月はどうして輝くの?   作:うさぎと世界

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月進む(つきすすむ)

 そうして、レース当日。

 つい、はぁ..とため息がこぼれてしまう。

「どうした、溜息なんてついて」

「ああ、トレーナー殿。すみません。レースが、不安で..」

「そういうことか。大丈夫だ、思い出せ。練習の日々を。お前はあれを乗り越えたんだ..」

「練習の日々..」

 

「トレーナー殿、ワッフルが焼けま..あっ..脚をつりました..あっ」ドサッ

「あの、トレーナー殿、いつまで跳ね続ければいいんですか..? え? カンガルーになるまで....?」

「エチオピアの首都はアジ..アジス・アベパ....はい、見ずに言えました」

 

「練習の....日々」

「ああ、どうだ、自信ついたか?」

「トレーナー殿」

「ベル」

「とても不安です」

「ダメかぁ..」

「ロクな練習してないですから」

「いっぱい跳ねたじゃねぇか」

「障害レースなら一位を取れそうです」

「そうかそうか。じゃあ優勝間違いなしだな」

「障害レース出るんですか? 私」

「札幌芝1500m、平地競争だな」

 何も活きなくないですか? という言葉を飲み込んでターフに上がる。

 

「美しい青空が広がる、札幌レース場、ターフも絶好の良バ場になりました」

「ジュニア級最初のレース、ここで勝っていい流れを掴みたいですね」

 風が頬を撫でる。観客の声援が気持ちいい。

「2番人気、4番モントベルガー」

「好走が期待できます」

 ファンファーレが聞こえる。

 止まった世界で、心音だけが規則正しく時を刻む。

 

 ゲートが開く。このレースで勝利して、自分は高みを目指す____! 

 

 レース後、すぐにトレーナー殿のもとに駆け寄った。

 今すぐ伝えなくてはならないことがあるから。

「よっ。おつかれ。どうだった?」

「あの、トレーナー殿。すみません」

 軽く頭を下げる。

「ああ、大丈夫。問題ないよ」

 いわれる前に右手が動く。

 

 バチィン! 瞬間、トレーナー殿に平手打ちをする。

 掌がジンジンする。周りの観客のどよめきが聞こえる。

 

「6位でした! 大敗ですよ! やっぱりダメだったじゃないですか! 大体なんですか『エチオピアの歴史』って! レースに何も関係ないじゃないですか! なんで並走トレーニングも坂路トレーニングも碌にさせてくれないんですか! だいたいなんですかウマ娘につま先立ちでワッフル作らせて自分はくつろいで! 意味わかんないですよ!」

 心が痛い。なのに普段から思ってることの羅列だから驚くほどすらすら出てくる。

「..ベル」

 しまった、言い過ぎた。謝らないと..そう思ってトレーナー殿の方をちらと見やる。

「ごめんなさい..言い過ぎました」

「なぁベル」

「..はい、なんですか」

「走ってどうだった。楽しかったか?」

「それは楽しかったですけど....」

「脚への負担はどうだった?」

「..普段より疲れなかった気がしますけど..」

「ならいい。お前の目指すところはここじゃない」

「自分の目指すところは....?」

「ああ、それは____」

 

 東京優駿、日本ダービー。

 皐月賞・菊花賞と並んでクラシック三冠。日本競馬界の象徴____

 沢山のウマ娘がその勝利を願うそんなレースで..自分は....

 

「..勝てると、思いますか?」

「ああ。だってお前、6位だろ?18位より12個も上だぜ。一か月でこれなら絶対に行ける!」

「....トレーナー殿..」

「おう」

「6頭立ての最下位です。」

「....」

「....」

「ご飯、食べ行くか。何食べたい?」

「..にんじんハンバーグ。」

 勝てないのをトレーナー殿のせいにして当たって、

 その上機嫌とってもらうなんて、自分でも嫌になる。

 同時に、トレーナー殿の優しさが沁みる。

 やっぱりトレーナー殿は大人だ。

 思慮深く、器の大きな御仁なんだろう..

 一見無意味に思える練習にもきっと意味があったに違いない。

 それなのにこんな態度をとるなんて申し訳ないな。

 申し訳ない、ではないか。もっと違うような..

 傷つけたくないような、よく見られたいような。

 それは、きっと師匠と弟子の枠組みでの思考ではなく。

 ああ、自分、もしかしてトレーナー殿のこと..

「そういえば、エチオピアの歴史ってレースに何の関係があったんですか?」

 自分の気持ちを紛らわす為に話を変える。自分にはきっと過ぎた感情だからだ。

 トレーナー殿に気持ちを伝えてもきっと困らせてしまうだけだ。

 こんな感情は処分してしまうのがいいのだろう。しかし..

「え、ないけど。」

 感情は振り子だ。プラスからマイナスへの転落は早い。

 昼下がりの札幌に、大きな平手打ちの音が響いた。




二話目です..!拙い文章ですが最後まで読んでいただけて光栄です!
やる気が出ます!
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