魔法少女GL ~女の子たちの初手はいつだってルームシェア時空!!~ 作:MOPX
雷が落ちたみたいな破裂音。
大気を揺るがす大震動。
その感触が、黒い穴を突き破ったのだと伝えてくる。
全ての抵抗をものともせず、勢いは加速していく。
どこまでも落ちていく。
いいや、どこまでも下へ堀り進む。
地から這い出てきた、後ろめたい気持ちに決着をつけるために。
今、自分にできることをするために。
その先にある未来へと向き合うために。
闇が見えた。
視界が一点から広がるように黒く覆われていく。
そこが目印なのだとわかった。
――お姉ちゃん。
――うん、行こう。
視界が開けるのと、真逆の感覚。
産まれて、世界に挨拶するのと逆の。
真っ暗な闇に体が放り出される。
ふわふわと浮かんでいるのか、泳いでいるのか。
桃色の羽を生やす。
体の感覚を思い出す。
私の体はちゃんとそこにあった。
ゆめも肩の上にいた。
そこは薄暗い空間だった。
しっかりと目を凝らす。
広い空間ではあったが、遠くに壁のようなものが見えた。
ばくばくと脈打っている。
きっとこれは巨人の心臓の中だ。
でも不安はない。
ちょっと広い体育館みたいなものだった。
一際深い、一点に気づいた。
――お姉ちゃん。
――わかってる。
少し離れたところに降り立つ。
目を凝らすと抽象的なそれが、意味を持つ形へと変貌していく。
うずくまる背中。
どこまでも深い黒を湛えるそれがゆっくりと振り返る。
顔のない少女。
いや、正確には顔はあった。
ないのは表情だ。
ただの真っ黒な輪郭。
人の姿を模しただけのもの。
少女の顔に当たる部分が、割れ目ができるみたいに横に裂けた。
耳をつんざく悲鳴、歓声、狂気。
魔法棒を構える。
戦うことしかできないのなら戦えばいいだけだった。
だって私は――。
田中こころなのだから。
挨拶の代わりに桃の閃光を撃ち込む。
飛び上がった敵が、さっきよりも大きな音を上げる。
ゴングはもう鳴っていた。
黒い少女の手がむくむくと膨れ上がる。
膨らみすぎてところどころが気泡のように弾けている。
両腕は羽へと変わっていた。
突貫。
槌を払う。
思いっきり打ち飛ばすつもりだったが、
桃色の槌は空を切っていた。
――上!!!!
導かれるように視線を上げれば、
今度は体の半分が膨れ上がり、裂け、巨大な口へと変貌していた。
大口が周りをすっぽりと飲み込む。
避ける。
その選択肢は用意されていなかった。
私の視界が衝撃とともに闇に閉ざされる。
反魔法力の言いようもない不気味な感覚が体全部を覆う。
でも、できることはある。
完全に密着してるが故に相手の反魔法力を直に浴びせられてる。
避けることは叶わない。
それなら条件はいっしょだった。
大声を上げる感覚で、槌を振り下ろす。
何度も同じ個所を打ち付けてやる。
手応えとともに視界をこじあけた。
黒が弾ける。
大口の下から飛び出して、羽を翻し急旋回。
態勢の崩した敵は空中をくるくると数回転し、
そのまま巨大な尻尾を乱暴に振り下ろした。
すぐ横に落ちてきたそれは、今度はみるみる細くなり、
蔦のようにこちらに伸びてきた。
こちらに巻き付くような動作で。
蔦はいつの間にか全方位から私を狙っていた。
魔法棒をぶんぶん振って近づかせ――。
腕の動きが止まった。
強い力で引っ張られていた。
蔦のひとつは既に私の腕に巻き付いていた。
大量の蔦がこれ見よがしに突っ込んでくる。
腕に力を込める。
それでも引きちぎれない。
それなら――。
桃の羽を広げる。
滅茶苦茶にはばたかせる。
一回ごとに、魔法力による暴風を巻き起こす。
計算不要。
ドンブリ勘定でおおよそ撃退できる魔法力。
か細い黒をちりぢりにする。
拘束が弱まる。
残っていたそれを手に魔法力を込めて消滅させた。
敵の位置を確認する。
遥か遠く、対面の壁まで退いていた敵を。
――お姉ちゃん!!!!
妹の意志が伝わる。
少女だったものは、その大口開けて力を蓄えていた。
形だけを真似た滅茶苦茶な用途。
そこから何かを発射するつもりだ。
大口から黒いものが溢れている。
液体とも気体ともつかない。
ここら一帯、薙ぎ払うつもりなのはわかった。
どこへ逃げようとも、何をしようとも関係のないくらいエネルギーを蓄えて。
私は魔法棒を正面へと向けた。
それならば――。
――撃ち落とす!!!!
堰が切られた。
ドロドロとしたものが空間いっぱいに広がる。
全てを飲み込む黒い濁流が、こちらへと向かってくる。
――ハァァァァトロッドォォォォ!!!!
今までのことを思い出す。
妹とケンカしたあの日のことを。
ずっと、こんな私のために頑張っていた幼馴染のことを。
もう後ろを向くのはやめた。
――シュゥゥゥゥトォォォォ!!!!
桃の閃光が視界いっぱいに広がる。
まるでこれから進む道を照らすみたいに。
桃と黒。
2つの色がこの狭い空間を塗りつぶし合うみたいに。
それらはちょうど中央で干渉し、互いを飲み込まんとしていた。
――お姉ちゃん!!
――大丈夫、大丈夫だよ、ゆめ。
私はもう、逃げたりなんかは――。
意識が流れてきた。
それはきっと、私の魔法力に乗って流れてきた。
敵の、いま戦っているその存在の意識。
空っぽだった。
何も存在しない純粋な無。
この世界を包む、途方もない無。
ふいに錯覚にとらわれた。
ひと、ひとりが宇宙に漂う。
そんな虚無感を。
何の意志も持たない。
だからこそこいつは、無限に大きくなる。
宇宙を食らいつくして、また別のところに移っていく。
こいつに食われるのは、何もなくなる。
はっと息を飲んだ。
拮抗していたはずのバランスは崩れていた。
黒が迫って来ていた。
あきらめない、絶対にあきらめない。
あきらめ――。
飲み込まれていく。
私の意志とは関係なく、体が吹き飛ばされる。
視界に黒いものが交錯する。
ふわふわした感覚とともに意識はどこかへ流されていった。
あきらめてはいない。
あきらめてはいないけど。
それでもダメなときはダメなんだ。
――ちゃん
――おねえ……ちゃん
聞こえてくる。
温かさを感じる。
感覚は何もないはずなのに。
――お姉ちゃん!! 聞いてるの!?
――聞こえてるよ。
真っ黒な空間の中、私の体は流されていた。
ゆめは――その小さな体で妖精みたいに飛びながら、こちらへと向かっていた。
何かを抱えているのがわかった。
魔法力は、もうほとんど残ってない。
――あいつ思ったよりも強いや。どうしよう。
――泣き言いわないでよ!! お姉ちゃんはみんなのところに帰るんでしょ!!
――そうは言っても!! 人と宇宙を比べるようなものなんだってば!! でかすぎるよ!!
――それがなんだって言うのよ。
――へ?
――空間は空間!! それにはないものが、私たちにはあるでしょう!!!!
――それって?
――ああ!! もう!! お姉ちゃんニブすぎ!!
ゆめが何かを持ち上げた。
桃色のそれは、私のポケットから落ちたものに違わなかった。
――本当に世話が焼けるんだから!!
ゆめが思いっきり振りかぶって投げた。
――受け取ってお姉ちゃん!!!! 真田さんの魔法力を!!!!
手を伸ばした。
まるでそこに吸い込まれるように。
天ちゃんの桃色の髪止めはそこにあった。
気持ちが溢れてきた。
私のものではない気持ちが。
がんばって、こころちゃん。
わたし、ずっとまっているから。
こんなことしかできないけれど、それでも――。
わたしもいっしょにたたかうから!!!!
魔法力がもう残ってなかったはずなのに。
それでも私のために残しておいてくれたんだ。
記憶が溢れてきた。
天ちゃんの記憶が。
まるで巻き戻したテープみたいに流れていく。
どれほど遡ったのか。
記憶の片隅でゆっくりと流れていく時間。
そこでは私と天ちゃんが縁側で互いに体を預けて眠っていて、それで――。
そうだ、ゆめがその様子をスケッチブックに描いていたんだ。
ゆめは私と天ちゃんの遊んでいる様子をよく描いていたんだ。
記憶の扉を開いたみたいに、スケッチブックのページが勢いよく捲られる。
お菓子を作って、いっしょに食べたこと。
夏休みの自由研究で、町を探検して地図を作ったこと。
髪が伸びてきて、梳かしあいっこしたこと。
天ちゃんが持っていた漫画をきゃいきゃい言いながら読んだこと。
そして――。
魔法少女ごっこ遊びをしたこと。
手をもう一度伸ばした。
記憶の中のイメージに向かって。
ゆめが私と天ちゃんのために描いてくれたもの。
二対のうちの片方。
それは掴み取られるように、私の手に入った。
辺りが光に照らされていく。
その色は――。
「天の心は我にあり!!!!」
(掲げた手のひらを思いっきり握る!!)
「魔法少女ォ!!!!」
(目を閉じて髪を瞬時にロングへと伸ばす!!)
「ガルガンチュアアアアアァァァァ!!!!」
(鎖骨から雄々しく羽を広げる!!!!)
「アークハート!!!!」
(拳を握って辺りへと黄の光を放つ!!!!)
♪ここから始まるオープニング
♪目を覚まして 太陽におはよう
(黒い怪物の前に瞬間移動)
♪また新しい世界が始まるよ
(膝蹴りが怪物の顎に突き刺さりそのまま砕く)
♪みんながワイワイ 気持ちがウキウキ
(振り下ろしてきた尻尾を掴んで地面へと投げつける)
♪きっと今日も昨日とは違う今日になるから
(相手が地面へと到達する前に、先だって降り立つ)
♪まだまだ泣いちゃう日もあるけれど
(相手の顔部分を両の拳でドラミング!!)
♪差し伸べられて手を取って また歩きだすんだ
(尻尾を引きちぎって本体を蹴り飛ばす)
♪今 心が天に導かれて
(後ろからの気配を察する)
♪夢を紡ぎ出すよ
(回し蹴りで飛んできた尻尾を消滅させる!!)
♪いつだって忘れない 秘密の合言葉
(立ち尽くす怪物へと一歩ずつ歩を進める)
♪それは――
(倒すべきを見定め少女が咆哮する)
♪私たちの物語は私たちが創るから
(体を金色に光らせ怪物へとタックルする)
♪だから終わりのページはないよ
(そのまま壁へと押し当てる)
♪記憶のアルバムを捲りながら
(拳に一際、高い魔法力を宿らせて――)
♪どこまでも遠くに届け 少女の思い出
(それを放った)
「いっけええええ!!!!」
何かが聞こえた。
そうだ。
それでいい。
貴様とこの男の後悔の念こそが引き金となり万物は流転する。
だからこそ、その魔法力を――。拳はめり込んでいた。手ごたえは十分だ。
こいつが魔法力すら食らう存在だとしても。
私は私だと言い切ることができるなら。
今ならはっきりとわかる。
自分の記憶は自分の物だと。
これを形づくっているのが自分で、自分もまたこれに形づくられていると。
だから――。
「これが最後で……これが始まり!!!!」
拳を深く深く突き立てる。
「ずおりゃああああ!!!!!」
辺りが光で満たされていく。
桃と黄の優しい光。
記憶のイメージが逆流を起こす。
全てが元に戻る。
ゆめのその言葉が、その通りの意味なのだとしたら。
私の姿が万華鏡のように広がる。
百か千か。
それぞれが更に新しい私を映し出す。
これまで幾度となく繰り返してきた世界が、そこにあった。
どれもが存在したことで、存在しなかったこと。
帰るべき場所はわかっていた。
戻っていくのだ、どこまでも。
風が吹いていた。
屋上の上にいた。
そうだ、私は。
天ちゃんにもう戦わなくていいって声をかけて。
研究所の屋上へと真っすぐに向かって。
それでこいつを見つけて。
こいつにやられそうになって。
それで天ちゃんが私を庇おうとして。
だから――。
私の拳は深々と黒い怪物へと刺さっていた。
足元では天ちゃんが驚いた顔を上げていた。
全部が元に、あの時に戻ったんだ。
扉に人がいた。
あたりをきょろきょろと見渡す村田さん。
驚きつつも思案顔の伊藤さん。
真剣な瞳の高橋さん。
そうか、そうだったんだ。
私たちが最後に集まれたのは、最初にここに集まったから――。
黒いぶよぶよとした怪物が即座に離れる。
一瞬で空中の、手の届かない距離。
しまった、このままじゃ逃げ――。
赤の弧が先んじてそれを捉えた。
紫の弾丸が次々と着弾した。
緑の根が怪物の体を地へと叩き落す。
黄の鎖がぐるぐると巻かれていく。
「こころちゃん!!!!」「田中こころ!!!!」
「田中さん!!!!」 「こころさん!!!!」
「うおおおおぉぉぉぉ!!!!」
もう一度、桃色の右拳を放つ。
桃のしぶきが飛ぶ。
怪物がぶよぶよと揺れる。
拳から纏わりつくように這ってくる。
――こいつはこの世界にあるものを全て取り込むんだ。
――動物、モノ、大気、星、命さえ。
――だったら。
――この世界にはもうないけれど、私の世界には確かにある力で。
「ドリームドリル!!」
左手にあった魔法棒に力を込めた。
怪物の表面に突き立てる。
最初は小さな渦だった。
だがそれは確かに怪物の表面に生まれていた。
一回転ごとに、ねじ切るように。
決して止まることはなくゆっくりと。
私はこの広い世界で、風を、温もりを感じながら咆哮したんだ。
「くたばりちらせええええぇぇぇぇ!!!!」
桃の渦巻きが完全に怪物を飲み込んだ。
渦に巻き込んでいくように、その体を細く捻じ曲げていく。
怪物の体が消滅した時、桃の渦巻きもまた完全になくなっていた。
――さようなら、ゆめ。
その一言をやっと心の中で言うことができた。
空は晴れ渡っていた。
私たちは研究所の外へと出ていた。
みんな、静かだった。
きっとそれぞれが自分の向き合わなきゃいけない未来を想っていた。
少し早い卒業式。
そんな風に感じた。
「じゃあ、僕はこれで」
最初に声を出したのは高橋さんだった。
まるで毎日の下校のような、簡素な挨拶。
「もともと結末を見届けたかっただけだから」、そう付け加えた。
別れを惜しむ声がかかる中、私は頭を下げた。
「ごめん」ではなく「ありがとう」と、そう言って。
高橋さんは巻いていたマフラーをにぎにぎしていたので私は……。
お礼を重ねる。
マフラーをにぎにぎする。
まだまだお礼を重ねる。
マフラーをさわさわする。
もうひとつお礼を……お互い止まらくなって、みんなが静かに笑っていた。
高橋さんのおかげでゆめは最後に独りじゃなかったから。
そう、言葉にして伝えることができた。
高橋さんは、もうゆめのことをわかっているみたいだった。
神妙な顔で言うのだった。
「彼女の決めたことだから。……でも僕はその意味をずっと考えたい」
別れ際に思い出したように振り向いて、私に言うのだった。
「今度、田中さんの家にお邪魔していいかな。お土産、持っていくよ」
私は笑顔で頷いた。
「では私もここで。ご機嫌よう、みなさま」
研究所を出てすぐ、伊藤さんが一礼をした。
その頭には、緑の髪飾り。
お辞儀の角度に合わせてきらりと輝いた。
やたらと天ちゃんと別れの握手、別れの抱擁、別れの……なるものを求めてきたが、
天ちゃんも困っていたので私が間に割り込んで止めた。
(その割に私と村田さんには何もするつもりはないみたいだった)
「どうやら新しい戦いが始まったようですわね……。
こころさん、あなたにだけは負けるつもりはありませんのでお見知りおきを」
謎の宣戦布告をされたものの、何のことかわからない。
戦い、というワードに反応したのか、
村田さんが伊藤さんへともう何も企んでないか聞いた。
「そんな余裕とても。……私も自分に向き合って生きると決めたので。
自分から逃れることはできませんが、自分と向き合うこともできるのもまた自分なのです」
伊藤さんの言っていることは私にはわからない。
それでもいいんだ。
伊藤さんには、大きな意味を持つことだから。
「……たとえこの世界がどのようなものであっても、私たちはここで生きていくしかないですから」
伊藤さんは最後にそんな一言を残していった。
私も天ちゃんも村田さんも不思議な顔をする。
こんな時まで意味深な人だなあと思った。
「あ。私、ここ曲がったとこだから」
村田さんが遠慮がちに言った。
私と天ちゃん、両方に挨拶をする。
村田さんはどこへ帰るのだろう。
もちろん、家だ。
その家には、村田さんのお父さんとお母さんはもう――。
私の顔色で察したのか、天ちゃんが明るい声でまたみんなで会おう!! と言った。
村田さんも驚いていたが、そうね、みんなで……平和に話せる人間で集まりましょう!! と答えた。
「それにしても、これ私があなたたちと初めて会った世界なのよね……。
会ってから数時間も経ってないなんて、なんか不思議」
確かに、そうだ。
みんなの、私と天ちゃんと村田さんと高橋さんと伊藤さんと――そしてゆめの戦いを覚えているのは
もしかしたら私たちだけかもしれない。
この世界ではそれらはまるでなかったように、毎日が回り続けるのだろう。
それでも私たちの戦いは無意味なんかじゃない。
だって――。
「私、この戦いを忘れないわ。ううん忘れたくないの。
たくさんのことがあったから……お父さんのことも……。
その……友達、も、できた、し」
最後がなぜか片言だったが私はうんうんと同意した。
私たちが覚えている限りそれは意味がある。
何だか村田さんに言いたいことを取られてしまった。
「私たちの物語はきっとまだ続いていくものね!! 人生という名の物語が……!!
……。ちょっと二人してキョトンとしないでよ!! いいこと言ったでしょ!! 今の!!」
手を振ってお別れをする。
村田さんとも何となく長い付き合いになりそうな気がした。
「みんな、行っちゃったね」
天ちゃんがぼそりとつぶやいた。
私もうん、と答えた。
いつも、そうしていたように二人で隣り合って歩いた。
同じ速さで、同じ道を。
「こころちゃん、私ね。みんなが笑顔で、みんなが自分の居場所を見つけたらってそう思ってて……」
私はそれを静かに聞いていた。
聞き届けなければいけなかった。
「こころちゃんも、影ちゃんも、花ちゃんも、真赤ちゃんも……ゆめちゃんも……みんながって」
それは泣きそうで震える声だった。
天ちゃんに、大丈夫だよって伝えた。
ゆめと天ちゃんも、よく遊んでいた。
だから気にかけててくれたんだ。
みんながもういないから、それを吐露してくれたに違いなかった。
ゆめは結局、戻ってこなかった。
元のままだった。
天ちゃんに釣られて、感情が堰を切って流れだした。
――心配しないでよ、私だって消えるのは嫌だし。
あれはやっぱり私が戸惑わないように言ってくれたんだ。
本当に、ゆめは素直じゃない。
本当は寂しがり屋のくせに。
でも、大丈夫だ。私はゆめがやってくれたことを覚えているから。
寂しがり屋のゆめが、寂しい思いをせず少しでも報われればなんて――。
――何回、寂しがり屋って言ってるのよ!!!!
「こ、こころちゃん!? どうしたの!?」
弾かれたように顔を上げる私に天ちゃんが声をかける。
周囲はもう見慣れた道じゃなくなり、桃色に発光する空間になっていた。
目の前には――。
目の前には、ゆめがいた。
――ゆめ!? どうやって!?
驚く私にゆめが鼻を鳴らした。
――言ったじゃない、戻ってくるって。
――よくわからない……よくわからないけど……!!
私はゆめに駆け寄ろうとした。
でも、足がばたついてうまく進めない。
ならばと、泳ぐポーズをとるが自分の体がくるくると回転するだけで一向に進まなかった。
――お姉ちゃん、大事な話するからじっとしてて。
私は体育座りに切り替えた。
――どうも私、お姉ちゃんの頭の中だけで存在できるようになったみたいなの。
――きっとお姉ちゃんが私の魔法力を持っていてくれたから。
――だから私はいないけど、こうやっているの。
――お姉ちゃん、これからたくさんの楽しいことをして、元気に毎日を過ごして。
――その気持ちが私にも伝わるから。
――お姉ちゃんが忘れない限り、私はここにいるよ。
――だって魔法力は記憶の……思い出の力だから。
ずっと覚えてる。
その叫びは音にもならず。
それでも私の心にはしっかりと刻み込まれたんだ。
――でも、やっぱり、ちょっとだけ寂しい時もあるから……。
――その時は夢にお邪魔してもいい?
もちろん。
そう返事をする。
周囲が元に戻っていく。
薄れていく意識の中で久しぶりにゆめの笑顔を見た気がした。
私の意識は元の歩道に戻っていた。
天ちゃんが心配そうに顔を覗き込む。
何でもなくないことが起こった。
そうとだけ言ったら、天ちゃんがそのまま「何でもなくないこと……!!」って復唱した。
それが何だかおかしくてどちらからともなく、二人でクスクス笑った。
悲しいことはいっしょに背負いたい。
楽しいことはいっしょに分け合いたい。
だから――。
手を差し出す。手が差し出される。
私と天ちゃんは、手を出し合っていた。
きっと、同じことを考えていた。
目線が合う。
頬に赤が灯る。
こんな私が、たくさんの迷惑をかけた私が天ちゃんの手を取っていいのかなって思うけど。
でも、頭の中でこんな声が響いているのだ。
「お姉ちゃん!! いま真田さんの手を取らなくてどうするの!?」って。
手が繋がった。
「あ……」
「どうしたの? 天ちゃん?」
「何だかこころちゃんと初めて会った日のことを思い出して……」
「うん、覚えてる」
二人だけの記憶。
遠いの日の残響。
胸に染み渡るように、気持ちが溢れてくる。
「私、こころちゃんと一緒にいたい」
「私も天ちゃんと一緒にいる」
断定で返したのがよくなかったのか。
また二人で笑い合った。
隣にいてくれる人がいるから。
私も隣にいたいって思うんだ。
――そろそろ卒業だね。
――うん、そうだね。
――部活動どうしよっか。私、走ってみたい!!
――あはは、天ちゃん。陸上部ぴったりかも。
私たちの歩む道がどこまで続いてるかはわからないけど。
不安はない。
だって確かなことだってあるから。
今、繋いでいる手の感触。
この温もりを忘れないと心に誓った。
続