魔法少女GL ~女の子たちの初手はいつだってルームシェア時空!!~   作:MOPX

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第6話 魔法少女の矜持!!!! 逆上がりは得意ですか?(後)

「何でもない……です」

 

少女が左手を、いっそう自分の身に寄せた。

 

「何でもなく、ないでしょ。見せてよ!!」

 

「何でもないものは何でもありません!!!!」

 

「何でもある!!!!」

 

「ない!!」

 

「ある!!」

 

僕は質問を変えた。

 

「いい? 何でもないことが何でもないんだったら世の中の何でもないことは

全て何でもないことになってしまうけど実際は何でもないことはないわけだから

何でもないということはない、つまり何でもないことこそがないという逆説的な矛盾を解消しないといけない」

 

「……!?」

 

「隙あり!!!!」

 

「しま――」

 

僕が手を伸ばす。

ゆめちゃんの左手で振り払われる。

 

視界に飛び込んだその手は、指先から付け根まで何の変哲もなかった。

 

「……!!」

 

「ね、言いましたよね。何でもないって」

 

「そんなはずない!! だって君の指は……!!」

 

ぐねぐねとうねり、器がなくなった水みたいに形をなくしていた。

 

「指は……」

 

視線が下がる。

何て声をかけたらいいのか、わからなかった。

言い換えれば、僕は何のために声を発するのか。

怒りたいのか、悲しみたいのか。

 

彼女に何を伝えたいというんだ。

 

「……顔を上げてください、先輩」

 

言われるままにする。

ゆめちゃんはとびっきり優しい笑みを浮かべていた。

彼女のこんな顔を見るのは初めてだ。

 

だからこそわかった。

僕が思っている通り、深刻な事態なんだと。

 

「私の体、魔法力でできてるみたいなんです。不思議ですよね」

 

不思議って。

二の句が継げない。

 

「血とかは出るんです。だから血とか体の細胞とか、多分全部、魔法力でできてるんです」

 

あり得ない。

聞いたことがない。

あり得ない。

 

「最近になって体が痺れるなって……思ったらこれなんですもん。ビックリしますよね……」

 

無理に砕けた言葉を使わないで。

無理に笑わないで。

 

「でも、私のやることは変わりません。お姉ちゃんを守るために……」

 

「ちょっと待ってよ……!!」

 

その音は怒気を含んでいた。

自分自身、理由はわからなかった。

 

「お姉ちゃんを守るために、じゃないだろ!! 君がまず安静にしてないと!!」

 

「な……!! そんなこと言ってる場合じゃないじゃないですか!!」

 

「関係ない!!」

 

「あります!!」

 

「ない!!」

 

「ある!!」

 

お互いの顔を見合わせる。

何だか既視感のあるやり取りだ。

 

「それではこうしましょう、関係あることは関係ある。

関係ないことは関係ない。……だから、え~っと」

 

吹き出した。

意趣返しが上手くいかない様子を見て思わず、悪気はない。

 

「先輩、笑うとこじゃないです!!」

 

ポカポカと全自動肩叩き機と化したゆめちゃん。

(殴っているのは胸だが)

僕はその様子を見て、何だか懐かしい気分になるのだった。

 

幾分かは冷静になった。

 

僕は改めて、ゆめちゃんの方へと向き直った。

 

「僕の気持ちは変わらないよ。安全なところに避難してほしい」

 

「嫌です。私はお姉ちゃんを守ります」

 

ため息が出る。

予想通りの答えだった。

 

田中こころさんと真田さんは魔法力の竜巻があった方向にいるのだろう。

 

どちらにしろ、助けには向かうべきだ。

今の黒い空を形作っているひとつひとつの黒が、彼女達を目指していたのだから。

 

僕はもう一度ため息を吐いた。

下手に一人で引き返す方が危険かもしれない。

 

「僕が戦うから君は後ろから付いてくる。それでいい?」

 

「何を言っているんですか? お姉ちゃんに対する全権は……」

 

「君が持っている、でしょ」

 

ゆめちゃんは満足そうに頷く。

 

僕は本当にどうしてしまったのだろう。

 

たとえ一瞬でも、こんな状況でも、

 

彼女が笑ってくれるのなら何よりだと思ったんだ。

 

だから連れて行ってしまったんだ。

 

 

田中ゆめを守りなさい。

 

ポケットの中。

伊藤さんから受け取った髪飾りがあることを確認する。

言われたからじゃない。

僕は僕の意志で彼女を守る、そうしたいと感じている。

 

僕達は並んで小走りで進んだ。

 

「それにしても……先輩の技の名前、どうにかならなかったんですか?」

 

「え? どこかおかしいかな?」

 

剣は剣、盾は盾、弓は弓だし、槍は槍と表現するのが適切、斧もまあ斧だろう。

友人たちはトッピングの如く派手な単語を乗っけていたりしたが、

どっこい、機能の追及にこそ真の美が見えてくるのではなかろうか。

 

ちなみにいま考えた論だ。

 

「……もういいです。先輩の美的センスはうっすら理解しました。

はあ……何でこうもズレてるのに……」

 

「え?」

 

「何でもないです!!」

 

ついにその真意はわからないまま話は終わった。

僕は行先を見据える。

 

そして気づいた。

 

何かが起こっているのではく、何も起こっていない違和に。

 

「竜巻が起きてない……?」

 

恐らくは真田さんが起こしていたそれが、いつからかぱったりと止んでいた。

ゆめちゃんの顔も険しくなる。

 

真田さんがいかに実力者といえど、その魔法力には限界がある。

もしも、仮に、怪物どもが学習能力を持ち、その結果として物量作戦を仕掛けたりすれば。

 

多勢に無勢になんてものじゃない。

未曽有の数の暴力。

 

「あ、あれ!!!!」

 

ゆめちゃんの叫びに釣られ、遥か先、その上空へ目をこらす。

 

黒い一団はその挙動を変えていた。

地上は目指さずに、集団でどこかに移動している。

 

目的地は研究所の真上にできた巨大な黒い繭と見えた。

 

「撤退している……?」

 

「……連れ去られているんです、お姉ちゃんが!!」

 

「え? どうしてそんなことが?」

 

「わかってきたんです……私の体がなんのためにあるか……。

きっとお姉ちゃんを助けるために……!!」

 

少女はもう駆けだしていた。

 

「待ってよ!!」

 

もう既に距離ができていた。

僕はその背中へ投げかけた。

 

「真田さんは!? 危ないんじゃないの!?」

 

「わかりません……!! でもお姉ちゃんを追いかければ合流できるはずです!!

真田さんが真田さんであるのなら……!!」

 

「どういうこと!?」

 

「ガルガンチュアアーク……アークはサンスクリット文字なんです!!!!

私がそれを……真田さんに伝えてしまったから……!!」

 

「だからどういうこと!?」

 

「私があそこに行かなきゃってことです!!!!」

 

僕は置いて行かれないよう、必死に後を追いかけ続けた。

ゆめちゃんが何を言わんとしているかはわからない。

 

でもそんなことは僕にとってはささいな問題だった。

 

ゆめちゃんの体は魔法力でできている。

魔法少女とモンスターの戦いは魔法力と反魔法力の削り合いだ。

 

じゃあもし、彼女の体が反魔法力に晒られたら。

 

脳が当然の結論を拒む。

そんな解など、いらない。

 

僕が守るだけだ。

 

足を千切れんばかりに動かす理由なんて、それだけ十分だった。

 

 

 

 

 

「真田天……!! 大丈夫なの、あなた!?」

 

「……影ちゃん」

 

紫の少女が声を上げる。

黄の少女は打ちひしがれたまま、地面へと膝をついていた。

 

雨足は強くなっていた。

 

「こころちゃんが……さらわれちゃった……私のせいで……」

 

「……!! 田中こころが!?」

 

その一言で、察した顔をする。

田中こころと呼ばれた少女が先ほどまでここにいたことを。

黒い繭へと引き上げていく怪物たちの行方を。

 

「研究所……!! あの男との決着をつける時が来たようね……!!

疲れてない、真田天? 何なら少し休憩を取ってから」

 

「……」

 

「……真田天?」

 

「私は、こころちゃんを守れなかった……絶対にそうするって決めたのに……!!

また……私は……!!」

 

「……真田天」

 

雨音だけが鳴り響く。

 

時間が流れるほどに、悲しさが満ちていくように。

 

そして、悲しさに染みるように、優しい音がした。

 

「聞いてよ。私の友達にさ、ものすごい行き当たりばったりの子がいて……」

 

「……?」

 

「最初は上手くやっていけるかな……? まあ魔法少女なんて利用すればいっか!!

みたいな感じだったんだけど……実は周りのことをよく見てて……」

 

「……」

 

「いつの間にかその子に、私は勇気をもらっていたの。

諦めない勇気とか、人を信じる勇気とか……だから今度は力になりたいの」

 

「影ちゃん……それって……」

 

少女が恥ずかしそうに視線を逸らした。

 

「……誰のこと?」

 

紫の少女がずっこける。

あのねえ……!! と非難の声が上がる。

 

「誰のことかはわからないけど……影ちゃんが私を励ましてるのはわかったよ。

……ありがとう、影ちゃん」

 

「……ん。調子狂うからそれくらいにしてよね。

……どういたしまして、真田天」

 

黄の少女が、紫の少女に手を引かれて立ち上がる。

 

「行くんでしょ? 研究所に」

 

「うん、こころちゃんが、まだそこにいるんなら私は諦めない……。

だって私は……!!」

 

「真田天だから?」

 

「あう……、読まれてた」

 

「あなたの行動パターンなんてお見通しよ」

 

二人の少女の顔は、少しだけ綻んでいた。

 

雨はもう、あがっていた。




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