魔法少女GL ~女の子たちの初手はいつだってルームシェア時空!!~   作:MOPX

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第0-2話 感謝(おいめ)

私は頭を下げていた。

 

民家の住人――この家に住んでいるであろう女性がものすごい剣幕でまくし立てる。

 

内容は来るのが遅いとか、真面目にやっているのかとか、そんな話だった。

 

途中、私の魔法力が背中から吹き出す音も気に入らなかったらしい。

 

叫び声が上がる。

 

私はそれを、まるで他人事のように、モニターの中の出来事を見るみたいに眺めていた。

 

名前を聞かれたので、答えた。

 

研究所にクレームを入れてやるから、とのことだった。

 

私はただただ、頭を下げた。

 

 

 

 

 

消えるしかない。

 

私みたいな人間は、結局人の役に立てないんだ。

モンスターと戦うことしか能がない癖に、それですら満足にこなせていない。

いったい何のために存在しているのか。

 

でもどこかへ行くことなんてできない。

それは行方不明の扱いになって多くの人に迷惑がかかる。

 

私が生まれた時から、更に生まれる前から、

社会というものが出来上がっていて、そこに乗っかって生きている。

自分が決めたわけではないルールに従って生きている。

そのおかげで生きている。

 

山奥に行ったところで、独りになれるわけがなかった。

 

だから消えるしかない。

 

最初から、何もなかったみたいに。

 

 

 

頭をまだ、下げ続けた。

 

ごめんなさい、ごめんなさいとできる限り感情を込めて言った。

 

自分が悪くて終わるのならば、話は簡単だと思った。

 

だから、ずっと頭を下げ続けた。

 

 

 

 

 

事は終わった。

 

体が自動操縦みたいに向きを変え、そのまま歩き出した。

研究所の方に向かっているらしい。

 

今日もまた、私は空っぽだった。

 

天ちゃんは今日は研究所の手伝いでいないはずだ。

 

魔法少女は便宜上グループに分かれていた。

私と天ちゃんは2人だけの同じグループ。

天ちゃんが不在なので私も実質休みなのだが、

他の魔法少女が遅いので自主的に倒した。

 

後は独りで報告をしておくだけだ。

 

「遅刻遅刻~~~~!!!!」

 

とても馴染みのある声が聞こえた気がする。

幼いころから、馴染んでいる声が。

 

でも気のせいだろう。

 

「こころちゃん!! 大丈夫だった!? 怪我はない!? モンスターは!?」

 

……さすがに気のせいじゃないだろう。

 

「天ちゃん。今日手伝いじゃなかったの?」

 

「え? ……途中で抜け出しちゃった。

こころちゃんがこの辺りを散歩しているはずの時間だから……!!」

 

天ちゃんはこういうところに抜け目ない。

この辺りは休日のランニングコースだった。

 

しかし、それも徒労を与えただけだ。

天ちゃんがそのことを知らなければ、こんなことにもならなかったのに。

 

もっと根本的な解決方法はさっき頭に浮かんだばかりだった。

 

「そんなに心配しなくても大丈夫だよ。怒られまくったけど」

 

「え!? だ、誰に……?」

 

怒るという単語に反応して天ちゃんの顔は暗くなった。

空に浮かんだ雲もどんよりと地面に暗さを与えている。

 

一雨くるかもしれない。

 

「住人の人。来るのが遅いって」

 

「そんな……。私が急いで来たんだから他の人だって間に合うわけないよ!!

私、説明しにいくね!!!!」

 

「待って」

 

行先もわからぬまま走り出そうとする幼馴染を引き留める。

振り返ったその顔には、焦りと驚きが混じっていた。

 

「こころちゃん? どうして?」

 

「もうこの話は終わったから大丈夫。

私が怒られて、悪者になってめでたしめでたしってね」

 

「……そんな」

 

天ちゃんは俯いた。

 

実際のところ、今からもう一度説明に行っても投下された燃料でまた燃え上がるだけだろう。

言い訳をするな、って言われそう。

 

そもそも天ちゃんがこんな思いをするのも、私がいるせいだ。

 

私は頭を下げた。

 

「こ、こころちゃん!?」

 

「天ちゃんにも、ごめんなさい。こんな人間が幼馴染で」

 

「顔を上げてよ……!!」

 

私は頭を下げ続けた。

 

正しいことを言っている人が良い人で、

間違っていることを言っている人が悪い人なら。

 

全部、自分が間違っていることにすれば

目の前から悪人は消えるはずだった。

 

 

頭を小さな粒が打った。

 

それは雫だった。

 

「こころちゃん……顔を上げてよ……」

 

文字通り、合わせる顔なんてない。

 

「顔を上げてくれないと……こころちゃんの顔が見れないよお……!!」

 

「て、天ちゃん……!?」

 

涙声に危うさを感じて顔を上げれば、幼馴染はクシャクシャな顔をして爆発寸前だった。

舗装された道を、雨が打つ音が聞こえる。

 

「傘持ってないや、雨宿りしよ」

 

「うん……」

 

私と天ちゃんは商店街のアーケードへと入っていった。

 

 

 

 

 

雨はしばらく止みそうになかった。

 

タオルを持ってなかった自分に腹が立ってきた。

これで天ちゃんが風邪でも引けば自分が原因だ。

 

天ちゃんはもともと体が強くない。

 

あの日だって、起こったことの線をずっと辿っていけばそこに行き着いた。

 

――私が天ちゃんを連れまわしていたから。

 

言葉がまるで呪詛のように頭から消えない。

べっとりと脳に染み付いたそれは、もう取れない。

取ってはいけない。

 

「こころちゃん、そういえば荷物ないけど……どうやってモンスター倒したの?」

 

「いや、素手で……」

 

「素手!? 危ないよ!!」

 

思考は会話で遮られる。

 

体からも魔法力が発せられるのだから、原理的には別におかしな話はない。

ただ、研究所は禁止しているというだけだ。

 

「こう、拳でズドンと」

 

「そんなの……こころちゃんの手が傷んじゃうよ……」

 

心配されたことこそが、理由だった。

それを口に出すのもはばかられるので止めておいた。

 

拳の握り方は、昔にお母さんから教えてもらった。

こんな使い方しかできなくて本当に申し訳ないけれど。

 

「こころちゃんはすごいけど、そんなことより自分を大切にしてほしくて……」

 

「まあ倒せたし。今日のことは天ちゃんには責任ないから気にしないでって」

 

「あるよ、責任……!!」

 

「……どんな?」

 

「私がもっと早く着いてたら少なくとも二人で怒られてた……!!」

 

目をぱちくりさせて幼馴染の方を見る。

幼馴染は自分にできる最大限の真剣な顔を作っていた。

どうやら本気で言っているらしい。

 

「……天ちゃん、それ怒られる人数が増えるだけじゃあ」

 

「それでも!!」

 

「あはは……」

 

どうにも旗色が悪い気がするので笑ってごまかした。

 

 

 

天ちゃんは昔からこういう子だ。

人の痛みには敏感で、自分の痛みには鈍い。

 

もっと小さかったころ、私たちは走り回って遊んでいて

お互いの頭をぶつけたことがあった。

 

私は石頭だから大丈夫だったのだが、

天ちゃんの方は泣き出してしまった。

 

困った私は頬を差し出して、気が済むようにぶっていいと言った。

 

でも天ちゃんは泣きじゃくるばかりで、首をずっと振っていた。

 

しょうがないから自分で自分を叩いた。

 

そこそこに痛くなったところで、私は天ちゃんに言ったのだった。

 

これでおあいこだねって。

 

 

 

「あ……」

 

声のするままに天ちゃんの視線を追う。

先にあるのは私もよく知っているお店だった。

 

たい焼き屋さん。

 

「食べたくなったの?」

 

「……!! 今、大事な話をしているから……!!」

 

我が幼馴染は明らかにヨダレをこらえている。

しょうがない、と私は財布を取り出した。

 

金属の塊が2つ。

財布の中を広々と、寒々と使っている。

 

ため息を吐いていると天ちゃんが顔をのぞかせた。

 

「私もそれぐらいだ……!!」

 

天ちゃんはほら、と財布を差し出す。

同じくらい本来硬貨を入れるスペースが広く感じる。

 

私たち、どちらもたい焼きを買える額じゃなかった。

 

「お小遣い、使い切っちゃうもんね……!!」

 

「うん」

 

月末だから。

 

天ちゃんとは、昔から二人で出かけて、遊んで、

お小遣いはいつも足りないくらいだった。

 

今でも、そうだ。

天ちゃんと遊んでいるから、そんな理由を付けて同じように過ごしている。

 

 

――ゆめとはどうしてたんだ。

 

 

「あのさ、こころちゃん……」

 

意識が戻る。

天ちゃんはもじもじと何かを言いたそうにしている。

 

「二人で半分こ……しない?」

 

私は特に何か考えがあったわけではなかった。

ほとんど無造作に答えていたのだと思う。

 

 

 

「いいよ」

 

 

 

 

 

天ちゃんの手には袋に入ったたい焼きが握られている。

お兄さんありがとう!! と声をかけて、お店からも笑顔が返ってくる。

 

天ちゃんに買ってもらって正解だった。

誰だって仏頂面の人間を相手にするより嬉しいだろう。

 

「ほかほかだねえ~!!」

 

そういって顔を赤らめる少女。

たい焼きに負けないくらいほかほかとした笑みを見せている。

 

私が隣にいなければ、とても画になっただろう。

 

「天ちゃん、頭と尻尾どっちが好き?」

 

「えーっとね……。……!!」

 

「……どうしたの?」

 

「こころちゃん!! 私が言った方の半分をくれるつもりだ……!!

こころちゃんから言って!!」

 

「うーん……天ちゃんが好きじゃない方が好き」

 

「そういう答えはなし!!」

 

私は答えに窮してしまった。

自分は特に選びたくない。

 

選ぶということには責任が付きまとうから。

それで誰かが不幸になったり悲しんだりするんなら、最初から何もしないべきだった。

 

「あ……それなら」

 

天ちゃんが何かに気づいたように、たい焼きを取り出した。

両手で添えるように尻尾をつまむ。

 

そのまま尻尾の裂け目から、真っ二つに魚型のそれを引き裂いた。

 

「……!!」

 

「ほら!! これで綺麗に半分こだよ!!」

 

引き裂かれた半身が私の手に渡る。

絶対に半分こするという執念じみた想い。

 

この幼馴染だけには敵わないと一瞬、思ってしまった。

 

「じゃあ食べよっか!! いただきます!!」

 

「いただきます……」

 

私たちはたい焼きを食べた。

おいしいねって天ちゃんが言って、私も頷いた。

 

外はいつの間にか晴れていた。

 

 

 

 

 

頭も、尻尾も。

 

楽しいことも、苦しいことも。

 

かわいいものも、かっこいいものも。

 

 

ぜんぶ きれいに はんぶんこ。

 

 

 

 

 

日が変わって、学校も終わった後。

 

研究所の敷地内へと入っていく。

受付で天ちゃんが元気よく挨拶する。

 

私も軽く会釈をして入っていった。

 

そのまま真っすぐ、モンスター対策部を目指した。

魔法少女は研究所の協力者という位置づけだが、

もちろん入れるスペースはある程度決められている。

 

子供がいては仕事の邪魔になるからだろう。

 

対策部は人もまばらだった。

あらかじめ報告する時間を伝えておいたので、その人は椅子から手を振った。

 

「やっほー、天ちゃん、こころちゃん」

 

「イシヤマダさん!! こんにちは!!」

 

天ちゃんに続き、私も挨拶する。

 

「こんにちは」

 

「ちわ。今日も元気そうやね。子供は元気が一番や……」

 

イシヤマダさんは結んだ髪を振り乱して答えた。

そう言っている本人の顔色は良くない。

 

平たく言えば事務の人だ。

魔法少女がモンスターと交戦したらこの人に報告することになっている。

昨日は休日だったので、今日こうして時間を作ってもらった。

 

私の拙い報告でも、話をちゃんと聞いて形にする。

こんな、私の言っていることでも。

 

私はその時の状況を話した。

 

モンスターの形状は魚みたいだったこと。

 

倒すの自体は一瞬だったこと。

 

このまま誤魔化せないかと、話を進めようかとしたが、

隣の天ちゃんがまっすぐと、瞳を潤めてこちらを見据える。

 

自分から言ってほしいのであろう。

それが、正しい。

 

口に出して伝えた。

武器を持たずに戦ったこと。

 

聞き手も「ありゃ」と、声を上げた。

 

それでも怒らずに話を促してくれる。

 

後は天ちゃんと合流したことだけだ。

報告するべきことは。

 

「まあ、大変やったね」

 

さっきまで静かに聞いていたその人は、神妙な顔つきで首を上下に動かしている。

 

私の話した内容に大変な部分はなかった。

そうすると、あのことがもう伝わっているのだろう。

 

「ごめんなさい。私のせいです」

 

「こころちゃん……!! 前も言ったけどそれは違うよ……!!」

 

「せやせや。子供は謝らんでええねん。むしろよく手を出さんかった。

偉いで、こころちゃん。電話越しでもげっそりしたからなあ……!!」

 

「……ごめんなさい」

 

天ちゃんとイシヤマダさんが、いやいやだから……と頭を下げる私を静止した。

二人してどたばたと、明るい一幕みたいに。

 

 

そんなつもりじゃ、全然ない。

そうされる資格なんて、ない。

 

 

「電話取るのは大人の仕事やからね。まあ、これで最後やし……おっと」

 

え? と、天ちゃんの目が丸くなる。

私の頭では答えを出せなかった。

 

「公示はされたし君らにはええかな……。転職するねん、ウチ」

 

「ええええええええ!?!?!?!?」

 

天ちゃんの声が部屋へ響き渡る。

思ったより声のボリュームが大きかったのか、慌てて口を塞いでいた。

 

何となく私は悟ってしまった。

嫌だったのだろう、この仕事が。

 

それがどうしてかは、たぶん直接聞くのは失礼、というより無神経だ。

私が原因そのものかもしれないのだから。

 

「いつ辞めるんですか」

 

「明日」

 

「ええええええええぇぇぇぇ!?!?!?!?」

 

目をやると、またしても同じ動作で口は塞がれていた。

手の隙間から「ごめんなさい」と小声が漏れてくる。

 

正式に辞めるのはもっと後だが、ここに最後に出勤するのは明日。

私たちの知らない間に、決まっていた。

 

「すまんな天ちゃん、ウチがいなくても元気でな……」

 

辞める理由は結局、聞かなかった。

何でこんな急かも、聞かなかった。

 

 

 

 

 

私と天ちゃんは、帰り道をとぼとぼと歩いた。

心なしか静かだった。

 

「イシヤマダさんのこと、ビックリしちゃったね」

 

「うん」

 

反射的に答える。

 

だからといって特に言いたいこともなかった。

胸の中は相変わらずの、がらんどうだった。

 

「でも次のお仕事のためだもんね」

 

「うん」

 

「明日、お別れで寂しいね……」

 

「……うん」

 

お別れ。

 

絶対に避けることはできないもの。

どんなに仲が良くても。

 

胸が鬱屈とした感覚にのまれる。

 

何を考えても仕方のないことだった。

みんな、私のために生きているわけじゃないんだから。

 

私の都合で、傍にいる人といない人を決めれるわけがなかった。

 

そう、目の前の少女も――。

 

「こころちゃん、明日なんだけど……」

 

その瞳は純粋だった。

 

私は静かに話を聞いて、頷いた。

誰のためかは、わからなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

写真の中の私は笑みを作っていた。

それはぎこちなくて、引きつって。

 

中身は頭を下げている私と同じだった。

 

私は自分と、天ちゃんと、事務の方が映っている写真を手に持っていた。

 

 

 

転勤を知った次の日に、天ちゃんは花を用意した。

研究所に行くまでの時間で、急いで花屋さんで購入した。

 

荷物にならないようにと、こじんまりと、それでいて色とりどりのもの。

 

渡された事務の方は、気を遣わなくてよかったのに、と言いつつ

とても嬉しそうだった。

 

テンションの上がった事務の方は

「写真、撮ろか!!」「君ら二人には世話になったからな……」「会社に文句あったら文句いいなや!!」

などと言っていた気がする。

 

今、見ていたのはその時に撮った写真。

弾けるような笑顔の天ちゃんと、くしゃくしゃの笑顔を浮かべる事務の方と――

 

 

 

なぜそこにいるのかわからない私。

 

 

 

写真をアルバムへと、義務的に綴じた。

前のページは、開くことすらためらわれた。

 

悲しいのは、やってはいけなかったことを覚えているからだ。

 

悲しみや苦しみが過去から来ているのなら、

全てを忘れてしまえば楽になれるはずだった。

 

私はアルバムを閉じた。

 

 

体を布団へ放り出した。

 

一人分の、小さな布団。

 

反芻するのは、もう既にこの地を去った人の言葉だった。

 

 

 

――こころちゃん、気を遣いすぎや。

 

――我慢なんかするもんじゃないで。

 

――天ちゃんといつまでも仲良くな。

 

 

 

何を、自分の都合の良いことばかり思い出してるんだ。

 

溢れかえりそうになったものを、心の中でパタンと閉じた。

さっきそうしたように。

 

いっしょだ。

自分にとって都合の良い言葉も悪い言葉も。

生きている人間たちがぎゅうぎゅうとひしめき合って、

その結果生まれた摩擦にすぎない。

どんな意味があるか付与するのは、自分でしかない。

だから、私が好ましいものが善で、好ましくないものが悪なんて

こんなちっぽけな人間のものさしで決めていいわけがなかった。

 

だから全部、自分以外の何かが、何かをしている。

そういう風に捉えるべきだった。

 

不貞腐れたように、糸をぞんざいに引っ張って電気を消す。

 

 

 

 

 

少女は大の字に寝そべっていた。

その瞳は何もとらえていなかった。

 

周囲は真っ白で、寝そべるための境界だけがあった。

 

ふとした弾みで、全て砕け散るのかもしれない。

 

それでもいいと思えた。

 

いつまでも、いつまでも虚空を見ていた。

 

それに終わりはなかった。

 

何もしないことは、罰と成り得るのだと知った。

 

 

――ゆめだけ仲間外れだね。

 

 

誰にもぬぐえない罪を背負ったその日から。

 

私は夢を見なくなった。




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