魔法少女GL ~女の子たちの初手はいつだってルームシェア時空!!~ 作:MOPX
「はあ……はあ……」
「どうしましたか、ガルガンチュアアーク。あなたの実力はその程度なのですか?」
「フラワー……どうして!? 私たちずっと協力して戦ってきた!! なのに……」
「あなたが、いけないのですよ。この世界は暗く、無価値で、存在するに値しないものだった。
あなたが私に光を見せてくれたから……私はこの世界とあなた、全てがほしくなったのですよ……」
「そんな……お願い、正気に戻ってよ……優しかったフラワーに……あの笑顔をもう一度見せてよ……」
「ええ……見せてあげましょう。永遠の時の牢獄の中で……!!」
「!!」
「永遠の……いえ、一時の別れです!! ガルガンチュアアーク!!」
「まーてー」
「!? あなたは……!!」
「レッド……来てくれたんだね!!」
「そんな~こわい~計画は~この僕が~」
花ちゃん……今は裏切りの戦士ガルガンチュア・ダークネスフラワー(仮)が渋い顔を浮かべている。
大丈夫、真赤ちゃん。
練習の時より良くなってる。
「ゆ~る~さ~な~い~ぞ~。……はあ。僕、木の役とかが良かったなあ……」
「真赤さん、舞台の上ですよ」
「はいはい……おりゃあー!!」
「ぐふっ!! 抜かってましたわ……、この剣を突き立てるシーンだけは
真赤さんはノリノリで練習していましたわ!!」
少し離れたところで子供たちから歓声が上がる。
ここは私たちの町の公民館。
今は魔法少女の日ごろの取り組みを伝えるための劇の真っ最中だ。
集まってくれたのは地元の幼稚園児や小学校の1-3年くらいの子たち。
これから魔法力に携わる子もきっと出てくるのだろう。
劇は真赤ちゃん扮するガルガンチュアレッドがガルガンチュアアークを傷つけれそうになったことで
怒りの力を覚醒させ、ガルガンチュアフラワーを倒して終わった。
最後の戦闘シーンは実際に魔法力を展開したので見ていた子たちも満足そうだった。
劇も終わり見ていた子もだいたい帰っていき、
私たちは片づけをしていた。
「花ちゃん、真赤ちゃん、お疲れ様!!」
「天さんも、水をどうぞ。ふふ、主演お疲れさまでした」
「……お疲れ。はあ」
ため息を吐きながら壁にもたれかかる真赤ちゃんに、私は笑顔で水を差しだした。
「はい!! 真赤ちゃんもお水どうぞ!!」
「どもども。真田さんもお疲れ。……伊藤さんはともかく、真田さんもノリノリなのは誤算だった。
というか演技うまいよね」
「えへへ……。せっかくなら見ている人が楽しめるようにって」
「殊勝だね」
真赤ちゃんは水を飲み干すと、また息を吐いた。
「アンケート、ある? 次から時間を短くしてくださいって書こうかな……」
「これ以上尺を縮めてはドラマパートの心理描写を削ることになりますわ」
「いる……? それいる……? というか普段モンスターと戦ってますって伝えるのに味方の裏切りいる??」
私は椅子の片づけをしながら笑った。
不服を言う真赤ちゃんの気持ちも、花ちゃんの気持ちもわかる気がしたから。
今回の劇の脚本は花ちゃんだ。
いっしょに戦っていた仲間が最後に裏切るというハードなストーリーだったが、
無事見ていた子たちは喜んでいたようだった。
最近の子は成長が早いらしいので、これくらいのものの方が見ごたえがあるのかもしれない。
内容は違うのかもしれないが、私も魔法少女が好きだ。
小さいころから、好きだ。
そうだ……小さいころに……。
「あの……」
消え入りそうなその声がした方へ私は向いた。
人によっては聞き逃してしまいそうなその声の主は、
紫色のベレー帽を深々とかぶっていた。
今回の劇を聞いてくれた子の一人だろう。
「もしかして今回の劇を見てくれたの? ありがとう!!」
「え……あ……え……」
「……違っていましたか? ごめんなさい!!」
「う……いや……そうです……あ……そうじゃない……」
「え、ええ?」
「ちょ、ちょっと待っていただけますか……」
紫色のベレー帽をかぶった子は後ろを向くと自分でほっぺたをぱんぱん叩き出した。
痛そうだ。
「しっかりしなさい!! 村田影!! 今日こそは魔法少女に接触して少しでも情報を集めるんでしょう!!
そのために一番話しやすそうなこの子に……!!」
「あの……?」
「ひゃああ!! う、後ろからいきなり話しかけないでください~」
「ほっぺ、叩いたら痛いよ……?」
「ひう……。大丈夫だから……大丈夫です」
よく見たら身長も同じくらいだった。
学年も近いのかもしれない。
仲良くなれたらいいな。
「お名前、なんていうの」
「え……その……あ……名字はだめだ……影……影です……。劇は、みました……」
「えいちゃんだね!! 今日の劇、楽しんでくれた!?」
「あ、はい。正直劇の内容はどうでもよかったんですが……
後半のガルガンチュア・ダークネスフラワーの裏切りが唐突で
展開に付いていけなかったこと以外はそこそこ面白かったです……」
「そこそこ!! でも面白かったんならよかった~」
私がにこにこと答えると女の子はまた後ろを向いてしまった。
「あーもう……劇の感想なんて言ってる場合じゃないわ!!
早いとこ情報を……まずは名前かしら、そのためには……」
「??」
私が不思議そうにしていると、
女の子が色紙とサインペンを差し出してきた。
「サイン……ください」
「え!? サイン!?」
サイン。
有名な人がファンに書くあれのことだろうか。
書いたことはおろか、練習したこともない。
「サイン!! サイン……サイン!!」
「こ、興奮しないでください!! 名前書くだけでいいですから!!」
「本名と魔法少女名どっちがいいですか!!」
「ええ!? 本名でいいです!!」
「よ、よし!! 書くぞー!!」
「あ、普通に自己紹介お願いすればよかった……」
私は昔、筆ペンの教室に参加したことを思い出していた。
とめ、はね、はらいをきっちりと。
それだけで時は綺麗に、美しく見えるのだと教わった。
それでいて今回はサインだ。
私の生涯初めてのサインだ。
独創性も求められているに違いない。
漢字にするか、カタカナにするか。
これも悩みどころだ。
文字が模様を描くのも楽しいかもしれない。
真田の田の字を窓に見立てて顔をのぞかせる――。
――これだ。
「あの!! もう普通に名前書いてください!!」
「ちょ、ちょっと待って!! 今、田の字を窓に見立てて顔を出すところまで……」
「あなたは何を考えているんですか!?」
女の子が何やらぷりぷりとしてきたので、私は普通に漢字で名前を書いた。
色紙に収まる程度に大きく、なかなか綺麗に書けたと思う。
「はあ……はあ……真田天、ね。やっと名前を聞き出せたわ……」
「うん!! よろしくね影ちゃん!!」
「う、うん……。よろしく……」
影ちゃん、と名乗ったその少女は少し恥ずかしそうに返事をしてくれた。
影ちゃんはまだ話したいことがあるらしく、もじもじとしている。
私はそれをゆっくりと待った。
無理に話されるより、自分のペースでお話しできる方がいい。
何となく、そう思ったから。
影ちゃんは頭を抱えて悩みだしていた。
「次は……魔法少女名!! これも聞いておこう!! そのためには……!!」
「?」
「名乗り……お願いできますか?」
「うん!! いいよ!!」
私は鞄から携帯用の魔法棒を取り出した。
動きを見せるだけならこれで十分だろう。
「えへへ……じゃあやります!!」
「あ……これも普通に聞けばいいんだ……まあいいや」
「アークは天!! 私も天!!」
(右手を上!! 左手を下!! それぞれの手を半円を描くようにくるっと回す!!)
「魔法少女ォ!!」
(右手を思いっきり突き出す!! 張り手の動きを参考に!!)
「ガルガンチュアアアアアアァァァァァ……」
(すごい巻き舌)
「アアアアアァァァァァァァァァク!!」
(このタイミングで魔法力を展開!! 周囲に迷惑がかからぬよう気を付けて!!)
周囲が黄色く照らされる。
見ていた影ちゃんからは「おお……!!」と驚嘆の声が漏れていた。
「ガルガンチュア・アアアアクさんね……!! 魔法力もなかなか高そう!!
これは良い人脈作りができたかもしれないわ!!」
「じんみゃく……? よくわからないけど友達ってこと?」
「と、友達!? 友達って……あの……友達!?」
影ちゃんはまるで宇宙人か伝説の生き物でも見たかのような顔をしていた。
「その……私たち……まだそんなに仲良くなってないというか……」
「そうなの? 私は影ちゃんと今日、会えてよかった~って思ってるよ。
これって友達じゃないのかな……?」
「そ、そんな寂しそうな顔しないでよ!!
ま、まあそういうことにしといてあげるわ!!」
「えへへ……」
「えへへじゃないでしょ。……これからよろしくね、真田天」
「うん、よろしく影ちゃん」
私たちは握手をした。
よく考えたら学校も学年も聞いてなかった。
でも今更そんなことはいいんだ。
だって私たちはもう友達だから。
「えへへ……。なんだかうれしいなあ……。
あ、あと魔法少女名はガルガンチュア・アアアアアァァァァァク!!だよ!!」
「あ、アアアアアアアク?」
「アアアアアァァァァァク!! だよ!!」
「は? アアアアアアア……」
「アークでいいよ」
不意に声をかけられ、びくっと影ちゃんの体が跳ねる。
声の主は真赤ちゃんだった。
隣にもニコニコと笑みを浮かべている花ちゃんがいる。