魔法少女GL ~女の子たちの初手はいつだってルームシェア時空!!~   作:MOPX

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第6話 魔法少女の矜持!!!! 逆上がりは得意ですか?(前)

肌に水滴が落ちる感覚があった。

どうやら雨が降り始めたらしい。

 

 

黒い空はその濃さを強めながら、

ドロドロに溶かしたチョコレートみたいに粘度を増していた。

 

結局は、博士が世界を危機に陥れるというのが本当だったのだろう。

 

家は大丈夫だろうか。

 

うちの家族はみんなちゃっかりしているから、大丈夫だと信じたい。

 

悪友たちは大丈夫だろうか。

 

……この人たちもちゃっかりした連中だから大丈夫だと思いたかった。

 

考えてもみれば、僕の周りはちゃっかりした人間だらけだった。

 

類は友を呼ぶというなら、僕自身がそうである何よりの証拠だった。

 

 

 

だというなら、僕はいま何をしているのか。

 

闇雲に、当てもなく、こんな危険な状況で、一人の少女を探すのは。

 

僕の中で何かが壊れたとしか思えなかった。

 

「真赤!!」

 

聞きなじみのある声に振り向く。

 

南国の海を思わせる、爽やかな青の髪の少女がそこに立っていた。

 

「碧!? ……とりあえず再会を喜んでみる?」

 

「こんな状況でなければね。ハグでもする?」

 

「その隙にモンスターに襲われそう」

 

「真赤といっしょなら……」

 

「何でそこで照れるのさ」

 

悪友の一人が微笑みを見せて僕の顔も綻んだ。

事情を聞くに塾の帰りだったらしい。

安全を考え、しばらくは動いていなかったが

モンスターが一か所に集まってるのに気づき、さっさと帰宅することにしたらしい。

 

やはりというか、我が友はちゃっかりしていた。

 

「まあ、家が安全とも限らないけど。どうしちゃったのかな、これ」

 

呆れたように空を指さす少女に僕は何も言えなかった。

説明したところで、聡明な碧は信じたりしないだろう。

 

それはつまり、僕がこれからしようとしていることもだ。

 

「真赤、道まちがえてるよ」

 

少女が指をさした方向に、黒い渦が集まっていた。

 

「家も違う方向じゃん? 忘れ物じゃん? じゃんじゃん?」

 

「……」

 

「……真赤?」

 

「……トウバンジャン」

 

僕はやっとの思いでその一言をつぶやいた。

いつもなら合いの手で出てきたはずだった。

 

僕は足を再び向けた。

何も言わずとも、碧はまっすぐに帰宅するだろう。

 

「用事があるんだ。君は帰りなよ」

 

「その用事って私より大切?」

 

「何だよその探りの入れ方……。用事は用事だよ」

 

「ふう~ん……」

 

「じゃ、気を付けなよ」

 

「真赤、変わったね」

 

僕は胸が締め付けらるような錯覚を覚えた。

目の前の少女は穏やかな、しかし諦めたような笑みを浮かべていた。

 

「ごめん!! 早く行かないとゆめちゃんが……!!」

 

「ゆめちゃん? ……なるほど。はあ~。真赤は愛よりお金派だと思ってたのに」

 

「今はいいでしょそんなこと!!」

 

「まあいいや。真赤も早く帰りなよ。ば~い」

 

「はいはい、バイバイ」

 

やっぱり思った通り碧はまっすぐに帰った。

それでいい。

こんな不合理な行動を取っている人間につき合う必要はないんだ。

 

だからこそ、僕らは仲良くなれた。

お互いの、心の柔らかい部分を大切にできた。

 

 

碧は別の学校に進学する、

漠然と、もう会わないのかもしれないと思った。

 

 

僕の手は動いて、マフラーに触れていた。

仲良くなることができた、大切な思い出ができた。

それだけで、十分だったのだと思いたかった。

 

人はいつか、別れるのだから。

 

 

「真赤!!!!」

 

僕がまた振り向くと、少女が力いっぱい手を振っていた。

 

「あなたのこと、嫌いじゃなかったから!!!!」

 

聞いたことのあるような台詞に、思わず苦笑いがこぼれた。

 

 

再現されることのない出会い。

いつの間にか永久のものになっている別れ。

こうしたものを積み重ねて、人は何に行き着くのか。

 

もう進むって決めたんだから振り向かない。

 

もう一度だけ首に巻いたものの手触りを確かめる。

足はもう、全速力で駆け出していた。

 

 

 

 

 

本当に僕はどうしてしまったのだろう。

 

彼女の笑みを、怒った顔を、そして悲しい瞳を思い出す。

 

お姉ちゃんが、お姉ちゃんがとその口が発する。

 

僕にも、姉はいる。

 

だからこそわからないのだ。

 

姉妹にそこまでの感情を抱けることが。

 

相似しているようで、微妙にバランスの崩れたそれが

興味を助長しているにすぎないのか。

 

解を得るために、僕は走っているのかもしれなかった。

 

 

「ゆめちゃん!!」

 

眼が一人の少女を捉え、気づけば叫んでいた。

 

「……!! 先輩!?」

 

少女は魔法棒を威嚇するようにブンブンと振り回していた。

上空では嘴の大きな種、田中家を破壊したそれが飛び回っている。

 

僕は彼女のすぐ傍へと陣取った。

隣の少女はというと、驚きと困惑が混じったような表情をしていた。

 

「わざわざここまで来たんですね……意外です」

 

「困っている人を放っておかないのが魔法少女、なんてね」

 

もう、と少女がため息をもらす。

そんな仕草ですら僕に安心感を与える。

 

それは彼女が無事であることの証左だったから。

 

「そういえば伊藤さんは?」

 

「……。無事だけど記憶が混乱してたみたいで。君の家で待ってもらって……」

 

言いかけて黒い鳥がこちらへ突っ込んでくる。

 

「先輩!!!! ドリームドリルゥゥ!!!!」

 

目の前に桃色の渦が広がる。

 

敵は寸前のところで飛び上がると、そのまま上空を旋回した。

 

渦がゆっくりとその勢いを落としていく。

 

 

「く……!!!! ちょこまかとお!!!!」

 

「あのさ、それ隙も大きいしあんまり多用しない方が……」

 

「私、これしか技がないんですよ!!!!」

 

「ええ……!?」

 

思わず素っ頓狂な声が出る。

少女はこれまでの話を総合するに、幾度となく覚醒を遂げその度にドリルひとつで戦ってきた、らしい。

それはそれで一本気なゆめちゃんの気質を表していてなかなか……。

 

「げ!! あれ!!」

 

少女の声に僕の思考が阻まれる。

言われなくとも反魔法力の高まりを感じていた。

 

自分達よりはるか高い位置にいるあの鳥は、安全圏から攻撃するつもりだろう。

 

 

時間外労働も休日出勤も趣味ではない、趣味ではないが。

 

魔法力で人を守れるのは、紛れもない僕の特技だ。

 

 

鳥がその口を、折れ曲がるくらい大きく開いた。

 

「先輩!!!!」

 

 

"Mission name is red..."

(指をパチンと打ち鳴らす)

 

「……魔法少女ォ!!!!」

(真っ赤なマフラーを思いっきりたなびかせて!!)

 

「ガルガンチュアレッド」

(首だけ振り向いて魔法棒を振り下ろす!!)

 

 

体を捻って、そのままの勢いで。

全身の魔法力を武器へと込めて。

 

「剣!!!!」

 

鋭く半回転して、まだ見えていなかったそれに横殴りにぶつける。

黒い閃光――だったものは一瞬で砕け散り跡形もなくなった。

 

「先輩!!!! さっきより大きいのが来ます!!!!」

 

僕が視線を移すとなるほど確かに、さっきよりも巨大な玉が周囲の空間を歪ませている。

出力を上げれば敵うとでも踏んだか。

 

――それなら。

 

「盾!!!!」

 

魔法棒の先から、赤い壁が広がっていく。

発動に時間はかかるが、信頼性の高い防御壁。

怪物の体よりも大きな直径の光線が突っ込んでくる。

 

赤と黒がぶつかり消滅する。

その激しさを空気を通して音が伝える。

 

ゆめちゃんが片目を閉じつつ、前を見据える。

 

「先輩、感謝です!! でもこのままじゃ防戦一方ですよ!?」

 

「それなら……」

 

こっちから攻める。

 

魔法棒の握りを変える。

 

握りこぶし数個分を離して、がっちりと両の手で棒を握る。

そのまま手をピンと張る。

 

正しい構え方なんて、知らぬ。

 

「弓!!!!」

 

構えた円柱から、同じ形状の円柱が次々と発射される。

斜め上へと放ったそれは、怪物の巨体を捉えていく。

 

一発ごとに魔法力による爆発が起きる。

巨鳥が羽をばたつかせ、態勢の維持を図っている。

 

「飛び道具……!?」

 

「こんなのもあるよ」

 

武器を今度は、相手目掛けて指し示す。

先端から針状の赤が形成される。

 

怪物は黒い羽をまき散らしていた。

あれはどうやら即席の防御策のつもりらしい。

こちらの2つ前の技を参考に、1つ前の技の対策を打ったとも考えれる。

並みの長距離攻撃なら、あの羽が代わりとなり本体が守られる仕組みだろう。

 

まあ、もう遅いのだが。

 

「槍!!!!」

 

赤い針を直線軌道で打ち出す。

次の瞬きの後には、通り道にあった羽と巨鳥の体の一部が消し飛んでいた。

命中精度に難ありだが、敵の動きが小さくなったのを勘定に入れた。

 

「2つ目の飛び道具……!?」

 

ゆめちゃんがなかなか良いリアクションを返してくれるものだから、少し良い気分になる。

僕は、怪物の着地、もとい落下地点に飛び込んだ。

 

ひねりを加えて、飛び上がる。

上体を勢いを付けて回転させる。

 

先ほど別れた、友達の顔が思い浮かぶ。

 

たとえ、会うことがなくなっても僕たちが出会った事実は、確かに根付いている。

 

「斧!!!!」

 

小さいが、その分密度がべらぼうに高い刃。

嘴の付け根あたりにそれをぶつけてやる。

 

技術も知識も何もない。

あるのは高い魔法力が反魔法力を消滅させるという法則性だけだ。

 

一点からひび割れるように巨鳥の体が悲鳴をあげる。

もう修復は不可能だ。

血管が走るように赤色が走り、怪物の有していた黒は決壊した。

 

 

僕が振り向くと、ゆめちゃんがこちらに駆け寄った。

その顔は、驚きと嬉しさと安心が混じっている――ように見えるのは願望なのかもしれない。

 

「先輩!!!! いったいいくつ技を持っているんですか!?」

 

「だいたい今のだよ。友達の見てたら覚えた」

 

「見てたら覚えたって……!!」

 

嬉しそうな顔を見るに、非難ではないのだろう。

 

空は相変わらず黒くて、雨がぽつぽつ降っていたが、

不思議と暖かいものが湧いてくる。

 

こんな暗闇の中で、僕はやっと自分の道を見つけれたのかもしれなかった。

 

「……っ!!」

 

「ゆめちゃん!? 大丈夫!?」

 

少女が苦痛に顔を歪め、身を屈める。

瞬時の切り替えが上手くいかず、頭が混乱する。

 

さっきの戦闘では何もなかったはずだ。

いや、気づかなかっただけなのか?

それよりも、自分が駆けつける前に何かあったのかも――。

 

「見ないで!!!!」

 

「……!!」

 

見えてしまった。

 

隠すように胸に押し当てられた左手を。

 

その左手の指を。

 

その指が、光の粒のように輝いていることを。

 

それが不安定に、ぐにゃぐにゃと形を変え、

消えそうになっていることを。

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