魔法少女GL ~女の子たちの初手はいつだってルームシェア時空!!~   作:MOPX

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第3話 情報社会をサーフィンせよ!? インターネット魔法少女会(前)

「真赤ちゃん……折り入って頼みがあるの……!!」

 

放課後に真田さんに呼ばれるなり、手を合わせられる。

こういう時は無理筋のお願いごとをされるのが定番だ。

とりあえず話をうながした。

 

真田さんがポケットから意味ありげに2枚の紙きれを取り出した。

 

「これ、商店街のお食事券……2人分……福引で当ててたやつ……」

 

ん? この流れは……?

真田さんと2人で遊びに行ったことはない。

 

真田さんは良い子だが、良い子すぎるのだ。

僕とは人種が違う。

頭に丁寧なお断り用の語彙が渦巻く。

 

僕の気持ちとは裏腹に、目の前の少女は深々と頭を下げるのだった。

 

「これでゆめちゃんを遊びに連れてってあげて!!!!」

 

……?

 

僕は今、誰から何を言われたのか。

まずは話を聞くことにした。

 

「ゆめちゃん、こころちゃんを守ろうって頑張っているんだけど……

疲れているみたいで……」

 

僕は頷いた。

田中のゆめさんはボディガードのごとく、

いつもお姉さんに張り付いていた。

かといってモンスターがそんなに頻繁に出るわけでもないし、神経がすり減ってもおかしくはない。

 

信念がなければ心は強くなれないが、自由がなければ心は枯れてしまうだろう。

 

彼女が自分で課した信念で、精神的にまいってもおかしくはない。

 

「それで明日は休みだし息抜きに外で遊ぶのはどうかなって……。

明日ならこころちゃんは溜まった宿題をするために一日家にいるらしいから、

私たちが近くで待機するってことで……」

 

割引券は大分前に当てた物であるらしく、期限が明日までだった。

真田家の両親も外出の予定はなく、友達に譲れば? という話になったみたいだ。

うちは貸し借りはしない主義だけど、僕が異動すれば真田さんにもっとも迷惑をかけることになるし

これくらいは現場判断で良いだろう。

 

 

それにしても自分のためでなく、人に息抜きをさせるためというのがいかにも真田さんらしい。

やっぱり自分とは違うアルゴリズムで行動している。

決して嫌いではないけれど。

 

田中のゆめさんに関しては僕も気にしていたところだし、異論はない。

ただひとつ、気になることはあった。

 

「何で僕なの?」

 

「……え? 真赤ちゃんとゆめちゃんってよくしゃべって……るよね?」

 

一点の曇りもないその瞳。

今の真田さんなら伝説の武器だって引き抜きそうだ。

 

「ご、ごめんね!! 私の勘違いとかなら……!!」

 

いいよ、と僕は割引券を受け取った。

 

そういえば彼女とは二人で話すことが多い気がする。

伊藤さんと村田さんが真田さんの取り合いをしているのが大きいからだと思うが。

周りにはそんな風に見えていたのだろうか。

 

 

下校。

 

今日はいつものメンバーではなく、真田さんと途中までいっしょに帰って別れた。

言われた言葉を思い出し、手がそわそわと動く。

 

暗に仲が良いと言われて、悪い気はしていなかった。

 

 

 

 

 

「……で、今は田中家の目の前にいる、と」

 

誰に説明するわけでもなく独り言つ。

僕の方から誘ったというのもあるので、時間になったらこうして呼び出すことにした。

インターホンを押すと、やはりというか、元気な声が聞こえてきた。

 

「ほーい!! 田中です!! どなたでしょうか!?」

 

「高橋真赤です」

 

おっ!! と驚く声の後に笑い声が聞こえてくる。

田中のお姉さん、恐らくは事情を知っているな。

何がそんなに嬉しいのか……と思ったが妹に対する冷やかしだろう。

 

「ゆめ~高橋さん……高橋先輩きたよ!! お待ちかねの!!」

 

「お姉ちゃん!! 大声で言わないで!! あとその呼び方はしないで!!」

 

自分はその呼び方なのにちょっと理不尽じゃなかろうか。

インターホンがドタドタと物音を中継している。

鈍い音が聞こえる気もするが、流石に気のせいだろう……うん。

 

程なくして、少し着込んだ少女が出てくる。

まだ寒いので暖かい恰好をするのは正解だろう。

 

田中のゆめさんは憮然とした表情で、そこに仁王立ちしていた。

 

「……もう二度とお姉ちゃんをインターホンに出さない!!」

 

「あ、その、こんにちは」

 

「先輩、こんにちは」

 

無表情のまま少女は一礼した。

一応、挨拶は返してくれるらしい。

 

出掛けの約束は昨日のうちに電話を入れておいた。

単純に連絡は早い方がいいからだ。

 

もちろん断られる可能性も頭にあった。

明日期限の券が2枚あるから無駄にしたくないこと、

併せて、リフレッシュすることで能率を上げるという提案。

我ながら遊びに誘うのに固い理由だな、と突っ込みたくなる。

 

真田さんの名前は出さなかった。

何となく彼女のことを話すのはアンフェアな感じがしたのだ。

少なくともこの件を最後に決めたのは僕のはずだ。

 

考えるような間の後、「いいです」と短い返事があった。

どっちなのかと思ったものの、その後に出発の時間の話題になったので了承の意だとわかった。

 

だからこそ、今こうして田中ゆめは僕の目の前にいる。

 

「さ、時間を無駄にはできません。行きましょう先輩」

 

「もうご飯に行くの?」

 

返事の代わりにむっとした顔が返ってくる。

 

「違います。まずは情報収集です。何のために私がわざわざ外に出たと思うんですか?」

 

ご飯に釣られて来た……なんて答えたらこの子の場合、玄関まで戻っていきそうだ。

その選択肢はグレーアウトで消しておこう。

 

「外に出たのは外へ出ないとできないことをするためです。

真田さんも情報を集めてくれてますが……違う人がやれば目先が変わって情報も集まりやすい。違いますか?」

 

僕は感心というか納得というか、降参するような心持ちだった。

この子には息抜きという概念がないのかもしれない。

 

「まあ、そうかな。じゃあどこへ行くの」

 

「まずは公民館です。理由は……そうですね後で話します」

 

不敵な笑みを浮かべる少女。

何となく今日は長い一日になりそうだった。

 

 

 

 

 

僕達は公民館の中へと入った。

休日であったが、今日は催しものもないらしく人はまばらだ。

いつもは料理教室だったり、高齢の方の体験談を聞いたり、魔法少女による劇が……その話は忘れよう。

 

「そろそろ何をするのか教えてくれてもいいんじゃないの」

 

僕は傍らの少女に向いて言った。

調べ物をするなら図書館があるし、もしくは研究所のあたりを調査するのも手だ。

 

「ふふふ……先輩、インターネットってご存じですか?」

 

少女の口から最近よく聞く横文字が飛び出した。

 

インターネット。

 

それぐらいは僕でも知っている。

コンピュータを通信回線に繋いでいろんなものが見れるようになるアレだ。

企業が自社の情報を公開するだけでなく、

個人が趣味用のホームページを作って交流や情報発信をしているらしい。

 

鼻を鳴らし、やたらと得意げな少女に話を促した。

 

「この公民館では情報端末としてインターネットに繋がったコンピュータが1台あるんです!!

そして窓口で手続きを踏めばそれを使うことができる……!!」

 

少女が強い瞳で窓口を見据える。

窓口の人があくびを上げている。

 

「でも大丈夫なの? 僕もコンピュータなんてそんな使えないよ?」

 

僕は正直に言った。

父親はコンピュータを持っていたはずだが、あまり興味もないので使わせてもらったことはない。

 

「大丈夫です。用語集で勉強をしたことがあります。

インターネットプロトコルですよ、先輩」

 

「おお……!?」

 

聞き慣れない単語に感嘆の声が漏れる。

これは期待していいのかもしれない。

……何がどうかはよくわからない。

 

窓口へと向かう。

僕が話さそうかと思ったが、隣の少女がハキハキとしゃべった。

窓口の方から柔和な笑顔とともに利用票と書かれた紙が返ってくる。

 

利用者の欄には達筆で「田中ゆめ」と書かれた。

 

「字、綺麗だね」

 

「……!! こ、これぐらい当然です!! こんなところでポイントを稼がないでください、先輩!!」

 

どうやらゆめポイントは上がったらしい。

溜まると何かもらえるのだろうか。

 

利用時間は1時間。

 

田中のゆめさんがちょこんと椅子に座った。

僕は横に立って覗き込む。

 

「まずはどうするの?」

 

「……」

 

「どしたの?」

 

「……ダブルクリックでインターネットを起動します」

 

少女の手が震える。

無理もない。

 

これはいわば未知との遭遇。

少女が傍らのマウスと呼ばれる丸みを帯びた物体を動かすと、

それに合わせて画面の小さな矢印が動いた。

 

「おお……!!」

 

「こんなことで驚かないでください、先輩」

 

「それめっちゃ速く動かしたら分身の術できない?」

 

「どうでもいいです!! 本来の目的を忘れないでください!!」

 

怒られてしまった。

いつもの友人間のノリで言っただけなんだけど。

 

「……これ。これを押して……起動!!」

 

……。

 

しばらく経っても何も出ない。

少女がそわそわと落ち着きをなくそうとしたその時に、画面に変化が出た。

 

新しく枠が出てきた。

これが検索機能というやつらしく、

特定のキーワードを打ち込めばそれに関するページが表示される。

 

しかしここでまた疑問が湧いてきた。

研究所のことを調べても一般的に知られていることしか出てこないのでは……?

ループ現象(仮)に関して誰かが積極的に発信しているとも思えない。

一人二人、そのことを覚えていたとしても、気のせいとして処理されるのではないか。

 

「一体なんて調べるの? ホームページを検索してもあまり有益な情報は得れないんじゃあ……」

 

「ふふ、今回の件を個人で取り扱っている人はまずいないでしょう……。

だからこちらから聞くんです!! 道端の人々に聞き込みをするように!!」

 

「でもどうやって?」

 

「先輩、掲示板ってご存じですか?」

 

知って……いる。

学校の廊下とかにかけてあるアレだ。

 

「なるほど、掲示板に張り付けるチラシの効果的な作り方を学ぼうってわけだね」

 

「……違います。何となくでなるほどって言わないでください」

 

田中のゆめさんが目を細め、人差し指を立てて説明を始めた。

心なしか表情が生き生きとして見える。

 

「掲示板というのは自分で書き込んだ内容が他の人にも見えるような……その……仕組みです!!

例えば質問を書けばそれを見た誰かが返信という形で更に書き込むことができるんです!!」

 

「それって誰でもできるの?」

 

「基本的にそうです。個人のホームページでも掲示板を設置してるところは多いはず……!!」

 

少女の人差し指がキーボードを突いていく。

 

j-4……?

 

「あ、あれ……?」

 

僕は彼女の指の動きを辿るようにキーボードに目を落とした。

見れば各ボタンには複数の文字が刻まれている。

彼女が打とうとした文字と違うものが反映されてるようだ。

 

「どこかで切り替えるのかな?」

 

「それに文字を消さないと……!!」

 

二人であれよあれよとボタンを探す。

適当に触っているうちに直接入力という項目を発見し、入力はできるようになった。

文字を消す方もうんうんと唸っていた少女が記憶を掘り起こし、

「これ!!」と連打していくと一文字ずつ消えていった。

 

僕は感嘆の声を上げ、彼女はやり遂げたような満足気な笑みを浮かべる。

 

「これさあ、文字を打ちっぱなしにして、その後消していったら気持ちよさそうじゃない?」

 

「何でそんなことばっかり思いつくんですか!? 次行きますよ、次!!」

 

まほうしようしよ。

 

「……濁点!! ……小さな文字!!」

 

「お、落ち着きなよ……。必ず方法はあるはず……」

 

コンピュータに噛り付くかのごとく、敵対心を見せる眼前の少女。

僕はトイレに行くフリをして窓口へと向かった。

 

事情を説明すると柔和な笑みがまたしても返ってくる。

僕らの様子を見ていたのだろう。

 

僕は文字入力の方法について簡単にレクチャーを受けた。

基本的にアルファベット入力で行うものらしい。

僕もローマ字については学んだことがあるので問題なくできるはずだ。

 

僕は何食わぬ顔で戻ると、キーボードの操作を交代してもらった。

少女は憮然とした表情を浮かべていたが、画面を見るなりそれも一変する。

 

まほうしょうじょ。

 

「すごい……!! 先輩いつの間にそんな技を……!?」

 

手が動く。

 

何のことはない。

知らないことは知っている人に聞くの大原則に従ったまでだ。

 

「前世の記憶ってやつかな?」

 

「前世にコンピュータなんてないでしょう……全く先輩ってば……」

 

漢字への変換に関しては田中のゆめさんの方が方法を知っていた。

 

魔法少女。

 

僕たちはやっとそのワードに辿り着くことができた。

 

少女が「よし……!!」と一息入れて検索を実行した。

 

いくつかの見出しのような、文字列が並んでいく。

これらひとつひとつがホームページというわけだ。

 

「この魔法少女応援サイトというのにしましょう……!!」

 

何だかむず痒い気持ちになってくる。

スポーツなどの応援サイトがあるのは人づてに知ってたが、

魔法少女にもあるとは初めて知った。

 

地域の安全を守っているという意味では労われてもおかしくはないが、

自分達の実態を知っていると分不相応ではないかと心配になってしまう。

 

クリックをするといくつかの項目が箇条書きで表示される。

魔法少女とは……魔法少女の歴史……魔法少女の取り組み……そして、あった。

 

魔法少女交流掲示板。

 

「ありましたよ……先輩!!」

 

「……このサイト、訪れたのが980人みたいだ。出たり入ったりしたら1000人目になれないかな?」

 

「本当にしょうもないことばっかり思いつきますね!! 先輩!!」

 

ゆめポイントの暴落を感じる。

貯金もなくなってきた感があるので大人しくしていよう。

 

掲示板が表示をされる。

このサイトを作った人への挨拶だったり、

魔法少女の最近の活動について意見交換がなされていた。

 

さながら本物の掲示板、あるいは交流ノート的なものを彷彿とさせる。

 

「では先輩。文字入力をお願いします」

 

「あいよ。何て打つの?」

 

「初めましてこんにちは。魔法研究所について怪しいことがあれば情報提供をお願いします。」

 

「研究所のことでいいの? 博士のことは?」

 

僕は率直に口にした。

村田影さんの弁が正しいなら彼女の父親、僕らも知っている博士がこの件の黒幕のはずだ。

博士は有名人だからおかしな様子があれば、知っている人もいるかもしれない。

 

「先輩……甘いです。このインターネットは誰でも使う可能性がある……

それはつまり、博士自身も見ることができるということです!!

見つかれば怪しい動きをしていると気づかれてしまう……!!」

 

僕は心の中で唸りを上げた。

研究所にもコンピュータはあるのだから

博士が仕事中にインターネットを繋いで自分の名前を検索したらバレる危険性がある。

 

ことインターネットに関しては田中のゆめさんの方が一歩も二歩も上をいっていた。

 

それに、と彼女は付け加える。

 

「村田さんは父親を元凶と決めつけてますけど……そう思い込むのはちょっと危険だと思ってます。

もし裏に更なる黒幕がいたら? 今回のループでは別の人が元凶だとしたら? 伊藤さんみたいに乱入者が出たら?

とにかくいろんな可能性を潰しておきたいんです。

そのためには対象を限らず、広く情報を集めた方がいいでしょう」

 

「確かに。伊藤さんにはみんな苦労したみたいだしね」

 

「……む。前は不意討ち気味だったから不覚を取っただけです。

正面から戦えば私の方が強いです。

いいから早く文字を打ってください!!」

 

はいはい、と僕はほっぺを膨らませた彼女の言うことを聞く。

 

質問の方は難なく打ち終わった。

 

「名前、どうしよっか?」

 

他の質問や回答を見たが、ペンネーム的なものを使っている人が多い。

実名はなんとなく恥ずかしい。

 

「適当でいいです」

 

「よし、じゃあyumeakaっと……」

 

「……? あー!! なにバンド名みたいなの付けてるんですか!!

そんなところに遊びを入れないでください!!」

 

ふざけたつもりだったが、僕も書いてみて少しの気恥ずかしさを覚えた。

 

手が動く。

 

とはいえ他にいいものも思いつかないのでさっさと投稿ボタンを押してしまった。

もっと緊張するものかと思ったが、押してしまえば簡単なものだ。

レストランの呼び出しボタンと同じレベルだ。

 

「送っちゃった。これどうするの?」

 

「何の感慨もないですね……。いいですけど。

回答は恐らく……数日も待っていれば返ってくるでしょう!!

だから同じ質問を何か所にもするんです!!」

 

なるほど、と僕は返事をした。

 

このサイトができたのが3か月程度前だとすると、

訪れているのは1日10人程度か。

そのうちの半分が掲示板を覗くとすると例えば3日でのべ15人がこの質問を目にすることになる。

この質問を計5か所で行えば5倍の75人。

 

75人に聞き込みをする手間を考えれば、元は十分に取れてそうだった。

 

「でもこれすぐに結果を確認できないのかな?

他の人が送ってきた時ってどのタイミングでページが変わるの?」

 

「それは……ページを更新すればわかるはず……ここを押しましょう!!」

 

ページを開いた時のように画面が真っ白になり、上から少しずつ表示されていく、

今日はインターネットに対する知見を大いに得ている。

この作業をした時に、既に別の端末から回答が送られていた場合、表示されるというわけだ。

 

「……お?」

 

僕は先ほど自分が書いた文章の下に何かぶら下がっていることに気づいた。

当たり前だが自分の書いたものではない。

つまり……。

 

「これ、もう回答がきてるの?」

 

「……!! お、落ち着いてください先輩!! こんなこともあります!!

だから落ち着いてください先輩!!」

 

君が落ち着きなよ、といつもなら返すのだがその余裕もなかった。

僕も喉の渇きを覚えて唾をごくっと飲み込んだ。

 

二人して書いてある文章を覗き込む。

 

 

ここに書いてあるよ^^

 

 

その下には青い文字でアルファベットが並んでいた。

 

「なにこれ?」

 

「……これはハイパーリンクです、先輩」

 

ハイパーリンク。

ただのリンクではなくハイパーなリンク。

余談だがスーパーとかハイパーとかは真田さんの好みそうな語彙だ。

 

「つまり……?」

 

「これを押すと別のサイトへワープするんです!!

さあ、行ってみましょう……!!」

 

「ちょ、ちょっと待ってよ」

 

それは言うなれば直感。

僕の事なかれ主義に根差した本能が訴えかけている。

何となく、危険だ。

 

「今更怖気づいたんですか!?

虎穴に入らずんば虎子を得ず、ですよ!! 先輩!!」

 

「いや諺はいいけど……これやっぱりあや」「問答無用!! てやあ!!」

 

クリックは投げられた。

 

また同じように窓枠が表示され、その内容が……。

 

 

WARNING!!!! WARNING!!!! WARNING!!!!

WARNING!!!! WARNING!!!! WARNING!!!!

 

 

止まらない。

 

 

WARNING!!!! WARNING!!!! WARNING!!!!

WARNING!!!! WARNING!!!! WARNING!!!!

 

 

「ぎゃああああ!!!! なにこれええええ!!!!」

 

「おおおお、落ち着きなよ」

 

野太い悲鳴が聞こえてくる。

 

増え続ける無数の窓枠。

そこに表示された真っ赤なアラート。

 

嫌な予感の正体がわかった。

これは罠だったんだ。

 

僕らが呆けている間も窓枠は増え続ける。

このままでは全てが埋め尽くされてしまう。

 

消さないと。

必死に窓枠を消すボタンをクリックするが増える勢いの方が強い。

というよりクリックしても消えていない気がする。

やっぱり分身の術を習得すべきじゃなかったのか。

 

汗が滲んできた。

このまま増え続けると一体どうなるのか。

コンピュータが爆発したりしないだろうか。

 

僕の脳の理性的な部分が画面下に目を向けさせた。

全ての窓枠はここに概要が出てくる。

 

幻想に惑わされるな。

真実を見ろ。

根を断つのだ。

 

ここならば窓枠消し消しボタンにカーソルを合わせる必要はない。

きやがれ、ここからは根競べだ――。

 

そう思った矢先に叫び声が聞こえた。

 

「ああああ!!!! 消えろおおおお!!!!」

 

少女はケーブルに掴みかかると、そのまま引っこ抜いた。

画面がプツっと嫌な音をして消える。

 

消えた瞬間の白線が残光としてしばらく残る。

僕はその様子を急に目を覚ましたみたいに眺めていた。

隣から激しい呼吸音だけが聞こえてくる。

 

「はあ……はあ……全ての家電製品は電源を抜けば止まるんです……!!」

 

「……それはまずいんじゃないの?」

 

え? と少女が驚きと心配の入り混じった表情を浮かべる。

姉さんが父親から注意されていたのを聞いたことがある。

コンピュータは精密機械だから電源を抜いてはいけないと。

 

そうだ、だから僕はコンピュータって難しそうだなって思って手を出していなかったんだ。

 

「故障とかしてなきゃいいけど……」

 

「こ、故障……!?」

 

僕は窓口の方を向いた。

係の人はまだいる。

 

こういう不測の事態こそ、大原則にのっとろう。

 

「窓口の人に相談しよう。ほら、行こう」

 

少女は下を向いたまま小さく頷く。

伸ばした手は、しばらく見つめられた。

はっと気づいたように、彼女は手を取らずに力なく立ち上がるのだった。

 

役割をなくしたその手は、手持無沙汰に髪の分け目を整えた。

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