魔法少女GL ~女の子たちの初手はいつだってルームシェア時空!!~ 作:MOPX
真赤ちゃんが部屋に戻ってきたので私は椅子をなおした。
上機嫌にしている真赤ちゃんとそれからは宿題そっちのけで談笑した。
新しい素材の研究のお手伝いは滞りなく終わった。
何でも魔法色によって伝導率が変わるとか変わらないとか、
体との密着具合でどうとか難しいことがたくさんあるらしい。
私は黄色、真赤ちゃんは赤色の子の中で魔法力が強く、
正しい測定結果を得やすいと言われた。
真赤ちゃんにどういうことか聞いたら、
何ごともでかい方がいいってことじゃない? と答えをもらった。
なるほど。
お手伝いが終わった後、私たちはまた休憩室に戻ってきた。
今日はこれでお家に帰っていい。
真赤ちゃんも爆速で帰る準備をして外に出ていくだろう。
ので、私は戻ってきてすぐに聞くことにしていた。
「真赤ちゃん、今日はもう……帰るよね?」
「何その聞き方。帰るけど。用があるの?」
いつもより早口の真赤ちゃんに私は日を改めてようかとも思ったが、
そのまま言うことにした。
伝えるなら早い方が絶対にいいはずだ。
「博士だけどね、今日はこれから対策部の机にいるんだって」
「……それで?」
「えーっと、だから……」
私は意を決して言った。
「いっしょに異動願い出しに行かない!? やっぱり直接言った方が伝わりやすいかもしれないし……」
「ん~……」
「だ、ダメだった……?」
真赤ちゃんは難しそうに眉を寄せた。
普段はあまり真赤ちゃんの眉は動くことはないのだが、
その最大可動範囲まで眉は動いていた。
「いや、なんというかその……そこまでやってもらうのは違うんじゃないかな、と僕は思う」
「そ、そうかな……」
「まあ僕が勝手なことを言ってるだけだから。本当なら冷たくされてもしょうがないと思ってるし」
「むむむ……!!」
「さ、真田さん?」
私は精いっぱいのそんなこといっちゃメッ!! のオーラを出した。
なんと表現したらいいかわからなかったから。
「むむむむむ……!!」
「何だろう……トイレを我慢してるのかな?」
「ち、違います!! 真赤ちゃんが真剣なの、私はわかってるから!!
だから……それを伝えなきゃって……。口で言わなきゃやっぱり伝わらないこともあると思うから……」
声はしぼんでいき、最後の方はかすれるような声になってしまった。
真赤ちゃんは少し困ったような表情をしたがすぐにいつもの真顔に戻った。
「まあ、じゃあ行こうかな。博士とこの件で直接話したことないし」
「本当!? 無理に付き合わせちゃったらごめんね!!」
「立場が逆な気がしてならないんだけど。時間もまだあるしね」
時間もまだある。
それは何かに対してということだ。
私はそれについては聞かずに、対策部のある部屋へと向かうのだった。
研究所奥の対策室のある部屋はだいたい教室5つ分くらいの広さがある。
挨拶などで訪れることはあるが、意外とここに来ることは少ない。
私たち魔法少女は基本的にお手伝いという形のため自分の席はないし、
荷物などはロッカーにまとめてある。
ぱらぱらと人もまばらだが、その人たちは席で各自パソコンをカタカタと触っている。
よくわからないがお仕事をしてるって感じがする。
私たちは狭い通路を邪魔にならないように進んでいく。
いつもとは違う感覚に少しの緊張感がある。
学校の職員室よりもそう感じるのは、知っている人が少ないからだろうと思った。
対策室の一番奥に部長さん、つまり博士の机がある。
他の人の机は向かい合わせで通路と平行に向いているのだが
博士の机だけは90度違う向きになっている。
たぶん全体が見渡せるからだろう。
博士は席で腕組みをしていた。
「博士!! 5分……いや10分ほどお時間よろしいでしょうか!!」
「1分で十分だよ」
横からぴしゃりと言う真赤ちゃん。
前もってすり合わせておくべきだった。
「ああ、いいとも。何かね?」
博士が席から立ちあがった。
座っている時点で私たちより高かった背が伸びていく。
真赤ちゃんと私は首を上げていく。
太陽の位置が博士の奥だったのでみるみる視界が暗くなる。
完全に立ち上がった時には私たちは影に覆われていた。
博士の身長は確か2メートル。
髪が頭頂部に大きな房と左右から3房ずつ真上へと向かって伸びている。
その髪を入れると2.5メートル。
私も牛乳を飲んで背を伸ばそうとしているが
博士もたくさん飲んだんだろうか。
ちなみに髪型のモチーフは七支刀とのことらしい。
なんだか強そうだ。
「真赤ちゃんのお話なんですけど」
「僕は毎日のように異動願いを出していますが博士は聞き入れてくれませんよね。
駄目なら理由を聞かせてください」
博士は髪の中から向かって右側の中央の房を触り出した。
「え、なにこの反応?」
「聞いたことある……!! これは博士がよく考えてる時の仕草だよ真赤ちゃん!!」
「そうなんだ。真田さんがいて助かった」
博士は次に、向かって左下の髪を触り出した。
「じゃあこれは? 梅干しを食べて酸っぱいみたいな顔をしてるけど」
「え、えーっと、今晩のおかずを考えているとか……?」
博士は真顔のまま答えた。
「答えは組織として責任をもって君を異動させた以上、大きな理由もなく戻すわけにはいかない。
今は異動のタイミングではないし個人の意見を全て聞いていたら組織は成り立たなくなってしまう。
わかるね……高橋真赤君……、だ」
「そんな……真赤ちゃんは真剣なんです、博士!!」
「それとできれば普通に話してください、博士」
私はできる限りの真剣なまなざしを博士に向ける。
博士はこちらに目線を合わせてくれているが、顔は無表情のままだった。
少しうつむく真赤ちゃんを尻目に博士は言葉を続けた。
「もしも高橋君を元のチームに戻したとして、やっぱり思ったのと違ったから別のチームへ……
なんて言うことを聞き続けたらどうだい?
チームを移るたびに関係したスタッフの仕事を増やすことになる。
同じチームの、特に伊藤君と真田君にももちろん迷惑をかける」
「博士……!! 真赤ちゃんはそんなつもりじゃ……」
「いいよ真田さん。これ、たぶんそういう話じゃない」
しょげている私に真赤ちゃんが耳打ちした。
「もともと僕のわがままだったし博士の言い分が正しいよ。
関係者の仕事を増やすのは間違いないし」
博士が眉ひとつ動かさずに真赤ちゃんを見下ろす。
「わかってくれたかね、高橋君」
「はい。今回の件はこうした希望は必ずしも受け入れられないと、
僕の頭の中で処理してお終いにします」
真赤ちゃんの言う通りなのかもしれない。
博士の言い分が正しくて、世の中そうやって回っているのかもしれない。
でも私は――。
真赤ちゃんの気持ちが間違っているとも思わない。
「博士!!!!」
私が急に大きな声を上げたからか、真赤ちゃんの体がびくっと震える。
博士は相変わらずどっしりと真顔のままだった。
「真赤ちゃんはDチームのメンバーと仲良しなんです!!
いっしょにいたいんです!!」
「ちょ、ちょっと真田さん!?」
「続けたまえ」
博士から促され私は息を入れなおした。
「私、みんなが笑って、いるべき場所にいれたらそれが一番いいと思うんです!!
真赤ちゃんにとってのその場所はDチームで……他の場所でも……Cチームでもないんです」
「真田さん……」
真赤ちゃんがマフラーの先を握りしめた。
「私もこれまでより頑張ります!!
だから……真赤ちゃんの異動を……認めてあげてください!!」
「さ、真田さん!?」
私はしゃがみこんで膝をつくと魔法力をおでこに込めた。
こうしたことは勢いが大切だ。
私は勢いをつけておでこを床に振り下ろした。
「アーク土下座!!!!」
鈍めの音の後には静寂が部屋を支配した。
床がちょっとめり込んだ気がするが、気のせいだろう。
私は顔を上げるタイミングがわからずそのままだった。
真赤ちゃんは少し困らせてしまったかもしれない。
博士は……。
「ふふふ……くくく……」
「……博士?」
低音の唸り声のような音と真赤ちゃんの声が聞こえて私は顔を上げた。
博士の顔色は相変わらずそのままだった。
「わーーーーはっはっはっはっはっは!!!!」
あまりの音圧で私と真赤ちゃんがたじろいだ。
それが博士の笑い声だと数秒の後にやっと気づいた。
近くにいた職員さんも何事かと反射的にこちらを向いていたが、
博士が原因だとわかるとそそくさと作業に戻った。
慣れているんだろうか。
「あ、あの博士……?」
真赤ちゃんがおそるおそる聞く。
「いやはや……試すようなことをして悪かったね!!」
「試す……?」
博士の口調はいつもより勢いのある感じだった。
「実は……高橋君の異動は決まっていたのだよ!!
もちろんDチームにね!!」
「え……!!」「ええ~!!」
私と真赤ちゃんがほぼ同時に声を上げた。
「ほ、本当ですか!? 博士!?」
自分でも飲み込めなかったが、私の声は嬉しさを含んだものになっていた。
とりあえず真赤ちゃんの夢はかなったのだ。
「ああ、本当だとも。既に異動記念パーティの場所も取っているし、寿司も注文してある」
「い、いつですかそれ!?」
真赤ちゃんが珍しく興奮気味に聞いた。
「来週開催だ」
「はやっ!! というかもっと早く教えてください!! そもそも隠す必要あったんですか!?」
真赤ちゃんがまくしたてる。
その声はどこか嬉しそうだ。
「悪いね。もともと内内には決定していて明日に伝える予定だったんだが……。
ちょうど良い機会だから君たちの覚悟を聞かせてもらった」
「覚悟って……そんな精神論みたいな話で……」
真赤ちゃんは燃料切れなのかへろへろと立ち尽くす。
私も真赤ちゃんが気をもむことになったのはよろしくないと思うが、
同時に真赤ちゃんの異動が決まって嬉しい思いだった。
「よかったね、真赤ちゃん!!」
私がそう言うと真赤ちゃんはありがと……と短く言ってマフラーに顔をうずめた。
その顔は少しの赤みを帯びていた。
私と真赤ちゃんはその日はいっしょに研究所を出た。
門を出たところで真赤ちゃんは立ち止まった。
「じゃあ、僕はこっちだから」
「あれ、そうなんだ」
「うん、これからみんなと約束だから」
私は笑顔で頷いた。
詳しく聞かなくてもわかる。
真赤ちゃんの言う「みんな」はDチームのみんなのことなんだ。
「じゃあ、真田さん。今日はいろいろありがと」
「ううん、いいよー」
「じゃ、さようなら」
「うん、またね」
私はバス停の方へと向かった。
途中で後ろを振り向いたけど、
真赤ちゃんの背中は弾むようなリズムを刻んでいた。
きっと今回のことも話のタネにするのだろう。
言わなくても伝わることもあるけど、
言わないと伝わらないこともあるよね。
「……何だか笛でも吹きたくなってきちゃった」
私は定期券を入れた黄色いケースを握ってバス停へと再び歩き出した。
――その日の夜、某所と某所と某所。
「ゆめー、電気消すよー」
「あ、お姉ちゃん。ちょっとだけ」
「なに? 5秒ならいいよ。いちにいさんしい!!」
「無視するね。これ言うの忘れてたんだけど、伊藤花には気を付けて」
「ん? 真田さんといっしょにいた魔法少女だよね。なんで?」
「お姉ちゃんのことしつこく聞いてきた。なんか怪しい」
「聞くって何を?」
「お姉ちゃんには言わない」
「ふうん。別になに聞かれてもいいけどね。ゆめは心配性だなあ」
「私はお姉ちゃんのために……」
「ゆめ?」
「なんでもない、もう寝る」
「じゃあ、ご!! はい消す!!」
「今の5秒だったんだ……」
「どうしよう……これ」
「そう……既に決まっていたことなのだ」
「誰かに伝えなきゃ……!!」
「誰にも止めることはできん」
「一刻も早く……!!」
「刻がきたのだ……全てを始める刻が……」
続