グレイ・コートに至るまで   作:A_R_S

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幕間
幕間:Eclipse Liberalism


 

 

 

 

 唯一抜きん出て並ぶ者無し。

 

 18世紀、英国で生涯全勝を成し遂げたとあるウマ娘を表現するのに、これ以上の言葉があっただろうか。

 

 シンボリルドルフには、「絶対」がある。かれこれもう4年も前、現役最後のレースとして有馬記念を制した後でさえ、私はその言葉とは不釣り合いな自分の無力をただ嘆いていた。

 

 生涯無敗だったEclipseとは違う。生涯で3度の敗戦を喫したことではない。元・生徒会長として強く実感した、この国に重く圧し掛かる、歴史の重みと我々に課された枷。

 

 

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 歴史的背景を鑑みれば、均衡を保つために必要な措置だったとは理解できる。明治憲法が制定される前、天皇家や幕府、有力武家の後ろ盾として武力を握っていたのは、悉くが身体能力の圧倒的優位性を持つ我々ウマ娘であった。文民統制を謳う新政府にとって、これは非常に都合が悪い。

 ウマ娘は基本的人権から排除され、政府に管理される身の上となった。参政権を持たず、社会権を持たず、その代償として高額な賞金を設定したレースで、富と名声を争うエンターテインメントとしての昇華を強いられることとなった。

 

 実際、それは限りなくうまく機能した。世界中で同時多発的に発生したその新たな娯楽に民は漏れなく熱狂し、表面上は歪ながらも新たな秩序の上で、人類、ウマ娘双方が歩み寄りを見せたことは間違いないのだ。

 

 綻びが生じたのは、二度の大戦時だ。

 大日本帝国は二度の大戦に連合国として参戦し、そして勝利を収めた。

 

 一方で、それまで娯楽の的でしかなかったウマ娘には再び武力としての役割が与えられた。そうして、多くのウマ娘は母国のため、戦地へと赴いた。

 

 

 そして多くの同胞達が、異国の地で死んだ。

 

 

 既に人類は、ウマ娘に対する明確な優位性を確保していた。つまり、兵器の発展である。

 戦車、航空機、火器の類はそれまでの白兵戦一辺倒の戦場を大きく変革した。依然としてウマ娘の身体能力は人類に対し優れたものではあったが、それは数々の兵器を前にあっという間に逆転されるもので、特に二度目の対戦ではそれは確固たるものとなっていた。

 

 またウマ娘は、その身を国に管理されていることから、徴兵から逃れることは極めて難しく、更にその身体能力を期待されて多くが前線へと送られた。

 1940年代に戦場へ送られたウマ娘は1万を優に超え、その10人に1人は、再び祖国の地を踏むことができなかった。

 

 

 

 一発の銃弾で命を落とす世界に、人類もウマ娘も区別はなかった。

 

 

 

 そうして多くの犠牲の上で、ようやく平和が訪れた。

 

 

 

 今なお、ウマ娘はほぼすべての制限が200年前と変わらない。

 

 

 

 

 

 それは間違っている。

 

 

 

 

 

 かつて皇帝とまで呼称され、実際に天皇陛下への謁見まで果たしたシンボリルドルフは、そうして永田町を志してきた。

 

 

 

 2016年4月、世界で初めて、日本でウマ娘出身の政治家が誕生した。

 

 

 

 この改革は"Eclipse Liberalism"*1として世界中に広がることとなる。

 

 

 

 

*1
Eclipse Liberalism...日本語では日食革命と呼ばれる。アメリカでこの活動を支持する若者が『日出づる国』の『月』による新自由主義の萌芽だ、として蝕を意味する"Eclipse"と、伝説的ウマ娘エクリプスを掛けて産んだ造語。

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