魔法少女GL ~女の子たちの初手はいつだってルームシェア時空!!~ 作:MOPX
「じゃあ4人は魔法少女なんですねー!!
黒髪の少女、田中こころさんが無邪気な笑みを浮かべる。
その手には桃色のジュースが握られている。
僕たちはあの後、親睦を深めるという名目で喫茶店でたむろしていた。
今日の仕事は中止だったので、言ってしまえば時間潰しだ。
「全く……お姉ちゃん、気を付けてよ。気づいたらすぐ脱獄してるんだから……。
……もっときつく縛っておけばよかった」
少女がホットコーヒーを手にしながら言った。
この全く穏やかじゃない発言をしているのが、さっき僕を振り払った子。
名前は田中ゆめちゃん、というらしい。
魔法少女でもない彼女が現地へ向かってどうする気だったのだろう。
とはいえ、無事でよかった。
関係ないが、コーヒーに口を付けるだけで全然減っていないのが気になってしょうがない。
「……」
ベレー帽の少女、村田影さんはなぜかさっきから口を閉じ、目もつむっていた。
瞑想の時間なのだろうか。
僕らが座っていたのは円形のテーブルで、
右手側から伊藤さん、真田さん、村田さん、田中こころさん、田中ゆめちゃんの順だった。
つまり田中ゆめちゃんは僕のすぐ左だ。
会話は和やかに進んでいたと思う。
ある話題でそれも終わってしまったが。
「いやー、魔法少女って本当にすごいですよねー。私もやった方がいいのかな……」
田中こころさんの放った何気ない一言。
左隣でコーヒーカップの音が、かちゃりと聞こえた。
明らかに動揺している。
急に全員が静かになり、田中のお姉さんも「あれ?」と不思議そうな顔をしている。
真田さんも神妙な顔をしていたが、最初に口を開いたのは彼女だった。
「ここ……田中さんはそんな心配しなくて大丈夫!!
なぜなら私たちが悪いモンスターを全部やっつけるから!!」
「でも……やっぱり少しでも力になれるのなら……」
「お姉ちゃん。でもじゃない。
お姉ちゃんは魔法力に覚醒してないんだから無理よ。……絶対に」
う~と低い唸り声が聞こえてくる。
それならと田中こころさんは再び瞳を輝かせ質問するのだった。
「だったら!! なんで魔法少女を目指したのか聞かせてください!!
私たちの生活を守ってくれる魔法少女のことを知りたくて……真田さん!!」
「え!? 私!?」
真田さんは目を丸くしていたが、適任だと思った。
少なくとも僕や伊藤さんよりはそれっぽい回答ができると思う。
真田さんは少し考えてから、ゆっくりと口を開いた。
「……大切な人がいるの。その人の力に少しでもなれたらいいなって……私は考えて」
真田さんの口調は予想より重たかった。
これは長くなるやつかもしれない。
「……でも私はどうしたらいいのか、わかんなくて。
だからちょっとでも自分のできることをって……」
誰も、何も発さなかった。
伊藤さんはふてぶてしく椅子にもたれかかっていたし、
村田さんは目をつむったまま眉間に皺をよせていた。
真田さんの声は涙声になっていた。
これはよくない、と僕は助け船を出すことにした。
「その大切な人ってのは目の前にいる田中こころさんだったりしてね」
「え!?!?!?!?」「あ!?!?!?!?」
真田さんと田中こころさんの声が同時に上がる。
ほんの冗談で言ったつもりだったのだが……。
「さ、真田さん……そうなの……?」
「え!? いやいやいやいや!!!!
そうだけど……じゃなくてそうじゃないの!!!!」
真田さんは目の前で手を振り回しているし、
田中こころさんの顔はほのかに赤くなっていた。
あまりに取り乱す二人に、僕はつい口を挟んでしまった。
「あの、念のためなんだけど……二人は初対面なんだよね?」
「「初”対”面”で”す”!”!”!”!”」」
あまりに有無を言わさないレベルの音圧に僕は負けた。
二人の息を切らした呼吸が残響にのようにこの空間に残り、
それがなくなるころにはしゃくり上げる音が聴こえた。
一同の視線が田中こころさんに向いていた。
彼女の目からは雫が垂れていた。
「ご、ごめんね!!!! ここ……田中さん!!!!
いきなりこんなこと言われて迷惑だよね!!!!」
「ううん、大丈夫だから……これ、多分そういうのじゃない」
田中こころさんが袖で涙を拭った。
「何のことかわからないけど……ありがとう、真田さん」
「う、うん……どういたしまして……」
当の二人は顔を赤くして下を向いてしまった。
別にそんな意図は本当になかったのだが、良いことをした気分だ。
左隣の田中ゆめさんは満足げにコーヒーカップに口を付けていた。
相変わらずコーヒーは減ってないように見えるが……。
右隣の伊藤さんは白目を向いたり、泡を吹いたりしてないか心配だったが、
意外にも座禅を組んだ修行僧のように整然としていた。
「私はもう真の愛に目覚めたので……」ということらしい。
僕の見えていないところで、世界は少しずつ変わっているということだろうか。
かくして少しの不思議なやり取りがありつつも、
僕らの交流は和やかに進行していった。
次の不思議なやり取りの発端は、
左隣のコーヒーが一向に減らない少女の一言だった。
「お姉ちゃん、トイレに行って」
「え!?!?」
妹からの突然のトイレ指示。
これに驚かない人間はあまりいないと思う。
「尿意してきたでしょ」「いや、あんまり……」などと
会話をしているが、どうもお姉さんに席を外してほしいようだった。
渋々立ち上がり、田中のお姉さんはお手洗いへと向かった。
ドアが閉まるところまで、その後ろ姿を見届けると
田中ゆめさんがさっとこちらに向き直った。
場を包む空気が変わった気がした。
「みなさん……どれくらい覚えてますか?」
「私はだいたい」
さっきまで黙っていた村田さんが声を出した。
僕はというと、そもそも質問の意図がわからず静かにする他なかった。
次に口を開いたのは伊藤さんだった。
「覚えている範囲を全部だと思い込んでいる……
という意味では全員がそうなので議論にならないのでは?
あと何で目をつむっているのですか?」
「あんたの顔を見た瞬間にぶち切れそうだからよ……!!」
村田さんの顔に怒り皺が増えていく。
この二人は知り合いだったのだろうか。
「まあまあ……」と真田さんが諫めている。
この様子を見るに真田さんと村田さんも知り合い……?
「何がまあまあ……よ!! 真田天!!!!
あなた前にこの女が私たちに何したか忘れてるの!?!?」
激しい剣幕の村田さんに、田中ゆめさんが
力強く頷いて同意を示した。
「それに関しては私も同意見です。
真田さん、この人はお姉ちゃんをあろうことか傷つけ、攫っていきました!!
そんな人といっしょにいるわけにはいきません……!!
お店に入る時も気絶させてやろうかと思いました」
何やら伊藤さんが糾弾される流れのようだった。
この人は暴走しがちなので、僕はあまり驚かなかった。
普段はむしろ優等生のように振る舞うのでタチが悪い。
「前回の私の行いは確かに悔いるべきものでしょう。
しかしあれは9割、私の体を乗っ取っていた悪しき存在のせいだったのです。
ですよね、天さん?」
「え、ええっと……うん。影ちゃんは知ってると思うけど
前に行った砂漠の時の花ちゃんがやっていたことみたいで……
つまりは花ちゃんじゃない別の花ちゃんが……」
「真田天……あなた、それを信じたの?」
真田さんは下を向いてしまった。
「天さん、お気になさらず。人のことを信じることができるのは美徳ではありませんか。
ちなみに私はきちんと反省をしつつ、十字架を背負って生きていくので問題ありません」
「じ、自分で言いやがった……!! 真田天!! そんな奴の声を聞いちゃダメよ!!
こっちに来なさい!! あの男を倒す算段を練るわよ!!」
「真田さん、あなたはいついかなる時もお姉ちゃんの味方だったって信じてたのに……!!
幻滅しました!!」
四方八方から言葉を浴びせられ真田さんは明らかに困っていた。
僕は口を挟むべきではないとは思いつつ、少し気になることもあった。
どちらかいえば、その気づきを口にしたい欲求が勝った。
「あのさ、さっきからずっと気になってたんだけど」
この場にいるものの視線が僕の方に向いた。
「君たち、真田さんを間に挟まないと会話できないの……?」
あたりは静まり返ってしまった。
真田さんはいよいよ、表情が見えないくらい下を向いてしまった。
別に空気を悪くするつもりはなかったので、これは僕の失言だ。
むしろ冗談で流されることを想定していた。
それぞれ知り合いなのかと思ったが、そんな簡単な関係でもないようだ。
田中のゆめさんが重々しく口を開いた。
「私と村田さんは仲、悪くはありません。ね?」
「え? ええ……そうね……悪くはないわ!! うん!!」
悪くはない。
それは仲が良いと言えない時に使う表現だ。
「私は決して村田さんも田中ゆめさんも敵視していません。
以前の私は目的最優先だったので、その過程にあなた方がいただけでしょう」
「思いっきり攻撃してきたじゃないの……!!」
「影ちゃん!! 抑えて抑えて!!」
伊藤さんの言に、村田さんが嚙みつき、真田さんが押さえる。
何となく全員の距離感がつかめてきた気がする。
僕が手にしたトマトジュースを飲むと、
隣の田中ゆめさんが物珍し気に覗いてきた。
僕の言動に不満でもあったのだろうか。
「……なに? 僕はもう特に意見ないけど」
「いえ、別に。しゃべりたいことがあるなら、しゃべればいいのにと思っただけです」
「え?」
僕はジュースを置いた。
視界の隅では真田さんが両手を別方向から引っ張られている。
「言いたいことを言って、後は関係ないみたいな顔をしてるの、あんまり気分がよくないです」
少し驚いてしまった。
自分はそんなつもりは全くなかった。
しかし、だからこそそれは僕に根付いていた無意識の習慣だったに違いない。
傍観者気取り。
そんな言葉が頭をよぎる。
「じゃあ……2つほどいいかな?」
売り言葉に買い言葉。
言われたら僕だってムキになったりする。
「どうぞ、高橋さん」
「まずは真田さんの意見が気になるかな。
さっきから相手に合わせてるから」
「なるほど……2つ目は?」
僕はコーヒーカップの中身を確認した。
「君のコーヒーが全然減ってないこと」
「な……!? これは飲めないとかじゃないです!!
香りを楽しんでいるんです……!!」
「いや、意地悪で言ってるんじゃなくて……。
無理しない方がいいよ。苦味って子供の僕らにはおいしく感じないらしいし」
「こ、子供……!? あなた今、言うに事欠いて子供……なんて……!!」
目の前の少女がぷるぷると震え出した。
「……? いや僕ら子供でしょ?
成人してないって意味でもそうだし保護者に育てられてるって意味でも」
「こ……こ……」
視界の隅にいた3人の動きが止まる。
村田さんが顔を手で覆い隠して「やっちまった~」みたいな雰囲気を出している。
「子供扱いしないでください!!!!」
星が爆ぜた……。
田中ゆめという名の星が……。
その砕け散った破片を一身に受けたのが、僕、高橋真赤。
握った拳によるポカポカ攻撃を受け続けることになった。
手を叩いてくる彼女の顔を見る。
少し頬を赤らめ、膨らませる彼女に何か感情が湧いてきたが、それが何かわからなかった。
きっと、こんな風に真っすぐな行動を取られるのに慣れてなくて、動揺しているだけだ。
彼女は一生懸命なんだ、僕と違って。
「良かったですね真赤さん。姉の方なら骨が砕けてました」というコメントが飛んだところで攻撃は止んだのだった。
「ええっと……注目!!」
声の方、つまり真田さんの方へみんなの視線が向く。
このままだと収拾がつかないので助かった。
「え~本日はお日柄もよく……」
「そんなところからの挨拶いらないでしょ!!」
「せっかく天さんの声に身をゆだねてましたのに……はあ~~~~ですわよ」
この3人がずっとこの調子で話してたのなら真田さんの胃腸が心配される。
それはそうと真田さんが自分の意見を言ってくれるようで、良かった。
「たぶん、みんな言いたいこともいっぱいあって……今日だけじゃまとまらないと思うから……」
立ち上がって真田さんが目を見開いた。
「第二回魔法少女サミットを開催します!! ……どうかな?」
おお~……と全員がノリで声を上げる。
僕も何となく言ってしまった。
隣の田中ゆめさんなどは「望むところですよ!!」とシャドーボクシングをしていた。
一体なにを殴るつもりなのか。
僕か。
「いいけど真田天……場所はどうするの?」
「私の家にしましょう。お姉ちゃんから離れるわけにはいかないので」
意気揚々と田中のゆめさんが発言する。
どれだけお姉さんが好きなんだこの人は。
「……」
「時間は明日の放課後でよろしいかと……天さん、どうなさいました?」
「えっ!? うん、それで!!」
かくして魔法少女たちは再び集まることになったのだ。
……僕以外は。
「じゃ、僕はこれで……お代は置いてくよ」
「待った!! あなたも来るんですよ高橋……さん!! 戦力は多い方がいいんですから!!」
「えっ。僕そもそも何を話しているか全然わからなかったんだけど」
一同の視線が僕へ向く。
「魔法力は温存しているはずですが」「真赤ちゃんはマイペースだから……」「結構巻き込まれてるのにある意味すごいわ……」
口々にそんなことを言っている。
「覚えていてくださいね……高橋さん。
……さん付けをするほど親しみは感じていない、かといって呼び捨てはよくない……。
……先輩!! これならただの事実!! 私を子供扱いしたこと、覚悟してください先輩!!」
こうしてなんやかんや明日、僕も田中家に行くことになった。
早く終わるといいのだけれど。
「あ~トイレ終わった~結構でかかった……」
「お姉ちゃん!! 大の方だったの!?」
「まあまあ、いいじゃん。人間の三大欲求でも快眠・快食・快便っていうし!!」
「天さんとの穏やかなお茶の時間にウ〇コの話題を……!! 田中こころぉ!!」
「ウ〇コ欲にツッコむべきだと思う」
「みんなはカレー味のウンコとウンコ味のカレー、どっちが好き?」
田中こころさんのこの話題、手垢がついた議論ではあるが僕は一家言ある。
まずは「カレー味のカレーが一番!!」という結論は意味を持たないということだ。
そんなことわかりきっている。
二択から逃げるな。
僕はウ〇コを食うか食わないか、この一点に話は集約されると思っている。
想像してみればいい。
これはカレー味です、なんて言われてもウ〇コは食べれない。
だからウ〇コ味のカレー。
これを珍味だと思って食す。
これは友人との議論でもかなり好評を博した意見だった。
ちなみに愛とお金どっちが大事? も真面目に議論したことがある。
田中こころさんが口を開いた。
「ちなみに私はカレー味のウンコ!!!!
そっちの方がおいしいから!!!!」
「カレーおいしいもんね。ここ……田中さん」
「ここまで自信満々に宣言する人、初めて見たわ……」
僕は残ったジュースに口をつけた。
これもまたひとつの答えだ。
続