魔法少女GL ~女の子たちの初手はいつだってルームシェア時空!!~   作:MOPX

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わたしたち、ずっと

「ここまで、ありがとうね」

 

目線を下げる。

視線が合う。

 

お相手は、黒い猫。

さっきまで並んで歩いていた、道すがらの付き添い。

家を出てから、しばらく歩いていたが張り合うように付かず離れずだった。

 

旅は道連れ、なんて言うけれどおかげで楽しい気持ちになった。

 

ちょっとした不思議に、わくわくする気持ち。

ささいなことに、胸を躍らせる感覚。

 

そうしたことを積み重ねて、記憶の引き出しにしまっていく。

 

少しの間の同伴者は、分かれ道でこちらをじっと見るとそのまま歩いて行った。

 

「ばいばい」

 

後姿に声をかけるも、反応はなかった。

黒猫に横切られたら何とやらと言うが、

5分も並走すれば最早何が起こるというのか。

 

苦笑いをして、私も向きを変える。

 

今日はただの散歩じゃない。

ちゃんと目的地がある。

 

気を取り直して、また歩を進めるのだった。

まだ見ぬ新しい出会いに胸をときめかせながら。

 

今日もまた、昇った太陽には優しい温もりがあった。

私はそれを噛みしめながら進んでいく。

自慢の健脚で、前へ、前へ。

 

 

 

見慣れた町に、見慣れた道。

少しずつ変わっていきながらも、面影を残す場所。

感慨にふけりながら、その変化を眺める。

変わっていくのは当然のことで、悪いことではないから。

 

だから覚えておけばいい。

変わったということを。

かつてそこに、存在していたものを。

 

結局のところ、この町が一番落ち着くのかもしれない。

大事なこと、大切なこと、たくさんあったから。

 

それに、変わらないものだってある。

 

私の目に入っていたのは変わらない場所のひとつ。

家と、学校の間にある何の変哲もない曲がり角。

 

覚えている、ここでよく天ちゃんと――。

 

「おっと!!」

 

私の体が反射的にのけぞる。

 

小さな子供が、二人。

 

見えなかった角から飛び出していた。

おしゃべりに夢中で気づかなかったらしい。

 

女の子たちがこちらに気づいて、立ち止まる。

片方の子が明るい声で「ごめんなさい!!」と言うと、

傍らの子も小さな声で「ごめんなさい」と続いた。

 

微笑ましくて、思わず顔が綻ぶ。

私が「いいよいいよ」と答えると、笑顔の後、一礼が並んだ。

 

小走りで去りながら、くすくすと笑顔を見せあっていた。

次からは気を付けようね、そんな旨のことを言っているのだろう。

 

何となく懐かしい気持ちになった。

 

向こうにとっては私は見ず知らずの通りすがりだろう。

もしかすれば、すぐに忘れてしまうのかもしれない。

それでもいいのだろう。

あの子たちには、お互いの笑顔が思い出になるのだから。

 

――そうだよね、天ちゃん。

 

やっぱり変わらないものだってある。

想いを新たにしながらまた、私は歩を進めるのだった。

 

 

 

まだ時間もある。

せっかくだから、と私は脇道にそれた。

信号が赤に変わり、しばらく待つ。

 

商店街。

 

代替わりして健在も健在。

さすがにその中身はすっかり変わってしまったけど。

 

横にいる人が情報端末を操作している。

最新型のそれは、操作の仕組みからして私にはわからない。

(もっと勉強しなければ)

 

ふと、真赤の言っていたことを思い出した。

私たちが集まってよくお食事をしていた頃だ。

お酒が入って上機嫌になった真赤は私に当時の端末を見せて、どう思う?と聞いてきた。

 

真赤は私たちの中で一番インターネットに明るく、一番インターネットを毛嫌いしていた。

文字列がずらっと並んだ画面を見せて、ご立腹なのだった。

こんなにたくさんの人がいても、本当に大切な人はそこにはいないじゃないかって。

 

その時はよくわからかったし、今も完璧には理解してないかもしれない。

 

きっと使い方ひとつなのだろう。

ひとつひとつが、誰かの考えであり、どこかにそれを発信した誰かがいる。

 

そう感じ取れたら、十分じゃないかと。

 

赤が消える。

端末をいじっていた人もいそいそと歩き出した。

 

私も負けじと商店街の中へと入っていくのだった。

 

 

 

ここに来るといつも思い出す。

 

最後に交わした会話。

別れた時の表情。

心に残った感覚。

 

忘れないことが、私を織りなす。

心の中で、何度も祈る。

 

前を向きなおす。

 

しばらく進むとシャッターの閉まった一画が目に入った。

あそこにあったのは雑貨屋さん。

 

以前に、花の誕生日のため髪飾りを買ったのもあのお店だ。

結局、身に付けてくれたんだろうか。

顔を思い浮かべてみる。

 

死んでもごめんです。

勝ち誇りながら嘲る花の顔を思い浮かべて、何だかおかしくなってしまう。

 

でもそうとも限らない。

プレゼントを渡したその日の神社でのこと。

別れ際に花は言っていた。

 

人間は自分に持ってないものに惹かれて、だからこそ持ってないものを憎むって。

よもや、自分の望んでいたものと嫌っていたものが同じだとは――。

 

最後には認めませんと付け加えたけど、あれが花の本心だったのだろうか。

 

境内には穏やかな時間が流れていた。

あの時ばかりは花も、私も同じ感情を共有できたのでは、

なんて言ったら傲慢なのだろうか。

 

答えはわからぬままだ。

 

 

 

わからないことの方が多いのかも。

だから文字にして残すのよ。

 

こう言っていたのは影だ。

 

一度、映画を見に行った帰りに喫茶店で話したことだ。

影いわく、残しておかないとなくなってしまうから。

 

完全に消えてしまうのは怖いことだ。

 

だから不完全でも、今、考えていることを書き綴るのだと。

 

残すもの、それはきっと伝えたいもの。

私は影にも伝えたいことがあるんだろうなと思って、

読んでる人に伝えたいこととかある? って聞いた。

影は腕を組みつつ、目と腰はすぐに悪くなるから気を付けた方がいい!!……とおっしゃっていた。

 

そういうことじゃない。

私の一言の後に、影はとぼけたような顔をするのだった。

 

商店街の出口にさしかかる。

当然なんだけど、何も起こる気配はなかった。

 

平和ってこういうものなのだろう。

 

さて、もう一息。

まだまだ足は元気だった。

 

 

 

 

 

ふうっと息を吐く。

顔を上げると真っ白な壁の建物。

 

この町にある公民館。

ちょっと前まで工事をしていたけど、つい最近建て替わった。

段差に気を付けて入り口へ。

 

中に入ったところで、以前にはなかったものに目を奪われる。

もうそんな季節か、と感慨深くなる。

 

入り口のすぐ横には笹の葉が飾ってあった。

 

多くの人が願いを込める日。

自分のこと、大事な人のこと。

それはきっと、未来のために。

 

もう既にいくつかは、ぶら下がっている。

それにしても、と私はまじまじと見上げるのだった。

 

無数に別れる葉。

そこに連なる人の願い。

 

これはまるで――。

 

 

 

眺めていたい気持ちを抑えて、私は本来の目的に戻るのだった。

 

窓口で挨拶をする。

硝子の向こうから笑顔が返ってくる。

 

顔見知りであり、今日ここを訪れたのはこの方に頼まれたからだ。

顔色、相変わらず良いですねって褒められちゃった。

あと100年は生きようかな、なんて返したら笑われてしまった。

 

促されるままに階段付近に立ててある案内を目にする。

目的の場所は二階の奥の部屋。

 

手を引いて行こうかと提案されたが、丁重にお断りをする。

お仕事を煩わすために来たわけでもない。

今日は久しぶりに、私がお仕事をする日。

 

階段を一段ずつ。

踏みしめるように。

 

歩いて行った先にこれまた、小さな案内が立ててあるのを見て私は微笑むのだった。

たぶん、あの職員さんの手作りだろう。

私は案内に感謝しながら、吸い込まれるように部屋に入っていくのだった。

 

 

 

『魔法少女の歴史とその取り組み 13:00~』

 

 

 

「あ、こころおばあちゃんだ!!」

 

高い声に手を軽く上げて応える。

部屋に入ると先客がいた。

 

二列に並べられた椅子。

前列の中央の二つにその子たちはいた。

 

今、私に声をかけてくれた髪が青い子。

隣に、椅子でロデオをする髪が橙の子。

 

「よくきたな!! ババア!!」

 

「ひなたちゃん!! ババアにババアっていっちゃだめだよ!!」

 

椅子にまたがったままこちらに顔を向けてくる。

この子たちは運が良い。

私がもう少し若かったら軽く怒っていたかもしれない。

 

今では分別もあるということだ。

 

「みつきちゃんが そういうならなー。かんしゃしろよババア!!」

 

「今日も来てくれてありがとうね、ひなたちゃん」

 

「べつに そんなんじゃないし!! みつきちゃんに あいにきただけだし!!」

 

はいはい、とあしらう。

 

部屋の正面にぽつんと一つある椅子に座る。

改めてにこにこと期待の眼差しを向ける笑みと、こちらに勝負を挑むような楽し気な笑み。

視界には対になるように二人が入るのだった。

 

ひなたちゃんとみつきちゃん。

すっかり私の談話の常連さん。

 

話すのは昔の制度のことや、どんなことがあったか。

そして、どんな人たちがそこにいたのか。

それを説明するために当時、地元で最強の魔法力を持っていた私に白羽の矢が立ったわけだ。

 

こんな風に憎まれ口をきくが、前に話が終わった時も残って私の話を聞いてくれた。

なかなか帰らなくて親御さんが困ってしまうくらい。

 

ひなたちゃんはお話によく割り込んだ。

そんなにモンスターが出たんならやっつけようぜーと気勢よく声を張り上げる。

 

みつきちゃんはお話で被害のことを話すとよく心配してくれた。

初回などあまりに怖かったらしく泣き出してしまったが今では静かに聞いてくれている。

 

元気なひなたちゃんに、穏やかなみつきちゃん。

とても良い子たちだ。

今は鼻くそをつけ合っているが。

 

「きょうはなんのおはなし?」

 

くりっとした丸い瞳がこちらを向く。

お話が始まるまで時間はある。

 

早期入場特典。

いつも最前列真ん中を確保している二人にはサービスをしようかな。

 

私は膝に置いていた鞄を開けた。

小さな体はもう椅子から飛び出して中を覗き込んでいる。

好奇心旺盛なのは良いことだ。

 

私はひなたちゃんに頭を引っ込めるようにお願いした……のだが、てこでも動かないので

みつきちゃんを経由してお願いした。

改めて、目的のものを一枚、取り出した。

 

「なんだ それ?」

 

「あ!! しってる!! しゃしんだー!!」

 

不思議そうにするひなたちゃんに先んじて、みつきちゃんが手を上げた。

正解、と頷いてそれを二人にも見えるように、腕をおろした。

 

「しゃしん……? カメラでとったってこと?」

 

「むかしのはこんなにおおきかったんだよ。うちのひいおばあちゃんもいってた」

 

「ふーん、ババアのなまじゃしんか」

 

写真は知らないけど生写真は知ってるんだ。物知りだね。

 

そう声をかけたら、得意げに顔を綻ばせるひなたちゃん。

二人はまじまじとそこに映っているものを眺めていた。

 

横に並んだ少女たち、背には当時の小学校。

 

「このピンクのこ もしかして……こころおばあちゃんだー!! わかいー!!」

 

「わかかりしころのババア……!!」

 

私だけじゃない、みんなが写っている写真。

小学校を卒業する時に天ちゃんが提案してくれたんだ。

クラスは違ったけど、せっかくだから私たちみんなで撮ろうって。

 

「5にんは ともだちなの?」

 

みつきちゃんが瞳を輝かせて聞く。

私は少し悩んで、残念ながら今度は半分不正解と答えた。

 

友達だけど、5人だけじゃない。

 

「いち……にい……いや5にんだぞ」

 

「いやいや6人いるよ。いち……にい……さん……しいごお……ろく」

 

「このババアじぶんを ふたりぶんでかぞえた!! ふたりぶん つよいってことかよ!!」

 

「あはは」

 

「わらってごまかしてる……!!」

 

二人分は、あながち不正解でもないかもしれない。

そう思いながら私は写真を引っ込めた。

 

目の前にいる二人はあっと声をあげる。

サービスはここまでだ。

 

「おわりかよー。けちー」

 

「こころおばあちゃんのとなりが てんちゃんだったのかな?」

 

「ババアのはなしに よくでてくるよな。ぜったいおおげさだろっておもう!!」

 

「いやいや、天ちゃんは本当にかっこよくて……優しかったよ」

 

「ほんとうかなー?」

 

「うそだろー!!」

 

盛り上がる二人をよそに時計を確認する。

ほんの少しだが、まだ時間はあるようだった。

 

――二人は願い事、決めた?

 

「え、なに?」

 

みつきちゃんが不思議そうに聞き直す。

ちょっと声が小さかったのかもしれない。

昔は大きすぎると、よく注意されたんだけど。

 

「二人は願い事、決めた?」

 

もう一度聞いてみると、あー、と返事が返ってきた。

どうやら二人とも決めてなかったらしい。

じゃあ今、考えようと二人で盛り上がりだした。

 

「きめた!! わたしは いっちょうえん ほしい!! みつきちゃんは?」

 

「うーん、おいしいもの たくさんたべたい。ケーキ おすし やきにく……」

 

なるほど、と私は頷いた。

さすが何というか、やりたいことに忠実だ。

見習わずにはいられない。

 

「こころおばあちゃんは? なにを おねがいするの?」

 

みつきちゃんの瞳は無垢に光を湛えている。

私はそれに応える。

 

世界平和、なんて大それたことは言えない。

だってその世界は私たちひとりひとりが形作るものだから。

 

だから、目の前にいる人の幸福を願う。

 

今、私の目の前にいる人の。

 

――あなたたちが、元気に私の話を聞いてくれますように、なんてね。

 

「わたしたちのこと? なんで?」

 

――今、目の前にいるから。

 

「たんじゅんだなー。もっとかんがえたら?」

 

――お願いってきっと単純でいいんだよ。いつも会っている人が、大事な人が元気でいてくれたらって。そんなもので。

 

「うーん、おねがいって じぶんのためにするものじゃないの?」

 

――そういう考えもあるね。だから考え続けなきゃって。

 

「ババア だいじょうぶか? さっきからげんきないぞ」

 

――あはは、まだまだわたしは。

 

意志に反して体がふらつく。

体が前へと倒れる。

 

二人が驚いて私に駆け寄る。

私の名前を呼んで、さすってくれている。

 

「ひと よんでくる!!」

 

ひなたちゃんの声が聞こえる。

 

「おばあちゃん!! しっかりして!!」

 

みつきちゃんが手を握ってくれている。

 

 

 

――ああ、やっぱり。

 

 

 

――この子たちは、優しい子だ。

 

 

 

何かが消えていくのがわかる。

それでも私を成していたものは、ちょっとだけでも残っていればなんて。

 

最後の瞬間はまるで眠りにつくように。

手を握るその感覚。

穏やかな温もりに包まれながら訪れた。

 

 

 

 

 

田中こころ 享年100歳

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――。

 

――。

 

――。

 

――あ。

 

――ああああ。

 

――ふう。

 

――そうか、もう終わりなんだ。

 

――いろいろなことがあったけど、それでもここまでこれたのは。

 

――ずっと前を向いて元気に生きていようって思っていたから。

 

――生きている限り大切な人は増えていくけど。

 

――それでも、やっぱり。

 

――あの時に、あのかけがえのない時間に。

 

――集まったみんなは。

 

――私にとって特別で、大切な人たちだったんだ。

 

――だから、もう一度。

 

――もう一度、自分のためだけにわがままを言っていいのなら。

 

――願い事をしていいのなら。

 

 

 

 

 

――みんなに、会いたい。

 

 

 

 

 

――それくらいでいい?

 

――ふふっ、驚いた? 私だってそう。こうなるとは思わなかったもの。

 

――こうして時間が与えられたのは、お姉ちゃんがずっと頑張っていたから。

 

――だから、お疲れ様、お姉ちゃん。

 

 

 

――ふふっ、本当にまた会えちゃったね。

 

 

 

――全く……あなたには敵いませんわね。

 

 

 

――これで本当に終わりなのかしら? ううん、また始まるのよね!!

 

 

 

――こころちゃん。ずっと前を向いてくれて、精いっぱい頑張ってくれて……ありがとう!!

 

 

 

――ああ、そうか。

 

――わたしたち、ずっと。

 

 

 

 

 

――魔法少女だったんだ。

 

 

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