魔法少女GL ~女の子たちの初手はいつだってルームシェア時空!!~   作:MOPX

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1. Overture ~沙漠の魔法少女~(後)

トラックの中は、外で見た印象より更に広かった。

運転席と後ろの荷台の部分が直結しており、

ソファーや冷蔵庫、敷き詰められたマットに二段ベッドも備え付けられていた。

衣服もかけるスペースがあり、黄色いヘルメットと紫のベレー帽が並んで掛けられていた。

 

中央は、小さく円形に切り抜いたようにそこだけマットがなかった。

 

「めちゃ快適ですわね……!! 天さん、どうやってこれを……!!」

 

「私たちも目が覚めた瞬間に乗ってたからよくわからないんだ~。

でも便利そうだよね!!」

 

「あなたは助手席だから良かったでしょうけどね……

いきなり運転席に座ってて生きた心地がしなかったわよ……」

 

水を鱈腹と飲み、マットで寝そべりながら会話をする。

こんな快適空間で天さんとゆっくりお話しできれば……と思う。

ので、せめて情報収集の体を取りながら粘り強く誘導していきたい。

 

「場所は、どこなんでしょうか? 砂漠のある地域となりますと限られてくるかと思いますが」

 

「うーん。何もないから難しいよね。地図があれば……」

 

中央のマットがない部分から飛び出すように半透明の直方体が現れた。

天さんは私がやったの!? といわんばかりに目をぱちくりさせている。

そんな姿も愛らしいのですよ、天さん……。

 

「出ちゃったね……!! 地図!!」

 

「……音声認識なのでしょうか。地図!! 現在位置を!!」

 

地図はどうも世界地図を映したままうんともすんとも言わなかった。

確かに地図ではあるが、舐められた気分である。

 

「えっと……もっと詳しく言った方がいいのかな?

この辺りの情報と、最寄りの駅をお願いします、地図さん!!」

 

地図は一瞬で切り替わると、中央に小さいトラックの模型を表示した。

斜め視点であり、どうやら3Dというやつらしい。

 

トラックの大きさが正しいと仮定すると周囲数キロメートル分の情報はありそうだった。

 

しかしなぜ私の声を無視し、天さんの声には即座に反応したのか。

私とて天さんのお声を聞けば元気漲るが。

 

「言い方が悪かったんじゃないの~?」

 

グレープジュースをごくごくと飲みながら、

紫の人が小言を投げてきた。

天さんが目の前にいなければメンチを切らしていただいたところでしょう。

 

「で、真田天。最寄りの町はどっち? 時間ももったいないし、さっさと飛ばしちゃいましょう!!」

 

「ちょっと待ってね。えーっと私たちの向きがこっちだから……」

 

天さんはしばらく、口を開いたままで動かなかった。

 

「……下」

 

「へ? 下って……あなた……地図読むのへたっぴか。

南ってことでしょ?」

 

「う、うん……そうだよね」

 

「……?」

 

紫の人が運転席へと向かった。

天さんは地図上にいくつか存在する点にしなやかな指先を近づける。

 

初めて見た生き物を触るかのように震えていたそれが、点と重なった瞬間。

写真で撮影したような建物の外観が飛び出すように表示された。

 

研究所、学校、商店街、住宅街。

 

いずれもトラックよりも「下」にあった。

 

天さんは悲痛な面持ちで下を向いていた。

私たちがさっきまで踏みしめていた砂。

私が穴を掘ろうとした砂。

その果ては一体どうなっていたのか。

 

私は彼女になんて声をかけるべきかわからなかった。

 

 

だって私は、何も感じなかったから。

 

 

紫の人は既に運転席についていた。

 

「じゃあ、車出すわよ~」

 

「運転、大丈夫なのですか?」

 

「ふふーん、何か変わった操作だからこれ!!

替わらないわよ!!」

 

単純な能力としてできるかどうか聞いただけなのだが、

言い返すのが前提みたいな調子で返ってきた。

 

私は返事をせず運転席の方に目をやる。

ハンドルはついておらず、代わりに半球状のでっぱりが二つあった。

どうやらそこへ手を乗せて操作するらしい。

 

乗っかった手から紫の光があふれる。

 

私は持っていた水を飲み干す。

しかし砂を走るとなると、そもそもまともに進むのか。

先ほどは気が動転してよく見ていなかったが、砂埃も舞っていなかった気が……。

 

ふわりとした、エレベータが上昇するみたいな感覚。

あるいは電車が停止する直前のあの感覚か。

それとなく浮かんだとことがわかった。

 

どうもこのトラックは浮遊しているらしい。

 

「しかし不思議よねえ。こんな車……。

操作わかるんだし、免許も持ってるのかな、私」

 

「……影ちゃん、どういうこと?」

 

「やあねえ真田天。これ多分、未来の世界でしょ。

じゃなきゃ私たちの体が成長してる理由が説明できないもの」

 

未来の世界。それで説明がつくことも多いのかもしれない。

 

しかし果たして、それだけで必要十分な説明ができるのであろうか。

 

改めて、この車と呼ぶには巨大な乗り物の内装を確認する。

単なる移動に使うには設備が充実しすぎている気がする。

 

小型の拠点。

そういった方がしっくりとくる。

 

地図に私も触れようとしたが、ピリピリと痺れが走る。

この地図は魔法力により構成されている?

 

 

魔法力は、魔法少女でなければ発することはできず、

保存などもできないはずだった。

 

音声認識にしてもそうだ。

そんな技術があるのは聞いたことはあるが、こんな形で実用化するにはもっと年月がかかるのではないか?

私たちが成人するまでの年数を勘案しても、技術が進みすぎている気がする。

 

「トラックというよりキャンピング魔法カー、といったところでしょうか。

これほどの設備……いったい誰が用意したのか」

 

「なるほど、私たちを舞踏会へといざなうカボチャの馬車ってとこね……」

 

独り言のつもりだったがなぜか相槌が返ってきた。

どうせなら天さんからがよかった。

 

「真田天、あなた研究所の手伝いしてたのよね?

こんなトラックを作ってたりしてたの?」

 

さっきから口数の少ない天さんが顔をあげた。

どうやらまだ、地図のことを考えていたらしい。

 

「……うん。私はよく真赤ちゃんとお手伝いをしてたけど、

魔法力を通しやすい服の研究とか、魔法力を探知するセンサの研究とか……

あんまり関係ないかも……ごめんね」

 

「何で謝るのよ」

 

天さんの言う通り、研究は素材や受信機の基礎的なものにとどまっており、

こうした応用には程遠いはずだった。

 

要するにこんなトラックが存在すること自体がおかしいのだ。

 

「まあ何でもいいわよ。早くこの世界でもあの男の野望を阻止しないと……」

 

「……博士っているのかな」

 

「何? もうあれでってこと? そんなことは……なくはないのか。

誰かさんが乱入してウヤムヤになっちゃったけど」

 

「何かあったのですか?」

 

「どの口が……!! って本当に忘れてる可能性もあるのよね。

私と真田天はかつてない早さで記憶が戻ったわけだけど……。

本当に、目が覚めた瞬間いるのだもの、ビックリしちゃった」

 

頭がずきりと痛んだ。

記憶は魔法力に保存されている。

 

確か、他でもない私が言ったことだ。

 

だとするなら何かが私の魔法力を阻害している?

あるいはつらいこと、悲しいことを封印してしまっているのか。

 

小さな子供が、部屋の片隅で震えるように。

 

そっと天さんに手を伸ばそうとしたが、手は虚空を切っていた。

当人は既に立ち上がって車の中を物色していた。

悲しみを紛らわすためなのか、前を向いて少しでも情報を得るためなのかは判断がつかなかった。

 

「……これ」

 

天さんがいくつか並んだ固定棚を開けていた。

だいたいは生活用品や救急箱などが入っているようだったが、

その棚だけ様子が違うようだった。

 

小物がひとつ。

その棚にはそれだけだった。

 

ある意味ではその空間を占有しているとも言えたし、

ある意味では孤独に見えた。

 

「これは……緩衝材にくるまれてますが、アクセサリーでしょうか?」

 

「……花ちゃん、これ、見覚えない?」

 

「いいえ、ありませんが……天さんにはあるのですか?」

 

「……ううん、いいの、何でもない」

 

「?」

 

緑色のそれは再び棚にしまわれた。

何だったのだろうか。

 

沈黙が流れる。

私は決して悪い意味とはとらず、これからの話をすることにした。

 

私と天さんのこれからの話だ。

 

「……独りで寂しい時間はあるものですよね」

 

「……うん、そうかも」

 

そうした時に縋るものが必要なのだ。

私は運転席の方を見た。

 

「こうしていても考えてしまうのです。

あの運転席に私が座って、助手席には天さんがいて……そのままどこか遠くに行けたら、なんて。

ふふ、少しロマンチックが過ぎますかね……?」

 

「……」

 

「……天さん?」

 

「……え? あっ!! ごめん!! ちょっと考えごとしちゃって……!!

こころちゃんはどうなったのかなって……」

 

 

頭が割れた。

 

そう錯覚させるほどの激痛と衝撃が、頭から全身へと伝搬する。

 

足に力が入らずうずくまり、耳から声が聴こえてきた。

頭から不快感が湧いて、たちまち体中を満たしていった。

まるで私ではない何かが、目を覚まして体を乗っ取る感覚。

 

しかしその何かは、私そのものだった。

 

「ここは未来の世界……もっと正確にいうならあまたに存在する平行世界のひとつ」

 

「……花ちゃん?」

 

背中をさすっていた人間が素っ頓狂な声を上げた。

運転をしていた人間の「止めた方がいい!?」という声がしてきた。

 

「ループとは違う、もっと早くから分岐したのでしょう。だからこそこんなものがある」

 

この車の持ち主は真田天と村田影だ。

だからこそ、私の声に反応しなかった。

 

「砂漠が広がっているのは反魔法力が世界を覆うのに成功したからでしょう。

命という命が吸い上げられた。……それこそ、根こそぎね」

 

「何を言ってるのよ、あなた!!」

 

車が何もない砂漠を走っていたのはなぜか。

直進していたのだと仮定したらその先にあったのは何だ?

 

「……こんな風になるの、嫌だよ」

 

「天さん、これこそが私たちの戦いの行き着く先……。いや……」

 

モンスターの大群がこっちに向かっていたのは何だ?

もしも襲われたのではなく、配下を呼び寄せていただけなのだとしたら?

そこに運悪く、別世界の魔法力が宿ってしまった。

 

「反魔法力の行き着く先!!!!」

 

「車!! 止めるわよ!! 真田天!! そいつを抑えなさい!!!!」

 

「で、でも……!!」

 

「止める必要はない!!!! アクセルを踏み込むのです!!!!」

 

喉が張り裂けるような大声が出る。

これを出しているのは自分か?それとも私か?

 

「な、なんですって!?」

 

「そもそもここに来たのはなぜ!?

恐らくはこの車……この装置が私たちをここに呼び寄せてしまった!!!!」

 

「花ちゃん!! 落ち着いて!!」

 

「私たちが戻るなら!! 限界速度を超え宇宙の壁を越えれば恐らくは!!」

 

「何を言ってるの!? わかるように言って!!」

 

「操作はできなくても、魔法力を暴走させることはできるはず……!!」

 

「花ちゃん!?」

 

私の体から光が放たれていく。

この空間を満たして、まるで破裂しそうなほど。

 

「アクセルを踏めええええ!!!!」

 

「あああああぁぁぁぁ!?!?」

 

 

 

 

 

景色が変わった。

 

小さな点のような星々。

凍てつく寒さ。

そして無限に広がる暗黒。

 

ここは私たちの頭上に広がる砂漠――。

 

「う、……宇宙????」

 

「……影ちゃん!! よくわからないけどやったね!!」

 

「こ、これで帰れる……? うそうそうそうそ……」

 

「帰れるのです……これで……」

 

ここでの記憶が甦ってくる。

 

太陽の熱さ、踏みしめる砂の感覚、カメムシ軍団、成長した体、でかい車。

 

それらはまるで空気中に投影され、閃光と化して私たちを一瞬で通り抜けていく。

 

車はもうとっくに半透明だ。

 

最期に、純粋な、強い、白い光が私たちの正面へ現れ、

どこまでも、際限なく巨大になってこの体を飲み込んでいった。

 

何が起こってるかはわからないが元の世界に「私」は戻る確信はあった。

 

この魔法力が帰った時に、元の体に巣くっていた『私』はどう思うのか。

いや、どうなってしまうのか。

 

 

もはや関係のないことだ。

 

こうして私は、紆余曲折の後に、

どこか懐かしさのある荒涼とした大地から脱出したのだった。

 

 

 

 

 

目が覚めると、天井の照明で唯一灯っている豆電球の弱々しい光が入ってきた。

くらくらしている頭を上げ、体を90度起こす。

おそらく自分の人生史上、最もわけがわからない夢。

鏡を見ればげっそりとした顔が跳ね返ってきたであろう。

 

こんなものが点いてるから、と苦々し気に豆電球をにらむ。

 

念のため、ポケットに手を入れてみたが、

「あの時の砂が……!! やっぱり夢じゃなかったんだ!!」なんてことはなかった。

あったら流石に怖すぎる。

 

ため息をつき、朝の準備に入る。

いつもは良かった夢、悪かった夢などと採点をするのだが、

今回のはどちらともつかなかった。

 

ただ、そんな夢の中にも忘れてはいけないことがあった。

それは――。

 

「……成長しても天さんは魅力的な方だった、ということです。ふふ」

 

トイレで水を流すがごとく、それ以外のことは綺麗さっぱりと忘れて朝のルーチンへと入るのだった。




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