魔法少女GL ~女の子たちの初手はいつだってルームシェア時空!!~   作:MOPX

31 / 69
第8話 おはよう、魔法少女

異形の怪物は蜥蜴のような形をしていた。

先ほど見たものより、より黒く、より大きく、

顔に当たる部分が既に切り落とされたようにない。

 

ハート形のオブジェを隠すように、立ちふさがった。

 

そして怪物の上部には、背中合わせで張り付くようにあの男がいた。

その眼はもう、何も映してなさそうだった。

 

「……っ!!」

 

今更、感傷に浸る理由はないはずだった。

だからこれは、ただの哀れみだ。

 

横にいる真田天と田中ゆめに目配せをする。

 

真田天は口を強く結んでいる。

 

田中ゆめは、どこか虚ろな感じがした。

前に会った時より、何というか覇気がない。

大丈夫なのだろうか。

 

私、村田影はもう問題ない。

だって隣におっちょこちょいだけど頼もしい人がいるから。

 

かつてない高揚感の中で、私は本当に場違いなことを考えてしまった。

 

こういうものなのかな。

友達って。

 

「行くわよ!!!!」

 

私の号令とともに全員が構える。

 

決戦の火ぶたは切って落とされた。

 

 

戦いは、長く、過酷で、険しいものになるだろうからペース配分を考えないと――。

 

「影ちゃん援護して!! うおおおお!!」

 

「ちょ、待って!! まだ考えがまとまってないから!!」

 

真田天が怪物へと突っ込んでいく。

これでやられたら話が終わるのだが?

 

しょうがない、生意気ではあるけど田中ゆめは冷静な人間だったはず。

ここは連携して――。

 

「う……うわああああ!!」

 

「ちょ、ちょっとあなたまで!?」

 

田中ゆめも叫びながら突っ込んでいった。

もう作戦もヘチマもない。

 

 

前言撤回。

 

この戦いは短期決戦なので、一瞬で勝負は決まるものとする。

今からの数秒間に、私たちの魔法力を全て込める!!

 

「こうなりゃヤケよ!! そらそらああああ!!」

 

紫の弾丸が蜥蜴の体を捉える。

命中するたびに怪物はひくひくと震える。

 

それに反応したのか、身を丸くしてきた。

 

怪物が黒い光を四方八方に飛ばす。

これでは迂闊に近づけない。

 

……こう考えるのは私が常識的な人間だからだ。

 

「アァァァァク!!!!」

 

真田天は一歩も引いていなかった。

それどころか加速を増して、怪物に飛びかかっていく。

 

「スラァァァァッシュ!!!!」

 

振りかぶった大鎌が怪物の一部をちぎるように引き裂く。

怪物がバランスを崩して、前側へと倒れこまんとしている。

 

そして田中ゆめは――。

 

「ちょ、ちょっと!! 田中ゆめ!?」

 

やはり覇気がないのは気のせいではなかった。

私はその方向へ声をあげていた。

 

さっきの黒い光を避けれなかったのか、田中ゆめは尻もちをついていた。

 

怪物が崩した態勢を利用するように、そのまま尻尾を振り上げる。

 

「危ない!!!!」

 

尻尾が田中ゆめ目掛けて、落ちてくる。

 

金色の線が走ったかと思うと、

尻尾は勢いのまま切り飛ばされ、吹っ飛んでく。

 

言うまでもなく、真田天が大鎌を振るったのだ。

 

「大丈夫!? ゆめちゃん!?」

 

「……」

 

田中ゆめは呆然自失といった風だった。

このままじゃ戦いにならない。

 

一体どうして田中ゆめは……。

 

「ゆめちゃん……こころちゃんは本当に無事なんだよね?」

 

「……」

 

何を言っているのかよく聞こえない。

こんな時に一体なにを……。

 

「こころちゃんは……大丈夫なんだよね!?」

 

「お姉ちゃんは……」

 

堰を切ったように田中ゆめはしゃべりだした。

 

「お姉ちゃん……!! 酷い怪我で……!!

あれじゃあ……もう……!!」

 

「……!!」

 

田中こころの所在。

私には突然、降ってきた話題だった。

 

 

だから気を取られた。

 

 

さっきのことを内省するなら、今度は私が怪物を抑えていないといけなかった。

あの怪物が、自分の戦ったものと同じ特性を持っていると思考し、それを伝えるべきだった。

 

「え?」「……あ」「ぶっ!!」

 

吹っ飛んできた黒い塊。

それは真田天を飲み込んで、屋上から落ちた。

 

文字にすれば、シンプルな、あまりにもシンプルな事実。

 

何が起こったかわからない。

 

黒い塊が落ちていった方を見ていたが、特に何も起こらなかった。

 

真田天はこの場から消えていた。

 

この高さから人間が落ちたら、答えは――。

 

 

 

「ああああぁぁぁぁ!!!!」

 

最初、それは自分の叫び声だとわからなかった。

人間って、こんな声が出せるんだ。

 

そのまま、めちゃくちゃに、魔法力が怪物へと飛んでいった。

もう弾丸の体を成していない、ただの崩れた何かが。

 

体は自動で動くロボットのように、怪物へと突っ込んでいく。

本能が、とにかく暴力を振るえと命じている。

 

頭では全部、無駄なことだとわかっている。

 

だから私の体が怪物に弾かれるのは当然だし、

床と空がぐるぐると回転する視界と、痛覚だけが現実感を持っていた。

 

動けなくなってから、全て終わったのだとやっと理解できた。

こんなにもあっさりと、終わる時は終わるんだ。

 

田中ゆめは戦っている様子はない。

私は動けない。

真田天は―――。

 

 

私たちは負けたんだ。

 

 

「戦闘中の私語は慎むこと、ただし名乗りの際、または高度応用魔法を使用する時はこの限りではない」

 

耳障りな低い声がこだまする。

これを言っている主が無駄話をしているのは、勝利を確信したからだろう。

 

「魔法少女手帳の一節だ、娘よ」

 

一刻も早く黙らせたかったが、そんな力はもう残っていない。

この空間を支配しているのは、完全にあの男だ。

 

「私のせいで……お姉ちゃんも……真田さんも……!!」

 

悲痛な叫びが聞こえてくる。

それを言うなら私が悪い。

一瞬の判断の遅さが、その連続がこの結果になった。

 

田中ゆめが戦意喪失しているのも、また明白だった。

 

「今夜は……闇が綺麗だ」

 

反魔法力の高まりを感じる。

防ぐ術を考える余裕はなかったし、事実なかった。

 

 

どこかでもう一度、やり直したりできないかな。

具体的には屋上に上がる前くらいから。

めちゃくちゃ強く後悔したら、奇跡が起こったりしないかな。

 

試しに力んでみたが何も起きなかった。

それはきっと、私が物語の主人公みたいな存在じゃないからだ。

 

もっと小さかったころに憧れた物語の主人公たち。

みんな勇気があって、優しくて、強くて……。

 

自分はちっとも似ても似つかない。

 

だから当然だ。

 

 

きっとこの後にすごい強い人が「遅かったか……!!」なんて言いながらやってきて、

既にやられてる人たちのポジション。

 

それが私だ。

 

念のため階下へと続く扉を見てみたが誰も来る様子はなかった。

どうやら私は脇役にもなれなかったらしい。

 

「さらばだ、魔法少女たち」

 

反魔法力が更に高まる。

 

最後に浮かんできたのは、

憎きあの男の顔でも、大好きなお母さんの顔でもなかった。

 

真田天の笑顔だった。

 

涙が流れて、頭の中で何度も繰り返した。

 

天……天……天……。

 

「てーーーーん!!」

 

その時だった。

外から強い光が目に入った。

 

一瞬、外で爆発が起きたのかと思った。

だが、その光はずっと瞼を焼くようにずっと光り続けた。

まるで轟轟と輝く太陽のように。

 

怪物はもう、反魔法力を防御に回していた。

いや、防御するのが精いっぱいなのだ。

 

これは魔法力のもたらす光。

氷山の一角。

つまり途方もない魔法力の、ほんの残り香にすぎない。

 

「何が起こっている……?

つい今しがた陽が落ちたばかりだ……!! 太陽が昇るには早すぎる!!」

 

(博士、そういう時はこう言うんですよ……)

 

「その声は……!!!!」

 

私も田中ゆめも、さっき黒い塊が落ちた方を向いた。

今度はその方向を、すがるように見た。

 

まるで黄色い嵐が浮上してくるように、

その姿はあらわになった。

 

「おはようございますって!!!!」

 

「真田天!!!!」

 

身長の10倍はある巨大な日輪を背負って。

金色の嵐に抱きかかえられるように。

その少女は遥か宙の上を浮上していた。

 

「はは!! なによあなたそれ!! 空を飛ぶほどの魔法力って……!!」

 

真田天が生きていた。

複雑な感情の源泉は、単純にいうとそれだけだった。

 

「うん!! 何か飛べた!! 黒いのも気合で消滅させたよー!!」

 

真田天が笑顔で手を振る。

そんなことしてる場合じゃないでしょ、もう。

 

「ゆめちゃん!! こころちゃんは……!! どこにいるの!!」

 

急に指名されて田中ゆめの体がビクッと震えた。

俯いていたが、やがて意を決したように顔を上げた。

 

「お姉ちゃんは……この建物の一階の部屋に……!!

でも!! 酷い怪我で!! あれじゃあもう……!!」

 

「……大丈夫だよ、ゆめちゃん。こいつを倒して……」

 

真田天は一瞬、険しい顔をしたが、すぐに怪物の方を向いた。

 

「こころちゃんをすぐに病院に連れて行こう」

 

怪物はもう、何もしゃべらない。

今度こそ本当に始まるのだ、最終決戦が。

 

 

 

真田天のあの姿を見て、私の記憶もはっきりとしてきた。

 

前の戦いのときに、真田家から研究所を攻撃する際に見せた姿。

あまりのすさまじさに、信じられなくて、端っこに追いやってしまった記憶。

 

金色に浮かび上がるあの姿は――。

 

「アークは天!! 私も天!!」

(背中の日輪が一際大きく輝く)

 

「もいっちょ天!!!!」

(日輪を二重をして、逆方向に高速回転!!)

 

「魔法少女ォ!!!!」

(魔法力の圧で嵐を巻き起こす!!)

 

 

【挿絵表示】

 

 

「ガルガンチュアァァァァ!! アァァァァァァァァク……」

(すごい巻き舌)

 

「セカンドッ!!」

(嵐と日輪の中心には、少女がいた)

 

 

【挿絵表示】

 

 

「うおおおおりゃあああああ!!!!」

 

真田天の体から、嵐が巻き起こる。

もはや攻撃などという生ぬるいものではない。

純粋な巨大魔法力による大規模制圧。

 

嵐がその輪を広げ、怪物を飲み込む。

怪物の表皮が、めきめきと剥がれ飛んでいく。

 

強い。

 

このままいけば、もはや戦闘にすらならない。

真田天が接近しただけで怪物は消滅する。

 

人間にとっての天敵がアンチマジック・モンスターなら、

そのモンスターにとっての天敵としか言いようがない。

 

「はああああ!!!!」

 

真田天が嵐を巻き起こしながら、怪物へとゆっくり近づく。

怪物はじっと動けずにされるがままだ。

 

行ける、これなら。

 

「……っ!! 影ちゃん!! ゆめちゃん!! 逃げて!!」

 

私の頭に全くなかった言葉が飛んでくる。

逃げる?

だって真田天は完全に優勢のはずで……。

 

耳鳴りのような音が響き続けた。

隣の田中ゆめがうずくまる。

 

その体を抱きかかえるように覆いかぶさった。

反魔法力の高まり。

だからこそ、恐らくは既に魔法力の少ない田中ゆめにダメージが大きい。

 

私は怪物の方を確認した。

何もなかったはずの、首の部分から何かが生えていく。

 

「何……あれ……?」

 

ワニみたいなでかい口に鋭い牙。

違う、あれは――。

 

「進化……してるっていうの……?」

 

 

恐竜。

 

図鑑でくらいしか見たことのないその獰猛な姿が目の前に存在していた。

 

 

めきめきと剝がれていたはずの表皮が、何事もなかったようになっている。

怪物の体は固い鱗へと変化していた。

 

怪物が真田天の方へと突進した。

 

嵐は止まない。

 

怪物の口いっぱいから黒い光線が放たれる。

まるで黒い嘔吐物を思い切り吐き出すみたいに。

 

黄色い嵐がそれを削り取るようにかき消す。

 

「真田天!!!! 無茶しないでよ!!!!」

 

私の声はちゃんと届いているのだろうか。

 

でもどうすれば。

嵐を克服した恐竜は、泥の中でもがく動きで距離を詰めようとしている。

檻の猛獣が、眼前の人間に飛びかかろうとしている姿が頭をよぎる。

 

この例えなら人間は安全のはずだ、檻が保たれている限り。

 

「真田天!! あなた魔法力は大丈夫なの!?」

 

「うん!! だい……じょうぶ……」

 

「ちょっ、ちょっと!! 高度が下がってない!?」

 

真田天の高度はふらふらと下がっていく。

やはり飛んでいるだけで大量の魔法力を使用しているのだ。

 

「いったん降りなさい!!」

 

「無理だよおおおお!!」

 

あれは飛んでいるというより、真田天自身が飛ばされている。

なので、降りるというのは嵐が止んでしまうということ。

 

「どうすれば……!!」

 

この場にいるのは真田天と、田中ゆめと、私。

腕の中の田中ゆめは、小刻みに震えていた。

 

答えは決まっているはずだった。

 

私の体も震えていた。

 

不意に高橋真赤が連れていた小さな女の子を思い出した。

あの子は泣いていた。

もし私が失敗したら、世界はどうなるんだろう。

 

自分の人生だけでも悩んで、誤魔化して生きているのに、

何十、何百、何千、何万、何億の自分以外の人の人生を背負えるのかな。

 

このちっぽけな私に――。

 

 

 

真田天の歯を食いしばる姿が見えた。

 

研究所に来た時、姿が見えなくて不安になった。

屋上から落ちた時、我を忘れて激昂した。

 

今、この子はここにいる。

 

「何で……そんなに頑張れるのよ……」

 

もう目の前から消えてほしくない。

 

 

世界を救えるかは、正直わからないけど。

目の前の、頑張っているお人よしを助けても、罰は当たらない。

 

「真田天!!!! 私に合わせなさい!!!!」

 

「影ちゃん!?」

 

「世界を救うだけの責任(つみ)、私が半分背負うって言ってんの!!」

 

私は目線でありったけの決意を伝える。

心配しなくてもこの子はそれを理解してくれるだろうと思った。

 

残った魔法力は少ない。

それでもできることはある。

以前に真田天が言っていたモンスターの急所、それがこいつにもあるのなら。

 

「今度はお願い……!!」

 

私の周りにわずか三基だが、紫の光が現れる。

闇夜に溶け込む程度の光だけど、きっとこれは希望そのものだ。

 

「シャドービット!!」

 

ビットが次々になおも暴れ狂う怪物へと向かう。

魔法力が足りないなら、ぎりぎりまで近づけば……。

 

「!!」

 

「影ちゃん!!」

 

ビットがひとつ潰された。

怪物の横っ腹から生えてきた腕に呑まれて消えた。

 

私も膝をついた。

魔法力の使いすぎ、らしい。

 

怪物はこっちに向きを変えようとしていた。

 

「影ちゃん!! 逃げて!!」

 

「なに言ってるのよ!! こんなところで逃げたら……」

 

私は最後の力を振り絞って、生き残った二基のビットを動かす。

 

「魔法少女が廃るってもんでしょおおおお!!!!」

 

ビットが奴の表皮を、正確には鱗と表皮の間を攻撃する。

一枚一枚、しらみつぶしに撃ちまくる。

 

ビットの片割れが、わずかな違和を伝えてくれる。

 

「見つけた……!!」

 

 

もう主人公でも脇役でも、どっちだっていい。

だって私は、

 

 

お母さんの娘で、

 

 

真田天の友達の、

 

 

万物を包み込む優しき影。

 

 

「魔法少女ォ!!!!」

 

二基のビットが力を合わせて、一点を攻撃する。

 

「ガルガンチュア!!!! シャドォォォォ!!!!」

 

鱗が完全に剥げ落ちる。

そこから、黄金の旋風が流れ込んでいった。

 

怪物がすぐにその一点に黒いシールドを張る。

 

真田天は、ぷうっと頬を膨らましている。

もうだいぶ限界に違いない。

 

私は必死で頭をめぐらせる。

前はどうだった。

何かが起こって真田天の魔法力が大きくなったはず……。

 

「田中こころ……!!」

 

「え?」と田中ゆめが声を上げた。

 

「田中こころよ!! 何かワケアリなんでしょう……!?

なんとかして……田中こころの声だけでもあの子に……!!」

 

「……何を言っているんですか!?

お姉ちゃんは大怪我で……大怪我で……あ、あれ……?」

 

「どうしたの? 今更勘違いでしたはなしよ……おおん!?」

 

私と田中ゆめはそろって同じ顔をしていたと思う。

信じられない光景が、すぐ後ろに広がっていた。

 

 

 

 

 

黄の少女は最後の力を振り絞っていた。

嵐がもう長くはもたないことは、わかっていた。

 

黒いシールドもヒビが入り決壊しつつある。

あと一押し、ほんの一押しがあればこの戦いは終わる。

 

(こころちゃん……)

 

シールドが、また上から間に合わせでテープを張るように修復されていく。

 

(これが終わったら……すぐに助けるから……)

 

それを更に破壊するように風が流れていく。

 

(だからもう少しだけ、待ってて!!)

 

少女が目を閉じた。

 

「真田さん!! 頑張れー!!!!」

 

(こころちゃんの声が……記憶が……湧き上がってくるみたい)

 

「頑張れーーーー!!!! あと戦闘中は目を開けた方がいいよおーーーー!!!!」

 

(アドバイスまでしてくれてる……こころちゃんは記憶の中でも優しいなあ……)

 

「てかここ熱いね!! すごい風!!」

 

「お姉ちゃん!!!! お願いだからじっとして!!!!」

 

「田中こころ!!!! あなたやっぱり普通の人じゃないでしょ!!!!」

 

「……」

 

黄の少女が目を開け、視線を下げるとそこには

まさに頭で思い浮かべていたその人がいるのだった。

 

「こ……こころちゃん!?!?」

 

セーラー服が黒く、赤く汚れてしまってそれでも、

二本の足でしっかりと、いつもと変わらない自信に満ちた笑みで――。

 

田中こころは立っていた。

 

「何だか様子がおかしくて、ゆめもいなくて……とりあえず上ってきたの!!!!」

 

「お姉ちゃん!! お願いだから……本当にお願いだからじっとしてよ……!!

村田さん!! 何か……何か緊急の手当てを……お願いです!!」

 

「ええええ!? 私!? 」

 

「お願いします!! 生意気いってましたけど村田さんのこと割と頼りにしてます……!!

この通りです!!」

 

桃の少女が90度頭を下げた。

 

「わ、わかったわ。何か出すわ……。シャドー……」

 

紫の少女は魔法力を帯状に伸ばした。

 

「……包帯」

 

「ありがとうございます!! それでお姉ちゃんを巻いてください!!」

 

「で、でも魔法力は基本的に物質に干渉しないから止血はできなくて……」

 

「いいんです!! とりあえずお姉ちゃんをグルグル巻きにしましょう!!」

 

 

「真田さーん!! いけーーーー!! やれーーーー!! そこだーーーー!! むぎゅ!?」

 

「私がお姉ちゃんを押さえつけますから今のうちに!!」

 

「わ、わかったわ!!

……真田天!! こっちは大丈夫だから思いっきりぶちかましなさい!!」

 

 

黄の少女が一部始終を見届ける。

 

そして拳に力を込めた。

 

少女が生きていた安堵、そしてまだ危険な状態にある恐怖。

 

それはつまり、「いまここ」で「これから」を変えれるということ。

自分が頑張れば、傷つけば、救われると言うのなら――。

 

いくらでもそれをしよう。

 

「はやく戦いを終わらせて……」

 

嵐の勢いが強まる。

先ほどまでの勢いを3つ分重ねたような合力。

それはもう、掘削機を思い切り押し当てるような勢い。

 

「こころちゃんを病院へ連れて行くんだああああ!!!!」

 

シールドが、ガラスのコップを落としたように割れる。

そのまま黄金の風が怪物の中へと次々と流れ込む。

 

怪物の体が、内側から粉微塵に砕けていく。

ぱらぱらと、細かな粒へと変わっていく。

 

「うおおおりゃあああ!!!!」

 

嵐が収まった時には、怪物の姿はなく、

透き通った闇夜だけが残った。

 

「こころちゃん!!!!」

 

飛び降りるように着地を決めた黄の少女が、

その瞬間に駆け出す。

先ほど声を張り上げて自分を応援してくれた少女のもとへ。

 

「お姉ちゃん……!! 目を開けてよ……!!」

 

「真田天!! 田中こころだけど……その……さっきから静かになっちゃって……」

 

「こころちゃん……!! 大丈夫……!! 研究所の電話で、救急車を呼んでそれから……!!」

 

その時だった。

闇夜に甲高い音が響いた。

 

野鳥の類。

こんな状況で笑い声をあげる人間などいない。

 

そんな無意識の同意を無視して、

扉のある小部屋の屋根に立っている人間が

その場にいる全員を見下すように笑っていた。

 

あれは――。

 

「伊藤花!?!? 何でここに!?!?」

 

紫の少女が声をあげる。

その場にいる全員の代弁に違いなかった。

 

「さあ……どうしてでしょうね……?」

 

緑の少女がにんまりと笑顔を見せる。

それは楽しみを共有したり親睦の証などではなく、

敵意を伝え、自らの優位を誇示するものであった。

 

黄の少女が口を開く。

 

「……花ちゃん!! こころちゃんが大変なの……!! 力を貸して……」

 

「……悪いのはあなたなのですよ、天さん」

 

「え?」

 

「こんなもので私の心を縛ろうとするなんて!!!!」

 

緑の少女が放り投げたそれを、黄の少女はぶつかるように受け止めた。

 

それは商店街の雑貨店の袋だった。

 

黄の少女だけにはその中身がわかってしまった。

自分がプレゼントした緑の葉の髪飾り。

 

封をしているシールは綺麗に張られたままだった。

 

「だがそんなことも、もういいのです。これから新しい世界が始まるのですから……!!」

 

「田中ゆめ!! あなたはお姉さんを!! こいつは私が見張っとくわ!!」

 

「は、はい!!」

 

緑の少女が白銀の魔法棒を構える。

それは闇夜を吸うように、怪しく輝いていた。

 

「どこまでも状況が見えていない……!! フラワァァァァ!!!! エンプレ……」

 

「花ちゃん!!!!」

 

「な……!?」

 

緑の少女の視界が、黄の少女の顔面で覆われる。

気づかれぬ速度で既に飛び上がっていた。

 

「とりあえず……そこは危ないから……」

 

黄の少女が、抱きつくように緑の少女を抑え込んだ。

 

「降りて!!」

 

「!!」

 

二人が空中でもみくちゃになりながら、床に落ちる。

当然、受け身も取れない。

 

大の字になって二人が寝そべる形となった。

 

「なぜ……なぜいつも……いつも……寸前のところで……邪魔をする……?」

 

「いてて……。花ちゃん!! こころちゃんを今は助けたいから!! 手伝って……」

 

「田中こころおおおおぉぉぉぉ!!!!」

 

弾かれたように再び、緑の少女が起き上がる。

棒から緑の触手が、さっきまで怪物のいた位置へと、鞭打つように伸びていく。

 

黒い怪物の破片。

完全に消え去ってなかったそれへと伸び――。

 

到達する前に、破片から白い光が漏れていく。

 

 

白い光はゆっくりと、しかし確実に広がっていき、

 

必死の形相をした緑の少女も

 

驚きのけぞる黄の少女も

 

慌てふためく紫の少女も

 

深刻な顔をする桃の少女も

 

全てを飲み込んでいった。




  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。