魔法少女GL ~女の子たちの初手はいつだってルームシェア時空!!~   作:MOPX

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番外編 普通成人ガルガンチュア

駅周辺。

仕事帰りのサラリーマンや成人した大学生、または単に飲みたい人の娯楽、居酒屋。

適当に歩いていても困らない程度には店数があり、この町の食事情はほどほどに栄えていると言えた。

 

駅前の数階立てビルの一角、その中の更に個室にくつろぐ人間が二人ほど。

 

「飲み物きたし、じゃ、乾杯」

 

「何にですか?」

 

「は? 別にいいでしょなんでも……」

 

「果たしてそうでしょうか? ある意味儀式的ともいえるこの行為。

だからこそ大義名分、いると思います」

 

「あんたは相変わらず小難しいことばっかね……。

まあいいわ。じゃ、おいしいビールにかんぱーい!!」

 

「あらまあ。乾杯ですわよ」

 

ジョッキが触れ合ってかちゃりと音を鳴らす。

 

口に飲み物を注ぎ込む。

綺麗な小麦色のその飲み物はあれよあれよと吸い込まれるように減っていった。

 

「かー。うまい。この一杯のために生きているのよねえ」

 

「影さん。あまり飛ばしすぎないようにお願いいたします。

今日は私が介抱するしかないのですから」

 

「介抱ってなによ。あたし全然お酒弱くないし」

 

「ふにゃふにゃ族ですのに?」

 

「は? なにその民族? 初めて聞いたんだけど??」

 

「影さんは調子に乗って飲むから後がふにゃふにゃになって大変、と真赤さんが言っていました」

 

「は? ふにゃふにゃしてないし。魔法少女業界の良心でしょ」

 

「今は成人ですけどね。仕事で呼ばれることもなくなりましたし。いわば普通成人」

 

「宇宙人みたいに言うな。で、誰がふにゃふにゃ族よ? 天とかのが弱くない?」

 

「真赤さんいわく、天さんと影さんがふにゃふにゃ族、私とこころさんがギラギラ族……だそうです」

 

「ぎゃはは。飲んだら確かにギラギラしてるわ、あなたたち」

 

「だまらっしゃいですわよ」

 

「じゃあ真赤は? あの子は自分でどっちって言ってんの?」

 

「私も気になって聞いたら、自分は普通、だそうです」

 

「何それ……ずるじゃん……」

 

スピードメニューの枝豆。

枝豆を拾い上げてもぐもぐと咀嚼する。

これでビールも進むというものだろう。

 

既に上機嫌になっているのを知ってか知らぬか、対面の髪を結んだ人間は小難しい顔を作るのだった。

髪の毛はすっかり薄緑になっている。

 

「しかしどういう風の吹き回しですか」

 

「何が?」

 

「影さんが私をお食事に誘うなど。最初に耳にした時は決闘でもするのかと思いました」

 

「何でよ!? あなたとは二人で飲んだことないな~と思っただけよ!!」

 

「本当は?」

 

「伊藤花……あんた良い性格してるわよね。普通はそれ、面と向かって言わないでしょ……」

 

「普通ではないですからね」

 

「普通成人どこいった」

 

なんこつのから揚げ。

こりこりとした食感がたまらない。

 

「からあげおいしいですわね」

 

「そうね。タコのから揚げも頼みましょう」

 

「決闘といえば、こころさんはお元気でしょうかね」

 

「決闘で思い出すの? いや元気よ、今頃は……」

 

あっと声をあげた。

我が意を得たり、言われた人間の目が鋭くなる。

 

「今頃は……何でしょうかね?」

 

「出たわねギラギラ族」

 

「はぐらかさないでください。さもなくば……!!!!

残りのなんこつは没収です」

 

「もったいぶってそれかあ……。まあいいや、あんまり本人たちには言わないでよ。

天とこころは旅行に行ってるわ。二人で」

 

「ほう……」

 

「顔が怖いんだけど……。なんか商店街の福引で当てたらしいわ。

ペア券。近場だけど温泉だって。それ天に言われてね」

 

「それで?」

 

「言った後で気を遣って一緒に来る?

なんて聞くから予定があるって言って断ったわ。そんな気の遣い方しなくてもいいのにね、あの子も」

 

「私なら迷わずついていきますね」

 

「あなたはそうでしょうね……。シーザーサラダ、うまいわ」

 

「それで予定とやらに私との食事を割り当てたと」

 

「いやまあ、そうだけど、久々にご飯食べたかったのは本当よ?

真赤も呼びたかったけど忙しそうでしょ」

 

「私は暇だと……よよよ。日夜、世界の真理と生命の神秘を追い求めてるというのに……」

 

タコのから揚げ。

おかわりのビールもすぐにきた。

 

「それで今日私を誘った目的はなんでしょうか?

おビールがぶがぶ飲み子さん」

 

「変なあだ名をつけるな。だからもう言ったでしょ。

予定もないし久々にご飯したかっただけよ」

 

「……本当に?」

 

「あんた友達なくすわよ……」

 

「中1の時、クラスで友達のいなかった影さんに言われたくありません。

私が学級委員長としてどれだけ気をもんだか……タコもおいしいですわ!」

 

「私の中1のエピソードがタコのから揚げに負けた。ま、その時は世話になったけどね……ありがと」

 

「レモン、かけてもいいでしょうか?」

 

「だめ。自分のとこでかけて」

 

だしまき玉子。

寿司。

 

「今日のお店当たりじゃない?」

 

「そうですわね。ことごとくおいしいです。」

 

「お酒も進むわねえ……。私、次はカクテルにしよっかなあ」

 

「私は米酒を。ところで今日、私とお食事にきた目的は……」

 

「も~またそれ~。しかし繰り返しネタなんて花もギャグがわかってきたじゃない」

 

「本気ですよ、私は」

 

「は? いやいやだから……寿司、マグロもらっちゃっていい?」

 

「あなたが意識してなくとも、無意識下で何かあるのではないでしょうか? ではイカは私が」

 

「無意識ねえ……まあ、目的ってほどのことじゃないんだけど」

 

「今日は何を話してもらってもいいですよ。酒の肴にしますので」

 

「あの……アンチマジック・ゼロを倒した時のこと、覚えてる?」

 

「ええ、それはもうはっきりと。玉子もうまいですわ」

 

「ほんとだ、おいしい……。それで倒した後にいったん解散!ってなったじゃない」

 

「なりましたね」

 

「その時あなた、ものすごい意味深というか思わせぶりなこと言ってなかった?

たとえこの世界が……」

 

「たとえこの世界がどのようなものであっても私たちはここで生きていくしかないですから」

 

「それ!! 酔ってるのによく言えたわね!!」

 

「ギラギラ族ですからね。ひっく」

 

「認めよった……!!」

 

焼き鳥、ねぎ塩、レバー、つくね。

 

「あれ、どういう意味だったの? 何だか気になっちゃって。ずっと」

 

「あれですか……2本ずつですから1人1本ですわね」

 

「は?」

 

「焼き鳥の方の話です」

 

「あ、ごめん。私レバー苦手だから二本ともいいわよ」

 

「食べれませんでしたか、ごめんあそばせ。この世界で見えてるものは果たして真実なのでしょうか、という話です」

 

「……? それってレバーが2本あるということが?」

 

「そうとも言えますね」

 

「いやいやレバー、二本あるでしょ。当たりで三本あるとか店員さんが忘れて一本しかないとか、そういう話?」

 

「全然違います。二本あるけどそれらは虚構にすぎないという話です」

 

「はあ~? ねぎ塩もらい~」

 

「影さん」

 

「なに?」

 

「あなたはもし、この世界が作りものだと言われたらどうします?」

 

きすの天ぷら。

ローストビーフ。

チンジャオロース。

 

「どうって……へ~~~って聞き流すかも」

 

「本気にしてませんね」

 

「じゃあ作り物のローストビーフいただきます。うめ~。今日のお店本当に当たりね」

 

「私は一度、ゼロに接触した時にこの世界の真理に触れてしまったのです……。ごくっ」

 

「何か始まったわ、日本酒を飲みながら。おかわりしましょう」

 

「まるでこの世界を俯瞰するかのような感覚……それは空間的に、という意味ではありません。

まるでこの世界の全貌を、圧縮し、脳に直接働きかけてくるような……」

 

「いいぞ~普通成人。チンジャオロースあったかいうちの方がおいしいかも」

 

「いただきます。そこで私が見たのはまるで……宇宙と宇宙が細胞のように集まりひとつの姿と成す……」

 

「ふーん。説明飛びすぎてわからんわ。ヨーグルトカクテルもいいわ……」

 

「脳が破けるような衝撃、喉を焼く情動。それらに耐えて私が出した結論。

この世界は世界を構成する一部にすぎない……だとすれば、それを俯瞰できる存在がいるのではないかと仮説を立て……」

 

「カクテル、次は何味にしよっかな……種類が多くて悩んじゃうわねえ」

 

「当時の私はこの世界より次元の高いその存在を、上位人(じょういびと)、と呼び……」

 

「ぶふっ!!」

 

「……どうして笑うのです」

 

「ごめんツボった。当時小学生だものね……しょうがないわ……。私、決めたけど、花は?」

 

「次、芋で参ります」

 

「強いとはいえほどほどにしてよね……話を続けて上位人……ぶふ」

 

「私のことではないですが」

 

「ギラギラ族普通成人上位人……うぷぷぷ」

 

「そこ、笑わないでくださいまし」

 

追加の枝豆。

 

「で、その上位人は何なの? 神様的な?」

 

「そういう解釈もできるかと思いますが、もっと概念的なものですわね。世界を内包する更に上位の世界です」

 

「どういうこと? そっちが本物の世界ってか?」

 

「そうなのかもしれません。世界を内包する世界、それぞれが独立しつつも確かに存在する世界。

宇宙の果てに更に重なる宇宙、それすらも最小単位。

しかし、その中の構成要素の、更に要素に過ぎない私たちは――」

 

髪が緑がかった人間がグラスをあおった。

 

「いったい何なのでしょうか」

 

「さしずめ下位人かあ……。寿司詰め……ぷぷ」

 

「冗談ではございません。私の思考は私だけのものです。

もっと大きなものに流されて生きるなど……真っ平ごめんなのですよ」

 

「花、暴走はしないでよ」

 

「いつかこの世界の殻を破り、全てから自由に解放されること、それが私の人生の目的なのです」

 

「飲みすぎて介抱されないようにね。まあお酒のつまみにはなったわね。

ねえ、それ今書いてる小説のネタにしていい? 悪役側の動機に困ってたのよね」

 

「味方側ならいいですよ。芋に免じて」

 

「えええ……。このカクテルおいしい。何味だろ……わかんないや、はは!!」

 

「影さん、一口いただけますか? よろしければ代わりに芋を」

 

「いやあ、さすがに酔っちゃうでしょ」

 

「もう酔ってますよ」

 

追加の麦焼酎とカクテル。

あとお冷。

 

「はああ……何だかいい気分になっちゃったわね……今度はみんなでこよ……」

 

「お冷、頼んでおきましたので」

 

「なによ~酔ってないわよ~花~」

 

「いくつになっても世話の焼けることです」

 

「あなたにだけは言われたくないわ……。ねえ、花」

 

「何でしょうか。枝豆を追加しましょうか。他のものの方が?」

 

「いや、さっき上位人……ぷぷ……の話なんだけど。追加は枝豆でいいんじゃない」

 

「何でしょうか。ご飯ものはさすがに重たいですかね」

 

「どんだけ食べるのよ……。さっき上位人って言ったじゃん。人って」

 

「言いました、わね」

 

「じゃあ上位人を更に作った存在もいるかもってこと?」

 

「……」

 

髪が緑がかった人間は、グラスを再びあおった。

 

「どうなんでしょうか。正直考えていませんでした」

 

「じゃあ私達が仮に上位人の世界に行けたとして、また同じことの繰り返しになるんじゃないの。

向こうの人も自分たちの世界が本物かわからないでしょ、たぶん」

 

「ずいぶんと雑なことをおっしゃいますね」

 

「いやいや、そんなもんだって。私は別に花の話を聞いて変な感じはしなかったけどなあ。

子供のころから小説、読んでたけどさ。誰かの作ったお話でもどこかにこんな世界が広がってたら……って思ったもん」

 

「影さん、紙は紙。インクはインク。本の中に世界など広がってませんよ」

 

「うるさいわね……あなたが始めた話でしょ……。

でもさ、例えばどこかに広がっている別の世界が私たちにインスピレーションを与えて、

それが形になってるんだとしたら……それって素敵なことなんじゃないかなあ、なんてね」

 

「芋焼酎を飲みながら言うセリフではないですわね。お冷も口にしてくださいまし」

 

「いいでしょ、おいしいんだから。というかそんなこと言い出したら別世界なんてな~い」

 

「どうでしょうかね。本は無理でも……例えばコンピュータならば」

 

「いや無理でしょ……何か人っぽいものを表示するのも大変じゃないの……知らないけど」

 

「私が言っているのは見かけではなく中身の問題です。人間の脳が電気信号のやり取りから成り立つなら、

その仕組みを完全にシミュレーションできればあるいは。そういった人間を複数用意して、

住む土地の温度や天気も完全に再現できれば作れるのかもしれませんね。私はごめんですが」

 

「あー難しい話やめ。お酒がまずくなる」

 

「影さん、先ほどからお冷を飲めと。顔が赤いですよ」

 

「は~い上位人」

 

純米酒にお冷。

 

「しかし世界ねえ。私には途方もない話だわ」

 

「ふふ、人知れず世界を救った魔法少女の台詞ではありませんね」

 

「何か見え方が変わった。世界、知らなかったわ、私」

 

「世界を知らない人間が世界を救うと息巻いていた。今考えると、恐ろしい話ですわね」

 

「そうかもね。でも世の中そんなものかもなあって思うようにもなった。

きっと私たちの知らないところで、世界の危機が訪れていて、私たちの知らない間に解決してるのよ。

世の中そうやってうまくまわってるのかもね……グルグルと」

 

「目は回さないでくださいね。あとグラスにお箸を突っ込んでいます」

 

「本当だ……かきまぜ棒かと思った……グルグル……」

 

「寝ないでください。一人でも飲みますが」

 

「花の妄言を子守歌にするかあ……悪夢見そうだからやめた!!」

 

「呪いますよ、本気で」

 

「あーん、やめて~私はもう平穏無事に印税生活で暮らすの~」

 

「そんなこといって、モンスターが大量発生して駆り出されるかもしれませんよ」

 

「それは冗談でもやめてよ……もう一生分働いたわよ私は……」

 

お冷とお冷。

 

「ではまとめに入りましょうか。影さん、何かご意見、ご感想は?」

 

「何よ~何でそんなピンピンしてんのよ~ピンピン星人……ぶふっ」

 

「大分ご機嫌のようですね」

 

「うおお~い、上位人~見てるかあ~私たちは楽しくやってるぞ~

君らも楽しくやろうな~~~~ウッ」

 

「小洒落た居酒屋の個室から酔っ払い二人がお送りいたしました。

……大丈夫ですか影さん」

 

「う、うう、ううう」

 

「お冷を!!」

 

「ううううう……」

 

「お冷でごまかしましょう!!」

 

「うううう……」

 

「ごまかせた……!! 成功です!!」

 

「うううううううう……」

 

「ごまかせてますよ!! 影さん!!」

 

「ほ、本当……か?」

 

「ええ。お冷のおかげです」

 

「人類に必要なの……やっぱり水と睡眠か」

 

「はい、そうです」

 

実況は村田影でお送りしました。




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