魔法少女GL ~女の子たちの初手はいつだってルームシェア時空!!~ 作:MOPX
コンピュータは結論から言うと無事だった。
係の人が手順通り起動するのを僕らは後ろから見守っていた。
特に何事もなかったようだが、悪い影響が出ていないか調べるとかで
今日の利用は控えてほしいとのことだった。
係の人は終始、温和な表情だった。
仮に壊れたとして、私物ではなく施設の備品なのだから
こんなものかもしれない。
使用禁止。
即興でそう書かれた紙が精密機械へと張られる。
僕と隣の少女はそれをまじまじと見つめていた。
きっと思いはいっしょだ。
これは僕らの行動の結果。
隣の少女から「弁償は……?」と小さく聞こえてきた。
どうやらずっとそのことを気にしていたらしい。
係の人が声を上げて笑ったので、僕は大丈夫なのだとわかった。
確かに弁償ともなれば御両親にも迷惑をかけてしまうので、
心配するのは正しいことだ。
「よかったね」そんな言葉が口からもれていた。
「……はい」照れくさそうに返事が返ってきた。
僕らは施設を後にした。
出ていくまでも、出て行ってからも言葉は少なかった。
しばらく歩いてから僕はポケットの中にあるものの感触に気づいた。
食事の割引券。
そういえば今日の主役はこいつだった。
「ご飯」
「……はい?」
「ご飯、食べない?」
僕は券を裏返して内容を確認する。
商店街の加盟店ならどこでも割引がきく。
「まあ甘いものでも食べた方が元気も……」
「……ラーメン」
「え?」
「ラーメン!!!!」
ちょっと怒り気味な雰囲気に押され、そのままラーメン屋へと足が向かった。
商店街の入り口にあるお店だ。
ラーメン自体にはあまりこだわりはないが、このお店にはちょっとした強みがある。
お店に入ってテーブル席へと着く。
向かい合った少女の顔はというと目が座っていて、
落ち込んでいるようにも不機嫌なようにも見える。
気を遣いすぎてもしょうがないので僕はメニューを取り、すぐ渡した。
自分の注文はもう決まっている。
少女も指をさして意思表示を行った。
味噌ラーメンと豚骨ラーメン。
僕らのその注文は同時にやってきた。
「豚骨派?」
「好き嫌いなんてしません。一番おいしそうに見えたというだけです」
「なるほどね」
僕は傍らの缶に手を伸ばした。
中身をスプーンで一掬いして、先ほどやってきたドンブリへと投下する。
一回、二回、三回、四回……まだ足りないかな、五回、六回。
全部終わった時にはスープは元の面影もなく綺麗な赤色に染まった。
「先輩!!!! それ辛いやつ!!!!」
「知ってるよ。さすがに」
「……!! そうですよね、何でもありません」
「心配してくれたんだね」
「何を……!! 私だって辛いのくらい大丈夫です!!
子供じゃないんですから……!! 貸してください……!!」
「関係ないよ」
「え?」
「……お姉さんのために頑張る君は立派だよ。辛いのは関係ない」
「……」
手を合わせて、食事の挨拶を言って僕らは食事を始めた。
麺をすする音がこの空間を支配する。
一方で、僕の主観情報では口の中が辛さに満たされている。
食が進む。
ただ食べるだけでは面白くない。
このスープを一口すするごとに口の中に侵入する刺激が、
情報量を増やし、腹を満たす以上の快感を脳に与えるのだ。
「私……やっぱり子供ですよね……」
目の前の少女の告白に僕は目を上げて、そのままでいた。
しゃべりたいようにしゃべるのが、一番の発散になるはずだった。
「今日、空回りしちゃいました。先輩も付き合わせちゃって……ごめんなさい」
「別に謝らなくていいよ。こんなもんでしょ、僕らの年齢」
「……じゃあ、お礼言います。助かりました」
「姉さんが父さんに注意されてたのを思い出しただけ、コンピュータ」
「お姉さん、いるんですか?」
「うん、一人」
「仲、良いんですか?」
「……。普通かな。悪くはないよ」
「そうですか」
「スケッチブック」
「え?」
「前に集まった時、出してたじゃん。絵を描くの?」
「……」
「言いたくなかったらいいよ」
「……描きます、よく。……子供っぽいですか?」
「全然。大人も絵くらい描くでしょ」
「……そう、でしょうか」
「世にあるイラストとか漫画とか全部子供が描いてるわけじゃないでしょ」
「……ふふ。先輩って理屈臭いです」
「言われるね、……よく」
「よくですか。直さないんですか?」
「産まれた時からこの性格だよ」
「あはは。……おいしいですね、ラーメン」
「うん。真田さんの食券、無駄にしなくてよかった……あ」
「真田さん? はー。真田さんの差し金だったんですね。
今度会ったら言っておいてください。
気持ちはありがたかったです、でも子供扱いしないでください!!って」
「それ僕が言うの……? ちょっと無理かな」
「なんでですか?」
「君を心配してたの、僕もだから」
「……」
「そこ黙るの?」
「……ええい。わかりましたよ。
……ありがとうございます、先輩」
「急に素直になったね」
手が動く。
「それ、癖なんですか?」
「え? 何のこと?」
「そのマフラーをもふもふするやつ」
「してないよ」
「してますけど……もしかして先輩、照れてます?」
「何のことやら……」
手が動いていた。
「まあでも良かったよ。一番はゆめちゃんを気分転換させることだったから」
「はい……。……。……!!」
「どうしたの?」
「先輩……いま何て呼びました?」
「ゆめちゃん」
「な、な……」
「前に普通に呼んでって言ったの君でしょ……。他の呼び方がよかった?」
「い、いえ……急で驚いただけです」
「そう」
「先輩」
「なに?」
「今日はありがとうございました」
「うん、僕も楽しかったよ。ゆめちゃん」
「じゃあ、そろそろ……」
「うん、そうだね」
『ごちそうさまでした!!!!』
帰り道、僕らは並んで歩いた。
村田さんと上手くやっているか聞いたら、
なんでもソナー能力を持っているらしく大いに得意になっているそうだ。
何となく、様子が思い浮かぶ。
帰りもいっしょに帰っているが、
拙いながらもお姉さんと会話を試みているのだとか。
そうして、他愛のないことを話して、
ゆめちゃんの表情の変化を見て、こちらも返して。
僕の中に暖かいものが宿っていくような――。
「……っ!!」
「ゆめちゃん? 大丈夫?」
「大丈夫、です。ちょっと手足が……痺れただけ」
そう言った彼女はもう元の様子に戻っていた。
どうやら真田さんの見立ては正しかったらしい。
「やっぱり疲れてるんだよ、君。家に帰ったらゆっくり休まないと」
「……はい、ありがとうございます」
てっきり決め台詞が飛んでくるかと思ったんだけど、そんなことはなかった。
田中家の前に着く。
「じゃあ、今日はありがとうございました、先輩」
「うん、僕もありがとう。……その」
「どうしましたか?」
「先輩先輩って。その呼び方さ、そのままなの? 僕も直したんだけど」
「え、嫌ですか先輩」
「そういうわけじゃないよ」
「ふふ、じゃあいいじゃないですか」
扉の前まで進んで、くるりと振り返る。
彼女は悪戯する前の子供のような、無邪気な笑顔を見せていた。
「またよろしくお願いします。せ・ん・ぱ・い」
彼女が扉を隔てた向こう側へと消えた。
僕は呆けたように、そこに向かって手を振っていた。
今の先輩は、今までの先輩とは明らかに違うニュアンスだった。
真田さん、また福引を当てたりしないかな……なんて思ったのは内緒だ。
続