月はどうして輝くの?   作:うさぎと世界

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月従う(つきしたがう)

 観客の声援が気持ちいい。

「注目の1番人気、11番モントベルガー」

「人気と実力を兼ね備えた、私イチオシのウマ娘ですね」

 ファンファーレが聞こえる。

 止まった世界で、心音だけが規則正しく時を刻む。

 ゲートが開く。このレースで勝利して、自分は____

 

「自分、は..」

「おーいベル! お前の初レースの日程....ベル?」

 トレーナー殿の声だ。返事をしそびれてしまった。

「すみません。なんでもありません」

「悩み事なら何でも聞くぞ? おっさんでよければ」

「自分以外にもチームメンバーが欲しいです」

「はっはっは」

 2人しかいないプレハブでトレーナー殿の笑い声だけが反響する。

「それで、どういったご用件だったんですか?」

「ああ、お前の初レースの日程が決まってな」

「まだ貴方に師事してから1か月も経っていませんが」

「そして勝負服も完成した」

「まだプレオープンすら走ったことありませんが」

「そう言うなよ。お前がチームに入ってくれたことが嬉しくて仕方ないんだ」

「トレーナー殿..」

「おう、なんだ?」

「2人なのでチームとは呼べないと思います」

 こんなチームでも、入った当初はそれなりに嬉しかったものだ。

 

 選抜レースでは逃げのステイヤーは敬遠されやすい。

 勧誘に来たトレーナーも、ステイヤー志望と言うと表情が曇った。

 それに、「君の走り方は体への負担が大きい」とも言われた。

 すぐに走れなくなってしまう、と。

 しかし、トレーナー殿だけは違った。

「筋力トレーニングを積極的にすれば歩幅(ストライド)はもっと伸ばせる」

「フォアフット着地を習得すればいくらか負担も減るだろう」

 そう言って、チームに入ると言う前から自分の走り方に向き合ってくれた。

 チームに人が居ないのは特殊な事情で、きっとすぐに沢山のチームメイトが

 でき、練習相手にも事欠かないだろう。そう思っていた。

 

 しかし、現実は非情だ。

「つま先立ちで生活しろ」「跳ねろ」「エチオピアの生活を体験してみよう」

 など意味の分からないことばかり。並走すら経験しないままプレオープン。

 挙句もう勝負服ができたなどと言い出す。先に作っても汚れるだけなのに。

 回想もほどほどに、トレーナー殿に言われて嫌々袖を通す。

 なるほどシャツに黒ネクタイ、ポンチョに飾緒(かざり紐)が片肩から吊るされていて軍服のようだ。

「いいな、これ....」思わず口から零れ、慌てて口元を覆う。

「そうだろうそうだろう」トレーナー殿が誇らしげだ。凄いのは仕立て屋さんの方だろうに。

「お前の事を想って頑張ったんだぞ」続けて言うが、仕立て屋さんが頑張ってくれたんだろう。

「仕立てるの結構大変だったんだからな」トレーナー殿が仕立てたのか..見かけによらず繊細だ。

「1年近くかかったけど..喜んでもらえて嬉しいよ」トレーナー殿が恥ずかしそうに頭を掻く。

 自分のためにそんなに時間をかけてくださって..ん?

「トレーナー殿、自分が師事するようになったのはいつでしたっけ」

「どうした急に。ああ、もう1か月経つな。早いもんだ。」

「仕立てに1年かかったんでしたっけ....?」

「駅前でトレセン学園のポスターを見るお前を見てからだな」

「....もし自分が他のチームに参加していたらどうするつもりだったんですか?」

「他の子に着せるつもりだったけど」

 

 拝啓 親愛なる母上へ

 雨に萌ゆる緑が風情を漂わせる季節。

 母上にはお健やかにご活躍のこととお喜び申し上げます。

 さて、いつも応援してくださっている母上には申し訳ありませんが、

 近頃そちらに帰らせていただきたく存じます。

 理由としましては、トレーナー殿は言うことなすこと意味不明でストーカー気質の最低男で、

 このままでは自分自身の健全な成長に著しい悪影響を及ぼすと判断した為です。

 梅雨空が続きますが、健康には十分ご留意ください。

                                      敬具

 20××年6月3日

                                モントベルガーより

 

 拒否反応を起こした時って脳内で母親に手紙が出せるんですね。

 いざという時はトレーナー殿の目の前で書いて投函してやりますよ。

 ..けど、仕方ないのでもうちょっとだけチャンスをあげることにします。




読んでくださってありがとうございます!初投稿故至らぬところが多いですが、少しでも楽しんでいただけると幸いです。
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