魔法少女GL ~女の子たちの初手はいつだってルームシェア時空!!~ 作:MOPX
「伊藤花ああああ!!!!」
紫の弾丸が玄関へと発射される。
緑の少女に命中するかと思われたそれが、
透明な壁にぶつかったように弾かれていく。
伊藤さんの体からは黒い霧のようなものが噴出していた。
「お姉ちゃん!! 2階へ!!」「ゆめちゃんも!! ここは私が抑えるから」
「何だかわからないけど私も戦うよ!!」「許さない!!!! あんたもこの男も絶対に許さない!!!!」
いくつもの叫びがこだまする。
頭の中をぐるぐると思考が渦巻く。
違う、今必要なのはもっと直観的な理解だ。
もしもここがモンスターに襲われるというなら、戦う術を持っていなければ終わる。
僕は弾かれるように客間へと戻り、魔法棒を掴み上げた。
手足がもつれる。
どたどたと動物的な動きで元の場所に戻るが。
「最初から霧だったのね!!!! 卑怯者!!!!」
もう状況は変わっていた。
少女が叫んだ通り、博士の体は黒い霧と化していた。
霧が宣う。
「伊藤君とはついそこで会ってね。私の考えに賛同してくれるそうだから助手として採用することにした。
彼女は反魔法力と魔法力を共有できる特殊な体質でね……。私の力を少し……埋め込ませてもらったよ」
「それじゃあ花ちゃんは操られて……!!!!」
真田さんの語気が強まった。
「それでは魔法少女諸君。存分にパーティを楽しんでくれたま――」
紫の弾丸が霧を振り払う。
僕たちの視線は伊藤さんへと――正確には伊藤さんの周囲の黒い霧に集められた。
霧が集まり、形を作っていく。
こんなところでモンスターを生み出すつもりか?
とにかく状況を理解しようと全員の言っていたことを思い出す。
誰がなんて言っていた?
――お姉ちゃん、2階へ。
それはつまり自分はここに残るという意思表示で、彼女は魔法少女じゃなくて。
「ゆめちゃん!!」
肩を引っ張る。
「やめてください!! 私も戦ってお姉ちゃんを守るんです!!」
「バカ言うなよ!!!!」
「そうですよ、私も戦いま――」
「田中こころ!! あなたも下がってなさい!! こいつは私が倒す!!!!」
「影ちゃん!! 花ちゃんは操られているだけだから!!」
全員の叫びがミキサーにかけられてグチャグチャになる。
僕は必死に彼女を引きはがそうとした。
全員の叫びの中で呆れたような小さな声を、耳が拾いあげた。
やはり私が運命を破壊せねばなりませんわね。
真田さんがゆめちゃんを僕の方へ押し込む。
真田さんとはゆめちゃんを保護する点では一致していたようだ。
彼女が僕の体に収まる。
痺れる感触が、全身に走った。
「放して!!」
「放さない!!上に逃げるよ!! 田中さんも!!!!」
ベレー帽の少女が前へと出る。
出来上がりつつあった黒い像を片っ端から吹っ飛ばしていく。
「嫌だ!!!! 私も戦う!!!!」
田中のお姉さんがとんでもない駄々をこねる。
もうこの姉妹の言いたいことはわかった。
「田中さん!! お姉さんは妹の傍にいないと!!!!」
「……!!!!」
「ゆめちゃんも!! 二人とも2階へ行ってお互いを守る!! それでいいでしょ!!」
「~~~~!!」
何か言いたそうな彼女は、最後には自分で姉の手を引いていった。
僕も二人を追う。
男の声が頭に響く。
逃げ出す。
上等だ。
とことんやってやる。
それで守れる人がいるんだったら。
二人を追い立てるように階段を昇る。
扉がいくつか見えた。
少女の手により手前の扉が勢いよく開いた。
「早く!!」
ゆめちゃんがお姉さんを招き入れる。
「高橋さんは!?」
横に首を振る。
「ケガ!! しないようにしてくださいね!! 真田さんと村田さんも!!」
声をかけてくれた少女が引きずり込まれるように姿が見えなくなる。
階段の下へと向き直る。
小利口さが息を吹き返す。
モンスターがそこまでの脅威ではないのは、人間を狙って襲わないから。
この一点に尽きる。
出現だってまばらだし、大量発生した例はあまり報告がないはずだった。
だが、もしモンスターを意図的に発生させる存在がいれば。
その時は、この世界の大前提がひっくり返る。
この町から、世界の理が崩れていく。
僕は下へと向かおうとした。
防衛するにしても階段のあたりで真田さんと村田さんの援護をする。
手は震えていた。
首のあたりへと無意識に伸びそうになった手を、意識が抑える。
僕は改めて魔法棒を握りなおし、足を動かそうとした。
その瞬間だった。
「ちょっと、あれ何!?」
甲高い声は背中の方からだ。
また、意識に割り込みが起こった。
部屋の中に直接モンスターが湧いたら?
あるいは外から侵入してきた?
「もう!!」
僕は素早く扉を開けて中に入った。
二人の少女は窓の方へと向いていた。
「何があったの!?」
「た、高橋さん、あれ……!!」
声のするままに外に目を向けると、
まるで夜のように外界は闇で満ちていた。
それだけじゃない。
研究所の方に――あれは研究所があったはずの場所に――
巨大な黒い繭のようなものが出現していた。
他のビルより、2倍も3倍も大きい。
それはまるで研究所を覆いつくすように生え、上へと伸びていくようだった。
「あんなもの……今までなかった……」
ゆめちゃんが小さくつぶやいた。
今までとは、この時間を何度も繰り返してきた中で、という意味だろう。
少なくとも彼女はそういう意味で使ったはずだ。
外から悲鳴が聞こえた。
カーテンの隙間から朝日が差し込むように、
町へと黒いモヤが降り注ぐ。
数秒おきに、何か所も。
黒い怪物が現れているに違いなかった。
「先輩……!! 来ますよ!! ベランダへ!!」
僕は彼女の言わんとしていることがわかった。
黒いモヤの降り注いだ地点から、黒い点が段々と大きく見えてくる。
小さな点だったそれは、羽を生やした種であることがわかった。
遠近法。
こちらに近づいているということだ。
僕は鍵を開けさせてもらい、外へと飛び出た。
敵が来るようなら迎撃するしかない。
少女が僕の横へと出てきた。
「ゆめちゃん!! 危ないから中に入って!!」
「人に守ってもらうだけなんて……私は嫌」
黒い髪の少女は、しっかりとした手つきで魔法棒を構えた。
「……っ!!」
「ゆめちゃん!!」
少女がよろける。
反魔法力が濃いから?
僕は彼女を抱えようとした。
「私より敵を見てください!! 先輩!!」
視覚のセンサーがその向きを変える。
先ほどの黒い点は更に大きくなり、その姿が確認できた。
あれは鳥だ。
嘴が異常に発達した種だ。
それは一直線にこちらへ突っ込んできていた。
撃ち落とせるか?
やるしかない。
僕が魔法棒を構えるより先に、僕の物ではない魔法棒が前方に映った。
「ゆめ!!!! 危ないから中に入らないと!!!!」
「先輩、あの敵どれくらい自信がありますか?」
「早めに撃ち落とす、無理なら君たちを守る」
「そうですか。じゃあ下がっていてください」
「ゆめちゃん……?」
「ゆめー!!!! 危ないってば!!!! 言うこと聞いたらお菓子焼いてあげるから!!!!」
「お姉ちゃんちょっと静かにしてて!!!!」
鳥はもう、はっきりと見える距離まで来ていた。
加速を続けている。
「やらなきゃいけないこと……わかってきたんです」
少女が闇に閉ざされた外界へと向かって咆哮する。
「ドリームドリルゥゥ!!!!」
巨大な桃の渦巻きが眼前へと出現する。
何回転も綺麗な螺旋を描いて、僕らを包み込むように。
敵が到達しているはずの瞬間も回り続け、
終わったころには、元の風景とともに、黒い残骸のようなものが風に流されていった。
「こうすれば確実です」
少し得意げに言った少女の髪は、先ほどの渦巻きに似た桃色になっていた。
「ゆめ……!!」
田中のお姉さんがゆめちゃんに抱きつく。
「わわ……お姉ちゃん……やめてよ……」
「よかった……魔法少女になれたんだね……ゆめ……!!」
「大げさだよ……お姉ちゃんがそんな喜ぶことじゃ……」
「ううん……だって世界がこんなになっているから……魔法少女なら自分の身は守れるから……」
「お姉ちゃん……」
二人の様子を見て、僕には肩をすくめる程度の余裕が戻っていた。
「はあ……はあ……雑魚どもは片づけたわよ!! 伊藤花!!」
緑の淡い光を放っていた少女が、黒く染まった武器を振り上げた。
対峙していた黄の少女は立ち尽くすようにその場に立っていた。
「フラワァァァァチェーンソォォォォ!!!!」
「危ない!!!!」
黄色い閃光が地から天へと跳ねあがる。
光の筋に弾かれるように黒いバトンはくるくると回り、
緑の少女の後ろに乾いた音とともに落ちた。
紫の少女は安堵の息を吐いた後、啖呵を切った。
「真田天!! 何をしているの!? トドメをさしなさい!!
その女にぎゃふんと言わせるのよ!!!!」
「花ちゃん……どうして……?」
少女の頭には緑の髪飾りが光っていた。
それは彼女が呪縛から解放され、自分と向き合った証――
のはずだった。
「ふふふ……そろそろ本気を出しましょうか……?」
「何を言ってるのよ!! あんたが真田天に勝つ確率なんて0パーよ!! 0パー!!」
「それを運命というならそうなんでしょうね……」
「花ちゃん……私たち、もう戦わなくていいんじゃなかったの……?」
少女が棒を拾い上げ不敵な笑い声をあげる。
「刮目しなさい!! この私の新たな力……新たな姿を……!!!!」
続