魔法少女GL ~女の子たちの初手はいつだってルームシェア時空!!~ 作:MOPX
空気はまたしても重たくなった。
ゆめ番長と村田さん、伊藤さんのラインが会話してないのがなかなかにネックだった。
要するに真田さんが静かだと会話が回らないのである。
何やら壮大な危機に立ち向かうらしいが、そもそもこの4人は上手くやっていけるのだろうか……。
「あなたはどうなんですか!?!?」
思考に訪れた突然の来訪者。
意識が急に、頭の中から外へと引っ張られる。
「ゆめ大臣はご立腹のようだ……あ」
「ゆ、ゆめ大臣……!? あなた、私のことを馬鹿にしてるんですか……!?」
「自分もキャプテンって呼べって……」
「気が変わってます!! 空気を読んでください!!」
突然に話題を振られて思った言葉がそのまま出てしまった。
脳内で好きな呼び方をする分には許してほしい。
「あなた……私のことどう呼んでるんですか、先輩」
ゆめ総監の厳しい追及は続いた。
これは答えるのに窮する。
田中さん、だとお姉さんとかぶってしまう。
自由な呼び方をしているのはそういう事情もあった。
「田中のゆめさん、とか……」
「た、田中のゆめさん……? 普通に呼んでください!!」
「普通……? 普通って?」
「だから……もういいです!! はい!! 意見!! 意見を出してください!!」
普通の定義というやつは難しい。
これも友達との間で話したことがあるが、いま考えるのは野暮だろう。
「とりあえず、このメンバーで集まると揉めるのは間違いないね」
僕と田中のゆめさんは横の3人に目をやった。
隙あらば真田さんの両の腕が綱引き状態になっている。
もはや伝統芸能。
「なるほど……じゃあどうするんですか?」
彼女はこちらを値踏みするような、でも真剣な瞳をしていた。
多少感情をあらわにすることがあっても、この子は客観的に必要なことを判断できるのだろう。
僕は今までの情報が本当という前提で意見を組み立てた。
前提が間違っている場合はそもそも何も成立しないので、勘案しないことにした。
「普段は別れて行動してもいいかも。今後を考える班と田中家防衛班。
さっきの話だと君のお姉さんは危険な目にあうんでしょ?
でも君もひとりで今まで危ない目にあってる」
「私のことは……」
僕は続けた。
「今後の話し合いとかは定期的に集まればいいから、田中さんの傍にいる人を増やせばいいんじゃ?
幸いにしてここにいる人は田中さんと面識ができたわけだし」
「私はひとりでも……!!」
「二人以上の方が安全だよ」
目の前の少女は下を向いてしまった。
彼女の中でプライドと実利が葛藤しているに違いなかった。
お姉さんを思っているがゆえに、他の者を近づけたくないのだろう。
自分は果たしてどうなのだろう。
湧いてきた感情を理性で覆った。
この場で最年少の、その子は「注目!!」と声を上げた。
様になっていると思う。
もしかするとこの中で一番リーダーに向いているのは彼女なのかもしれなかった。
やっぱりあの占いは信じなくていい、良い意味で。
その方が世の中、ずっと楽だ。
「今ここに、『お姉ちゃん防衛班』と『今後を考える班』に分担を行います!!」
理由はお姉ちゃんを守るためです……!!」
「ゆめちゃん……!!」
頑なだった少女の軟化は真田さんにも驚きをもって迎えられた。
歴史的瞬間、そんな言葉が頭をよぎる。
「田中ゆめ、分け方はどうするの? そもそも私は伊藤花を信頼してない……!!」
「私もです。この人がなんと言おうが私たちには本当か判断できない。
だからお姉ちゃんからは離れてもらいます具体的には100メートル以上」
伊藤さんは「あらあら……」とつまらなそうにふんぞり返っていた。
しかし100メートルの条件は学校で出くわすことを考えると厳しい条件だ。
伊藤さんは本当に何をしでかしたのか。
「村田さんと私がお姉ちゃん防衛班です。一緒に登下校してください」
「わ、私!?」
何をそんなに驚いているかわからないが、妥当だと思った。
というより村田さんと伊藤さんを違う班にする、かつ伊藤さんを防衛班にしなかったら自動的にそうなる。
「……」
「では……私と天さんが博士の足跡やループについて考察する班ですわね。
頑張りましょう天さん……!!」
「……うん!! よろしくね花ちゃん」
真田さんは何かを考えてるようにも見えたが、次の瞬間にはいつもの笑みを見せていた。
今後について考える……というざっくりした名前だが、
図らずも伊藤さんが暴走しないように真田さんが見張っておく形になっている。
僕は田中のゆめさんの方を向いた。
「何ですか? 意見があるなら堂々と……」
「いや、よく分けれたなって」
「……!! きゅ、急に褒めても何も出ません……!!
子供じゃないですからね……!!」
照れ隠しか置いてある煎餅をムシャムシャとほおばり出した。
そういうところが子供っぽい、なんて流石に口には出せない。
「あの……ゆめちゃん? ちょっと質問なんだけど……?」
「はい、真田さんどうぞ」
「真赤ちゃんは……?」
「あ」
田中のゆめさんの口が半開きになっている。
さては忘れてたな……僕もだけど。
なんならそのままフェードアウトしてもよかった。
「高橋真赤って強いのよね……? あんまり戦っているところ見たことないけど」
「真赤さんは高い魔法力に状況判断力、更に高度応用魔法の豊富さと抜きんでています。
むしろそろそろ仕事をしてほしいものです」
「まあまあ……」
好き勝手言われている。
うんうんと唸った後に彼女は結論を出した。
「では、先輩……あなたを……ええっと……」
「もう帰っていいかな、僕」
「ダメです。先輩、うん、あなたをスーパーアドバイザーに任命します!!」
「ス?」
僕は思わず復唱してしまった。
「スーパーなアドバイザーなのね」
村田さんがうんうん頷きながらよくわからない補足をした。
絶対わかってないと思う。
「一言で言えば、両方の班に協力してもらいます!!
倍、働いてくださいといってるんです!! 先輩!!」
なるほど。
僕は予備の要員というわけだ。
気分的に楽だし、ちょうどいいかもしれない。
好きに茶々を入れよう。
なんて考えていたら、こぼれ落ちるようなそのつぶやきが聞こえた。
「……アドバイス、助かりましたし」
「え?」
「何でもないです!!」
僕の手は無意識に動いていた。
各自、門限の時間が近づいてどうやら今日の話し合いはここまでらしかった。
帰り支度へと入る。
僕は片づけるものもなかったから
田中のゆめさんの様子を見ていた。
ノートとスケッチブックをしまっていく。
そういえばスケッチブックは使わなかった。
必要があれば図でも描こうと思ったのだろうか。
ノートに書かれた一文が目に飛び込んだ。
今日、まとめた内容のひとつ。
お姉ちゃんを守ること。
簡単な言葉で構成されたその一文は、けれど僕の胸から離れなかった。
「ただいま」
僕は自分の家に帰ってきた。
そのまま2階の自分の部屋へと直行しようとする。
このまま晩御飯までは部屋で待機だ。
そう思っているところへ、名前を呼ばれ引き留められる。
その人は相変わらず良く手入れされた長い髪をたなびかせていた。
「真赤、帰ったんだ。友達の家?」
「友達というか知り合いというか」
昨日、急に出会った方々の家、としか言いようがない。
「ふーん? そうそう、これ、真赤聴きたかったやつだよね」
取り出されたCDは僕が好きなグループのもので、最近出たばかりのものだった。
「それ!! もしかしてくれるの!?」
「いや私が買ったものだから……でも、貸したげる」
「やったああああ!! 持つべきものは優しい姉だね……!!」
お小遣いの厳しい小学生には嬉しい申し出。
これで晩御飯までの予定は決まった。
CDをふんだくり、意気揚々と階段を昇ろうとした、のだが。
「ちょい待ち。この前、母さんとあんたの先生が話してたらしいんだけど」
「え、なに?」
「……テストで手を抜いているって、本当?」
「……」
「真赤」
「姉さんには関係ないでしょ」
「話さないんならそのCDは返してもらうわね」
「そういうことか……」
僕は手にしたCDをまじまじと見つめた。
要するにこれは交渉材料だったらしい。
やることがやらしいとは思ったが、
一方で話してもいいという気持ちもあった。
「本当だよ」
「……何でそんなことしたの?」
「……騒ぐんだよ。後ろの席の奴がさ」
「騒ぐって? 真赤のテストの点で?」
「そうだよ。僕が100点を取ったら後ろから覗き込んで大騒ぎしてくる。
どうしてそんな点を取れるの!? 天才!? って。
でもって遠くからその騒ぎを聞いた連中がテストの点ごときで調子に乗るなよ……みたいな顔で睨んでくるんだ。
その間、僕は一言もしゃべっていない。
僕に一体どうしろっていうのさ?」
「うーん、なるほどねえ……真赤はそれが嫌だと」
「誰だって嫌でしょ。それやる奴が人の気持ちがわからないだけだよ」
肩をすくめる姉に、僕は吐き捨てるように言ってやった。
テストの点だけじゃない。
世の中のあらゆることには望まれる結果がある以上、それに沿っているかで優劣が付く。
それぞれが自分の視点で好き勝手言ってるんだ。
僕がその子の行動原理をわからないように、その子は僕の気持ちをわかっていない。
まあ、行動原理はある程度、目星がついているのだけど。
「きっと勉強ができる子は特別、自分くらいの点が普通って言いたいんだよ、その子。
僕はテストの点は良い方が推奨されてるんだからそれで勉強してるだけなんだけど」
「妹よ……外でそれ言うなよ……」
「言わないよ、姉さんにしか」
だから一部を空欄で出した。
90点くらいなら大丈夫だろうと調整したが、さすがにどの教科もそうだと不自然に思われたらしい。
「別にいいじゃないか。僕のテストの点が正味10点ずつ落ちたって誰も困らない。
僕だって100点を取れる実力があるのには変わらないんだし。
だいたい算数なんて将来何に使うのさ」
「いや数学……算数は下手したら一番使うよ」
「あー、はいはい。こんな議論はお終い。CDありがと。ばいばい」
「真赤」
またしても引き留められ、僕は渋々振り向いた。
せめてのも抵抗で可能な限り不機嫌な顔を作ってやった。
「汝、ここぞと思った時はどこまでも熱く燃え上がれ」
「なにそれ? 誰の言葉?」
「私の」
「姉さんのかあ……」
「でも、本当。ほら、私、なんとなく流されるまま生きてたからさ。
案外、人生の岐路とか転機とかってないものなんだなって。
人生で本当に熱くなれる瞬間なんて数えるほどなのかもって」
「……」
「だからきっと、普段から全力を出さないと、そういう機会に恵まれた時も本気を出せないのよ。
……これがその機会だって思ったら全力でぶつからないとさ。
あんたは私よりずっと優秀なんだから。こんな風に妹を評価する姉は珍しいらしいわよ?」
「……はあ。スピーチどうも。上がるね」
「とにかく!! テストは実力を図るためだから真面目に……」
僕は最後まで聞かずに階段を昇り切り、扉を開けた。
小さな備え付けの机とこれまた小さな備え付けのベットでほぼいっぱいの部屋。
元々は物置だったのを、僕が一人部屋がいいからということで作ったスペースだ。
荷物を置いてベットへ転がり込むといつものように軋む音が聴こえた。
さっきあんな話を聞かされてテンションは下がっていた。
姉。
昨日、知り合ったあの少女はまるで自分の生きる目的だと言わんばかりに瞳を輝かしていた。
生きるのに目的なんて必要なんだろうか。
僕は毎日なんとなくやりすごして、そこそこに楽しければ……。
起き上がって机の上を見る。
じゃあこれは一体なんなんだろう。
机にあるのは書きかけの異動願い。
現所属と希望先でアルファベット一字違うだけ。
今日はそれが酷く滑稽に思えてしまった。
いずれバラバラになるグループと知りながら、それでもこうやって繋がりを求めている。
矛盾している。
無駄なことはやらないというなら、人間関係も古いものは捨て、刷新していけばよいに違いなかった。
今日はそんな気分じゃないので書かずに仕舞う。
僕はお年玉を貯めて買ったCDプレーヤーを出した。
聴くのはもっぱら海外の物。
言葉はわからない方がいい。
音楽を聴くのは好きだ。
この世界に思い入れはないが、聴いている間だけは別の世界だからだ。
音が鳴る。
姉の顔が浮かぶ。
僕がこうやって平穏な生活を送っているのも、家の面倒ごとを全て姉が引き受けているからだった。
大学に進学しないで、嫌な顔もせず親の仕事の手伝いをしている。
自分から見て、姉は立派な人間だった。
周囲との折衝に長け、冷静で、かといって慢心せずに視野の広い人間だった。
良い意味で、自分は多くの人間の一人にすぎないと自覚している人だった。
だからこそ、謙虚であったし、大きな失敗をしないような人生を送っていた。
――私は流されるままに生きてたから。
なんだよ、あの口ぶり。
まるで自分は人生を失敗したといわんばかりの。
僕はいよいよ音楽も止め、ベッドの上に寝っころがった。
さっきよりも軋む音は大きかった。
意識が霞んでいく。
――姉さんみたいに生きたいよ、僕は。
「真赤と何を話してたの?」
「何も~」
「ウソ。聞こえてきてたよ。
……ああいう話は親がするからあなたは首を突っ込まなくていいの」
「そう? 私ももう大人だと思うけどなー」
「私からみたらあなたも真赤も子供よ」
「じゃあ子供同士じゃないとできない話もあるってことで」
「都合よく大人と子供を使い分けない」
「は~い」
続