時からこうして右へ左へ、上へ下へ。

研究所をぐるぐると回っているだけのように思えた。

いったいどこへ向かっているのだろう。

 

そのまま無我夢中で追いかけていたら、

いつの間にかよく見慣れた場所まできていた。

 

一階の受付に続く通路。

 

ここまで来て、やっと私は気づいた。

 

 

前に巨大な怪物が屋上に鎮座していたからといって、今回もそうとは限らないこと。

 

博士が外に逃げようとしている可能性があること。

 

もしもあの怪物が町で現れたら、大変なことになること。

 

 

まだ遠くに見える博士は、受付の前までさしかからんとしていた。

もし曲がられたら、もう追いつけないかもしれない。

 

私は集中して魔法力を大鎌モードの魔法棒に込めた。

チャンスはこれっきり。

 

博士が向きを変えるために、静止した。

 

「アァァァァク!!シュゥゥゥゥトォォォォ!!」

 

正面をはっきりと指し示した白銀の棒から、黄の閃光が走る。

その光は瞬時に、一直線に伸びていった。

 

どこまでも綺麗に伸びたことこそが結果を告げている。

 

光は博士の前を横切った。

 

 

博士は無表情のまま、何事もなかったかのように動き出そうとして、

しかし、わずかに動いたところでまた止まった。

 

 

私の攻撃はまだ終わっていなかったから。

 

黄の閃光が、何本も博士の周りに降り注ぐ。

横向きに倒したシャワーみたいに、何本も何本も、隙間がないくらい浴びせかける。

 

私は長距離攻撃のコントロールに自信がない。

それなら――。

 

 

撃ちまくればいいんだ。

 

 

「乱れ撃ちだぁぁぁぁ!!!!」

 

 

博士が微動だにできない。

結局、私が撃った攻撃は一発も当たらなかった。

そんなこともある。

 

だが、私が動かしていたのは手だけじゃなく、足もだ。

 

距離はもう十分に詰めれていた。

これなら――。

 

「アークチェーン!!」

 

博士の体めがけて、黄の鎖が飛ぶ。

これで反魔法力を締め上げれば、それでこの事件は解決するかもしれない。

 

いや、解決させるんだ。

 

「いっけええええ!!」

 

黄の鎖は博士の体を捉えて、ぐるぐると螺旋を描いた。

あとひと踏ん張りだ。

 

そう、もうこれで、これ以上戦わずに――。

 

 

その時、ふと気になった。

 

こころちゃんは今、どうしているのだろう。

 

どこで、何をしているんだろう。

 

 

鎖は虚空へと落ちていた。

特に力を緩めたわけでも、油断していたわけでもない。

 

博士がその場から、消えてしまったのだ。

最初に私が攻撃した時と同じ感覚。

 

まるで瞬間移動のマジックみたいに。

たとえ魔法力を使っても、それをするのは難しいはずだった。

 

急いで博士のいた位置まで達する。

あたりを見渡すと博士は外で棒立ちの状態だった。

 

疲れとはまた違う、魔法力が減っている感覚がした。

 

それでもまだできることはある。

博士に近づいて直接大鎌を――。

 

「頃合いか」

 

博士の言葉は私に向けたものではなかった。

遠くの茂みから何か黒いものが、私よりも速く博士に突っ込んでいった。

 

博士と黒い物体は衝突し、閃光とともに黒い物体だけが消滅した。

いや、そう見えただけで実際はどうなったのかわからない。

合体、吸収、そんな言葉も私の頭によぎった。

 

「博士!!」

 

「ふはははは!! ふははははは!!」

 

博士はさっきよりも速く、研究所の外壁と向かった。

自分から壁際に進む違和感。

でもそれを考える時間はない。

 

博士はそのまま、壁に背を付ける。

背から黒い、吸盤のような四肢が生える。

四肢が、壁にくっつく。

 

私が気づいた時にはもう遅かった。

博士は笑い声をあげながら、壁を這うように上昇していく。

 

魔法棒を向けてみるも、もう一回閃光を放つには時間が足りなくて。

そのまま博士は屋上まで登り切り、姿が見えなくなってしまった。

 

辺りは静かになった。

顔を上げた私の目には空が映っていた。

 

陽が落ちて薄暗くなったが、

夕焼けの橙と空の青が透き通るようなグラデーションを描いていた。

 

また登ろう。

何度だって諦めず。

まだ体が動いて、心に火が灯っている。

それだけで十分だ。

 

研究所の入り口まで引き返す。

気持ちは前を向いているが、魔法力を使いすぎたのが心配ではあった。

 

魔法力のなくなる感覚は空腹に似ている。

ただしお腹だけじゃなく全身で感じるものだ。

説明でよく使われるのは「脱力感」という言葉だった。

 

私は入り口に向かいながら、魔法少女講習のことを思い出していた。

 

急速に魔法力を失えば普通の人でも魔法少女でも、魔法力欠乏症になる可能性がある。

そして魔法力を失うのはなにも反魔法力だけが原因ではない。

魔法少女が自分で魔法力を使用しても、同じことが起こるかもしれないと。

 

 

魔法力が多い人が少ない人と同じくらいになっても、

この症状は起きる可能性があって、

つまり魔法力の量じゃなくて減ったこと自体に問題があって、

まあ、大人になってじわじわ魔法力が減るのは問題ないんだけど

なんでかはまだよくわかってないからとにかく気を付けてね!!

 

講習のお姉さんは他の子のなぜなぜ攻撃に、

黒板を叩きながら以上のように答えていた。

 

私は深海に住む生き物が急に浅いところへ連れられたら困るのといっしょ、と理解した。

 

少なくとも今の自分は大丈夫そうなので安心する。

特に長距離攻撃を連射するのには今後、注意しよう。

本来、溜めに溜めて一発にかけるのが自分の思い描くビーム攻撃だ。

 

気持ちよくイメージできるものが、魔法少女の得意なものといって過言でない。

一時は無茶をできるが、それは長続きしないということだ。

 

私は研究所の受付に再び入った。

受付のお姉さんはもういない。

無事に避難できただろうか、と気にかかった。

 

警報が鳴ってすぐに外に出たなら大丈夫だと思うけど……。

 

そんなことを考えていた私の目が、

人っ子一人いないはずの空間で一人の女の子を捉えていた。

 

「……ゆめちゃん!?」

 

私は駆け寄るように目前の女の子に駆け寄った。

 

「ここ、危ないよ!! あれ、そういえば何でここに……?」

 

言ってから私はゆめちゃんの髪色が桃に変わっていることに気づいた。

ゆめちゃんの魔法力が覚醒した証拠だったが、なぜか胸騒ぎがした。

なぜかって、ゆめちゃんがずっと無言だったから。

 

「ゆめちゃん、どこか痛いの……? ……大丈夫?」

 

私の問いかけに答えはなかった。

ゆめちゃんは呆然としたように私の方を向いていた。

会話以前に、私のことをまだ認識できていないようだった。

 

今日は平日だ。

以前話してくれた通りならゆめちゃんはこころちゃんを尾行してくれてたはずだ。

そのゆめちゃんが、今ここにいる。

 

「まっすぐ家に帰らなかったの? その……こころちゃんは……」

 

「お姉ちゃんは」

 

ゆめちゃんはその単語に反応するように口を開いた。

 

「お姉ちゃんと私はモンスターに追いかけられたんです。

それでだいたいは私がやっつけて、残った一体に私がやられそうになったんです」

 

「え……?」

 

私の頭は、短いその文章を理解しきれなかった。

 

「私が無様に地面に倒れて、モンスターがそれを狙って、

お姉ちゃんが間に立ったんです。私は魔法少女だーって」

 

「こころちゃんは……!? こころちゃんはどうなったの!? 今どこ!?」

 

体から熱が引いていくのがわかる。

もしも魔法少女でない人間がモンスターの襲撃をまともにくらえばそれは――。

 

胸の鼓動に合わせるように、私の口調も早いものになっていた。

早く知りたい気持ちの裏で、真相を知ることをためらう。

私の弱い部分は悲鳴を上げている。

 

焦りと恐怖に、私の体はパンクしそうになっていたが、

ゆめちゃんは事も無げに語るのだった。

 

「安心してください。何もなかったんですよ、何も」

 

「本当!?!?」

 

「お姉ちゃん、無傷だったんです。モンスターは私が倒しました」

 

「じゃあこころちゃんは……?」

 

「家に、帰りました」

 

淡々と告げられる事実を私はまだ飲み込めないでいた。

本当に何もなかったのだろうか。

 

それなら何で、ゆめちゃんはこんなにも悲しい瞳をしているのだろう。

 

「全くお姉ちゃん、無茶しますよね。お姉ちゃんはいつもそう。

もちろん魔法少女になんかなれなくて、でも私を守ろうとしたんです。

私が守らなくちゃいけなかったのに。本当に……本当に……」

 

いつも、ゆめちゃんは私なんかよりずっと、しゃべっている雰囲気も内容もしっかりしてて。

 

「ゆめちゃん、……大丈夫?」

 

「大丈夫、大丈夫なんです」

 

だからこそ私は、また聞いてしまった。

 

「ゆめちゃん」

 

「なんですか」

 

こころちゃんのことを。

 

「こころちゃんは……無事なんだよね?」

 

ゆめちゃんは呆然とこちらを眺めて、短く答えた。

 

「はい」

 

 

私はその答えを受けて頷いた。

だったら私のやることは何も変わらない。

 

「ゆめちゃんは? とりあえずここは危険だから安全なところへ……」

 

初めの問答へ戻る。

さすがに家まで送ることは難しいが、大丈夫だろうか。

 

「行きます」

 

「……どこへ?」

 

「屋上です」

 

「……危険だよ?」

 

「知ってます」

 

私は頷いた。

既に屋上から黒い霧が撒かれている以上、一人で外に出るのは危ないかもしれない。

 

それならいっそ、私といっしょにいれば、私がゆめちゃんを守れる。

 

「行こう」

 

屋上へ向かう最短距離。

階段へと足を向ける。

 

後ろを振り返ればゆめちゃんは私の歩いた道を、

踏み外さないようについてきていた。

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