魔法少女GL ~女の子たちの初手はいつだってルームシェア時空!!~ 作:MOPX
「ごめんなさい……私、やっぱりお父さんとは……!!!!」
(影ちゃん、つらいよね。私が何とかするから!! 大丈夫!!)
「僕、やっぱりこのお話、信じれないや」
(真赤ちゃんは真面目だから……。私の説明がヘタだったのが悪いんだ)
「こんなものを寄こして……よくも……よくも……私の邪魔を……!!」
(花ちゃんがいつかわかってくれるって私、信じてるから……)
「真田さん、私はお姉ちゃんの隣にいます。……ごめんなさい」
(ゆめちゃん、こころちゃんのことをお願いね!! 私は大丈夫だから!!)
「……」
(……こころちゃん)
「……こころちゃん」
(……)
「大丈夫だよこころちゃん!! 私がこころちゃんの代わりに戦い続けるから!!
だから安心して!! 悪いやつぜんぶ……私がやっつけるから……」
(でも、やっぱり……ちょっとだけ……)
(さびしいよお……)
「どうしたのよ、真田天? ぼうっとしちゃって」
「……」
「……真田天? 大丈夫なの?」
「……あ!! ごめんね!! ちょっとその……昔のことを思い出してた!!」
私の意識は影ちゃんの優しい声で戻ってきた。
大丈夫、大丈夫だ。
だって私は――。
真田天だ。
よくわからない、なにかじゃないんだ。
それは私がそう決めたから。
人を救うのは人だって信じているから。
だから私は真田天なんだ。
私たちは研究所へと歩を進めていた。
数歩先に花ちゃんと真赤ちゃんの背中が見える。
「言っておくけど、あなたは無茶するの禁止だから!!」
「うん!! やりすぎない程度に無茶……じゃなくて無理するね!!」
「本当にわかってる……?」
影ちゃんが顔に手を当てている。
そんな様子も私はおかしくて、つい笑ってしまうのだった。
周りは薄暗い。
研究所に近づくにつれて、闇は濃くなっていくのだろう。
それでもこうして笑うことができる。
きっと、心の風景は全く違うものを映し出しているから。
こうやって4人で集まっているだけで、
ひとつずつが蝋燭の優しい光みたいに辺りを照らしている。
それぞれが、別の色の、別の光。
何もない、白い空間が頭によぎった。
ただ座っていた、小さく丸めたその背中を思い出した。
――こころちゃん。
私はずっとこころちゃんの代わりになれたらって思ってた。
かっこよくて、優しくて、そんな魔法少女になれたらって思ってた。
でも代わりは代わりにすぎなくて。
こころちゃんの隣にいる誰かが、その代わりにいなくなってしまった。
どうすればいいのかまだ、わからないけど。
この世界はきっと、
私たちが全部を期待できるくらい明るくはないけど
私たちが全部を諦めるくらい真っ暗でもないって。
そう伝えることならできる気がした。
そのためには――。
「もう一度、こころちゃんと会いたいな……」
吹けば飛んでいきそうなちっぽけな独り言かもしれない。
でも、風に乗ってこころちゃんのところまで届いていかないかな。
そんな風に考えながら研究所を向いた。
「……!!」
黒い繭がとても大きく見えた。
研究所に近づいてきたから、だけじゃなかった。
異形のそれは明らかに、大きくなっていた。
研究所と同じくらいの横幅だったのが、今や倍近くはある。
前に見たものよりも大きい。
いや、違う。
今までに見たことのあるどれよりも大きかった。
「あれ、まずくない?」
真赤ちゃんが先陣を切るように的確なコメントを付ける。
「前方が特に激しくうねってますわね」
花ちゃんが特に注意すべきことを判断する。
「……って、こっちを攻撃してくるんじゃないの!?」
影ちゃんがみんなに号令を飛ばす。
「みんな!!!! 私の後ろにさがって!!!!」
私は力の限り、声を張り上げた。
「真田天!! 無茶はしちゃ……」
これは無茶じゃない。
私が頑張ればどうにかなることだから。
「アークは天!!!! 私も天!!!!」
(ちぎれるくらいに両手を伸ばし)
「もいっちょ天!!!!」
(張り裂けんばかりに腕を回して)
「魔法少女ォ!!!!」
(髪を逆立てて)
「ガルガンチュアアアアアアァァァァァ……!!!!」
(その喉で世界を震わせ)
「アアアアァァァァク!!!!」
(自分の存在がそこにあると確かめる)
「セカンドッ!!!!」
(だって――)
「私は真田天だから!!!!」
(私は真田天だから!!!!)
黒い繭の正面が引きちぎられんばかりに激しくうねる。
それはずっと、上から見た渦潮みたいにくるくると渦巻いている。
長距離攻撃。
敵もその概念を習得していたのなら。
いったいどこを攻撃するか。
私は魔法棒を正面へと構えた。
大気を振動させる。
自分の周囲に渦巻いてきたそれを、意識を集中させコントロールする。
黒い渦は、なおもその中心をこちらに向けている。
町に放たれれば、大きな被害を出すだろうそれが。
ゆめかうつつか。
昔みた、わるいやつが町をこわす物語。
夢見る少女であったなら、自分の身に起こることとは思わない。
これが私にとっての現実。
だからこそ迎え撃つ。
他でもない私が。
渦巻きから黒い閃光が発射された。
私から黄の閃光が噴き出た。
衝撃。
黄の光は途中で止まっていた。
黒い闇も途中で止まっていた。
ふたつはちょうど真ん中くらいで、押し合っていた。
激しい干渉で、ばちばちと光の火花が弾ける。
もう少し、もう少し力があれば――。
そんな考えを打ち砕くように。
黒いものが唐突に勢いを増した。
影ちゃんの、花ちゃんの、真赤ちゃんの声が聞こえた。
はっきりとは聞こえなかったけど。
どれも私を心配するものだってわかった。
私はもう一度こころちゃんと会うって決めた。
私がそう決めたんだ。
また、もう一度話したかった。
だって言葉にしなければ、何も伝わらないから。
人の気持ちなんて変わってしまうものかもしれないけど。
今、思っていることを、また伝え直すんだ。
この世界にこころちゃんがいてほしいって。
「だから――」
魔法棒を握りつぶすくらい、思いっきり力を込める。
「私の想い、こころちゃんに届けええええぇぇぇぇ!!!!」
黒が止まる。
声に後押しされるように、黄の光が少しずつ進んでいく。
「いっけええええぇぇぇぇ!!!!」
光が闇をかきけしていく。
それは黒い繭にまで達する。
黄色い爆炎が上がる。
繭の一部が損壊した。
「真田天!!」
影ちゃんが私に駆け寄る。
倒れかけた体を支えてくれた。
大丈夫だよって言う代わりに、ピースを作る。
「無茶しないでって言ったのに……!! もう!! あなたは!!」
「しかし天さんのおかげで助かりました。
あれほどの反魔法力の攻撃、敵も連発できないでしょう」
「そうも言ってられないみたいだよ……!!」
真赤ちゃんの一言でみんなが辺りを警戒する。
黒い閃光は確かにかき消したはずだった。
でも、そうじゃなかった。
小さなホコリがぱらぱらと舞うみたいに、
黒いちょぼちょぼの点が、見渡す空のいたるところに残っていた。
点は動いていた。
ナメクジみたいにそれぞれがうねうねと進んでいる。
行先は、私たちのいた道の数十メートル前方だった。
近くから、離れたところから。
爆発を巻き戻したみたいに、すごい速さで集まっていく。
「みんな……気を付けて!!!!」
体を何とか持ち上げて、自分の足で立つ。
まだふわふわと浮き上がる感覚が残っている。
それでも必死に目を凝らして、
敵の正体を確認する。
黒いものは伏せていた――そう思われた状態から、
起き上がるような仕草をした。
1体だけじゃない。
明かりが少しずつ灯るみたいに、
ひとつずつがぱらぱらと立ち上がっていった。
あれは――。
「……人型だ」
真赤ちゃんの声が少し震えていた。
「ヒトを模すとは、大胆なのか愚かなのか……」
花ちゃんが鋭く言い放つ。
「真田天……!! あなた、あんなの知ってる……?」
心配そうにする影ちゃん。
空元気でも、知ってると答えて安心させてあげたかった。
私は首を横に振った。
あれは私が知らないモンスター。
高さは私たちと同じくらい。
遠くにいたから数をしっかりと数える。
7体いる。
しかし何といって特徴は、私の目が釘付けにされたのは、
モンスターの両腕の部分がカマキリみたいな形状になっていたことだった。
そう、鎌のようになっていた。
魔法棒に添えていた私の手が、少し震えていた。
手は、誰かに差し出すためのものだよ。
誰に向けてでもなく、心の中で唱えた。
怪物たちがこちらへ、ゆっくりと歩を進めてきた。
「ど、どうするのよ……!!」
影ちゃんの声を受けて、私は一歩を踏み出そうとする。
それを制止したのは真赤ちゃんだった。
「……真赤ちゃん?」
「真田さんはさっきので疲れてるでしょ。僕が先陣を切るよ」
「真赤さん、珍しくやる気ですわね」
「た、頼んだわよ高橋真赤!! あなたの戦っているところ見たことないけど!!
きつそうだったら引き返すのよ!!」
「僕だったら相手が何をしてきてもある程度対応できるから。それだけだよ」
真赤ちゃんは頼りになる。
私たち3人の声援を受けて、真赤ちゃんが前へと出た。
一歩、また一歩。
「いけー!! 頑張れーー!! 負けるなーー!!
フレー!! フレー!! 真赤ちゃん!!!!」
そうして真赤ちゃんはしばらく立ち止まり――。
体を捻り、首をこちらに向けて、ゆったりと口を開いた。
「ごめん、やっぱりやめた」
私たちはずっこけた。
「真赤ちゃ~ん……」
「いや、これはそういうギャグ的なアレじゃなくて」
真赤ちゃんの口から、その事実は淡々と告げられた。
「勝てないよ、僕たち」
静寂。
風も音も、不自然なくらいに何もない。
「な、何を言ってるのよ高橋真赤……!!」
「……近づいただけで反魔法力の濃度に押し潰されそうになる。
あいつら一体一体が僕たちよりも強い」
「そんな……ウソでしょ……!! こっちは数でも負けてるのよ……!!
ちょっと戦うのが億劫だからって……!! そう言ってよ!!」
すがるような影ちゃんの声がこだまする。
でも、真赤ちゃんは何も答えなかった。
花ちゃんが私にだけ聞こえるように耳打ちした。
「……天さん、あなたは逃げてください。ここは私が」
「……」
「……天さん?」
「……みんなを置いてなんて、嫌だよ」
せっかくこうして集まれたんだから。
それがどんなに尊いことかわかっているから。
「では、参りましょうか」
「ごめんね、花ちゃん」
「いいのです。天さんがはっきりと嫌がるなんて、珍しいと思いましたから」
言われてみて気づいた。
否定したり、けなしたりする言葉は普段、避けているかもしれない。
何となく嫌な気分になってしまうから。
モンスターたちの動きが変わる。
私たち、4人が臨戦態勢を取る。
歩く速度から走る速度へ。
敵はこちらへと、7体全員が突っ込んできた。
「くるよ!!」
「ああもう!! こうなりゃヤケクソよ!!」
私は手にした魔法棒に力を込めた。
みんなで帰ってくるって決めたから。
そのみんなは、やっぱりみんななんだ。
目に見える世界は真っ暗だった。
どれくらいの時間、そうしていたのかもわからない。
時間が経っているのか、一瞬なのか、永遠なのか。
考えているのか、何も考えていないのか。
もうずっと、夜はそういう時間だった。
揺れる。
たゆまない流れに楔が打ち込まれる。
残っていた人間らしい部分が起きてしまう。
そのまま眠っていていいのに。
――ちゃん。
音が聞こえた。
とても懐かしい音が。
ずっと、隣で聞いていたはずなのに。
――お姉ちゃん。
平穏と歓喜が
後悔と懺悔が
一度に胸を覆いつくす。
これはまるで――。
「いつまで独り言いってるの!!!! お姉ちゃん!!!!」
暗闇なんて引き裂くように、耳をつんざく確かな声。
思わず、顔を上げるその感覚を取り戻していた。
視界が開ける。
辺りは真っ暗ではなく真っ白だった。
目の前にはゆめがいた。
「もう、やっと目を開けたね。お姉ちゃん」
何も答えない。
何も言うことはできない。
何かを言う資格はない。
「外がまずいことになってる……!!
何とかできるのはお姉ちゃんだけなの!!!!」
体は動かない。
全てを放棄したように。
全てを諦めたように。
「もうわかってると思うけど……私の体、お姉ちゃんの魔法力でできてるの。
だから、これを返す。そうすればお姉ちゃんは誰にも負けたりなんか……」
「ゆめは?」
久しぶりに、自分の声を聞いた。
ずっと泣き続けた子供みたいに、酷くしゃがれていた。
「は? この期に及んで何を言ってるの?」
「だからゆめは? ゆめはどうなるの?」
「私にもわからないけど」
「……じゃあやだ」
ゆめの顔が真っ赤になっていく。
本気で怒ってるやつだ。
「こんな時にワガママ言わないで……!!
真田さんたちだってきっと今、必死で戦っているんだよ!!」
「……天ちゃんが」
聞き慣れたその名前に眉がぴくりと動いた。
「そうだよ。戦うのが苦手だった真田さんがずっとお姉ちゃんの代わりに世界を守っていたの。
だから、今度はお姉ちゃんがこの世界を……ううん、違う。みんなを、守ってよ!!!!」
「私は……でも!! 私のせいでゆめが……!!
あの時だって!! 私が酷いことを言ったからゆめが!!!!
ゆめは覚えてないの!? あの時のことを……!!」
「覚えてる……覚えてるよ」
ほら、そうだ。
だから全部悪いのは――。
「私が子供扱いされて……怒ったから」
「……何を言ってるの?」
「……不安だったの。私、ちゃんと大人になれるのかなって。
ずっとお姉ちゃんの後を付いていってたから……。
独りで勝手に、不安になってた。このままで私、大人になれるのかなって」
「……」
「だから怒っちゃった。図星だったから……。
私、まだ全然子供なのに……。私があの時、怒らなかったら私もお姉ちゃんもあんな目にはあわなかった……」
「……ゆめ、違うよ。私が酷いことを言ったから、そっちの方が問題で」
「違わないよ。それまでは普通だったのに私が先に怒ったから」
違う、絶対に違う。
そうでなければ――。
納得ができない。
ゆめはただ、運が悪かったからということ?
そんな理不尽があっていいはずがない。
「聞いてよお姉ちゃん。あのモンスターに襲われそうになった時点で私たちの魔法力は同じくらいだった。
私たちふたりは……どちらが襲われてもおかしくなかった」
納得が、できない。
「それでもお姉ちゃんが最期に手を握ってくれたから……
私の魔法力がお姉ちゃんへと渡ったの」
納得、したくない。
「だからこそ私は今、ここにいる。あの時の地続きの私で。
……歩むかもしれなかった日常を、何度も何度も繰り返して」
納得、したらダメなんだ。
「私、お姉ちゃんには感謝しているよ。
お姉ちゃんのおかげで、見るはずのないもの……会うはずのない人……たくさんの経験ができた。
でも、その度にお姉ちゃんが犠牲になるなんて耐えれないの。
わかるでしょ? お姉ちゃん」
わか――。
「……お姉ちゃん、そんな顔しないでよ。
元に戻るだけなの、全部が。生きていた人が生きるべきなの」
「……だったら!!!!」
大粒の涙が頬を伝っていた。
「私はゆめに生きていてほしかった!!!!
何年でも……ずっと……ゆめに生きていてほしかった!!!!」
涙は止まらなかった。
きっとこんなに泣くのあの日、以来だ。
「……お姉ちゃん、顔を出して」
言われるままに顔をさしだす。
他でもない妹の頼みなのだから。
「そのままじっとしててね……」
それはまるで不思議な儀式。
お伽話の、1ページのような――。
「メソメソするなああああぁぁぁぁ!!!!」
伸びてきた拳。
鈍い音。
頬の激痛。
揺れる世界。
何もない空間で地に伏せた。
ゆめにグーで殴られたのだとやっと気づいた。
「なにいまさら悲劇のヒロインみたいなツラしてるの!?
私のお気に入りの人形を貸してあげたら遠心力で腕を引きちぎったお姉ちゃんはどこへ行っちまったのよ!!!!」
(……。あったなあ、そんなこと。ダンスのつもりだったけど勢いを付けすぎたんだよね……)
「真田さんと野山を駆けずり回って片っ端から虫を虫かごに突っ込んで地獄絵図を作り出していたお姉ちゃんはどこへ行っちまったのよ!!!!」
(あったあった。あらゆる生物が一緒に暮らすユートピアだ……って天ちゃんと盛り上がった。ゆめに見せたら失神してたっけ……)
「将来の夢に覇王って書いていたお姉ちゃんはどこへ行っちまったのよ!!!!」
(……。あったっけ?)
「あった!! 幼稚園のアルバムに『は王』って書いてるから!! 見て!!」
顔を上げる。
記憶を辿る。
覚えていた姿よりもずっとたくましいゆめが、そこにいた。
「お願い……お姉ちゃん……ヒーローかヒロインかなんてどっちでもいい……!!」
ゆめの瞳は綺麗な桃色だった。
きっとそれは、こちらの姿を映しているはずだった。
「この世界を救う覇王になってよ!!!!」
頬はまだ痛みを伝えていた。
だからこそ、立ち上がれた。
バツの悪そうにする妹に正面から向き合った。
「ありがとう、ゆめ」
「……」
「私、たぶんずっと逃げてたんだ……。楽しかった思い出からも……。
悲しいことばっかりじゃなかったはずなのに。そうしないと、いけないって」
「……。私はその思い出の中にいたよ、お姉ちゃん」
力がわいてくるのを感じた。
今までに感じたことのない力を。
たったひとつ、気がかりなこともあった。
「全部が元に戻ったら、ゆめは――」
「……。心配しないでよ、私だって消えるのは嫌だし……。
神様を引っぱたいたって何とかしてやるんだから!!」
力強いその声に、思わず頷く。
全部を元に戻す。
後悔するためじゃなくて、未来へ進むために。
後ろを振り返った。
それは正確ではない。
今までずっと後ろを向いてたから、やっと前を向けた。
「行こう!! ゆめ!! ……その前にひとつだけいい?」
「なに? お姉ちゃん?」
「さっきの痛かったから一発殴り返していい?」
「暴君……!!」
空間の振動を辿っていく。
さっきの揺れの原因を理解する。
滑り出るように体全体の力を込めて。
全てを勢いに変換する。
裂け目から、外へ。
それはまるで新しい自分の誕生だった。
「やっぱりどうにもならなかったね」
「結果論で言えば全速力で逃げるべきだったかと。
……天さんだけでも生き残れば私たちに勝ちの目はありました」
「あなたたち冷静に話してる場合!?
真田天!!!! もう無理よ!!!! 逃げなさい!!!!」
後ろから3人の声が聞こえる。
私は改めて自分の心を奮い立たせた。
モンスターは7体。
一体も減っていなかった。
戦いが始まってすぐ、真赤ちゃんが黒い鎌に切り付けられた。
「くそがよ……」そんな無念の言葉を残しながら真赤ちゃんは地に伏せた。
応戦しようとした花ちゃんも吹っ飛ばされた。
「この私が……」必死に助けようとしたけど、間に合わなかった。
そして影ちゃんは――。
私を庇って戦えなくなった。
正面の敵と唾競り合いをしていた私が、
横から切りつけられそうになり、それに飛び込んだ。
赤、緑、紫。
すっかりその光は弱まった。
3人とも魔法力が一瞬ですり減ってしまったんだ。
私は前へと立った。
魔法棒をしっかりと握る。
空いた手でヘルメットをしっかりと押さえる。
みんなに背を向けて魔法棒を握った。
相手の位置を把握して――。
一瞬。
黒いものが眼前へ。
黒い鎌が振るわれる。
衝撃とともに受け止める。
横からもくる。
これ以上、後ろに下がればみんなが――。
振り払って、受け止めようとした。
体は弾き飛ばされていた。
うずくまってちゃダメだ。
早く起き上がらないと――。
顔を上げれば、黒い鎌が、再び振り上げられていた。
「――っ!!」
魔法棒を咄嗟に上げる。
ただ、黄の光を纏わせただけのそれ。
手がしびれる。
体が覚悟を決めたみたいに硬直する。
私が諦めたら全部が終わっちゃうから、だからもう少し――。
気配で分かった。
黒いものが周囲に寄ってくる。
動けない私を大きな円で囲うように。
逃げなさい!!!!
そう叫び声が聞こえてきた。
私は……諦めなかった。
目の前の怪物をなんとかして、それで周囲に魔法力を拡散する攻撃をすれば――。
黒い大鎌がまた振り下ろされた。
叫び声があがった。
今度は私のだった。
痛みに耐えきれなかった。
こんなことで諦めちゃダメだ。
だって私が諦めたらこころちゃんが――。
こころちゃんが、つらい思いをしてしまうから。
誰かが苦しい思いをしなきゃいけないなんて嫌だから。
だから代わりになるって、私がそう決めたんだ。
弱虫で、泣き虫な自分にウソをついて。
鎌がまたも振り上げられた。
今度は、何もできなかった。
「きゃああぁぁ!!!!」
頭につんざくような亀裂が入った。
そう錯覚した。
私のヘルメットは、完全に割られていた。
体がのけ反り、倒れる。
空は真っ黒だった。
何もないと思ってしまうくらい。
黒い怪物たちが私のもとへ集まっているのがわかった。
体が動かない。
呻き声がかろうじて出ていた。
まるで泣きすすってるみたいな、情けない音だった。
これが私だった。
弱くて意気地なしの私だった。
みんなの心配する声が聞こえてくる。
ごめんね。
結局、私じゃあ駄目だったんだ。
頭にいろんなシーンが浮かび上がる。
今日、ここに来るまで。
何度も出会って、別れて、それでも戦い続けたこと。
それはどんどん、とめどなく溢れてきて。
泣き出した時に理由もなく涙が止まらないみたいだった。
お母さんや、お父さん、影ちゃんやゆめちゃん、花ちゃんと真赤ちゃんの顔が代わる代わる出てくる。
アルバムを破り捨てられるみたいに、それらが遠くのものになっていく。
そうして最後に残ったのは遠い昔の――大好きな幼馴染の笑顔だった。
ああ、そっか。
私はやっとわかった。
私にとって大事だったのは――。
私にとっての世界はこころちゃんだったんだ。
黒い鎌が、また振り上げられた。
「見てられない!!!! 早く!!!!」
ゴオォ……。
「村田さん!? どうするつもり!?」
「どうしたもこうしたも!! 真田天を助けにいくわよ!!」
ゴオオォォ……。
「……天さんがこうなった以上、我々の敗北でしょう」
「何言ってるのよ!!!! まだ何とか……何とかなるはずでしょ!!!!」
ゴオオォォ……。
「みんな……私ここまで、かも」
「小声で聞こえないけど弱音を吐いてるわね!!!!
やめてよそんなの!!!! 私たち!! まだこれからでしょ!!!!」
ゴオオオオォォォォ……。
「てーーーーん!!!!」
ゴオオオオォォォォオオオオォォォォ……。
「……。さっきから気になってしょうがないんだけど。何、この音!?!?」
「いや、ジェット機とかでしょ」
「……これは魔法力の織りなす音、ですわよ。誰かがここへ向かっているのでは……?」
ゴゴゴゴオオオオォォォォオオオオォォォォ!!!!。
「こ、こんなでかい音を出す魔法力なんて聞いたことないわよ」
「……聴いたこと、あるよ」
それはとても懐かしい音。
私の大好きな音。
私の大好きな人。
ゴゴゴゴオオオオォォォォオオオオォォォォ!!!!。
黒い繭から突き出て、桃色の翼を広げて
力強く、まっすぐにこちらへ飛んでくるその姿は――。
「こころちゃん!!!!」
黒い鎌が振り下ろされた。
でもそれは地面へと突き刺さるだけだった。
私の体は空中にあった。
飛んできたこころちゃんに抱きかかえられていたから。
「全てをなぎ倒す最強の心!!!!」
(人差し指をびしっと伸ばして!!!!)
「魔法少女ォ!!!!」
(大切な人を両腕に抱えて!!!!)
「ガルガンチュアハート!!!!」
(背中から魔法力を展開し、巨大な羽根を生やそう!!!!)
「……こころちゃん!!!!」
その温もりを感じる。
こころちゃんは確かに、そこにいた。
もう一度会えたんだ、私とこころちゃんは。
「わたし……こころちゃんがつらいなら、もうたたかわなくてすむように……
わたしが、がんばらなきゃって……」
「……天ちゃん、いままでずっとごめん」
本当に長い時間をこえて、私はやっとこころちゃんの声を聞いた気がした。
とても優しくて、力強い声を。
「私はずっと、自分が我慢して終わるんなら……自分が犠牲になってみんなが幸せになるならって思ってた」
「……こころちゃん」
「でも、違ってたんだ。私が傷つくことで、傷つく人がいるって……そのことにやっと気づけたから。
私は……天ちゃんのために戦うよ!!!!」
「……こころちゃん!!!!」
少しずつ地面へと近づく。
けれど不安は少しもない。
だってこころちゃんが、そばにいてくれるから。
嬉しすぎたのかもしれない。
私の目からは雫が落ちた。
――そして。
私は天ちゃんを抱えながら、両足を地面へと付けた。
さっきまで天ちゃんを襲っていたやつが、こっちへ走ってくる。
心配そうにする天ちゃんに後ろに下がってもらう。
勢いよく黒い鎌が振るわれた。
天ちゃんの、村田さんの、高橋さんの、伊藤さんの、
いろんな感情が入り混じった叫びが聞こえた。
紙一重。
横に躱す。
前髪がはらりと落ちた。
口元がにやりと歪んだ。
ゆめが持ってきてくれた魔法棒――。
「ハートロッドハンマアアアアァァァァ!!!!」
100グラムのフルスイング。
弧を描くように地面へ。
さっきまで無暗に襲ってきたやつの体はもうない。
「天ちゃんをいじめるからだよ」
後には黒いしぶきと、魔法棒の先から放たれる桃色の光が残るだけだ。
「え? え? え? 何をやったの、今」
村田さんが驚いている。
ちょっと得意になってしまう。
「一瞬だけど魔法棒の先からでかめの円柱を作ってた。
そのまま押し潰したみたい」
高橋さんが的確な解説をしているようだった。
しゃべる手間が省かれるので、助かる。
「……ふん。私もあの程度の破壊力、生み出せます。
サボっていた分、働いてもらいましょう」
伊藤さんはよくわからないが、私のことを褒めているようだった。
今から頑張らないといけないのは、その通りだ。
私は肩にちゃんとその感覚があることを確認した。
暴れすぎないように気を付けないと。
「こころちゃん!!!! 気を付けて!!!!」
天ちゃんからの声が飛ぶ。
私の心配事とは違うこと。
でも、大丈夫。
こんなやつら、全員正面からぶちのめす――。
「もがっ!!!!」
敵が一体、また一体。
私に飛びかかる。
反魔法力による圧迫。
たぶん、全員がそれをやってきている。
光が完全に閉ざされる。
――こころちゃん!!!!
隙間からわずかに伝わったその声に応える。
ちゃんと聞こえている。
だからもう負けない。
天ちゃんがそこにいるんだから。
魔法棒はしっかりと握ったままだ。
「もが……もがが……」
(ハートロッド……)
「もがああああぁぁぁぁ!!!!」
(シイイイイィィィルド!!!!)
体中から光があふれ出す。
真っ暗な視界が桃に染まっていく。
爽快な手応えとともに敵を宙へと、四方八方に吹き飛ばす。
遠くの木々に、道路に、池に、怪物どもが不時着する。
体はずいぶん軽くなった。
「こころちゃん!!!!」
駆け寄ってくる天ちゃんに手を振って応える。
敵は大分遠くまで吹っ飛ばしたから、しばらくは来ない。
「田中こころ……あなた無茶苦茶ね……。無茶苦茶強いわ……」
村田さんが近くに来ていた。
まず、かける言葉は決まっていた。
「村田さんも、ありがとう!!」
「へ?」と驚く顔に説明を加える。
「天ちゃんといっしょに世界をずっと守ってくれたから。
……覚えているから。だから、ありがとう」
ちゃんと覚えている。
私が何度も助けられたことも。
下校で一緒に帰って、天ちゃんの話をしたことも。
「世界を守るだなんてそんな……。
私、お父さんのことで頭がいっぱいで、バタバタしていただけで……」
「それでも、だよ」
村田さんは手を後頭部に回して、笑い声を漏らしていた。
照れているのかもしれない。
「田中さん、魔法少女だったんだね」
次に私に話しかけたのは真っ赤なマフラーを巻いた赤い髪の少女だった。
「高橋さん……!! 高橋さんもありがとう……!!
おかげでゆめも……独りじゃなかったから」
高橋さんは押し黙ってしまった。
高橋さんだけじゃない。
天ちゃんも下を向いていた。
村田さんもきょろきょろと困った様子を見せた。
「でも、僕は……。結局、彼女に何もできなかったんだ……」
「顔を上げてください先輩。私、先輩には感謝してるんですから」
「うん……、んんんん!?」
クールな高橋さんが今まで聞いたこともないような声を上げる。
天ちゃんも村田さんもこっちに――私の肩に視線が釘付けだった。
私も自分の肩へと視線を向ける。
そこには握りこぶしくらいのサイズのゆめがいる。
「ゆめちゃん!?!?!?」「ゆめちゃんだ!!!!」「田中ゆめぇ!?!?!?」
3人の驚く声が重なる。
無理もない。
私も初めて気づいた時は驚いた。
「時間がないのでざっくり言います。私の体はお姉ちゃんの魔法力でできてて、
それをほとんど返しました。ちょっとだけ残っているんでこの大きさなら維持できたんです。
服も魔法力で作りました恥ずかしいので」
「ゆめちゃん……妖精さんみたい!!!!」
「僕はもう会えないと思ったんだよ!! こんな形でまた会うって……!!
どう感情を整理したらいいのさ……!!!!」
「何か子供の子供って感じのサイズ感よね……あ」
村田さんが慌てて口を覆う。
私は何も言わなかった。
だってゆめは、もう――。
「いいんです、村田さん。私たち、みんな子供なんです。
やっとそうだって認めることができたから」
「ゆめちゃん……!! そうだね、私たち、みんなそうだったんだ……!!」
ゆめはもう、立派な大人だった。
「再会の挨拶はそれぐらいでよろしいのでは?」
遠くから伊藤さんが声をかける。
その更に先には怪物たちが集まりつつあった。
数は残り6体。
私たちも、みんなで6人。
みんながそれぞれ、前へ出る。
天ちゃんは私の隣へ来た。
その体はわずかに震えていた。
私は手を取った。
天ちゃんは一瞬、驚いた顔をして、
その後、綻んだ笑みを浮かべていた。
まずは、こいつらをやっつけるのが先決だ。
「みんな魔法力が弱まってるみたいだから、私のを分けてあげる」
「そ、そんなことできるの!?」
「うん、できるよ」
「そうなんだ」
村田さんと高橋さんとそんなやり取りをして、私は力んだ。
桃色の光が、あたりへと満ちていく。
「こころちゃんの魔法力、あったかい……えへへ」
「これがこころさんの……ふん」
全員の力が、溢れてくる。
桃、黄、紫、赤、緑。
5色の光が混じるように私たちを包んでいく。
すぐ近くまで来ていた敵がのけ反る。
こうなればやることはひとつだ。
「誰からやる?」
私の問いかけに、天ちゃんが答えた。
震えは、もうない。
そこには優しくて、かっこいい天ちゃんの姿があった。
「ねえ、お姉ちゃん」
「なに、ゆめ?」
「……私もやっていい?」
「もちろん!!」
今、ここに私たちみんなが横に並ぶ――。
「アークは天!!!! 私も天!!!!」
(両手を上下に思いっきり突き出す!!)
「魔法少女ォ!!!!」
(明るく元気に朗らかに!!)
「ガルガンチュアアアアアアァァァァァ……」
(すごい巻き舌)
「アアアアァァァァアアアアァァァァク!!!!」
(周囲も巻き込むくらい魔法力を全力全開!!!!)
「万物を包み込む優しき影……」
(セーラー服のホコリを払い、ベレー帽をしっかりかぶって)
「魔法少女ォ!!!!」
(ベレー帽から魔法力を展開して)
「ガルガンチュアシャドー!!!!」
(セーラー服をはためかす!!)
「渇ききった地獄に咲く一輪の花……」
(頭に付けたアクセサリーを取り外しキスをする)
「魔法少女ォ!!!!」
(目を見開いて森羅万象を識るべし!!!!)
「ガルガンチュアフラワー!!!!」
(天さんにはウィンクを、こころさんにはメンチを)
「高橋真赤です。次の方どうぞ」
(真赤ちゃ~ん!?)(高橋さんの見たいー!!)(先輩、真面目にやってください!!!!)
「はいはい……」
"Mission name is red..."
(指を打ち鳴らし)
「魔法少女ォ!!!!」
(真っ赤なマフラーをたなびかせて)
「……ガルガンチュアレッド!!」
(魔法棒を回転するよう放り投げて振り下ろすようにキャッチ!!)
「全てをなぎ倒す最強の心!!!!」
(あいつもこいつも!! 私のドリルで夢の跡!!)
「魔法少女ォ!!!!」
(魔法少女ォ!!!!)
「ガルガンチュアハート!!!!」
(ガルガンチュアドリーム!!!)
「「「「「「みんな揃って」」」」」」
「「「「「「魔法少女ォォォォォォ」」」」」」
「「「「「「ガル!!!!!!」」」」」」
「「「「「「ガン!!!!!!」」」」」」
「「「「「「チュアァァァァァァ!!!!!!」」」」」」
(決め顔)(冷笑)(張り手)(拳を突き出す)(腕組み)(棒立ち)
魔法力の光が爆発する。
彩度の高い色が、われがわれがと押し寄せていく。
敵をあっという間に飲み込み、吹っ飛ばしていった。
「これが、6人名乗りの威力!!!!」
私が高らかに宣言する。
「うん……すごい!!!!」
天ちゃんが心から嬉しそうに応える。
「名乗り連打してるだけで倒せるんじゃないの、これ」
高橋さんが冷静に分析する。
「いや、微妙じゃない? 気分ってもんがさ~」
村田さんが余裕めかして笑う。
「もう各個撃破でよいでしょう。一度戦った相手、遅れを取ることはありません」
伊藤さんが自信満々に言う。
「お姉ちゃん、行こう!!」
ゆめが私の耳元でささやいた。
「うん!!!! 行くぞおおおお!!!!」
私たちは、突っ込んでいった。
敵と戦うのは面倒だ。
接敵した瞬間に、戦いが終わっているのがいい。
ならば、と本能が嘯く。
魔法力の時間的密度を限界まで圧縮する。
刹那を切り刻んでも、まだ足りない。
目前の敵がこちらへと動いた――
上下真っ二つになった状態で。
もう攻撃は終わっていた。
瞬時に描かれた弧。
延長された赤い線。
その線が怪物を切り飛ばしていた。
「……刀」
散々苦しまされたその怪物が、消えていく。
ゆっくりと振り下ろした魔法棒は白銀へと戻っていた。
「さあ!! 宴の始まりですわよ!! 狩りという名のね!!!!」
白銀の棒から茨が這い出る。
いくつもいくつも。
まるで数多の異次元から直結したみたいに。
この大地を覆いつかさんがごとく。
激しくうねり、捕食対象を飲み込んだ。
黒い獲物は鎌を必死にばたつかせる。
最早その姿は滑稽を通り越して惨めだ。
獲物の体が浮き上がる。
十字架のように緑の茨に拘束されて。
白銀の魔法棒が、その点を狙いすました。
「フラワーチェーンソー・告解」
一際、激しくうねる茨はまるで獰猛な動物のように射出され、
怪物を嚙み殺した。
後には高らかな笑い声が巻き起こる。
「制裁……ですわよ」
「派手にやってるわね……私も本気を出すわよ……!!」
手を振っていつものように武器を出す。
シャドーマシンガン
シャドーショットガン
シャドーバズーカ
シャドー手榴弾
シャドー閃光弾
シャドービット全機展開――
ただし、ありったけ全部だけどね!!
「シャドー全弾発射ぁ!!!!」
全部が一点に――いや、正確にはざっくりとした面に着弾していく。
回避の概念をかき消す攻撃。
二足方向の黒いそれは、後ろへと動こうとした後、
紫の爆風に飲まれ消えていった。
「これが最終決戦仕様の力よ!! よっしゃ!!」
鎌と鎌。
ぶつかる度に黒と黄のしぶきが飛び散る。
ふと頭によぎる。
独りにはさせないし、独りじゃないんだ。
だから何度だって――。
「わわ!!!!」
「天ちゃん!!!!」
身をそり返す。
体の少し上を黒い鎌が通過した。
間合いを取り、仕切り直す。
たとえ相手の方が強くたって。
何度だって立ち向かう。
「てやああああ!!!!」
がむしゃらに、めちゃくちゃに。
黄の鎌を振るい続ける。
手数で負けた黒い怪物が、その態勢を維持できなくなる。
今だ!!!!
「アーク……ノヴァ……」
魔法棒から、刃が伸びる。
今までより、2倍も3倍も大きいそれが。
「スラァァァァッシュ!!!!」
黒い鎌ごと思いっきり引き裂く。
ちぎれた怪物はその姿を維持できなくなり、霧散していく。
幾度となく見てきたその光景。
今回のそれは、今までに見たことのない光で満ちていた。
「お姉ちゃん!! 私たちも!!」
「うん!!!! ぶちかましてやろう!!!!」
敵は残り二体。
ならばと魔法棒を構える。
敵が二体同時、闇雲に突っ込んでくる。
それなら当然、やることは決まっている。
正面へと駆ける。
相手よりも早く。
誰よりも重く。
その一撃を食らわせる。
「ハートロッド!!!! ハンマアアアア!!!!」
前へ出ていた怪物がぺしゃんこになる。
左目で残った方に一瞥をくれてやる。
隙だと判断して、こっちに近づいてくる。
「――からの」
右手から左手へと。
魔法棒を素早くパス。
「「ドリームドリルゥゥゥゥ!!!!」」
全力での正面衝突。
怪物の体をそのまま突っ切っていく。
通り抜けた後はただの風穴だ。
肩を見れば、ゆめがこちらを見て得意げな顔をしている。
きっと、自分も見たような表情をしているのだろう。
これで敵は全員倒せた。
「あ、あれ!!!!」
村田さんの悲鳴に近い声が上がる。
研究所――私がさっきまでいた場所へと目をこらす。
建物のすぐ上の黒い繭、その更に正面に黒い渦が巻き起こっていた。
直感的にわかる。
あれは良くないものだ。
天ちゃんもこちらに目配せをすると、一歩前へと出た。
「もう一度、私が何とか……!!」
「真田天!! あなたはもう……!!」
天ちゃんの髪色は、もうずいぶん黒が目立っている。
「でも、それじゃあ……」「それじゃあ私がやる」
みんなの視線が集まる。
簡単な話だった。
天ちゃんはこれまで頑張ったのだから、これからは私が頑張ればいい。
大気を一喝する。
背中から魔法力を噴出する。
轟音を立てながら真上へと飛び立つ。
地上数メートル。
みんなの背が私の足より下だ。
黒い渦はまだ、大きくうねっていた。
私は高々と白銀の棒を掲げた。
「ハァァァァトロッドォォォォ……!!!!」
桃色の円が頭上に浮かぶ。
自分を、みんなを、この一帯をすっぽりと覆うくらい。
どこまでも広げていく。
「フルパワアアアアァァァァ!!!!」
円が天高く伸びていく。
黒い雲を突き破って、ソラまで。
穴が開いたみたいに黒色が退いた後には、
桃色の巨大円柱が顔をのぞかせた。
魔法力による、超スケールの槌。
黒い渦が唸りを上げた。
「も、もう攻撃した方がいいんじゃない!?」
「いえ、不十分な力で攻撃をすれば押し負けるだけでしょう……」「限界まで溜めるの、なかなかに難儀だよ……!!」
「で、でも私たちにできることなんて……!!」
「すぅぅぅぅ……」
「こころちゃん!!!! がんばれええええぇぇぇぇ!!!!」
黒い渦が形状を変える。
それと同時に――。
魔法力が限界を超えた。
「ハンマアアアアァァァァアアアアァァァァ!!!!」
両手に全身全霊の力を込めて、魔法棒を傾ける。
超巨大円柱が、超巨大な弧を描く。
黒い繭が小さく見えるほどの槌が降ってきた。
桃の爆風が起こる。
黒い繭を境に、真っ二つに割れるように。
黒い光線は明後日の方向に発射されていた。
魔法力による爆風が消えたその後には――。
黒い繭は完全に消滅していた。
これは――。
「やった!! やったやった!! やった~~!!!!」「やったじゃん」
「やったわ……!! やったのよ私たち……!!」「みなさん早計かと。……まあやりましたが」
足元では喜び、はしゃぐ姿が4つ。
「みんな……!!」
私は地面へと着地しようとした、のだが。
「あま~~~~い!!!!」
ハイタッチをしたりバンザイをしていた一同騒然。
声の主は私の肩につかまる我が妹だった。
「みなさん……まさか今ので決着が付いたと思ったんですか!!」
「ち、違うの……?」
天ちゃんが困ったような表情を見せる。
少しかがんでゆめと視線を合わせてくれている。
「敵の本体はもっと小型なんです!! 今の攻撃だって察知してどこかへ逃げています!!」
「そういえばそんなやついたね」
高橋さんが相槌を打った。
情報の重さに対して言い方が軽い。
「私の体がこんなのだから……感じるんです!! まだやつは……いる!!」
「い、いや、小さくてかわいいと思うわよ……うん」
村田さんが控えめに言った。
主旨がずれている気もしたが、気のせいだろう。
「だいたいもしトドメをさせていたら元に戻るんです!! ……全てが元に」
「ふむ、そういうことですか」
伊藤さんがしたり顔で頷いた。
説明はしてくれないらしい。
「とにかく!! 私たちはまだ戦わないといけないんです!!
ね、お姉ちゃん。そう言いたかったんでしょ?」
「ごめん、ゆめ。私も今ので決着が付いたと思ってた」
肩の上でゆめはずっこけた。
「おねえちゃ~ん……」と力ない声が響き渡る。
私は頬をポリポリとかいてみんなと顔を合わせた。
「じゃあ行ってくるね」
「うん……気を付けてね、こころちゃん」
私は挨拶をした幼馴染と面と向かってずっと顔を見た。
いつまででもそうしていられる気がした。
ゆめも、私から離れて高橋さんと何やら話していた。
後で冷やかそう。
悲しさはない。
これが最後じゃないと信じてるから。
心配そうな顔をする天ちゃんに抱きしめて背中をさすった。
結局、残った魔法力の関係で私とゆめだけが行くことになった。
天ちゃんはどうしても付いて行きたいって言ったけど、
そこだけは譲れないから残ってもらった。
だって天ちゃんはもう戦う必要がないから。
ずっと私の代わりに戦い続けてくれたから。
何も言わなくても、お互いを思う心地よさだけが伝わってくる。
でもやっぱり言葉にしなきゃ伝わらないこともあるから――。
「天ちゃん、私、絶対に帰ってくるから」
「うん……約束だよ」
「天ちゃん」
「え?」
「だいすき」
「えへへ……私も、こころちゃんだいすき!!」
頬が赤くなっていた。
たぶん同じくらいに。
「あ、これ……!!」
天ちゃんがサイドテールを解く。
髪が解放されたように、はらはらと舞った。
そのまま髪につけていたピンクの髪飾りを両手で差し出した。
「私だと思って持って行って……なんて」
「うん!! すごい嬉しい!! 待ってて天ちゃん!! 絶対に戻ってくるから!!」
それを大事にポケットへと入れる。
私はもう一度天ちゃんを抱きしめるのだった。
「それじゃあ行ってくるから!!」
みんなの姿が小さくなる。
轟音を上げながら空へと浮上していた。
「真田さんとの挨拶、どうだったのお姉ちゃん」
「ゆめも、高橋さんと長いこと話してたけど」
「な……!! なんだっていいでしょ!! 私と先輩は別にそんなんじゃあ……そんなんじゃあ……」
「そんなんなんだ」
「も~!! お姉ちゃん!! 今、話すことじゃない!!」
「あはは……。ねえ、ゆめ」
「? ……なに?」
「絶対に戻ってこようね」
「……」
「ゆめ?」
「うん、そうだね」
前方へと滑空をする。
研究所の敷地が見える。
そこにぽっかりと、黒い穴が開いているのがわかった。
門の入り口から、玄関まで、すっぽり覆うくらいの。
「前の時もやつは地下へ逃げてたわ……!! 恐らくは今回も!!」
「あそこ、結構に反魔法力の密度が高いね」
「お姉ちゃん、怖じ気ついた?」
「まさか」
二人で笑みをこぼす。
答えは決まっている。
魔法棒を、進行方向へと指し示した。
「行くのよお姉ちゃん!!!! 壊れた時計をまた回すために!!
そう……ドリルのように!!!!」
「ドリームドリル……」
私たちの体が、渦に包まれる。
「フルパワアアアアァァァァアアアアァァァァ!!!!!」
一直線に、豪快に。
黒い穴の位置を突き抜けて。
私たちの体は落ちていった。
「行っちゃったね」
「そうね。でもまあ大丈夫なんじゃない? 普通に飛んでるし……」
「確かに」
「高橋真赤。あなた田中ゆめと何を話してたの?」
「……何だっていいでしょ、全部気のせいかもしれないし」
「?」
「大丈夫、魔法力があれば……きっと。ね、花ちゃん」
「ふふ、そうですわね。……本来は得体の知れない、器を持たないそれが魔法力と名付けられた」
「……花ちゃん?」
「それこそが博士の発見だったのです。認識に基づく力だといち早く気付いた博士は、小さな子供が持つ無限の可能性に未来を託した……。
実用性がないと馬鹿にされ、研究の予算がまともに下りないその時から。
その脳がもっとも好奇心を刺激され、人類を守る力として使うことができるように」
「……」
「だからこそ本来は神秘性を帯びて人間の手には負えなかったものが、こうして今に至るのです。
博士がその名前を付けなければ、今だにそのメカニズムは解明されず目に見えぬ超能力のように扱われたのかもしれません。
神の力と人の心が合わさった時、私たちは本当の意味で
……博士の御本、『魔法力と私』の一節です」
「神の力と人の心……それって、逆でもいいのかな?」
「逆? ふふ、天さんは面白いことを言いますのね」
研究所の方から轟音が聞こえてくる。
心地よいくらい勇猛なそれが。
「こころちゃん……ゆめちゃん……頑張って!!」
続