魔法少女GL ~女の子たちの初手はいつだってルームシェア時空!!~ 作:MOPX
目を覚ます。
いつの間にか意識がそこにある。
胸が空っぽでも、心臓は動いている。
今日を活動させるためのエネルギーを、体中に送る。
そこに私の意志は介在しない。
生きるために、ではない。
生きているから、に過ぎなかった。
いつものように布団を片づけ、着替え、階段を下りる。
一段ずつ、静かに。
まるで断頭台に上がる罪人のように、その道を下っていく。
居間の前に私は客間――元々はそう使われていた部屋に入った。
今日も変わらず、そこにある。
眩暈がした。
これくらいは当然だ私はそれだけのことをしてしまった
許されるわけがないどうしてのうのうと生きている
さっさと消えてしまえだれも悲しまない
私に何かあればお父さんとお母さんが余りにも報われない。
毎朝の結論に辿り着き、私の動悸は収まった。
震える手で鐘を打ち鳴らす。
額の中のゆめは今日も笑っていた。
ただただ、赦しを乞うように祈った。
「いってきます、ゆめ」
独り言だ。
何を言っても無駄だ。
感動のワンシーンのつもりか。
全部お前のせいだ。
だってもう、世界のどこを探したって。
――ゆめはいないのだから。
靴を履いて外へ出る。
風が温もりを確かに奪っていく。
通学路をただ歩く。
所定の曲がり角で、私は止まった。
少し遅れようと、必ずその子はやってくる。
「こころちゃん!! おはよう!!」
「天ちゃん、おはよう」
駆け寄りながら元気な声がこちらへ飛ぶ。
私は軽く手を振って応えた。
大丈夫だ、いつも通りやれている。
幼馴染と合流し、話をしながら登校する。
最近になってからは、毎日。
「寒くなってきたねえ。私、布団から出るのつらかったよ~」
「うん」
手をこする少女の朗らかな声を私の低い声が遮断する。
――最悪だ。
少しの愛想もない。
可愛げがない。
相応の振舞をしろ。
せめて、せめて、普通にしてくれ。
幼馴染は話を続けた。
私がまともに話題を出せないのをわかっているので、
こうして話しかけてくれている。
本当に、私には相応しくない幼馴染だった。
「今日、算数のテストだね。勉強したけど……わかんないところ多かったなあ」
「……うん」
「こころちゃんは? 勉強した?」
「やってない」
「あはは。どうしても遊んじゃうよねえ……私も不安」
こうして、私たちの会話は流れていく。
言葉のキャッチボール、なんて言い回しがあるが、
私と天ちゃんのは壁に向かってするそれに近い。
もちろん、私が壁だ。
ふと、建物のガラスに自分たちの姿が映った。
足が止まる。
私は桃色。
天ちゃんは黄色。
それは私たちが魔法少女の証。
私のは、罪の証。
「髪型気になるの? 大丈夫!! 今日も……」
「散髪に失敗してる」
「あう……そんなに変じゃないと思うけどなあ」
指でチョキを形作って、額で切る動きをした。
自分なりの、精いっぱいの自嘲のつもりだ。
それでも幼馴染は、同じように、チョキを作ってニコニコと真似をしてきた。
この子にかかれば、どんなことも明るい雰囲気に変わってしまう。
それはさながら、魔法使いがみすぼらしい食卓を華やかなパーティに変身させるよう。
私なんか放っておけばいいのに。
「あ!! そろそろチャイムが鳴りそうかも……!! 急がなくちゃ!!」
「天ちゃん、先に行って」
「え!? こころちゃんは……?」
「私は不良だから遅刻する」
「こ、こころちゃ~ん」
冗談だよ、と言って私は走り出した。
ここで意地になって歩いたら、天ちゃんはテコでも速度を合わせる。
私は別にいいが、幼馴染が素行不良扱いされるのは私としても悪いし、
おじさんとおばさんに申し訳なかった。
ずっと謝り続けてろ。
世の中の全員に、死ぬまで。
「はい、よーいドン」
「わ!! こころちゃん待ってよ~」
フライングする私を、天ちゃんは同じ速さで、ずっと追いかけてくれた。
算数の時間は静かだった。
周囲が鉛筆を走らす音だけが聞こえてくる。
何かしていないと気が狂いそうだ。
窓際の席だから外を眺めた。
できるだけ遠くの方を眺めた。
校庭の、その向こうの、商店街の、まだ向こうの、交差点――。
頭に痛みが走った。
まだ、直視していなければ。
あそこで、去年、起こったことを。
忘れることは許さない。
その日、私はゆめと下校していた。
天ちゃんが風邪で休んでいた日だ。
私が家へプリントを持っていくと手を上げた。
何かお見舞いで買おうかと思って商店街へ寄ろうかと思った。
ゆめが雑貨屋のアクセサリーを見ているのに気づいた。
私がそれを茶化した。
どれか一つでもやらなければよかった。
そのアクセサリーは、ゆめが好きそうな桃色の綺麗なブローチだった。
ゆめは子供っぽいなあ、いつもの反応を予想して、その一言を言ってしまった。
いつまでも子供扱いしないで。
平和だったはずのひと時が終わりを告げた。
ゆめは、いつもより怒っていた。
その理由はわからない。
でも、私も言い返してしまった。
ゆめはまだ子供だよって。
口喧嘩になった。
ゆめが天ちゃんのことで、私に付きまとわれて迷惑かもしれないって言った。
頭に血がのぼった。
それは、その可能性が怖かったからだと思う。
人間は、本当に怖いことを自分で考えれないんだ。
だから、人から言われて初めて、本当に恐怖する。
ゆめはまくしたてた。
風邪を引いたのだって休みに一緒に遊んで疲れが出たから。
私は悔しくて、悔しくて、ついに、その一言を言ってしまった。
私たちのお父さんとお母さんは同い年。
天ちゃんのお父さんとお母さんも同い年。
何の偶然か、4人は同学年の同い年だった。
もちろん私と天ちゃんも同い年。
だから言ってしまった。
――ゆめだけ、仲間外れだねって。
私は、ゆめに友達が少ないことを知っていた。
ゆめは目に涙をためていた。
子供っぽいと思われないように、こらえていたのだと思う。
やがて、ゆめは背を向けて走り出した。
なぜさっさと追いかけなかったのか。
憎まれ口を叩きながらも戻ってくると、そう思ったのか。
それこそが私がゆめを子供扱いしている証拠だった。
遠くで、爆音がした。
野太い叫び声が、黄色い悲鳴が、いくつも重なった。
逃げろ。
そう言っているのだとわかった。
私は駆けだした。
ゆめの行った方向に。
爆音がしたその方向に。
心臓がバクバクと張り裂けそうだったのはよく憶えている。
必死で、私は走った。
必死で、ゆめを探した。
汗が出ていた。
涙も、ちょっと出ていた。
あんなこと言わなければよかったんだ。
あんなひどいことを。
走りすぎて呼吸が苦しくなってきたころに、ゆめは見つかった。
小さな体の奥に、長細い、黒いものがいた。
まるで鞭を打ち付けるみたいに、激しくうねる。
ゆめ!!!!
立ち尽くす妹に声を精いっぱい張り上げた。
恐怖はなかった。
こうなったのは全部、私の責任だ。
だったら――。
私が代わりになればいい。
鈍い痛みとともに世界が揺れた。
私の体が地面へと転がる。
頭がやっと足がもつれたことを理解した。
目の前には、ゆめがいた。
黒いものが上空へと舞った。
直感した。
私か、ゆめか。
頼む、頼むから。
私であってくれ。
祈りは届かなかった。
怪物が、ゆめに直撃した。
ゆめは黒いものに、完全に飲み込まれた。
私は喚き散らしながら、突っ込んだ。
そこからゆめの体を掬いあげようとした。
無理だった。
黒いものは自然と消えた。
残されたのはうつ伏せで倒れている少女だけだった。
手を取って、その名前を呼び続けた。
ゆめは動かなかった。
薄れていく温もりが、ゆめの残した最後の光だった。
ゆめとのお別れで私は取り乱した。
私のせいだ、最悪だ、そんなことを泣きながらずっと言っていたように思う。
周囲の人たちはきっと困っていた。
お父さんとお母さんは私の体をさすってくれた。
最後だから、しっかりとお別れしよう。
嫌だった。
受け入れられなかった。
全てなかったことにしたかった。
だから、ただ泣きじゃくった。
死というものを受け入れられるほど、私の心は強くなかった。
きっとその日で私は感情の全てを吐き出してしまった。
ぽっかりと、胸に風穴が空いた。
机、本、服。
部屋には、ゆめの名残だけがあった。
お父さんもお母さんも辛いけど片づけようと提案した。
けれど私は拒否した。
全部なくしてしまったら、本当にゆめはどこにもいなくなる気がした。
嫌だ、嫌だと訴えた。
置いていてもゆめが戻ってはこないの。
もう少しだけ、そのままにしてあげよう。
親と親の発言が、ぐちゃぐちゃな私の心理を言い当てていた。
毎晩、からっぽで寝ているのか起きてるのかわからなかった。
私が魔法力に覚醒したのは、ゆめとのお別れが済んで数日が経ってからだった。
呆けたようにモニターを見ていた。
お父さんとお母さんは気を遣って、
私の目につかないようにしていたのだろう。
ゆめの件、正確に言えばあの日のことは大きく取り上げられていた。
大規模に発生した怪物は、この地域一帯に大きな被害を出していた。
出てきた数字の、一人分にゆめは含まれるのだろうと思った。
数字のうちの、他の人をどんな人か知らないように
ゆめも、どんな子か知られないまま消えていく。
頭がぐらついた。
藁にすがるようにリモコンを掴み、電源のボタンを押した。
意識がなくなるように、画面が消えた。
その時だった。
妙なことに気づいた。
モニターに反射した私の髪が、完全な黒ではないように見えた。
静かに、淀みなく洗面所へ向かう。
鏡を見ると、そこには髪が桃色に染まった少女がいた。
少女の顔は何かを決意しているようだった。
お母さんは反対した。
私が魔法少女になりたいと言ったのを受けて。
自分はどうなってもいいから、なんて言ったのが悪かった。
どうしてゆめの分も生きようと思わないのって、最後には顔を覆って泣き出してしまった。
お父さんとは散歩に出かけた。
風が吹いたとか、天気が良いとか、他愛のないことを話していた気がする。
やがてベンチに腰かけて、お父さんが聞いた。
本当に魔法少女をやりたいのかって。
私は無言で頷いた。
お父さんはほんのちょっと悲しそうな顔をしたけど、
私の願いを聞き入れてくれた。
そうしないと私の心が壊れるってわかってくれたから。
正式に私は研究所の手伝いをするようになった。
お父さんとお母さんは、口喧嘩することがめっきり増えた。
こころが言ってることを――。
自分で言ってるのだって正解とは限らないから親が――。
私が本来、寝ている時間帯に部屋まで漏れてきていた。
後には引き下がれなかった。
私はもう、魔法少女だった。
意識は空欄の多いテスト用紙に戻った。
勉強してないのだから、いくら考えてもわかるはずがない。
昔なら、放り投げられた鉛筆と消しゴムを綺麗に並べたりしていたが
それをする気力もなかった。
何もしていないことを実感するだけの時間。
やがてそれは終わりを迎えた。
そろそろかと思われたチャイムの代わりに鳴ったのは、
けたたましい警報音だった。
私の体が反射的に動いた。
まるで決められた通りに動くロボットの兵隊のよう。
鞄だけ掴み取り、足を動かす。
どよめく教室を後に、その場にいる唯一の大人へ便宜上の声をかけて。
空っぽの胸に罰が満たされる。
私の体は弾き出された弾丸のように疾駆していた。
戦いは一瞬で終わった。
学校から少し離れた通学路で出てきたそれはもう消した。
私は自分の武器を鞄へしまいこもうとし、手が止まった。
ぼんやりと放たれる桃色の光を見ていた。
あの日、私は妹を守れなかった。
消えるべき存在が生き残ってしまった。
だからきっとこの力はお前は戦い続けろすり潰れるまでやれ
逃げることは許さない怪物と向かい続けるのがせめての情けだ
死ね。
戦って死ね。
そう言っているんだ。
「こころちゃーん!!!!」
私が振り向くとそこには走る天ちゃんが見えた。
どうやら自分と同じよう、警報が鳴ってからすぐに来たらしい。
軽く手を振って応える。
大丈夫だ、私の考えていることなんて伝わらない。
人の心なんて、覗いたらいけないものだ。
「天ちゃ――」
私の心臓が浮き上がる。
幼馴染の後ろには黒い物が形成されていた。
絶叫が聞こえる。
幼馴染はたじろいでいる。
それは私の発する声だった。
走る、振り上げる、消す。
全部の作業が終わった時に、大分、呼吸が苦しいことに気づいた。
なんでそんなふうに いもうとを まもれなかったの。
「天ちゃん!! 大丈夫!?」
急いで振り返ると、我が幼馴染は尻もちを付いたまま、
わたわたと魔法棒を構える最中だった。
天ちゃんの魔法棒の先から、申し訳程度の黄の曲線が生える。
「モンスター!! くるならこ……わわ!!」
手から魔法棒が落ちる。
急いで掴み取ろうし、滑って、棒は押し出されてコロコロと進んでいった。
「わわわ!! 待って~!!」
私もそれを追いかける。
「よし!! 拾った!!」
うんうんと私は頷いた。
天ちゃんが一歩、踏み出した。
「アークは天!!!! 私も天!!!!」
(右手は上、左手は下に伸ばして弧を描く)
「魔法少女ォ!!!!」
(空いている方の手の平を真っすぐ突き出して!!!!)
「ガルガンチュアァァァァアアアアァァァァ……!!!!」
(すごい巻き舌)
「アァァァアアアアァァァァク!!!!」
(少女の体が魔法を放つ)
「さあ!! かかってこいモンスター!! この町も!! そこにいる人も!!
私たちがまも……ん?」
啖呵が終わったところで、天ちゃんがきょろきょろと辺りを見渡す。
どうやら状況がわかってきたようだ。
「こころちゃん」
「天ちゃん」
「モンスター、やっつけた?」
「巻き舌ってどうやるの?」
何を言っているのか。
天ちゃんは、あはは……と頭を搔きながら照れ笑いをした。
和やかな雰囲気を壊すのは、私のぶっきらぼうな声だった。
「ヘルメット」
「え?」
私は天ちゃんの腰に下がったヘルメットを指した。
魔法力を上手く使えない者に支給されるものだ。
「ちゃんとかぶらないと」
「あ……そうだよね。こころちゃんに迷惑かけちゃうもんね……」
「そうじゃなくて」
私の語気は存外、強いものだった。
「天ちゃんに何かあったら嫌だから」
少しの間。
雲と雲の間から光が差すみたいに、笑みが見えた。
「ツルハシとヘルメットって相性良さそうだしね」
「うんうん。……!! こころちゃん!!
これツルハシじゃない!! 鎌だよ!!」
「え……? そうだったっけ……?」
刃に当たる部分が短いので間違えてしまった。
そういえば天ちゃんが武器を出すところまでいったのは久しぶりだ。
その前に私が全部倒してしまうから。
「研究所、行く?」
教育施設に戻ったところで、最後の授業を中途半端に過ごすだけだろう。
それを見越しての提案だったのだろうが、私は首を横に振っていた。
「天ちゃん、報告しなよ」
「え? でもモンスターをやっつけたのはこころちゃん……」
「私は不良だから」
心が壊れた、不良品だから。
「も~、こころちゃんはそういうのじゃないよ~」
じゃあどういうものか。
それは私が一番よく知っているはずだった。
ゆめを守れなかった日、私たちがどんなことを話したか、
天ちゃんには伝えていない。
伝えればすぐに自分から幼馴染は去っていくだろう
なぜそうしない結局は自己保身かどんな理屈を付けようが
自分が傷つくのが怖いだけだろふざけるな
早く、早く解放するべきなんだ
それは口には出ず、胸に燻り続けるだけだ。
「私はもっと外の空気を吸いたいから」
「あ、だったら……」
天ちゃんは私の隣に来て、腕を取った。
「一緒に行こ!!」
私はどこへともなく歩き出した。
天ちゃんには行先があるらしく、私はそれに従っていた。
小高い丘を登っていく。
私の心は何も感じていなかったが、それが心地よさを生んでいたのか。
何かを楽しむ権利などないのに、何もしていないことで気分が良くなるのは皮肉としか言いようがなかった。
ベンチが置いてある広場へ出た。
何とはなしに手すりに手をかけ、外を眺める。
自分たちの住んでいた、この辺り一帯が一望できた。
「いいでしょ、ここ」
悪戯っぽく笑みを浮かべる天ちゃんに、私は曖昧に頷いた。
空気はひんやりとしていたが、やがてそれはなくなった。
隣の幼馴染が体をぴったりと、ガードするように立っていたからだ。
「こうすると暖かいよ!!」
肯定することも否定することもできず、その場にいた。
初めは抽象的に見えていた風景が意味を持ちだす。
家の光、道端、いたるところに人間が溢れている。
ひとつひとつが違う思念を持っている。
真面目に考えると恐ろしいことだと思った。
クラスで仲の良いグループでも何人程度だろうか。
人間、全体の中で気が合う人たちというのはその程度の割合のはずだった。
だとしたらこの巨大な町に、どれほどの気の合わない人間がいるというのか。
笛の音が聞こえてきた。
天ちゃんはいつの間にか、リコーダーを取り出していた。
私は毒気が抜かれた気分だった。
「練習?」
「うーん……本番!!!! この風景に音楽を付けさせていただきます!!」
なにそれ。
短く吐いた息が白む。
それでも天ちゃんは止まる気配がなかった。
昔から、こうなると私にも止めれない。
ド――。レ――。ミ――。
ミ――。レ――。ド――。
ド――。レ――。ド――。ミ――。
ドレミの3種類の音が耳に響く。
風景は、ほんの少しだけ和らいだ気がした。
何となく天ちゃんが私をここに呼んだのがわかった。
これが天ちゃんに見えている風景に違いなかった。
私には見えていなかった。
ド――。レ――。ミ――。
ミ――。レ――。ド――。
ド――。レ――。ミ――。レ――。ミ――。
そろそろレパートリーが厳しくなったのでは、と思ったが演奏は終わらなかった。
きっといつまでも、観客が一人っきりでも、この演奏は続いていく。
私が呼びかけて、やっと笛の音は収まった。
「天ちゃん、ドレミしか吹けないの?」
隣からえへへ、と笑みがこぼれた。
こんな一言にも、嫌な顔をしない子だった。
「……こころちゃんと同じ風景が見たかったから」
そうなんだ、と私は答えた。
「この世界って、きっともっともっと広くて、
だから私たちには全部はわからないのかも、なんて」
天ちゃんは続けた。
「それでも、いろんな人がいるから、いろんな人のことをわかるには
やっぱりたくさんおしゃべりしたり勉強したりしないといけないのかなあ、なんて」
繊細さ、優しさ、そして純粋さ。
それこそが天ちゃんに見えている風景だった。
「ごめんね、急にこんなこと言って。
……でも、言葉にしなきゃきっと伝わらないって思ったから、それだけ!!」
言葉にしなければ伝わらない。
それは確かにそうなのだろう。
だから言葉にしなければ伝わることはない。
この気持ちは、絶対に外へ流れ出ることはない。
――ゆめだけ仲間外れだね。
私は絶対に言葉にしてはいけなかったんだ。
いつもの日常が流れていった。
続