魔法少女GL ~女の子たちの初手はいつだってルームシェア時空!!~   作:MOPX

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2. Aria ~霧中の魔法少女~(後)

高橋真赤は、明らかに不機嫌だった。

いつもの仏頂面がかわいらしく見えるほどの、周りを寄せ付けぬオーラ(魔法力ではない)を放っていた。

一体どうしてこんなことに……。

 

天さんは研究所で警報を聞き、すぐにやってきたらしいが

それでも研究所からここまでは幾分か時間がかかる。

先ほど見たモンスターは出現してすぐに見えたが……。

などと話していたらぼそっと「まだいるんじゃない」と、早口かつ低い声で伝えてきた。

 

それ以来、高橋真赤は口を開いていない。

 

「真赤ちゃん、体調わるいの……? 食べすぎ……?」

 

「違う」

 

「あう……。ご、ごめんね!! お詫びに私のほっぺ、プニプニしていいから……!!」

 

「……知らないよ、もう」

 

「あううう……」

 

「天さんのほっぺたプニプニ権、買い上げてよろしいでしょうか?」

 

高橋真赤がこちらを睨んできた。

 

「どうしたのですか真赤さん? いつも冷静なあなたらしくもない。

何があったかお話いただけますか?」

 

「……っ!!」

 

「ま、真赤ちゃん!?」

 

「あ”あ”ぁ”ぁ”~~~~!!!!!」

 

「お”お”ぉ”ぉ”!?」

 

高橋真赤が人指し指で天さんの頬を目にも止まらぬスピードでズブズブと連打した。

天さんが素っ頓狂な叫び声をあげている。

 

どうやら天さんのほっぺたプニプニ権は買い付け失敗したらしい。

こんなことなら無理にでもお小遣いビンタを強行すべきでした、失敗。

 

しかし、まあ許しましょう。

こんなにも天さんの黄色い悲鳴を聞くことができたのだから……。

 

 

「あ……!!」

 

天さんが声を上げる。

その視線の先、公園には大型の遊具くらいのサイズの昆虫――

いや、モンスターが浮遊していた。

 

今度は見間違うことはない。

あれは蜂だ。

強いていうならスズメバチだ。

 

「女の子が……!! 助けなきゃ!!」

 

「待って!!」

 

天さんの声を受け、高橋真赤が声を張り上げる。

公園の遊具の下を注視すると、小さな輪郭が見えた。

どうやらうずくまっている人間がいるらしい。

 

「止まったね真田さん。ちゃんと連携しようか」

 

「……うん!!」

 

「伊藤さん……暴走しないでよ」

 

「なぜ私が……!!」

 

「本気で言ってたらすごいよ」

 

「まあまあ!!」

 

天さんの一声で私も前を向く。

 

蜂型が残像を残し、消えたかと思うと数メートルに……また消える。

ジグザクに、遊具の周囲を斜め上へ、下へ。

かなり動きの速いタイプとみて良さそうだった。

 

「真田さん、あいつの動き止めれる?」

 

「……難しいかも」

 

天さんでも難しいなら高橋真赤も無理でしょう。

言ったらまた不機嫌になりそうだから静かにしておくが……。

 

高橋真赤が言ったのは鎖鎌モードで使う鎖により拘束のことだろう。

天さんのように魔法棒の複数のモードを使いこなすものは少ない。

 

魔法棒なしで戦えるものとなると、もっと希少だ。

この近辺では恐らくいないのではないか。

 

蜂はそう言っている間もヒュンヒュンと飛び回る。

それなりに大型でもあるから初手を間違えば苦戦を強いられるかもしれない。

しかし、私とてモンスター対策部Cチームのリーダー。

この肩書、自分でも忘れていた気がするが、いま思い出したので問題なし。

 

「3人で突っ込みましょう」

 

「は? それでいいの?」

 

高橋真赤はやはり不機嫌だ。

私は唇を尖らして抗議した。

 

天さんが意を決したようにこちらを向く。

 

「私が女の子のところへ走る!! だから二人は怪物を……お願いしてもいいかな?」

 

「……いいの? 真田さん。モンスターがそっちへ向かったら一番危険だよ……?」

 

二人で話が進んでいたが私は逡巡する。

勇ましい天さんを見届けるか、自分が危険な役を買って天さんからの敬慕を高めるか。

 

悩んでいるのは、既に一歩遅かった。

天さんは鎌を持ち、蜂と接触する――かに見えた。

 

翅を打ち鳴らしていた、その姿が消える。

ジグザクに、一定の時間ごとに確実に距離を詰め、そして――

私の数メートル先まで迫っていた。

 

「こっちに来ましたわね!!」

 

「今度は無茶しないでよ!! 頼むから!!」

 

蜂の動きが、瞬いていた翅さえが止まった。

空中に直立不動。

これは何かある。

 

その証拠に尻の針には反魔法力が蓄えられているようだった。

 

「チェーンソーで受けますわ!!」

 

「無茶するなってばああああぁぁぁぁ!!!!」

 

敵の攻撃より先に高橋真赤の悲鳴とタックルが横から飛んできた。

だがこれしき……私の体幹をもってすれば……。

 

「な……!?」

 

私の足がぐらつく。

この短期間で私の重心を把握し、効率的な体の当て方を体得したとでもいうのか。

 

私と高橋真赤はもみくちゃになり、半ば押し倒される形になってしまった。

不本意にも。

 

私たちの頭上を反魔法力の砲弾が飛んでいく。

あれしきなら叩き落せたと思うが……どうも戦い方が嚙み合わない。

 

自分は当然、独りで戦うことを想定している。

目の前で苦痛で顔を歪ませる人間も、性格を考慮すればそういうタイプであるはずだった。

 

「真赤さん、どこか痛めましたか?」

 

「おかげさまでね……!! っ~!!」

 

どうやらコケた時に足を怪我したらしい。

 

遠くに心配そうにしている天さんの姿が見えた。

その陰で子供を隠している。

モンスターが急にあちらへ向く可能性もあるので手出ししにくいのだろう。

 

ならば、と私が魔法棒を構える。

鋭さ帯びた緑の魔法力を、そこへため込む。

 

「フラワーチェーンソォォォォ……」

 

「それじゃあ、あいつの動きには……!!」

 

「ブゥゥゥゥメラン!!!!」

 

私が魔法棒をぶん投げる。

蜂を目指して真っすぐに飛んでいき――

もう蜂が消えたその位置を、空気を切り裂いて通り過ぎた。

 

次に蜂が姿を顕した時。

私の目の前だった。

 

「武器ないじゃん!! どうするのさ!!」

 

地に伏せる赤の少女が咆哮する。

どうやらだいぶ精彩を欠いているらしい。

 

「僕の魔法棒を……!!」

 

「必要ありません。なぜなら……」

 

緑の魔法力をまき散らしながら。

 

「もう勝負はつきました」

 

私の魔法棒が帰ってくる。

 

断末魔の代わりに、渇いた鈍い音。

 

突き刺さりはしない。

ただ通り抜けていくだけ。

 

奥側から手前側に。

 

怪物の、上半分と下半分を吹っ飛ばしながら。

 

私は戻ってきた魔法棒をキャッチすると、そのままの勢いで斜めに振った。

その姿に天さんも釘付けであろう。

 

「これにて公演は終了です。怪物の断末魔、その叫びが織りなすハーモニー……いかがだったでしょうか……」

 

 

公園から怪物がこちら向かっている時に、動きが一定の時間間隔なのを見逃さなかった。

すなわち、連続であの動きはできない。

更に、私を襲うためには目の前に出てくるはず。

 

つまり分の良い賭けだった。

 

「……」

 

高橋真赤は憮然としていた。

もしそんな風に考えていたなら共有しろ、とでも言いたげだった。

 

いつもはこうした分析はこの方の得意分野なのですが、まあ調子が悪いこともあるでしょう。

なぜか別のところに意識がいってそれどころじゃなかったとか、……なぜか。

 

さあ、天さんは先ほどの戦いを見てどんな感想を……。

 

「……?」

 

天さんの顔は、巨大な黄の球体にさえぎられ見えなかった。

どうやら攻撃をこちらに……こちらに向けている???

 

「天さん……???」

 

「ごめん花ちゃん!! 私、遠くから援護しようと思って!!!!」

 

天さんは遠方の射撃は不得手としている。

詳しいので……、はい。

 

「何発も撃っても当たらないかもしれないから……!!」

 

既にモンスターは倒しているのだが、球体の魔法力は高まっているらしい。

 

「溜めてから一発ドカンといくことにしたの!!!!」

 

なるほど、極太ビームを商店街を沿うように発射すればどこにも逃げ場はないということだ。

……無論、私たちにも。

 

「……上、せめて上とかに撃ってもらって」

 

高橋真赤の声にはもうやる気が微塵もなかった。

今日はもう業務時間が終了したらしい。

余談だがこの人は将来、公務員とかになっていると思う。

 

「天さん!! 上へ向けれますか!?」

 

「んんんん!!!!」

 

踏ん張る天さんの声。

されど球体は微動だにしない。

 

歯を食いしばっているであろう天さん。

それを目を輝かせ興味津々で見る横の小さき女児。

「厄日オブ厄日じゃん……」ともはや力なく笑う高橋真赤。

 

私は体にぐっと力を込めた。

 

 

 

待てど暮らせど忍ぶれど

 

天からきたるは雨ばかり

 

しかしてこれが運命ならば

 

咲かせてみましょう、女の花

 

それでは天さん、張り切ってどうぞ。

 

 

「アークキャノン出ちゃうよおおおお!!」

 

 

警告であっただろうその叫びとともに、私たちの体は黄色の魔法力に包まれた。

 

しかし大丈夫だ、

 

魔法力は人体に無害であるというのが通説。

 

少し目を閉じれば、何事もなく終わっている。

 

「ぎゃ……」

 

ぎゃ?

 

「ぎゃああああぁぁぁぁ!!!!」

 

獣のような叫び声。

一体誰から発せられている?

 

喉が、ひどく痛い。

でも、そんなはずはない。

 

こうして、こうして目を閉じれば――。

 

 

 

市街地での戦いが幕を開けた。

 

私は、まるで神様になったかのように真上からその戦いを眺めるのだ。

 

有象無象の魔法少女どもが、大量の虫に恐れ、慄き、発狂している様。

虫は大地を埋め尽くすように、ある点からシミが広がっているように

淀みなくその数を増やしている。

 

魔法少女たちが撤退をしていく。

それはほとんど逃げ出しているといってよかった。

 

本能に身を任せた、自己の生存のみを目指すその動き。

野生動物のような一様な行動様式に、

日ごろ説かれている道徳も知識も全くの無力なのだと感じる。

 

あるいは私が、そう感じたいのかもしれなかった。

 

ただひとつ、黄色い一点だけが、レーザーポインタを振り回したみたいに

高速で移動していた。

 

他が阿鼻叫喚の地獄だとしたら、そこだけは床掃除でもしているようだ。

嵐を巻き起こしていたそれが、どこまでも高く、高く飛翔していく。

 

テン……―。

 

力が抜けていく。

全身の感覚が全てを受け入れ、拒んでいく。

この世に生まれる時か、あるいはこの世界から消えていく時はこんな感覚がするのだろう。

 

意識が薄れていく。

意識が目覚めていく。

 

 

目を開ければそこは見慣れた風景だった。

私は呆然と正面の床屋を眺めていた。

 

「花ちゃん!! 真赤ちゃん!! 大丈夫!?」

 

振り返るとそこには、天さんがいた。

ニコニコとご機嫌な児童の手を引いている。

意気揚々と「今のもう一回!!」とねだっていた。

 

高橋真赤は仰向けからうつ伏せに変わっていた。

「もうやだ……帰る……」とうわ言を発している。

 

私は――。

 

私か?

 

今日はもう頭が働かない気がした。

鞄の無線から今日は帰宅するように連絡が入る。

 

眼前の黄の少女はキョロキョロと周囲を探していた。

まるで何かを探すように。

 

「花ちゃん、真赤ちゃん。他に襲われている子っていなかったよね……?」

 

「いなかったね」

 

高橋真赤が過不足なく返事をした。

愛想という概念はどこかへ忘れてきたらしい。

 

「うん、それならいいの。それなら……無事だってことだから」

 

私の心は、なぜだが苛立った。

 

「あ、あとひとつ!! 他の魔法少女が近くにいて助けにきたりとか……なかった?」

 

「ないよ。助けられてないから」

 

「……確かに!! ありがとう真赤ちゃん!! その通りだね!!

援護でこう……すごい爆風とかなかったもんね!!」

 

謎めいた会話も私の興味を引くことはなかった。

 

高橋真赤をおんぶして、帰路につく。

真田天の――天さんの顔は、なんとなく見たくなかった。

 

 

 

 

 

さっきの公園にて。

 

「あれ、おかしいなあ。モンスター騒ぎで急いで来たのに、もう終わった後かしら」

 

紫のベレー帽をかぶった少女が両手を頭上に掲げた。

 

「せっかく必殺技の練習したのにな~。残念……。

……そこら辺にぶっ放しちゃおっかな」

 

頭上で紫の巨大な筒を作り上げると、その場で周囲を見渡した。

 

「いやいや、ないわよね……。これを華麗に命中させるのはまたの機会にしましょう。

それにしてもここで何か運命的な出会いをした気がするんだけどなあ~。

めちゃくちゃ大事な出会いだった気がする……。顔を見れば思い出せそうなんだけど……。

誰かいないのかしら?」

 

 

公園……床屋……台車……ラーメン屋……本屋……。

 

 

視線を動かしていた、紫の少女の顔の向きが、引き戻されるようにガッと動いた。

 

一瞬視界に入ったものが、あまりに謎だったので

再びそれに焦点を合わせたのだ。

 

少女が台車を引いており、その上にはロープでグルグル巻きにされた別の少女が乗っていた。

 

「ゆめ!! 降ろしてよ~!!」

 

「ダメ。お姉ちゃんが散歩したいって言うからでしょ」

 

「……あ、あの? こんにちは~……」

 

紫の少女が恐る恐る話しかける。

 

「こんにちは。なんですか? ジロジロ見るの、マナーが悪いですよ?」

 

「あの……それは?」

 

それとは、ロープにグルグル巻きにされ、芋虫みたいになった少女を指す。

 

「私のお姉ちゃんです。ワケあって勝手に動き回らないよう、縛っています」

 

いったいどんなワケがあればそうなるのか。

怖いので紫の少女はあえて聞かないことにした。

 

「まったく、縛り上げるのだって昼寝を襲ってやっとだったんですから……!!

こっちの苦労も知ってほしいわよ……ね、おねえ……?」

 

「ふふ……、ゆめ。会話に気を取られたね」

 

少女を縛っていたはずの縄が、ところどころ細くなっていく。

終いには繊維が引きちぎられ、飛び上がった少女は悠然と大地に立っていた。

 

「散歩くらい好きにさせてよね!! じゃ!!」

 

「し、しまった!! お姉ちゃんが脱走した!!

待ってってば~!!」

 

ものすごい勢いで爆走する少女と、それを追う少女。

取り残された紫の少女は、まさかあれは運命の相手ではないだろうと呆然と見送っていた。

 

のだが、ある事実に気づいた。

 

「あ、あの子!! 台車忘れているわよ~!!!! ちょっとお~!!」

 

後ろに一人、台車を引く少女が加わるのだった。




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