生まれ変わったらダー様だったので優雅に紅茶を嗜んでいたら、何故か黒幕扱いされている件。 作:オレンジペコ枠……誰?
────人は平等であるか否か。
かれこれ世界中ありとあらゆる場面で問われ尽くした疑問だ。
人について語るでも、世について語るでも、とにかく事ある毎にこの疑問が呈されてきたのは間違いない。この上なく簡潔でありながら奥が深く、深い考察を伴いながらもイエスかノーか回答がさっぱり二択に限られている。
そして、斯く言う私の答えはと言えばそれもまた単純明快。
私はそうは思わない。平等であってたまるかと、声を大にして言いたい。
いや、私だけではない。誰だってそう思うだろう。そう思わないなら私はその人物と相容れることなどできない。
自分が誰かに優っている、誰かに劣っている。私はこれができて、これができない。彼、彼女はこれができるが、これはできない。この面において私は誰某に優っているが、この面において私は誰某に劣っている。
人がそれを一つの指針として物事を決めることが多いのは確固たる事実である。そういう風に世界はできている。私はそう確信している。
この際、生まれ落ちた環境は一切合切、欠片も考慮しない。金銭や地位などというものは後から付いてくるものであって、それが理由で才能が開花しないなどと宣うのは有り得ない。それこそ、才能を至上視するくせに努力が足りていない、もしくは才能という言葉を無知蒙昧なままに捉え努力をせずにただ求めている者の妄言に過ぎない。劣悪な環境で花開かせた者を否定はさせない。
……むしろ人が平等であったなら、どうだろうか。考えてもみてほしい。
生まれ持った才能に優劣などないのであるのなら、いったいこの世界を生きる人間は何を指標にし、何を思い、何を考え、どうして生きていけるのだろう。誰かはこれに答えを出せるのかもしれないが、私には分からない。
仮にそうだとしたら、私はこの過酷で壮絶な世界を生きていける自信が無い。誰もが同じような世界で生きようとは思わない。
つまり、こうだ。
私は人が平等であるなどということは認めないし、努力で人を上回りはしても、才能が平等に与えられるべきだなどとは微塵も思わない。その上で、努力して到れるのであれば、それは元より才能があったということに他ならないとも言っておく。私は努力で天才を超えましたなどと吹聴するのは烏滸がましいにも程がある。
そしてここまで語った癖に、悲しいかな、
何にせよ、私は誰よりも私が嫌いだったのは事実だ。
才能を渇望はしても、才能を羨むことも妬むこともせず、誰にでも平等に才能と機会があると信じることもせず、私は飢え苦しみながら只管に努力を積み重ねた末に死んだのである。血反吐を吐きながら、それでも到れなかったのだから惨めにも程がある。
しかし、もしもだ。私が本当は才能に溢れていたというのに努力が足りずそれを無駄にしたと言うのなら、私はそれを肯定も否定も出来はしないのだ。
何故ならば、私こと■■■■は死んだ。
そうしてどういう因果か、生まれた刻、環境、あまつさえ性別すら違う全くの別人『ダージリン・グロリアーナ』として転生したのだから。
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〇月□日
転生したらしいので日記を書くことにした。なお、英語は未だ完璧でないため、慣れ親しんだ日本語で書き記すこととする。
この日記は、私からこの端末に一定時間何らかのアクションが無い場合、自動的に端末の内容ごとフォーマットされるように設定してある。パスワードはいつもの五十二桁だ。
私の名前はダージリン・グロリアーナ。
今年で五歳になる。
昨日、原因不明の高熱を出して寝込んでしまい、今朝になって意識を取り戻した時には自身が転生者であるという自覚を得るに至った。
遅めの知恵熱のようなものだったのだろうか。分からないが、それを確かめる術も無いため保留とする。
転生と言うからには私には前世があり、それを明確に記憶として認識している。
ちなみに、私は仏教徒ではない。ブッディズムについて詳しいわけでもなければ、そもそも知識という点以外において総じて宗教には明るくない。実感が無いのだ。だから、転生というのも便宜上そう読んでいるに過ぎない。
話を戻そう。私でない私についてだ。
前世の私は、そう、なんというか面倒な人間だった。
齢三十にもなれば天涯孤独の身で、親しい友も居らず、只管に労働力として社会に貢献してはプライベートな時間を自己研鑽に費やす日々を送っていた。何にでも手を出しては中途半端に終えることなんて出来ずに、抱え込んでは重荷を増やしていくばかり。それが成果を上げたことなどほとんどない。そんな人生を辛いと思ったことは幾度もある。しかし、終ぞ止めることはできなかった。
なんともつまらない。なんとも面倒臭くて生きにくい男だったと、我ながら嘆息する。だが、それこそが私であり、非才を憂うことはあってもその人生を悔いることは無い。
ちなみに、今世の私はイギリス人だが前世の私は日本人であった為、当然と言うべきか日本語に堪能である。これは両親やお手伝いさんの前で露見するわけにはいかない。日本語は日記を書く時にのみ用いることとする。
それはそうと、私はなんとも幸運な人間だ。
前世で培った二流の技能と知識、私はその全てを余すところなく保有して生まれ直した。正直これだけなら大して喜ぶことは無かっただろう。最初から限界値で生まれるなど、むしろ絶望するまである。
大事なのは、その上で性別が変わるという不自由を代償に、前世では欲しくとも手に入れられなかった才能というものまで手に入れることが出来たということだ。
素晴らしい! こんなにも嬉しいことはない。
この僥倖を、我が二度目の人生の糧として私は邁進する。
〇月△日
わざわざこんな才能溢れる体に転生したのだ。
となれば、するしかあるまい。
そう、自己研鑽を。
私は早速、両親とお手伝いさんの目を盗みながら勉学と運動に励むことにした。
日記と言っても、昨日のように多くを書き記すことは然う然う無いだろう。昨日のアレはあまりの歓喜に筆が進んだだけだ。
〇月×日
やはり目指すからには万能だ。
私は彼の万能の天才レオナルド・ダ・ヴィンチをも超えてみせる。
末恐ろしいことに、私ダージリン・グロリアーナは私でありながら、■■■■が持ち得なかった芸術センス、美的感覚を持っている。前世の私では考え得なかったことを、今世の私は造作もなく思い付くことができる。
まるで別人のようだが、それで良い。そうでなくては生まれ変わった意味が無い。
私は私の限界に到りたい。本当の天才の行く末を見てみたいのだ。
……願わくば、この日記が黒歴史とならないことを願うばかりである。
〇月●日
やってしまった。
昨日のことだ。
父の書斎に忍び込んだ折に、調子に乗って数学の問題を解いたら、それをお手伝いさんに目撃されてしまった。
迂闊だった。その話はすぐさま両親の耳に届いたことだろう。どうやら、父母は私を神童として奉りたいらしい。
私は前世の、それもたかだか大学生時代に学んだ程度の知識を使った所謂知識チートをしたいわけではない。ちやほやされて持て囃されたいわけでは断じてないのだ。
しかし、今更アレはまぐれ当たりでしたなどと言い出すことも出来ない雰囲気となってしまった。
いや、だがそう悲嘆することでもないか。逆に言えばこれで我が父母は私に期待をかけてより多くの金を使ってくれることだろう。
たとえ生まれた環境が天才にとっては依存し得るものでないとしても、環境が良ければそれだけ短縮できる。
〇月■日
私のインチキじみた早熟さにご機嫌な我が父は、ここのところ、かなりの頻度で私を美術館へと連れて行くようになった。
そのお陰で、私も日本にいた頃はネットの画像などでしか知り得なかった様々な作品と直に出会い、それらに使われた技法、そして考え方を恐ろしい速さで吸収している。我が父も大満足のようだ。私も満足である。
〇月▲日
私は気が付いてしまった。あれは今日、戦車の博物館に訪れた際のことだ。
正に雷に撃たれたような衝撃である。
以前から、私は私の顔に見覚えがあった。誰かに似ている。会ったことはないが、それでも印象には残っているというレベル。歯痒さを感じていたのだ。
そうだ、アレは前世でのこと。親しくなかったくせにやたらと距離の近い、喧しい男が職場に居た。
あの時の自分は今と同じように芸術審美眼を磨いていたのだ。ゆえに画集や詩集だけでなく、小説や果てには漫画などにも手を出していた。
目敏くそれを理解した彼は、私に絡むなりやたらと饒舌にアニメや漫画について語ってくれたものだった。
そんな彼が勧める中に、ガールズ・アンド・パンツァーという作品があった。
女の子が第一次、第二次世界大戦期に製造された戦車に乗って戦うスポ根ものだとか。私自身の知識としては数話しか見ていない上にそれすらほとんどうろ覚え程度なものだが、その登場人物の中にとあるキャラクターがいたのは辛うじて覚えている。
ダージリン。
彼は確かダー様と呼んでいただろうか。
金髪蒼眼のお嬢様か、もしくは女王と言っても良い貫禄をした少女だ。彼女は所謂主人公のライバルポジションで、戦車に乗りながらも紅茶を片手に優雅な振る舞いを見せる、まるで貴族のようなキャラクターだったはずだ。後、偉人や賢人の名言、格言を多用するのだったか。
そして、私の名前もまたダージリン。その上、イギリスの貴族家系の末裔である。思い出してみれば、顔も今の私と瓜二つだったような気がする。金髪蒼眼であるという点はまず間違いない。
つまり、だ。
私はダー様というキャラクターに近しいなんらかの人物に転生したか、もしくは話がかなり跳躍するがガールズ・アンド・パンツァーの世界にダー様として転生した可能性がある。
これは由々しき事態である。
私が入っている時点で物語はかなり変わってしまうだろうが、もし仮に私がダー様であったとしたら、私はガールズ・アンド・パンツァーの主人公のライバルとして立ち塞がらなくてはならない。
……いや、そうだ。何を怖気付いている、ダージリン・グロリアーナ。
私は、私だ。誰が何と言おうと、世界がどうであろうとも、私は私でしかないのだ。
そして、もし仮にこの世界がガールズ・アンド・パンツァーという作品の舞台として創作された世界であろうとも、その演者であるダージリンもまた私一人しか存在しない。
ならば、私はダー様となろう。
シナリオに対する責任など負いはしない。だが、私がダー様であるのなら、私はダー様として紅茶を片手に優雅で在ろう。
ダー様となった上で、私ダージリン・グロリアーナはダー様を超克する。
────我こそは、真ダー様だ。