魔法少女GL ~女の子たちの初手はいつだってルームシェア時空!!~ 作:MOPX
歩いて、戻って、話して、入る。
「いやー、それにしても驚きましたよ!! 真田さん、初対面なのに私の名前を言い当てちゃって!!」
「えへへ……。何でかわからないけど……なんとなくそうかなあって」
「まあ、そんなことが。……。不思議なこともあるものですわね」
「僕はモンスターに石を投げてそのまま自力で逃げる人がいたのに驚いたけど」
花ちゃんと真赤ちゃんとここ……田中さんと私。
4人でお小遣いを確認して喫茶店へと入った。
今回の件で被害もほぼなく、モンスター騒ぎもすぐ収まり
商店街は平常運転に既に戻っていた。
研究所への報告は後にして私たちは交流を深めるという名目でオレンジジュースをすするのであった。
「あはは……何だか体が勝手に動いちゃいまして」
「体が勝手に身の丈半分の石を持ち上げて放り投げるとは大したものです」
「まあ、表彰されるか大目玉を食らうかの二択だね。真田さんがすぐ追いかけなかったら危なかったかも」
「あは、あはは……。でも良かったです。無事だったんですよね、あの小さな子」
話題に出たその子は、私たちが戻って少ししてから親御さんが駆けつけて無事に引き取られた。
それまでの間、女の子はなかなか泣き止まなかったが、
私がサイドテールに魔法力を集めてぴょこぴょこ動かす一芸を披露すると
「触手みたい~!!」といたく嬉しそうにきゃっきゃっと笑った。
めでたしめでたしだ。
「でも真田さんすごいですね!! 私と同い年なのにあんな怪物をすぐやっつけて!!」
急に話題が変わって私の心臓はぴょこんと弾む、ような感覚になった。
照れくさくなって下を向いてしまう。
それでもずっと下を向いているわけにはいかないので、
顔をおそるおそる上げると満面の笑みのここ……田中さんと目が合ってしまうのだった。
「ええ、そうでしょう。戦闘のご様子は聞きましたが素早いタイプには鎖で動きを封じるのが効果的です。
ちなみにその前の大型は有無を言わさず速攻を仕掛けて撃破しています。
このように相手に合わせた戦闘スタイルに切り替えれるセンスが天さんの強みなのですよ……」
「何で君が得意げなのさ」
「生で必殺技を出してるところ見れて感激です……!! あれっていつも叫ぶんですか?」
いまだにまじまじとしている私に代わって真赤ちゃんが答えてくれた。
「人による。一説だと叫んだ方が強くなるから推奨はされてるかな。僕は基本的にやらない」
「そうなんですね!! 名乗りあげるのとかはどうなんです!? 定番ですよね!!」
「それもいっしょかな。気分が高揚して魔法力の出が良くなるって言われてる。僕はやらないけど」
魔法少女名、私の場合はガルガンチュア・アーク。
名前といってもほとんどは便宜上のもので自分で自由につけていい。
真赤ちゃんの発言を受けてここ……田中さんは瞳をきらきらと輝かせていた。
「天さん、先ほどから静かなようですが。ご気分でも?」
「触手扱いされたのがショックだったんじゃない」
「え? ごめん。オレンジジュースおいしいなあって考えてたよ」
私が思ったままに話すと、花ちゃんがふふっと笑みをこぼした。
気分が悪いわけでも、何か考えごとがあったわけでもない。
私はここ……田中さんの顔を見ていた。
なんだかずっと見ていたいような、照れくさいような、不思議な気持ちになるのだ。
「ヘルメット、いつもかぶっているんですか?」
無邪気に、ニコニコと微笑みながら私に聞く。
私の中で照れくさい気持ちが勝ってしまい、少し下を向いて答えた。
「だいたいいつも……かな」
「そうなんですか!! 安全対策ばっちりですね!!
モンスターと日ごろから戦っているなんてすごいなあ……!!」
「今日は君が散らかしたガラスを掃除する方が大変だったけど」
ここ……田中さんが目をきらきらさせてはしゃぐ。
私はその様子を見て嬉しい気持ちになった。
たぶん、自分たちが褒められたことではなく、ここ……田中さんが楽しそうにしていたからだ。
「みなさんはモンスター対策部なんですよね?」
「そうですわよ。わたくしたちはCチーム。通称でモ部Cと呼ばれております」
「対策部って単語が出てくるあたり調べたことありそうだね」
真赤ちゃんの指摘にここ……田中さんが満足そうに頷く。
「実は私も魔法少女をやろうか考えていて……
ほら、魔法力って誰でも持っているって言うじゃないですか」
「個人差はありますが、そうですわね」
「もしも魔法少女になれたら、私みたいな普通の女の子でも人の役に立てるかなって……
そう思うんです!!」
ここ……田中さんの髪は光が白く反射している箇所以外は綺麗な黒色だ。
私はオレンジジュースをそっと置いた。
「あの……真田さん? どうしましたか?」
「え?」
「やっぱり元気なさそうに見えたから……」
私は元気のない顔をしていたらしい。
うーんと唸りを上げながら首をぶんぶん振って気持ちを切り替える。
その様子がおかしかったのか、他の3人は大きさは違えど笑い声をあげた。
「よし……!! じゃあテストをします!! ここ……田中さん!!
魔法少女を志望する動機をお願いします!!」
「ん!! 突然の面接!!」
「ふふ、さすがは天さん……既に一線から退いた後のキャリアとして人事部へ進むことも視野に入れているのですね」
「それはない。というか田中さん、さっき動機っぽいの言ってたよね」
「え、あれ、そうか……。じゃあ人の役に立ちたいと思った動機をお願いします!!
ここ……田中さん!! どうぞ!!」
「人の役に立ちたいと思った動機!? 改めて言われると……あ」
少し思案顔を見せていたここ……田中さんだったが何かに気づくと
ちょっと待ってくださいと手の平を前に突き出した。
どうやら考えをまとめているらしい。
「……よし!! いきます!!」
私はつばを飲み込んだ。
どうしよう。
なぜだかこっちが緊張している。
「え~私の趣味はお料理……特にお菓子をつくることなのですが」
「……」
「昔、私がお菓子作りに失敗した時に、それでも
『自分で作ったの!?すごい!!』って言いながら食べてくれた人がいたんです。たしか」
「……」
「私はそれが嬉しくなって、もっと上手くなりたいと思えるようになって。
それからもっと多くの人に食べてもらって、喜んでもらおうって」
「……」
「それが人の役に立ちたいと思った最初で……えーっとだから。
人の役に立つことは素晴らしいなって思いました!!
魔法少女になってもっとたくさんの人の役に立ちたいです!! おわり!!」
「終わったね」
「あ~!! けっこう緊張しました!! もっとうまくしゃべりたかった!!」
「即興でしたからね。では面接官の天さん、聞き入っていたようですが合否判定を」
「え!? そっかあ、面接官さんだった……!!
え~っと……では発表します!!
ドゥルルルルルルルルルル……!! ドゥルルルルルルルルルル……!!」
「まあ……まるで小鳥のさえずりのよう……」
「僕は工事中のドリルかと思った」
「あはは。これドラムの音ですよ。
ドゥルルルルルルルルルル……!!」
「ドゥルルルルルルルルルル……♪」
「ドゥルルルルルルルルルル……♪」
「……ふむ」
「そろそろ時間だし、もう少ししたら僕帰るね」
「ドゥルルルルルルルルルル……♪」
「ドゥルルルルルルルルルル……♪」
「チン!!」
「!!」
「発表します!! ここ……田中さん!! あなたの合否ですが……!!
え~っと、その……誠に言いづらいのですが……その……」
「ん? どっちですか」
「あ。今日の分の異動願い出してなかった……どうしよっかな」
「天さん、言いにくそうしていますが、そういう時はこういえばいいのです」
花ちゃんがすうっと息を吐いて高らかに宣言した。
「今回はご応募ありがとうございました。
別のどこかでのあなたのご活躍、お祈り申し上げます」
「えっ……それって。活躍してくださいってことですか?」
「不合格ということです。そうですわよね、天さん?」
「う、うん……」
「ええ!? そうですかあ~。結構良い線いってると思ったんだけどなあ~」
「そうだね。僕も異動願いをよく出してるけどそんな悪くなかったと思う」
「まあ私も不採用を通知する気分を味わいたかっただけなので……。
天さん、よろしければ理由をお聞かせいただいても?」
「うん、ここ……田中さんが魔法少女にならない理由は……」
私は改めて、その瞳と向き合った。
「もう既に、立派な夢があるからです」
自分でも驚くくらい、穏やかで柔らかい声だった。
「……夢?」
「もっと多くの人に自分の作ったものを食べてもらおうって」
「……あ!!」
「そうした人たちの日常を守るのが私たち魔法少女のお仕事だよ!!
だからここ……田中さんは安心してお菓子作りを頑張ってください!!」
「ふむ、なるほど。しっかりとした夢があることが逆に不採用の理由だと」
「まあこの業界は新興だからね。この歳で髪色が地毛のままだったら魔法力も強くないだろうし。
あ、定時だ。帰ろうよ」
「本当ですわね。みなさん、忘れ物がないよう」
飲み物ももう全員が飲み干している。
私たちは荷物を確認して、その場に立ち上がった。
「うーん。不採用かあ。魔法少女の人たちがそう言うのならそうなのかなあ」
「あの……。ここ……田中さん!!」
「真田さん? 今日は改めて助けてくれてありがとうございました!!
あと……その……夢を持ってるって言われて嬉しかったです。
自分じゃ、そういうの意識できないから……」
「私も……」
「え」
「助けてくれて、ありがとうございました」
「え、ええ? 何で!? 私むしろ迷惑かけちゃったような……!!」
わたわたと顔の前で両手を振るここ……田中さんを私は微笑ましく思った。
また、会えるかな。
それがお菓子職人としてなのか魔法少女としてなのか、自分でもどちらを望んでいるかわからない。
わからないから言うのを躊躇していたら――。
「私たち、また会えるといいですね!」
そう言って目の前の少女が満面の笑みを見せるから、
私も自然と返事をしていた。
「……うん、きっと。また会いたいな」
どこでも、いつでも、どんな関係になっても、
やっぱりこころちゃんはこころちゃんだ。
「あの二人、まだ話してるね。早いとこ会計済ませたいのだけど」
「……」
「伊藤さん? どうしたの? 目付きがなんというか……鋭いね。あの二人を見てるみたいだけど」
「感じているのですよ。風を」
「へ??」
「逆にあなたは感じてないのですか?
台風の目、そこから一歩、離れるか離れないかの場所に我々がいるのを」
「ごめん、何を言っているのか全然わからないや……」
「ふむ、いいでしょう。今はお互い全てを話したくないかもしれませんしね……」
「……?」
「この風は私たちを理想郷へ飛ばしてくれるのか、あるいは奈落の底へ突き落すのか」
「なんだ、詩を考えてたんだね。そういうことにしよ……」
一方でまたひとつ、ある家屋の一室、真っ暗なその空間で不穏な影がもぞもぞと動いていた。
「ふふふ……何も知らぬ魔法少女たちよ……
せいぜい安穏とした日々に埋もれて惰眠をむさぼっているがいいわ……
ふっふっふ……あーはっはっは!! あーはっはっはっは……」
少女が目の前の糸を引く。
頭上の明かりがともった。
「むなしくなってきたから電気付けよ……はあ……」
続