魔法少女GL ~女の子たちの初手はいつだってルームシェア時空!!~ 作:MOPX
照りつける日差しの乱暴さで目が覚めた。
瞼が開ききることを拒否したのは、太陽がちょうど目の前にあったから。
熱い。
こちらの批難をきくはずのない存在は無視して、起き上がろうとする。
無理だ。
最初に気づいたのは手足の不自由さだった。
力を入れてもまるで虚空を手でかいているようだ。
足も同じ。
起き上がる動作が本来どんなものか、忘れてしまう程度には手足をばたばたさせた。
風が吹いて、砂が顔、特に唇のあたりにかかってくる。
思わず目を閉じるが結果は変わらない。
手でさすって、体をひねって横を向いて、ツバを吐いた。
最初からこうすればよかった。
私はそのまま身をよじらせ、顔を上げた。
一面に広がり隆起を形作る砂、高めの砂山、低めの砂山……
あとは不安になるくらい何もない青空と、何物にも邪魔されず轟轟と輝く太陽。
熱風が吹く。
私が羽織っていたボロ布が千切れんばかりの勢いではためいた。
どうやらここは砂漠というやつらしい。
私のすぐ横にはリュックサックらしきものが置かれていた。
なくしてしまわないよう、すぐに拾う。
どうせ私のものだろう。
中身は2リットルの水が3本。食料はない。
後は物干し竿みたいな棒。
ため息が出てくる。
どうせなら、無線など連絡が取れるようなものもほしかった。
それか照明弾か。
目を覚まして、わけのわからぬまま、私の命は最大の危機に晒されていた。
とりあえずこの鬱陶しい日差しから身を守らなければ。
砂漠では昼は太陽が照り付け温度が上がるいっぽう、夜は冷え込むと聞いたことがある。
どれくらい冷えるかはわからないが、移動は温度が下がり出してからにしよう。
リュックをもう一度よく確認する。
テントや衣服の類は入っていない。
日陰を作るため穴でも掘って、いま着ている服でもかぶせようか。
試しに砂をひとかきしようとするも、手を近づけただけで熱が伝わってくる。
運動靴で軽く削ったが、表面より下には熱はそれほど伝わってないのは幸いだった。
食糧はそこいらの野生動物を……。
などと考えている時だった。
遠くから黒い一団が驀進してきていた。
最初は手を振ろうかと思ったが、どうも様子がおかしい。
どちらかといえば動物の類だろうか。
でかめのサソリか? と思ったが尻尾がない。
いっそサソリであれば頭がすんなり理解してくれた。
あれはカメムシだ。大量にこっちに向かってきている。
カメムシの体で、足だけが忍者みたいに残像ができる速さで動いているのだ。
一体一体が恐らく自分よりでかい。遠近感もバグってしまったのか。
虫だけに、などと言っている場合ではない。
吐いたため息も、熱風の一部となった。
せめて食べられる生物がよかった。
あいつらは食べれないと私の本能、いや記憶が嘯いている。
やるべきことはわかっていた。
リュックに手が伸び、役に立たなさそうな物干し竿を掴みあげた。
「渇ききった地獄に咲く一輪の花……」
(砂と靴の擦れる音をあたりに響かせる)
「魔法少女ォ!!」
(頭に付いていた花を放り投げ、それは熱とともに散っていく)
「ガルガンチュア……フラワー!!」
(羽織っていた布で隠れていたのは、獰猛冷酷な鋭い眼光だった……)
「さあ、どちらが獲物かわからせてあげましょう!!」
魔法棒を砂へと突き刺す。
カメムシ軍団は、牽制といわんばかりに口らしき部分から黒い閃光をこちらに放ってきた。
瞬時に私の体が動く。
足で砂を蹴り、視界が回り、手で砂を蹴り、しなるような回転とともに体がもとの向きになおった。
一連の動作が終わった後、私は後方へと着地していた。
どうやらバク転というやつを決めたらしい。
カメムシ軍団の先頭がさっきまで私がいた位置にさしかかった。
「フラワーマイン!!!!」
爆発するように地中から緑の根がそびえ立つ。
3本ほど、あたかもそこにあったかのような根の下で、
カメムシの体は同じく3体ほど串刺しになっていた。
破壊力に優れる分、空間的にも時間的にも範囲が短い。
だから探知式だ。
カメムシ軍団は同胞が消滅していったことも気にせず、
我も我もと突っ込んでくる。
数は10体以上。正確に数える気力はとてもじゃないが湧いてこない。
汗が噴き出していた。
じっとしているだけでも失神するほどの暑さ、いや熱さなのだ。
もはや空気が皮膚を焼いているといって過言でなかった。
棒を握りなおす。
その棒に魔法力による緑の茨が巻き付いていく。
こんな雑魚ども……私の敵では……一体ずつ蹴散らして……。
朦朧とする意識の中で私の頭は、車のクラクションのような音を聞いた。
ついに頭までおかしくなってしまったのだろうか。
カメムシが突っ込んできて、私が吹っ飛ぶ。
そうだ、これが反魔法力と魔法力の反発。
砂をクッションに後方回転式の受け身を決めると私は目を疑った。
後方の遠く離れたところから、
トラックのような物体がまっすぐ向かってきていたのだ。
車のクラクションのような音は、車のクラクションだった。
トラックのような物体は、トラックだった。
いやしかし、トラックというにはいささか大きい。
その高さは見慣れた一般的なそれの2倍程度の高さはあるように思えた。
ご丁寧に、遠近感はバグったままらしい。
前門のカメムシ、後門のトラック。
――どうする。
カメムシに負ける気は毛頭ないが、熱さで倒れるのとトラックに轢かれるのは十分にあり得るシナリオだった。
考えに充てれる時間は残り少ない。
高さ指定をバリバリに引っ掛かりそうなそのトラックのエンジン音までが聞こえてきて――。
トラックの両の扉が勢いよく開いた。
向かって右の扉から黄色い光が駆け出すように、
向かって左の扉から紫の影が這い出るように出てくる。
黄色い光はまっすぐと淀みない動きでこちらに突っ込んでくると、
そのまま加速を続ける。
これは私と同じ人間だ。
その大きさから、成長期を終え、十分に発育を終えた人間だ。
知り合いにそんな人物はいないはずだった。
その人物が横を通り過ぎていく。
黄色いものは、私が身に着けているものと同じ、布だった。
私と同じ物干し竿のようなものを持っていた。
そして、覗いた横顔に、その愛らしくも強い瞳に私の意識は吸い込まれた。
そう、この方は――。
「天さん!!!!」
「花ちゃん!!任せて!! アァァァァク……ウェイブ!!!!」
天さんが後ろに大きく魔法棒を振りかぶる。
いつもよりダイナミックな動作で、かつ素早く振り下ろされる大鎌。
カメムシの大群は、その全てが黄色い粉塵に呑まれていった。
「はああああ!!」
粉塵が収まる前に、右へ左へ、天さんが大鎌を振るっていく。
まるでワルツでも踊るかのように、流れる動きで一体一体が消滅していく。
あまりにもあっけなく、モンスターどもを刈り取っていく姿は、
まさに怪物たちにとっての死神。
「さすがです……天さん……!!」
感極まって涙を流しそうになる。
天さんが私のために、健気にも力を振るっているのだ……。
と、良い気分にトリップしている私の横に紫のボロ布をかぶった人間が立っていた。
「も~あついあつい……」
手をパタパタと仰ぎながら紫の人が天を仰いだ。
見たところこの人も成人だろうか。
「ったく、また突っ走ってこの子は……私もやるわよ!!」
なんだこの人は。天さんに妙に馴れ馴れしくなかろうか。
しかし軽口を叩きながらも、紫の人は手際よく武器を出現させ怪物へと構えた。
「シャドーショットガン!!」
怪物に一発で無数の弾痕が付き、後方へと吹っ飛ばしていく。
一発で一体、一撃での消滅。
まあ天さんほどではないが、強い方なのでしょう。
カメムシ軍団はもはや小規模な分隊と化していた。
いまや壊滅寸前。
私が戦うまでもないでしょう。
天さんの勇ましい戦闘風景をそのマナコへと焼き付けるのだ……。
「アークスラッシュ!!」
気持ちよい流線形が描かれてカメムシが引き裂かれていく。
残りは一体。
どんな最期を晒すのかと、楽しみな気持ちすら湧いてきた。
その虫の取る行動は、さあ、何でしょうか。
「花ちゃん!! 気を付けて!!」
「え?」
最期の一体が取った行動。
それは捨て身の特攻だった。
それ自体は別にいい。
選択肢がなくなった雑魚の最後のあがきでしょう。
しかし進路がおかしい。
あろうことかまっすぐと私に向かってきているのだ。
なぜ?
もしやとも思うが、この中で一番勝算があるとでも思ったか?
こともあろうに、私が一番弱いとでも――。
血管が切れる音がした。
「フラワァァァァ!! チェーンソォォォォ!!」
向かってきた怪物がその勢いのまま無残に裂けていく。
そのまま狂ったようにじたばたと、その場でもがいている。
「……制裁、ですわよ」
勝鬨のように魔法棒をそのまま突き立てる。
カメムシ軍団、ここに壊滅す。
よく考えたらこいつらは魔法力に反応するので、
むしろ私が強いからだったのかもしれない。
そう思うと少しは溜飲も下がった。
さて、そんなことよりも私には使命がある。
その姿をマナコに、脳に、魔法力に焼き付けなければいけない。
「天さんのボロ布軍服姿……!!」
「終わった~花ちゃん大丈夫?」などと言いながら駆け寄ってくる彼女の姿は
いつもとは違う艶やかさを伴っていた。
はためく布は、見えぬ労力を可視化したようにところどころが破れている。
大人しめの暗い色を基調とした服は、中央の黄色い線と二列に走った大きなボタンが特徴的だった。
西洋の貴族を連想させる高貴さ。
それでいて真っ黒なスカートとタイツが何物にも染まらぬ強い意志を示しているようだ。
したたる汗がもはや神々しい。
老廃物が溶けたような臭いがするのもまた一興。
生命の脈動。
その荒々しさを感じさせつつも、中には決然たる想いを秘めていると言えよう。
100点満点の、100兆点。
ボロ布で気づいたが私も色違いの同じ格好をしていた。
俗にいう、お揃いである。
「ひゅひゅ!! お揃い!! ひゅひゅひゅ!!!!」
「暑さにやられたのかと思ったけど元気そうね……ある意味。
あなたには言いたいこともあるけど、とりあえず無事でよかったわ」
紫の方がやれやれとでも言いたげな表情を浮かべていた。
私はその方を鋭く見たが、天さんの方へと歩いていく。
「さあ真田天!! ループ後の記憶チェックよ!!
私の名前、……わかる?」
「影ちゃん!! 村田影ちゃん!!」
「研究所はどうなる?」
「モンスターがいっぱい出てくる……!!」
「その事件の黒幕は?」
「……え、……その」
「あんな奴に気を遣う必要ナッシング!! その事件の黒幕は!!」
「……博士。研究所の所長の零博士」
「最後に念のため!! あなたの名前は!?」
「アークは天!! 私も天!!」
(砂を思いっきり踏み込んで!!)
「魔法少女ォ!!!!」
(羽織っていた布を投げ捨てて脱ぐ!!)
「ガルガンチュアァァァァ……」
(汗を太陽にきらめかせながら)
「アァァァァク!!!!」
(熱風吹きすさぶ大地の上で)
天さんのかすれそうな声が砂漠で響く。
紫の人は何が不満だったのかふうっと息を吐いていた。
「そこは真田天でよかったんだけれど……」
「えへへ……」
黄色い布に駆け寄り、拾い上げながら
天さんは茶目っ気のある必殺スマイルを繰り出していました。
天さん、その笑顔が私を駄目にさせるのですよ……。
紫の人の視線が、天さんの頭の頂点から足の先まで、
体をなぞるように移っていった。
「それにしても……あなた……大きくなったわね。いろいろと。
当たり前かもしれないけど光さんに似てるわ、いろいろと……」
「本当!? 影ちゃんも大きくなってるよ~」
「そ、そうかしら?」
紫の人が左手を曲げ、右手を斜めに伸ばす謎のポーズを取る。
恐らくはモデルを意識したのだろう。
頭身から考えると、天さんの身長は165センチ程度だろうか。
隣の人と並んでも数センチは高い。
「完成されたバランスは一種の芸術のような輝きを放っていました。
嗚呼、私の胸をくすぐるために生まれてきたとでもいうのでしょうか……。
その姿はまさに砂漠の精神的オアシス……。……熱い」
「伊藤花もとりあえずあのトラックに乗りなさい。
冷房がガンガンに効いてるわ……よ……」
私が近づくと、紫の人の視線がこちらに釘付けになっていた。
天さんも声を上げ、こちらを見上げている。
目が覚めてから体にあった違和感はこれか。
自分では気づかなかったが、私の体も大きくなっていたのだ。
私は二人を見下ろす程度には背が高かった。
自分でいうのもなんだが、それこそモデルみたいな体型をしている。
「大きくなったね~」「大きくなったわね……」
たった二人のオーディエンスを相手に、
私は体を傾け、両手を後頭部に回してアピールをするのだった。