魔法少女GL ~女の子たちの初手はいつだってルームシェア時空!!~   作:MOPX

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Girl's Love

話は少し遡って私が中学生の時のこと。

 

 

 

ふわふわと流れる雲。

運ばれてくるパステルカラー。

 

普通であれば真っ白なそれは桃や黄で彩られている。

雲だけではない。

筆で塗りたくったような豪快な青色が広がっていたかと思えば、

その上からこれまた彩度の高い橙色が横切っていく。

 

仕上げと言わんばかりに地平線に円が描き込まれる。

 

全部が終わった時には、綺麗な夕焼けの出来上がり。

 

今日の作品もなかなか好調のようだ。

私は確信を得るとまっすぐに、何もない方へ歩を進める。

まだ色がついてない空白の場所。

そこがアトリエだ。

 

「ゆめ、いる?」

 

「……」

 

「ゆめ? ゆめゆめ? ゆーめ?」

 

「……」

 

「ゆ……」

 

「お姉ちゃんうるさい!! 聞こえてる!!」

 

私は手を合わせて謝る。

まだぷんぷんと怒りながら、キャンバスに向き直る妹。

その姿に苦笑しながら、荷物を確認する。

 

目論見通り。大丈夫そうだ。

 

妹の方へ目をやるとキャンバスには綺麗な橙色が広がっていた。

ゆめは真剣な顔で手に持った木の板の赤色や黒色を混ぜてまたキャンパスに向き合っていた。

何となくその様子が嬉しく、微笑ましく思えるのだ。

 

ここは私とゆめの世界。

時たま開かれる、夢の世界。

 

「ふう、こんな感じでいいかな……」

 

手を止めて筆を置いている。

その様子を確認して、私は差し出した。

 

「お疲れ様、ゆめ。はい、水らしきもの」

 

「らしきって何……。ちゃんとイメージしてよ……」

 

「あはは。ジュースの方がよかったかな。みかん混ぜよっと」

 

私がぱちんと指をはじくと、目の前の虚空からオレンジ色のぶよぶよとした何かがぱっと現れた。

落下を始める前、空中に静止した段階でそれを掴み取る。

そのまま握りつぶしてコップの中へ……。

 

「お姉ちゃん!!!! それ絶対みかんじゃない!!」

 

「ん? そう? みかんってこんな感じじゃ……」

 

「絵心ゼロ!! てかそのまま入れちゃだめでしょ!! 私がやるから!!」

 

ちぇー、っと私が悪態をつくとゆめが少し睨んできた。

もう、お姉ちゃんはいつも……とぐちぐちと文句を垂れながらも目をつむって念じる。

目の前にはオレンジジュース(にちゃんと見えるもの)が入ったグラスが2つ出てきた。

ご丁寧にストローまで付いている。

 

さすがは我が妹。

想像力が正確だ。

 

この世界では自分のイメージしたものが形になる。

ゆめは、夜にはこうして絵を描く作業に没頭しているようだった。

 

「ゆめが絵を描き出してから夢心地が良くて助かるね、ほんと」

 

「まあね。私が何か描かないと殺風景すぎるんだもの、お姉ちゃんの夢」

 

小学生のころ、頻繁に見てた夢。

何もない世界で私がうずくまって、そのまま永遠とも思える時間ずっとそうしていた夢。

今となってはもう見ることはない。

天ちゃんが私に寄り添ってくれて、こうしてゆめが私の夢にいろどりを与えているから。

 

「それにしてもみかんを潰して入れようとするとは思わなかったわ。本当に普段料理してるの?」

 

「わかってないなあ、ゆめ。料理は表現だよ。絵といっしょ。夢でこそ独創性を出さなきゃ」

 

「どんな独創性よ……」

 

オレンジジュースはあっという間になくなってしまった。

 

「すっかり学生生活を謳歌してるよね、お姉ちゃん」

 

「まあね、帰宅部だけど」

 

「うん、いいよそれで」

 

「ん? そう?」

 

「気楽な方が見えてくるものもあるんじゃない」

 

「みんなそろそろ進路とか考えてるみたいだけどね。私もどうしようかなあ……

天ちゃんと同じ高校とか……」

 

「そんな決め方は私が許さないから。真田さんだって困る……いや喜ぶかも……?

いやいや、やっぱり駄目。ちゃんと自分の人生に向き合ってくれなきゃ」

 

「うん、そうだよね。……ゆめ、真赤の進路希望、聞きたい?」

 

「な、なんでそこで高橋先輩のことが出てくるの? 聞きたくな……ぐ……聞きた……ぐぐぐ……」

 

「冗談で~す。私も知りませ~ん」

 

「お、お姉ちゃん……!! 怒るわよ!!」

 

「既に胸倉をつかみかかってる人に言われたくない」

 

少しのじゃれ合いを通して、私たちは良い汗をかいた。

ゆめも私も息があがっている。

眠っているはずなのに疲れているという事実がちょっとおかしい。

 

「あ、こんなことしてる場合じゃなかった……ゆめ、今日って何の日か……覚えている?」

 

「はあ……はあ……何事もなかったかのように話を戻したわね。何の日ってそれは……」

 

しばらく黙っているゆめ。

私も黙って待った。

ゆめが答えるのを。

ゆめが、目をさすって涙が出なくなるのを。

 

私は待ちきれなくなってその言葉をかけた。

 

「お誕生日、おめでとう、ゆめ」

 

「覚えてたんだ……。何よ……全然話題に出さないから忘れたのかと……」

 

「こういうの、タイミングが大切かなって」

 

「別に良いタイミングじゃないし……」

 

「毎年さ、特別な日にしようよ。私やっぱりゆめが生まれてきてくれたこと、祝いたい」

 

「もう……ちょっと変な感じだけど……ありがとう」

 

「ん、どういたしまして」

 

「何だかこのやり取り、去年もやらなかった?」

 

「うん、やった」

 

「もう、お姉ちゃん……」

 

ゆめの、はにかんだ笑顔を見て私は良かったと思った。

出すなら今だろうと考え、私は鞄を開けた。

 

「今年はプレゼントも用意したんだけど……」

 

「えっ!? お姉ちゃんが!? 思い出すわね。去年は何も用意してなくてケーキを出そうとしたら何かグロテスクな物体が出たの……」

 

「も~それは言わないでって。お料理して作るのよりイメージする方が難しいんだってば」

 

「はいはい。表現だもんね、お料理」

 

鞄の中のそれに手をかけたが、そこで私は改めてゆめの方を見た。

妹はいつの間にか出した椅子に腰かけ、足をぶらぶらとさせている。

 

何のことはない。

勇気が足りなくて、躊躇してしまっただけだ。

 

「ねえ……ゆめ」

 

「なに? 出すなら早くしてよ」

 

「今からプレゼントを渡すけど……その……気に入らなかったら捨てていいから!!」

 

「へ? じゃあそうするけど……何を渡すつもりなのよ……」

 

「……よし!! 渡すよ!! ゆめ!!」

 

「気合、いれすぎでしょ……」

 

私は鞄からばっとそれを取り出すと、ハンガーの部分をもってそれを妹に見せた。

ゆめは、恐らくは予想もしてなかったのか、目を丸くして驚いていた。

 

「えっ……お姉ちゃん……それ……」

 

「改めて、お誕生日おめでとう!!」

 

「その……ごめん……何て言ったらいいかわかんない……」

 

「……嫌だった?」

 

「そんなことない!! びっくりしちゃっただけ。お姉ちゃんよく持ってこれたね」

 

「うん、寝る前に見てたものが持ちこめるのは何となくわかってきたから、

昨日はじっくり見ながら寝たよ、30分」

 

「そうなんだ。その……」

 

ゆめは顔を少し赤らめながらこちらをまっすぐ見据えて言ってくれた。

 

「ありがとう、お姉ちゃん」

 

「うん、どういたしまして」

 

ゆめは渡したその服をいろんな方向から見ている。

まるで見ること自体を楽しんでいるみたい。

 

喜んでいるようで良かった。

 

「お姉ちゃん、これ着てみてもいい?」

 

「もちろん。着替え手伝おうか?」

 

ゆめは目をぱちくりさせた後、うーんと唸った。

ゆめが何を考えているのか。

 

恐らく、ずっと前だったら子供扱いしないでって言ったのかも。

 

「じゃあせっかくだから。今日だけだよ」

 

「うん、今日だけね」

 

私はネクタイの結び方がわからないゆめに結び方を教えてあげた。

もともと小学生の時によく着ていた私服を綺麗にたたむ。

 

着替えが終わる。

ゆめが嬉しそうにこちらを向いて仁王立ちしていた。

 

「お姉ちゃん……どうかな?」

 

「とってもよく似合ってる」

 

「そう? ……ありがとう」

 

セーラー服に身を包んだゆめがそこにいた。

私たちが通っている中学と同じものだ。

 

以前、夢の中で中学の話をしていた時に、ゆめが少し寂しそうにしていたのに気づいた。

ゆめも、きっと学校に行きたかったはず。

 

このプレゼントを思い立ったわけだ。

少しでも、中学生の気分を味わってもらえれば、そう思った。

 

自分自身このプレゼントには不安があった。

実際に学校には行けないのに、こんな格好をしても寂しさが増すだけではないのかと。

 

でも、渡したい気持ちが勝った。

 

だってきっとゆめなら友達を作って、部活動を楽しんで、勉強もちょっとだけやって……。

そんな学園生活に思いを馳せるだろうと感じたから。

 

もしも逆だったら、そう考えると思ったから。

 

ゆめはスカートを翻しながら片足を軸にくるくるとターンを決めている。

大分気に入ってくれたようだ。

 

ゆめを喜ばせることが目的だったので、これでいいのだろう。

一言だけ。

付け加えようかを悩んでいるところに、ゆめが笑顔で話しかけてきた。

 

「そろそろ4月だね。お姉ちゃん」

 

「うん、クラスが変わるね」

 

「お姉ちゃん、帰宅部の癖に知り合い多いから困らなさそう」

 

「癖にって。困らないのはそうなんだけどね。天ちゃんと同じクラスがいいなあ……」

 

「お姉ちゃん」

 

「ん? 何?」

 

「中学校、まだまだ楽しんでね。約束」

 

「うん、ゆめも……その……」

 

「大丈夫。私もこれを着て、楽しくしてるから」

 

「……うん」

 

「そういえばこの世界って校則ないんだ。せっかくだしこれをベースにアレンジしよっかな、制服」

 

「え? 姉のプレゼントなんですが? 大事にしてね!!」

 

「うん、大事に改造するね」

 

「改造って言っちゃったよ。ゆめ~」

 

後ろから覆いかぶさる私を振り払って

ゆめがこほんと咳払いをした。

 

「お姉ちゃん」

 

「なに?」

 

「今日は本当にありがとう」

 

「うん。私も。ありがとう、ゆめ」

 

 

 

そこで私は目を覚ました。

包み込むような朝の陽ざしがとても暖かい。

 

珍しく目覚まし時計のベルより先に起きれたようだ。

私はクローゼットを開け、セーラー服を取り出した。

 

さあ、今日も新しい一日が始まる。

着替えを済ませて、朝ご飯を食べて。

今日も私は挨拶をするのだった。

 

「いってきます!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ずっと眺めていた。

自分以外誰もいなくなったその空間で。

 

眺めていたんだ。

お姉ちゃんの背中を。

 

つい今しがた体を通したばかりの服。

スカートを翻してそっと振り返る。

それにしてもプレゼントがセーラー服なんて。

 

別に、嫌じゃないけど。

 

一瞬、頬の筋肉が緩んだ気がした。

でも、大丈夫。

ここには誰もいないから。

 

また、今日も一日が始まる。

嬉しさや喜びが流れてくる。

 

お姉ちゃんのことを感じれる、私の特等席――。

 

――あれ?

 

私の気付きはまさに、今もらったものに対してだ。

こころなしか、胸の辺り――正確にはポケットに何かの触感があったのだ。

重心も、気持ちそこに傾いている気がする。

 

何だろう、そう思いながら視線を下げてみる。

ポケットに当たる部分はわずかな膨らみを作っていた。

何かが入っている。

 

手を伸ばす。

 

しっかりとした感触がそれを掬い上げる。

 

桃色の綺麗なブローチが、私の目に入った。

 

「もう……お姉ちゃんってば」

 

両手でブローチを包み込む。

自分の胸元で、心で抱きとめる。

 

少しでも、この思いが伝わるように。

どこよりも遠いあなたに届くように。

 

――毎日が楽しく元気なものであるように、祈りを込めて。

 

――いってらっしゃい、お姉ちゃん。

 

 

 

 

 

魔法少女ガルガンチュア。

 

これは――。

 

どこにも存在しない、どこかの少女の人生譚(ものがたり)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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