魔法少女GL ~女の子たちの初手はいつだってルームシェア時空!!~ 作:MOPX
これは少し昔のお話。
少女は孤独だった。
周りに友達と言える存在はいなかった。
運が悪かったのか、はたまた気質が極端すぎたのか。
気の合う人間というものがいなかったのだ。
正しいと思っていることを言えば、不平不満が飛んできた。
先生と呼ばれる大人も周囲に合わせるよう少女へ言った。
少女はますます捻くれてしまった。
それでも少女は自分を曲げなかった。
幼心に、自己を捻じ曲げて生きていくことに疑問を持ったからだ。
その先に何もないことを漠然と信じていた。
家に帰ると彼女の姉が話し相手になった。
姉だけは少女と対等の目線で話した。
少女は姉が好きだった。
姉に憧れ、姉のようになりたいと思った。
物心つく前から、自分との関係を理解する前から、当たり前にそこにいる存在。
生まれ持った宿命で、自分の前を歩く存在。
誰も選ぶことのできないその並び。
だからこそ、その繋がりを大切にしたいと、そう思った。
「……ゆめちゃん!! 着くまで持たないよ!!」
「何言ってるんですか!! こうしている間にもお姉ちゃんが……!!」
研究所までは、このペースで走って20分はかかる。
要するに、ずっとこの速さを維持すれば着くころには体力が残っていない。
敵はこの近くにはもういない。
黒い渦は研究所に集結していた。
一度、戦いが始まれば苦しい戦いを強いられるだろう。
それでもこうやって、少女の背中を追いかけている。
「真田さん、大丈夫なのかな」
「……大丈夫です。研究所へ向かっています」
ぽつりとつぶやいただけなのに、明確な答えが返ってきて驚く。
通信の手段は持っていないはずだ。
「何となくわかるんです、真田さんの魔法力。
弱まっていたけど、また走り出してる……」
少女に非難の意志がないことはすぐにわかった。
それよりも気になることがあった。
「何でそんなことがわかるのさ!!」
息が切れる。
真面目に体力作りをしていたとしてもこの距離は厳しい。
自らを不真面目だと称する人間にはもっとだ。
だというのに目の前の少女はさも当然のように速度を維持している。
「わかりません……!!」
「わからないの!?」
「うるさいですね!! でも真田さんの魔法力はわかるんです……!!
理屈なんてわかりません!!」
不合理に身をゆだねる。
けれどそれがおかしいこととも思わなかった。
この町は、もうとっくにおかしな事態に見舞われている。
行き交う人々も、混乱の声も、あったのかもしれない。
僕の頭が、それを正しく認識できていないだけだ。
僕が行くことで、何か変わるんだろうか。
疑問ではなく、諦観。
理性は相変わらず、この状況を少しでも飲み込めるように努力していた。
演算の結果は、子供一人の行動で何かが変わるわけではないということだった。
それでも自分とちっとも似ていない、目の前の少女に
引っ張られるように進んでいる。
見えないものに突き動かされるように、僕の意志はもう決まっていた。
「ええい!! もう!! 敵が多いわね!!」
思わず不満の声を上げてしまう。
それもそのはず。
やっとの思いで研究所に入れたかと思えば、
わらわらと湧き出る怪物のフルコース。
背中に、自分の物ではない暖かさを感じる。
私、村田影は真田天と背中合わせで戦っている。
死角をなくし、敵の数をきちんと把握する。
空中を我が物顔で飛ぶ、その数4体。
鷹か鷲か。
厳密な区分は私にはわからない。
わかっているのはこちらに隙があれば、いつでも襲ってくるだろうということだ。
「影ちゃん!! 私が突っ込んで何とか……!!」
「空中にどうやってつっこ……」
敵が突っ込んでくる。
「ひゃああああ!!!!」「影ちゃん!!!!」
瞬時に金色の鎌が空間を裂く。
敵は軌道を変えて、上へと逃げていた。
「くる!!!!」
私の思考も行動も追いついていなかった。
矢継ぎ早に、別方向から、急スピードで。
私の体が、遮られるように庇われる。
受け止めたり、避けたり、反撃していることだけはかろうじてわかった。
真田天は、敵の猛攻を鎌一つでしのいでいた。
「真田天!!!!」
目の前の少女が息を切らす。
黒い巨鳥たちが散開する。
一体も欠かせることはできず、また睨み合いの状態に戻る。
いや、完全に元の状態に戻ったわけではない。
こちらの方が、明らかに消耗していた。
「出し惜しみをしている場合じゃないわね……!! 一気にケリをつけるしか……!!」
言葉とは裏腹に、声が震える。
背中が、また触れ合う。
ほんの少しの、勇気がもらえる。
「……やろう!! 影ちゃん!!」
「真田天……!! あなた魔法力は持つの……?」
どの口が。
真田天が魔法力をここまで消耗することになったのは、自分のせいだった。
4体のうち2体を受け持てれば、こんなことにはなっていないはずだ。
現実には私の分は0体だ。
これ以上、足は引っ張れない。
真田天が小さく頷く。
肯定されたなら、行くしかない。
真田天には謎の竜巻起こしがある。
あれに巻き込めればどの相手も一撃で仕留めれるはずだ。
とはいえ、的が散らばれば一度に相手にする数は絞られる。
攻撃してる間に隙ができるかもしれない。
私がやるのは一体でも多くの敵を受け持つこと。
段取りを考える。
考えた、けど、結論は実にシンプルだった。
「行くわよ!! 真田天!!」「うん!!!!」
私の前にいくつも紫の球体が浮かぶ。
「頼んだわよ……!!」
頭上、遥か上を旋回する敵ども。
あの距離では何をやっても威力が減衰してしまう。
ならば中継を設ける。
「シャドービット!!!!」
掛け声とともに、各機が一直線に射出される。
まるで流れ星が逆再生するみたいに、紫が空を覆っていく。
一体、なるべく大きそうな奴を広範囲から閉じ込める。
「発射!!!!」
紫の光が、360度全軸から中心の怪物へと放たれる。
手応えが足りないのも、各機が知らせてくれている。
「まだまだあ!!!!」
攻撃を止めない。
遠目にも怪物が行動を起こしているのがわかる。
何となく予想はしていたが心臓が浮き上がるような心地だ。
奴は近づいている。
つまり、実際に攻撃している子機じゃなくて本体である私を狙っている。
敵が、光に包まれながら落ちてくる。
倒せているわけじゃない。
きっと、恐らく、このまま体当たりしてくる。
汗が出てくる。
数秒後の自分はどうなっているのだと考える。
――人生の最期の瞬間って、どんな感じなのかな。
心臓の音が早くなっていく。
――きっと誰しもが自分の意識が消える寸前だなんて意識はなくて。
手が震え出す。
――いつの間にか、何も考えれない屍になっている。
黒い物体は止まらない。
――自分もそうなる。
「な……」
頭が真っ白になりそう。
「なめるなああああ!!!!」
瞬時に球体全部を呼び戻す。
自分の正面に、重ならぬよう即席の隊列。
後は撃ち尽くす。
逃げる?
その考えに唾を吐いて……まだ足りないのでもう一発唾を吐く。
私はもう逃げないって決めた。
だって独りじゃないから。
逃げるということは、傍らにいる子を独りにするということだから。
「うおああああ!!!!」
意識を集中させる。
それでも突っ込んでくる。
まずい、まずいまずい。
そろそろきつくなってきたんじゃない?
ねえ?
くろいものがおちてくる。
はが、がちがちなりだす。
え? まだいきているんだけど。
かんがえが、あまかった。
うるさいうるさいうるさい。
あたまが、まっしろに。
瞬時に映像がよぎる。。
父、母、父、母……。
息を吹き返すように思考が目覚める。
何でここにいるのか、思い出す。
「うおりゃああああ!!!!」
光の、全部が、一斉に。
最大級の直径で。
隙間がなくなったそれは、まるで一条の光のように。
怪物の体の半分を消し飛ばした。
巨鳥の残った半身はぐるぐると数回転し、不時着を思わせる動き。
……などと考えている場合ではなかった。
こっちに突っ込んできているのだから。
「ぎゃああああ!!!!」
とっさに身を翻して地面に転がる。
轟音とともに顔を上げる。
地面に横たわった怪物の残骸は闇夜へと溶けていく。
我、村田影、勝利せし。
余韻に浸る間もなく後ろを向く。
相手はいったいどれだけ減った?
真田天は――。
「……え!!」
思わず声が出る。
真田天は、いつの間にか竜巻を起こしていて、
何となくで数体葬り去って、残ったやつも鎌で引き裂いて――。
いなかった。
真田天は3体の巨鳥に囲まれ、いいように攻撃されていた。
どう見ても苦戦している。
「ちょっと……!! どうしちゃったのよ……!!」
鎌一本でしのぐには限界がある。
素早くステップを踏んで、身を躱しているが危なっかしい。
薄氷の上でのダンス。
怪物の陰から覗いた横顔は、
苦々し気で、痛々しくて。
こんな真田天は初めてだった。
「早く……!! 早く……!!」
魔法力が上手く戻らない。
さっきので大分消耗してしまった。
時間が経つのが遅い。
こうしている間にも、真田天は危険に身を晒している。
あっちの時間はあまりにも早くて、こうしている間にも取り残されそうで。
「早くってば……!!」
少女の体が、完全に巨鳥の黒い陰に隠れる。
陰の動きが止まる。
まさか。
そんなはずが。
頭に浮かんだ最悪の可能性に、体中の細胞が硬直する。
「て――」「ほいさあ!!!!」
影を切り裂いて、中から黄の少女が飛び出す。
安堵はしたが、心臓に悪い!!
「影ちゃん!! 悪いんだけど援護をしてくれたら……!!」
「当たり前でしょ!! しないわけないでしょ!!」
ちょっと涙声になる。
まだ、あの子は1対2で戦うつもりなのか。
一体は意地でも引き受ける。
「シャドービット!!」
戦っているうちに真田天との距離は離れていた。
それならさっきと同じ要領だ。
さっきよりも少ないビットが、巨鳥の一体を捉える。
その顔に当たる部分が、ぐるりとこちらを向く。
「来るなら来なさいよ……!! こっちだって子供のお使いじゃないのよ……!!」
巨鳥が一直線にこちらに飛び出す。
刹那、黄色い閃光が走る。
怪物は真っ二つに、その先には少女が息を切らしていた。
「影ちゃん!! ナイス!!」
「ナイスってあなた……!!」
今の真田天の動き。
確かに敵の隙を見逃さなかったとも言える。
だが、明らかに私をかばったものだ。
敵はもう一体いる。
マークが完全に外れた個体が。
「危ない!!!!」
もう遅かった。
最後の巨鳥が真田天に体当たりし、覆いかぶさる。
怪物の下腹部から、真っ黒な棘が鉤爪のように生える。
少女の体は完全に捕らわれていた。
「天!!!!」
あの態勢じゃあ反撃できない。
そう認識した瞬間、私の足は動き出していた。
後先は考えていなかった。
体当たりでもするつもりだったのだと思う。
もしも、ここで誰かが退場するのなら。
それは真田天か自分ならば。
理解よりも先に、覚悟が決まっていた。
私の眼が、敵と、守るべき少女を見据える。
時間がとてもゆっくり流れて、視覚が細かな情報を全部、伝えてくれる。
捕らわれた少女の手が動いていた。
止まった時間の中で、そこだけが早送りで動いているようだ。
白銀の魔法棒は、勢いよく怪物に突き立てられていた。
「この距離なら外さないよ……!!」
少女の口が、張り裂けんほどに大きく開く。
「アァァァァクシュゥゥゥゥト!!!!」
黄色い光が怪物の背中を突き抜ける。
巨体がふらふらと千鳥足でよろける。
その姿に、容赦なく鎌が振り下ろされる。
爆散するように飛び散る黒い粒は、戦いの終わりの合図だった。
「て……真田天!!」
私がその名前を呼ぶと、目を細めた笑顔が返ってくる。
「ちょっと疲れたけど……やったね影ちゃん!!」
「やったね影ちゃん!!……じゃあないわよ!! 無茶しすぎ!! ハラハラさせすぎ!! あと……あと……!!」
目の前にいる少女の感触を確かめるように、両手が肩へと伸びる。
ゆさゆさと、邪気のない顔ごと揺らしてやる。
感情がごちゃ混ぜになって、もうよくわからない。
それでも言わなければいけないことがあると直感がささやく。
「……私がもっと、頑張るべきだった。ごめんね……」
真田天がここまで無茶をしたのは私が力不足だったからだ。
手は真田天の背中に回っていた。
「……いいんだよ。私も影ちゃんも無事だったから」
二人で辺りを見渡す。
敵はもういない。
正直もうボロボロだが、魔法力が戻るようにゆっくりと進んでいく。
サイドテールを揺らしながら、それでも急ごうと言い出した時は流石に止めた。
それくらいは私の仕事だ。
落ち着いてきたところで、私はずっと胸につっかえていた疑問を口にした。
「真田天、あなた……アークセカンドにはもうなれないの……?」
「……。今回はその……ちょっと……。影ちゃんの言う通り出し惜しみするべきじゃなかったね!! ごめん!!」
「ちょっと、はぐらかさないでよ」
何となくわかっていた。
真田天は都合が悪い時は答えは言わず、謝ってくる。
今の返答も、私の言ったことを肯定はしているが、疑問には答えていなかった。
「あなたがそんな状態ってわかっていたら私だって無茶しようなんて言わなかった。教えてよ」
「……」
「真田天!! お願いだから……!! つらいなら、苦しいなら頼ってよ……!!
私達……友達なんでしょ!!」
少女が、しばらく迷った末に力なく笑う。
まるで、自分自身を笑ってほしいかのように。
「うん……。魔法力が足りなくて、もう無理みたいなの……」
「やっぱり……。どれくらいで全快しそうなの?」
「……1週間」
私は思わず、顔を覆った。
一体どれだけ無茶をしたのだ、この子は。
「魔法力って一晩寝たらだいたい戻るものじゃないの……?
まあ、いいわ。あなたはもう無茶するの禁止令。これからは私がメインで戦うわ」
「でも……それじゃあ影ちゃんがお父さんと……」
「……っ!! まだそんなことを言ってるの、あなたは!!
あの男はもう……人間じゃあ……きっと……」
「……でも!!
影ちゃんはお母さんと同じくらいお父さんが大切じゃないの……?」
「な……!!」
全くそんなつもりはなかったのに、狼狽えてしまった。
これも真田天があまりにも突拍子もないことを言うからだ。
あの男がお母さんと同じくらいなんて、天地がひっくり返ってもありえない。
「……はあ。何を言い出すかと思えば。あなたも見てきたでしょう?
あの男は化け物になって世界を恐怖に陥れるのよ。……そういう運命なの」
「でも……」
「……くどいわ!! 真田天!!」
あう、と正面から声が上がる。
ここは、はっきりと言わないといけない。
じゃなければ、この子はまた無茶をするだろう。
「あなたは魔法力を消耗しているんでしょう?
あの男は私が……倒してやるわ!!」
唯一、私があの男の娘として生まれた意味があるなら、それだけだ。
「……影ちゃん」
「さ、行くわよ。……田中こころを助けるんでしょう?」
真田天は静かに頷いた。
ここでその名前を出すのは、少しずるかったかもしれない。
私はさっさと研究所へ入るよう促した。
建物の中なら飛行するタイプも脅威ではない、たぶん。
「ところで影ちゃん、私の呼び方なんだけど戻しっちゃったの?」
「呼び方……? 何のこと?」
「その……私が危なくなった時に天!! って……」
「……!! な、なにそれ? 聞き違いじゃないの? 風の音か木々のざわめきよ!!」
「そっかあ、聞き違いかあ。……残念」
熱を帯びた顔を悟られぬように、そっぽを向く。
緊張感を持ち直すために、あの男の顔を思い浮かべる。
憎らしい、不遜な笑い声が頭の中であがる。
大丈夫だ、戦える。
今までずっと真田天に頼りすぎていた。
苦々しい記憶だが、あの男からも指摘されたことだ。
だから今、答えを出す。
あの男との決着は、私がつける。