魔法少女GL ~女の子たちの初手はいつだってルームシェア時空!!~   作:MOPX

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第5話 初めての巨大化!?!? 魔法少女超進化!!!!(前)

「新しい……姿……? 花ちゃん、それって……!?」

 

少女の困惑した瞳は、正面を捉えていた。

 

「ええ。私の新しい力です……!!」

 

「何よ……!! もったいぶって……!! やれるものならやってみなさい……!!」

 

傍らで構えていた紫の少女が言い放つ。

邪悪な笑みが少女の顔いっぱいに広がる。

 

「ふふふ……やります。やりますとも。しかしながら……」

 

黒い風が巻き起こる。

黄の少女と紫の少女が身構える。

 

「――ここはいささか狭すぎる」

 

緑の少女が隙をついて身を翻す。

扉が開き、まるで隙間風のように少女は姿を消す。

 

「くっ……!! 何よハッタリじゃない!! 待ちなさい!!」

 

「影ちゃん!! 花ちゃんはきっと……!!」

 

「私の能力ならあいつの後を追える!! 悪いようにはしないわよ!!

 

紫の少女の横には紫の球体が発生していた。

動きを見せた黄の少女に一喝が飛ぶ。

 

「真田天!! あなたは田中こころを守るんでしょ!?」

 

「!!」

 

紫の少女が扉から出ていく。

ひとりだけになったその空間で、独り言が静かに響いた。

 

「私は……花ちゃんにも影ちゃんにも……無事でいてほしくて……」

 

 

 

 

 

僕はベランダから外へと目を光らした。

どうやら敵はもう襲ってこないらしい。

尖兵が玉砕されたことで戦略を練り直す……なんて知性はモンスターにはないはずだった。

 

今までであるのなら。

 

「お姉ちゃん、これからは私が守るから、お願いだから前へ出ないでね?」

 

「ゆめも!! だったら私がゆめを守るから前へは……」

 

「何でそうなるの!?」

 

姉妹の軽口を聞いて僕の気持ちも不思議と和らいだ。

 

外ではまだモンスターが降り注いでいる。

多くの人は出歩くのを止め、室内へと避難しているに違いなかった。

普通なら緊急で当番の魔法少女に連絡が行くはずだが、それもないだろう。

 

こんな状況に対応するのは誰であっても多分無理だ。

 

「真田さん!! 大丈夫……!? 怪我とかない!?」

 

田中のお姉さんの大きめの声が耳に入り、僕は振り向いた。

真田さんが力なく部屋へと入ってきていた。

 

疲労している様子でもなかったが、深刻そうな顔をしている。

 

僕は聞き耳はしっかりと立て、改めて外へと警戒した。

 

 

真田さんの声で説明が始まる。

 

「花ちゃんがここは狭すぎるって出て行って……影ちゃんがそれを追いかけて……!!」

 

ゆめちゃんの声で指摘が入る。

 

「真田さん、落ち着いてください。モンスターは全員倒したんですね?」

 

「うん……そうなんだけど、花ちゃんがパワーアップした新しい姿を見せるって……!!」

 

「伊藤さん、ムキムキになるの!?」

 

田中のお姉さんの冗談だか本気だかわからない質問が飛んでいた。

完全に少年漫画のイメージなのだろうが、否定はできなかった。

博士が幻を作り、外では怪物が大量発生している。

 

何が起こっても、もう不思議ではない。

 

「真赤ちゃんは……? 外に何かあるの?」

 

「先輩は外を警戒してくれてます。さっきもモンスターが襲ってきたんですが私が撃退しました」

 

「そうなんだ!! ゆめちゃん偉い!!」

 

僕は外を引き続き見ながら、苦笑いが漏れた。

本来なら魔法少女をずっとやっていた自分が何とかするべきだったのだろう。

 

戦闘をしたくないわけではない。

その機会が訪れないだけだ。

 

運命。

 

ふと伊藤さんの言っていたことが気にかかった。

運命を壊す。

彼女は果たしてどういう意図でそれを言ったのか。

 

「そうそう!! ゆめったらこう……渦みたいなのでぐわああああっと!!

憧れの魔法少女にも成れたんだよね!! ……あれ? 真田さんあんまり驚かない?」

 

「……え? う、うん!! ゆめちゃん魔法少女になれたんだ~すごいなあ~!!」

 

「お姉ちゃん、真田さんはもう知ってるの。真田さんも今更いいから」

 

そういえばゆめちゃんはお姉さんに対しては魔法少女に憧れている設定だったか。

田中のお姉さんの弾むような声を聞いて、またもむず痒くなった。

妹のことを認める姉は珍しいらしいから――。

 

 

「敵がくる!!」

 

叫んだのは僕だった。

半ば反射で、視界で動いた点への反応。

 

さっきよりも巨大な種は、その体よりも更に大きな両翼を広げている。

いや、特筆すべきは又もや嘴だろう。

先ほどの種がナイフだとすれば、今度はハンマーのように太い。

 

あれが普通の生き物なら南国などに生息してそうな種だ。

 

田中さんと、真田さんと、ゆめちゃんがぞろぞろとベランダへ出てくる。

全員が出てきてしまったのはまとまりがあるのかないのか。

 

ともかく眼前の敵に集中をした。

 

真田さんが魔法棒に力を込めている。

 

「真田さん、狙い撃つの苦手じゃなかった?」

 

「うん!! だから魔法力を溜めて思いっきり太くする!!

その……やったこと、あるから」

 

真田さんはなぜかバツが悪そうな顔をしていた。

どうも実行したことがあるみたいなので、ここは任せよう。

 

溜まった魔法力が一際、大きな輝きを放つ。

 

横の田中さんが「おおお!!」と歓声を上げる。

真田さんのファンという話は本当だったみたいだ。

 

ゆめちゃんは固唾を飲んで見守っている。

僕の時とは違い、何も言うつもりはないらしい。

 

 

胸で何かがうずいた。

 

 

僕はその感情に対する答えを、真っ赤なペンで跳ね上げるのだ。

 

 

こんな時にそんなことを考えるわけがないじゃないか。

 

「アァァァァク!!キャ――」

 

「真田さん!!!!」

 

横。

 

単語を選択する余裕はなかった。

 

そういう意図をもって声を発した。

 

怪物は真横を向いて、直角に進路を変えていた。

まるで真田さんの攻撃を予知するように。

 

「ノォォォォン!!!!」

 

少女のいたいけな叫びとともに黄の閃光が発射される。

極太のそれは、申し訳程度に横に傾く。

 

魔法力の密度が高すぎて制御がきかない。

 

逃げ切った黒い怪物は、旋回行動を取り加速を続けていた。

そのまま視界の隅へと入っていく。

 

「外しちゃった……!!」

 

「真田さん!! ドンマイドンマイ!!」

 

田中さんがスポーツの要領で声を上げる。

今のは敵の動きがおかしかった。

もしも真田さんの魔法力の高まりを察知したのだとしたら、

間違いなく今までの敵より厄介だ。

 

「心配いりません。突っ込んできたら私のドリルで粉砕するだけです。ね、先輩」

 

「そうもいかないみたい……!!」

 

え? と声を上げる少女に僕は促す。

 

視線の先には、ほぼ横まで回り込んできた怪物。

間違いない。

ベランダを避けて死角から攻撃するつもりだ。

 

「どうしよう……!!」

 

真田さんが懇願を込めた瞳で僕の方を見る。

何も出ないよりは、と意見を出した。

 

「とりあえず中に入ろう!!」

 

田中さんとゆめちゃんから入るのを促す。

死角から強襲されれば一溜りもない。

 

建物の中なら安全か。

あるいは建物の外へ出るべきか。

 

 

解は必要とされなかった。

 

 

轟音が鳴り響く。

家が揺れる。

 

この場にいる全員が立つことができず、足をふらつかせる。

 

「伏せて!!!!」

 

この場で唯一の地毛の髪色である少女が思いっきり叫ぶ。

 

壁がミシミシと音を立てる。

日常生活なら、どんなに年月がたとうが遭遇しない光景。

 

体中のアラートが鳴り響く中、それでも僕は――僕らは名前を呼んだ。

 

「こころちゃん!!!!」「ゆめちゃん!!!!」

 

真田さんが田中さんに、僕がゆめちゃんに。

 

驚いた彼女の顔を体で受け止める。

 

「ゆめ!!!!」「お姉ちゃん!!!!」

 

 

轟音が何かを突き破る。

それはきっと、日常と非日常を隔てていたもの。

 

物が倒れる音、壊れる音、全部がごちゃまぜになって一挙に押し寄せてくる。

 

顔を上げると、よくある子供部屋の様子はもうなく、

怪物の巨大な黒い嘴が、外界から突き刺さるように横たわっていた。

 

咄嗟に僕は扉側へ、真田さんはベランダ側へと飛び込んでいた。

 

少女の声が響く。

 

「真赤ちゃん!! ゆめちゃん!! 大丈夫!?!?」

 

僕はゆめちゃんへと目をやる。

憮然としているが、怪我などは見当たらない。

 

「とりあえず生きてる……」

 

「全然大丈夫です!! 真田さん!! お姉ちゃんは!?」

 

黒い物に遮られ、向こうの様子は全くわからない。

 

「こころちゃんは……大丈夫そう!! だからこっちは……」

 

「真田さんは大丈夫じゃない!!!!」

 

田中のお姉さんのしゃがれた声が貫通してくる。

 

「真田さん!! 怪我したの!?」

 

「私をかばって……!! 体で思いっきり!!」

 

「魔法力で受け止めたから!!!! 心配しないで!!!!」

 

向こうの様子がわからない。

そんな中、黒いものがわずかに浮き上がる。

 

とにかく逃げろ。

自己の安全を最優先に行動しろ。

細かいことは生き延びた後に考えることだ。

 

 

く――。

 

 

「真田さん!! こいつらはきっとお姉ちゃんを狙っている!!」

 

「はやく!! ゆめちゃん!!」

 

僕は扉を乱暴に開けた。

よかった、まだ開く。

 

「真田さん!! お姉ちゃんを……お姉ちゃんを……!!」

 

少女の声は涙でにじんでいた。

 

僕は半ば強引に、掴みかかるようにその体を扉の外へと押し込む。

 

「真田さん……!! あなたにしか、頼めないの……!!」

 

少女の祈りが騒音でかき消されていく。

僕の耳にだけ、届いた。

 

階段を駆け下りていく。

風が巻き起こる音が聞こえる。

 

僕らが外に飛び出す。

 

空はまるで黒い絵の具をぶちまけたようだった。

 

息を切らして周囲を確認すると離れたところで黄色い竜巻が起こっていた。

竜巻が止むと、黒い空がうねるようにその一点へと集まろうとしている。

 

あれはモンスターだ。

鳥類を象った、翼を持つ種が大量に発生している。

 

空を覆いつくさんとする量の怪物が、たった二人の少女を標的にしているのだ。

 

「お姉ちゃん……!! 真田さん……!!」

 

「ゆめちゃん!!!!」

 

引き留める言葉は持ちえなかった。

だから手を伸ばそうとした。

 

ふと、違和感があった。

 

この事件の原因が博士だとするなら、

その協力者となっていた伊藤さんは今どこにいるのか。

 

 

 

 

 

紫の少女は、息を切らして疾走していた。

 

緑の少女との距離は縮まらない。

 

曲がり角へとさしかかり、彼女の傍らを浮遊していた球体が先行する。

 

決して体力的には優れない少女が目の前の存在を追えているのは、

ひとえにこの能力のおかげであった。

 

角を曲がる。

 

まだ距離は縮まらない、縮めれない。

 

射程に入らなければ、まとまった量の反魔法力は確実に吹き飛ばせない。

一度、弾かれている以上、連射攻撃は通用しない。

大規模攻撃に集中する猶予はない。

 

ならば散弾攻撃で突き破る。

それが彼女の腹づもりであった。

 

緑の少女が唐突に足を止めた。

 

疲労、観念、迎撃。

 

何の意図があるか、そんなことには興味がない。

紫の少女の手に、魔法力が集まっていく。

 

「シャドーショットガン!!!!」

 

紫の波状攻撃が緑の少女へと迫る。

少女は、弾の方へと振り返り、そして――

 

口元に笑みを浮かべていた。

 

紫の弾が空間を突き抜けていく。

 

少女の形をしていた標的は黒い霧へと姿を変えていた。

攻撃の軌道だけが空気の流れを可視化したようにねじれている。

 

「……やられた!!!!」

 

口元が後悔と怒りで歪んだ。

 

あの男は黒い霧に姿を変えることができた。

緑の少女は、紫の少女の能力を知っていた。

 

だから緑の少女は、紫の少女を謀るために一計を案じることができた。

 

霧が、最後まで笑みを残したまま消えていく。

 

少女は必死に怒りを抑えた。

それは自分へのものに他ならなかった。

 

少女が真っ黒な空を仰いだ。

 

じゃあ一体、緑の少女はどこへ行ったのかと。

 

 

 

 

 

伸ばそうとした手は瞬時に魔法棒を握っていた。

桃の髪の少女が気づいて振り返った時には、もう真っ黒な蔦が迫っていた。

 

 

蔦が切り落とされる。

 

正確に言えば、蔦を切り落とした。

 

僕の魔法棒には、真っ赤な魔法力が宿っていた。

 

「先輩……!?」「僕のことはいいから、逃げて!!」

 

ほとんど遮るように声が出ていた。

自分でも驚くくらい大きな声が出ていた。

 

「でも……!!」

 

「……たまには魔法少女らしいこと、させてよ。

大丈夫、時間を稼いだら僕も逃げるからさ」

 

ゆめちゃんは迷ったような表情から、

口を一文字に結んで頷いた。

 

安全なところへ、というニュアンスを込めたつもりだが、

彼女はきっとお姉さんと真田さんのところへ向かうのだろう。

 

それでもいい。

 

今まさに、黒い植物が氾濫しているここから離れたら。

 

 

さて、と僕は魔法棒で黒いものを切り裂いていく。

その密度を見るに玄関側は少なく、死角となる庭に近づくほど増している。

要するに、庭の方に元凶がいるということだ。

 

僕は庭へと出てその姿を確認した。

 

「ふふ……流石ですね……真赤さん……!!」

 

「伊藤さん、ふざけてるの?」

 

黒い蔦状の植物に守られているような少女。

 

伊藤さんは下半身が土の下に埋まっていた。

上半身だけをこちらに向けてしゃべっている。

 

真田さん曰く、伊藤さんはここは狭すぎるといって出ていった。

それはつまり、遠くまで行く必要はないということだ。

 

求めている広さがあれば、それはこの家の庭であってもいい。

 

「……天さんは? 近くにはいませんか?」

 

この期に及んで何を、と言いたくなる。

 

「真田さんならここにはいないよ」

 

精いっぱいの皮肉を込めたつもりだが、

少女から返ってくるのは冷たい笑みだった。

 

「そうですか、それは好都合です。

ちなみに私を放っておくのはオススメいたしません。

いずれはこの世界を作り変えるほどに成長するので……」

 

「何言ってるのか、全然わかんないよ」

 

「では、わからせてあげましょう」

 

地面にいくつもの亀裂が走る。

その裂け目の中心にいるのはいわずもがな、一人の少女。

 

地面が盛り上がる。

土に埋まっていた部分がその姿を見せる。

 

少女の体が、その下に埋まっていた巨大な幹が、根が露になる。

その少女の部分はぐんぐんと高さを増し、破損していた屋根あたりまで到達する。

 

「刮目せよ……これこそが異界を滅ぼした漆黒の花束……」

 

混沌すら飲み込む幹。

 

全ての希望を摘み取る根。

 

堕天を齎す果実。

 

絶望という名の花を咲かせる大樹。

 

「ガルガンチュア・セフィロト・フラワー!!!!」

 

 

仰々しい名乗りを風と共に聞き流す。

 

「何だか君には煮え湯ばかり飲まされていた気がするよ」

 

僕は改めて魔法棒を握った。

 

ゆめちゃんは今、どこにいるのだろうか。

あの子は無理をするきらいがある。

できるだけ早く傍にいたい。

 

 

だから、この程度の因縁はさっさと片づける。

 

 

その先に力が宿っていく。

 

武器を掲げて、思いっきり斜めに振り下ろす。

 

高度応用魔法、その固有の名前を力の限り叫んだ。

 

「剣!!!!」

 

僕の魔法棒は、真っ赤に輝いていた。

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