魔法少女GL ~女の子たちの初手はいつだってルームシェア時空!!~ 作:MOPX
朝、いつものように目が開く。
手も、足も、いつものように私の命令を待っている。
違和が広がっていた。
体のどの部分がそれを感じ取っているのかはわからない。
言いようもない、重苦しい感じが視界いっぱいに広がっている。
あるいはそれは、私の体の中を埋め尽くしているのかもしれなかった。
私は布団から体を起こし、まっすぐ窓の方へと向かった。
空はどこまでも黒に覆われていた。
研究所の真上には見覚えのない――黒い繭が、あたりの黒い雲を引き込んでいる。
あれが何なのかわからなくても、
私はあそこに行かないといけない。
あの子の代わりに戦い続けるって決めたから。
だって私は――。
「真田天だから」
自分を奮い立たせるように、ほっぺたを軽く叩く。
着替えを済ませる。
壁にかけているヘルメットを見詰める。
私はそれを抱きかかえるように取るといつものように腰にさげた。
日付も、場所も、私自身のことも。
全部がまだ目覚めたばかりで朧気でも。
やるべきことだけはわかっていた。
「天!! 降りてきたのね!! 今日、学校お休みになるんじゃないかしら」
お母さんが私の姿を見るなり声をかける。
モニターには遠くから撮影されたであろう町の様子が映っていた。
薄暗く覆われ、上空では黒いものが渦巻いている異様な光景。
遠くから映し出されていたけれど、施設も、曲がり角もきっと上から見たらこうなんだろうなと思えて。
つまり、私たちの町なのだとわかった。
「朝早いからお父さんはもう会社に行っちゃったけど……帰ってこれるかしら」
ほっぺたに手を当てながら、お母さんはそうつぶやく。
その横顔はとてもつらそうで、悲しそうに見えた。
帰ってこれるかしら。
その一言が私の頭の中にどっしりと沈んでくる。
「お母さん、あのね」
言わないといけないことがある。
何も言わずにだったら、お母さんはものすごく悲しむだろうから。
「天、今日は家にいた方が――」
「私、行かなきゃいけなくて」
「この状況だもの。大人だって外には出れないわ」
「私は魔法少女だから」
「あ!! 映像みて!! やっぱり危険みたい……!!」
「私にしかできないことだから……」
お母さんは私にその光景を見るように促す。
その背中に私は言葉をかけた。
小さく震える、それに。
大人にだって、怖いことはあるんだ。
それでも言葉をかけ続けるしかなかった。
他に、どうすればいいのかわからなかったから。
「お母さん。聞いて。私が行かないとみんなが――」
「……知っているわ」
「え?」
「天が頑張って、この町を守ってくれてたの。
何となく覚えているもの」
その時になって私は初めて気づいた。
お母さんの結んだ髪の毛の先が、ほんのりと黄色くなっていることを。
「でもね、天。やっぱり、行ってほしくないの。
天に何かあったらと思うと胸が張り裂けそうで……お母さん、きっと耐えれないわ」
お母さんの口調はゆっくりと、優しいものだった。
聞いたこともないくらい。
だから無理をしているとわかってしまった。
大きくなったら心の余裕ができて、何でも正しく判断できて慌てたりしない。
そんな風に考えてしまうのは、私が幼い証拠だった。
「……わかってるの。このまま誰も何もしなかったら、
この町がめちゃくちゃになっちゃうって。
ううん、もっと酷いことが起きるって」
「お母さん」
「本当に……どうしてなのかしら。どうして天が……」
震えを感じた。
鼻をすする音が聞こえた。
振り返ったお母さんは、顔をしわくちゃにして泣いていた。
私はその両腕で抱きしめられた。
「どうして……この子が……ずっと真面目で、優しくて、
お母さんが一番よく知ってる!! なんでこんなことをしなくちゃいけないの!?
お母さんにとってはね、天が普通に幸せに生きてくれたらそれでいいの!!!!」
私は静かにその温もりを感じていた。
こう言ってくれる人がいる。
だから、私はとっても幸せ者なんだ。
「……私、お母さんの子供でとってもうれしい」
――天!!
また部屋に、声が鳴り響いた。
「大丈夫だよ、お母さん。私、必ず帰ってくるから」
「本当に、本当に、天の代わりに戦えたらよかったのに……!!」
泣きじゃくるその顔は、自分の泣き顔にそっくりだった。
私はずっと背中をさすってあげた。
昔、お母さんにそうしてもらったみたいに。
朝ご飯は目玉焼きとハンバーグだった。
私の大好物。
こうして出てくる料理も誰かが作ってくれるから、そこにある。
いただきます。
こうして、巡り巡って、目の前にある命に。
ごちそうさまでした。
お母さんに伝わるように、しっかりと。
食事を終えると、私はいつもの朝のように玄関へと向かった。
お母さんは静かに、私の後について来てくれた。
それはきっと、私の決断への答えだった。
きっと、世の中でどんなことよりつらい選択を、お母さんはしてくれた。
私を大事に思った上で、私を送り出すということを。
「お母さん、行ってきます」
「……天、いってらっしゃい」
黒い雲の下で少しずつ歩みを進める。
もう、家が見なくなるかなって距離まで進んだ。
後ろを振り向くのが怖かった。
それでも私は見てしまった。
お母さんが崩れ落ちて顔を覆っているところを。
私が魔法少女として出ていく時、いつも、そうだったのなら。
私には、見えてなかっただけで。
口の前で、手がメガホンの形を作る。
深呼吸をする。
「ぜったいにぃぃぃぃ!!!! かえってぇぇぇぇ!!!! くるからぁぁぁぁ!!!!」
祈るよりも、はっきりと口に出したかった。
「だいすきだよぉぉぉぉ!!!! おかあさぁぁぁぁん!!!!」
ヘルメットをかぶりなおす。
私はまた、前を向いた。
行かなくちゃいけない。
もう一度、空に渦巻く黒い繭をきっ、と一睨みする。
こころちゃんは、あそこにいる。
「挨拶は済んだようね」
「……!! 誰!!」
魔法棒を取り出して、360度薙ぎ払う。
風を切る感覚とともに、「わわ!!」という声がした。
何もないはずの場所。
でも、それも私にはそう見えるというだけだった。
「……影ちゃん? 影ちゃん!!」
「……たく、いきなり武器を振り回さないの!! 真田天!!」
何もないはずの空間が、ごそごそと歪む。
マントを脱ぎ捨てるような仕草の後には、
影ちゃんがお馴染みのぷりぷりと怒る表情を見せた。
「ごめんね!! 当たらなかった!?」
「何となくそんな気がしたから離れてたわよ。……長い付き合いだもの。
光さんとのお別れ、済んだようね」
一瞬はにかんだような表情をした影ちゃんは、また真剣な目つきに戻っていた。
「うん……、つらかった、と思う……。
でも、約束したから。絶対に帰るって」
「……そ、じゃあ絶対に世界を守って家に帰らなきゃね」
「……うん!!」
返事をして私は影ちゃんの恰好がいつもと違うことに気づいた。
紫でリボンの付いた私服ではなく、私と同じようなセーラー服を着ていた。
「影ちゃん、その服って……?」
「ああ、これ? よく探してみたら家にあったみたい。
おばあが出してくれたわ。最終決戦仕様ってやつよ!!」
そう言って影ちゃんはくるりと一回転した。
スカートが空を切るように翻る。
「どうもあの男が……お父さんが残していったものみたいなの。
手紙が添えられててね。『これが使われないことを祈る』だって。
全く、そんなものを残すなって話よ」
ベレー帽とセーラー服。
影ちゃんが継いで来たもの。
そう言っている影ちゃんは困っているような、
それでも隠し切れないきらきらしたものを、その瞳にのぞかせていた。
きっとそれは嬉しさだった。
「私たち、絶対に帰ってこなきゃね!!」
「……ええ、そうね」
影ちゃんと確かめ合うように視線を合わせた。
そして、私たちはまた前へと進んだ。
行先は研究所。
こころちゃんのところ。
待ってくれる人がいるのなら。
同じように、待っている人がいるって伝えたかった。
「……ん。泣いたの久しぶりかな」
目をこする。
意味もわからずそこに立っていた。
何をしていたのか、自分にすらわからない。
それでも大事なひとが、遠くに行ってしまったことだけは体よりももっと深い部分が覚えていた。
弾かれた手の感触は、確かに自分の記憶に残っていた。
きっと目は髪にも、マフラーにも負けないくらい真っ赤になっているのだろう。
空には螺旋を描くように黒い渦がその存在を誇示していた。
時間が戻ったのか、外に弾き飛ばされたのか。
それすらも定かではない。
ただ彼女にはもう会えないだろう。
直感がささやいている。
だから目的は、もうない。
もうないはずなのに――。
足がまたある方向へ、向かっていた。
記憶では少し前までいたはずのその場所へ。
自分と少女が別れた、その場所へ。
確率なんてものは、たとえ0%でも人の行動に影響を与えないのかもしれない。
理知的に考えれば、ただの自己満足にすぎないはずだった。
今現在の位置を把握する。
公園の近くだろう、それなら研究所までそうはかからないはず――。
「――ってあれ」
遠くにこちらに進むものが見えた。
少女と怪物。
見覚えのある人と見覚えのない化け物。
「守らなきゃいけないものが増えていく……」
口からこぼれた言葉とともに少女との合流を図った。
「くそ……!! 結構速い……!!」
遊歩道を走りながら、吐き捨てるように言う。
別の少女の手を取り、全速力で駆け抜ける。
振り返る余裕もない。
後ろには四の足で動く黒い物体が、ぴったりと跡をつけている。
みしみし、ばきばきと、辺りの木々やら標識やらを破壊しながら進んでいることが見なくても理解できる。
手の感触を確かめながら、髪に花を付けた少女に言った。
「伊藤さん!? 本当に何も覚えてないの!?」
言われた少女が困惑気味に答える。
「私が魔法少女だなんて……信じられません。
こんな恐ろしい敵と戦っていたなんて……!!」
「バリバリに戦ってたよ!!」
何なら自分が一番暴れていた。
その批難にも似た一言はぐっと飲み込む。
傍らに目をやる。
頭の上には、見慣れている花――いつの間にか付けなくなっていたはずのそれ。
緑色の髪の毛の上に、確かに乗っている。
魔法力はあるはずだ。
この人の場合は戦いたくないから演技をしている可能性も捨てきれないのが厄介だった。
「この敵、たぶん二人じゃないと無理なんだ。
いいから頭の花をむしりとってもらえる!? それで君の魔法力が上がる!!」
「……」
「どうしたの!?」
走りながら、話すのは疲れて嫌いだ。
後ろでは相も変わらず、いろんなものを破壊する音が付いてきている。
息を切らしながら、やっとの思いで傍らの少女の表情を確認する。
少女の顔はぎこちなく引きつっていた。
「わからない……頭に付いていたのです、これ。
でも自分に近しい人間が付けていたのだけは覚えているのです……。
これは……きっと愛の証……そうなんでしょう!?」
懇願するような目で見られては何も言い返せない。
進路を確認すると二手に分かれていた。
どちらに進むか。
どちらが安全か。
どちらがより長く生存できるか。
右は池へ続く道。
下り坂ではあるが、それは敵にとっても有利である。
そのまま攻撃されれば、上を取られることになる。
左は……公園行き。
あまりここを訪れたことはない。
しかし袋小路に追い込まれることもないはずだ。
ただ、広い道に出れば他の何かと遭遇するかもしれない。
都合よく魔法少女と出くわすよりも、モンスターが寄ってくる可能性の方が高い。
空がこんなにも黒いのだから。
「名も知らぬ方、提案があります」
「なに!?」
思考を遮られ、短く声を張り上げる。
「二手に分かれましょう!!」
「なんで!?」
「それで片方は確実に逃げ切れるからです!!」
何を言っているんだ。
それは要するに、片方がほぼ確実に逃げ切れなくなる。
合理的なんかじゃ、全然ない。
「あなたは左へ!! 私は右へ!! では!!!!」
「どわ!!!!」
急に隣まで接近しての全身タックル。
体が左へと吹っ飛ばされ転がる。
道を踏み外して、なだらかな雑草生い茂る斜面を数回転した。
まだ何も返事をしてないままこれを実行するのは、間違いなく伊藤さんそのものだと思った。
そんな感慨に浸る間もなく体を起こす。
こんな状況で攻撃をされたら最悪だった。
元いた道を見上げる。
坂を上った先で、黒いものが向きを変えず直進していく。
こっちに来てないなら答えは自明だ。
伊藤さんの方を追った。
これじゃあ自分が助けられたみたいじゃないか。
「何で記憶を失くした方が良い人っぽいんだよ……!!」
体をばたばたと動かして、急いで坂を上る。
足に草を横切る度に、細かく刺すような感覚が走る。
もう迷う必要もない。
右の道へと直行する。
視線の先では黒い巨体が、げっ歯類を思わせるそれが足を止めていた。
まずい。
伊藤さんがどうなっているか、確認すらできなかった。
いつもなら挟み撃ちだと息巻いていたかもしれないが、
同じ配置でここまで苦しい状況とは。
やるしかない。
――僕は手にした魔法棒に真っ赤な魔法力を込めた。
「弓!!」
半月状の曲線が次々に巨体に着弾する。
黒いものは少しもその形状が削がれていない。
だいぶ固いようだ。
けれど意味はあった。
モンスターの後ろに生えてる細長い部分――
普通なら尻尾にあたるものがぶくぶくと膨れ上がる。
数秒の後、それは立派な首へと変貌した。
どうやら向きを変えたらしい。
超音波のようなものが全身に浴びせられる。
威嚇の真似事か。
ずいぶんと動物らしいことを、なんて皮肉が頭によぎる。
巨体がこちらに突っ込んでくる。
武器を空中に小さく放り投げる。
それを掴み取るように持ち替えた。
「剣!!」
素早く擦れ違いざまに、一太刀を浴びせる。
振り返れば、巨体からまた首が伸びていた。
思った通り。
変に動物を模しているから、それが弱点になっている。
もう一度、切りつけてそのまま走り抜ける。
再度、同じことを繰り返す。
何度も何度も、それをする。
首が伸びてこない。
こちらが一手も二手も上回った。
「これで終わりだよ」
再び持ち替えた魔法棒の先から、高密度の刃が飛び出す。
「斧!!!!」
派手な音が出る。
完璧、完全、最良のタイミングで切りつけた。
――切りつけたはずだった。
敵が無傷、それはしょうがない。
固そうだからもとより何度も切りつけるつもりだった。
気のせいだろうか、魔法棒の中央から先が消えているように見える。
「……え?」
乾いた音とともに魔法棒の破片らしきものが地面に落ちた。
僕の魔法棒は完全にへし折れていた。
「冗談きついよ……!!」
流石に汗が吹き出す。
普段、無茶な使い方をしているわけでもないのに。
敵が無慈悲に首をのばした。
もちろんこちらに向かって。
突進がくる。
身を屈めて、横へ体を転がす。
恐怖がないと言えば嘘になる。
けれど、それ以上の何かが僕を突き動かしていた。
ひとりで行ってしまった、あの子の後ろ姿が脳裏によぎる。
風を受けるような感覚が全身に走る。
身を翻して、動きを確認する。
怪物はすぐ傍らを通りすぎていた。
さっきとは逆の位置関係。
もう一度、賭けに出るのはごめんこうむりたい。
「伊藤さん!! 魔法棒を持っている!?」
逃げもせずたたずんでいた伊藤さんに声を飛ばす。
戦ったことがないと思い込んでいる少女が立ちすくんでいるのは、ある意味で自然だった。
それでも他に縋るものがない状況なのも事実だ。
「……」
「伊藤さん!? 早く!!」
恐怖か、諦めか。
より強く促すため、傍らの少女へと目をやった。
瞳の輝きが、激しく揺れている。
それはまるで燻っている炎。
伊藤さんの目は煌煌とこちらを捉えていた。
「あなたのポケット……光ってますわよ……」
「え!?」
ポケット?
胸にあるやつだろうか。
何か入っていたか?
そんなことは今どうでもいい。
「いいから!! また突っ込んでくる!!!!」
怪物が予備動作を取る。
魔法棒なしで対抗する手段はない。
半ばふんだくるように伊藤さんに飛びかかる。
が、素早く躱されてしまった。
何でこんな時だけ人間性能の高さを発揮するんだ、この人。
「そのポケットのものを……寄こしなさい!!!!」
掴まれる。
空いたほうの腕が、僕の体を目掛けて襲い掛かってくる。
怪物が突っ込んできた。
万事休す。
僕はいったいどこで間違えてしまったのか。
だがきっと、ひとつひとつの選択も自分という人間から生まれたものだ。
だから、ある意味で高橋真赤がこうなることは必然であり――。
「取りましたわ……!!」
押し倒された僕の体から、何かが奪い取られる。
少女が高々と掲げたそれはアクセサリーのようだった。
緑の葉っぱ。
僕はその形にも見覚えがあった。
それが付いていたのは、確か――。
「ふふ……ふふふ……」
音が聞こえる。
処刑人の足音と呼ぶにはあまりにも無節操なリズムが。
「おーーーーほっほっほっほ!!!!」
音が聞こえる。
この場を救う英雄というにはあまりにも下卑た笑いが。
悪魔でも降りてきたのだろうか。
見上げればそこには、轟轟と揺れる緑。
姿が視認できないほどのそれが、
視界領域から消え、怪物へと突っ込んでいく。
「フラワァァァァ!!!! チェェェェンソォォォォ!!!!!」
耳をつんざく高音と高音。
それらは二つに大別することができた。
怪物の身を斬っていくもの。
怪物自身が発しているもの。
体を起こせば、そこには半分のサイズになった黒い塊が綺麗に二つ分。
ちょうど間に、高らかな笑い声をあげる少女がいた。
どうやら怪物と悪魔では、悪魔の方が強いらしい。
「復活いたしましたわよぉぉぉぉ!!!! あーはっはっはっは!!!!」
伊藤さんは頭に付けた葉っぱのアクセサリーを大事そうに撫でると、
もともと付いていたお花を高笑いを上げながらぽいぽいと捨てていった。
状況はわからないが、僕の知っている伊藤さんに戻っていた。
(そのまま封印すべきだったのではないかと不安になったが)
「真赤さん、よくぞやってくれました。はい、予備の魔法棒です」
「……説明が何一つないんだけど」
せめてもの悪態をつきながら、武器を受け取る。
前……という表現で合っているのかわからないが、
でかい樹になって僕がそれを倒し、魔法力を失ってその時点までの記憶がなくなった……という感じのはずだった。
「簡単な話です。魔法力はループを超えて引き継げる。
だから私は自分の魔法力を最後に自分の一部……そのアクセサリーに託したのですよ……。
天さんとの大事な思い出の品であるそれに……ね」
僕は魔法棒の感触を確かめた。
量産品であるから特に違いはない。
「魔法力を失った私が持っているより、あなたが持っていた方が安全。
そう判断して持っていただきました。どうせあなたとは顔を合わせることになるので」
研究所の方向を確認する。
大分離れてしまったが、そんなに時間はかからないはずだ。
「さあ真赤さん……!! あなたにもフィナーレに立ち会う権利を与えましょう……!!
天さんと私が輝かしいスタートを切る……その門出の、ね……」
行って何かが変わるのか。
きっとそういうことじゃなかった。
僕はあの少女がやったことが、どういう結末になるのか見届けたかった。
魔法棒を握った手がうずいた。
あの時の別れに意味があったのか。
もし意味があったんだとすれば――。
少しくらいは、少女も報われるじゃないか。
「さあ!! 真赤さん!! 研究所へ向かい天さんと合流しますわよ!!!!」
「行こう」
僕はまた、研究所へと歩を進めた。
その足取りは、目覚めた時より確かだった。
続