ジリリリリリリリリ――――
「…………ムゥ」
目が覚めると父親が毎朝掛けている目覚まし時計の鐘の音が鳴っていた。
けたたましい音が頭の中に響き脳が長年の習慣による条件反射によって覚醒される。
背中に伝わる固い感触が昨夜ちゃんと布団に入らずに自室ではない別のところで寝てしまったことを知らせた。
「……そっか、あの後俺の魔術回路が開いて、っう!?……鉄臭い」
起き上がり目脂がついた目を擦り、部屋の中を見渡すと昨夜の令呪のくだりの跡が残っており。リビングには、三つの死体と一人の死に損ないの血が残されていた。
「ハァ」
こんな狭い空間におよそ四人分の血液が充満している中で、痛みによる気絶とはいえいつも通りの朝を迎えるまで起きなかった自分の図太さには呆れる。
「……取り敢えず、―――発動」
気分を一転させるために昨夜、ヒトの尊厳を投げ打ってまで開いた魔術回路の調子を見るために起動させる。
体を通して世界へと繋がる線の感覚が再び走り抜けた。
「停止―――。魔術回路の
令呪の方も無事に俺の魔術回路に合わせて刻印されているみたいだし……これなら行ける」
回路の調子を確かめた後、改めて両手を確認すると右手の甲には蛇の目のような形をした三つの令呪が複雑に絡み合いながらそこに宿っていた。
龍之介の半円形の令呪とはまったく違う形であり、完全にマスターとしての権利が自分に移ったことを認識すると。
―――くぅぅるるる。
「一先ず、朝ごはんを食べよ。……作るの面倒だからパンとヨーグルトでいいや。あ、グラノーラがあった」
腹の虫が鳴ったことで自分の体が空腹であったと、手早く栄養補給を行うために調理の必要のないものを選び。ヨーグルトにはいつもの二倍の砂糖を入れてカロリーを賄う。
「………ごちそうさま。……さてと、英霊召喚の項目は―――」
時刻は六時六分。質素ながらもいつもよりカロリーが高めの甘い食事を済ませると食卓の脇に避けてあった雨生の記録書を持って召喚陣の前に立ち令呪の宿った右手を翳す。緊張の所為で心臓が強く脈打ち血圧が高まっている。そう感じながら、長い詠唱を始める。
「素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公」
英霊の召喚とは本来呼び寄せるその英雄と縁のある聖遺物を触媒として使うのが普通であり大抵のマスターは触媒無しの召喚は行わない。
仮に使用しない場合、施術者であるマスターと相性の良い存在が聖杯によって呼ばれる。
何故、相性が良いとされている触媒無しの召喚は勧められないのか。
「降り立つ風には壁を、四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」
それは、呼び寄せられる英霊が必ずしも戦闘を行える者だという保障が無いためだ。
英雄を英雄として足らしめる伝説や偉業というのは何も武勲だけとは限らない。
例えば、医術や策略を用いて数多の命を救った者。
発明を成して文明を昇華させた者。
政治を正し、国を繁栄に導いた者。
そうした偉業を成した者達が死後、人々の信仰によって英霊として祭り上げられるといった場合もあるのだ。
「
殺し合いどころか戦闘とは無縁な生前を送ってきた彼らが聖杯戦争にまともに参加できるのだろうか?
当然、不可能である。戦闘となったら早々の敗退は免れない。
故に、聖杯戦争に参加するマスターは少しでも強力な英霊を召喚するために武勲を立てた英雄に縁のある聖遺物を予め準備し、触媒とする。
これとは、別に未来の英雄を呼び寄せるのも勧められていない。
「―――――発動」
魔術回路を起動させて魔力を生成し血塗れの部屋に充満させる。召喚陣が紫電を纏いながら輝き、サーヴァントを現界させ構成されるエーテルが溢れ風となり空気を掻き回す。
「――――告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」
通常、過去、あるいは現代の英霊が召喚されるが英霊達の本体がいる『英霊の座』は時間の枠に収まらないため、理論上は可能であるのだ。しかし、実質問題としてその英霊が生前どのような偉業を成したのか確かめる術は第二魔法でも使わない限り無い、現地の知名度補正の恩恵も受けることはない。何より、現存するどの物質を聖遺?物として触媒とするのかわからない―――。
こうした問題がある。
「誓いを此処に」
しかし、もし確実にその世界の未来について当てがあるのなら?
その事柄が自身に深く関わりのあることで、自らを触媒として意図的に召喚を行えばあるいは………
「 我は常世総ての『全』と成る者、
我は常世総ての『古』を敷く者。
汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ!!」
最後の詠唱を紡ぎ終わると、一気に光と風が弾け灰神は、左手の記録書で顔を覆う。
召喚の光が弱まり前方を見ると召喚時に発生した靄の中に人影が映っていた。
「サーヴァント、セレクター。聖杯と召喚の呼び声を聞き入れ参上した」
その召喚陣の上には深緑のカソックのような服に、二十代中頃の整った顔立ち、燃えるように赤く短い髪と目の醒めるような紅い瞳が暗い室内に輝き、そして何より両側頭部から生やした一対の角が、男が何者であるかを物語っていた。
「うむ、召喚早々なにやら猟奇的な場であるが、細かいことは後でいいだろう」
血の匂いの酷い室内と腹部の開かれた死体を見て眉を顰めるも灰神の前にしゃがみ目線を合わせ、口を動かす。
「問おう、お前が俺のマスターで間違いないな?」
「間違い無い。俺がお前のマスター、灰神柳だ」
灰神は記録書を閉じて自分が召喚したサーヴァントの質問に答える。するとセレクターは血の陣に膝を付き、頭を下げてこうべを垂れる。
「俺の
これより我が手腕はお前と共にあり、お前の運命は常に俺と共にある。ここに、契約は完了した………さてと、何か質問はあるか?マスター」
契約の宣誓を行い、再び立ち上がると先程までの生真面目な顔から少し力を抜いて砕けた様子となり。少し偉そうな態度で聞いてきた。
「質問も何も、お前、クラス名以外に自分のことを話していないぞ?」
もっともな問いに、セレクターは目を瞬かせ首を傾げて固まること十五秒。
「………あっ」
「ハアー、取り敢えず真名とか生前の事とかそこら辺の説明を頼むよ」
「勝手に一方的な契約をした事には謝るさ、マスター。まあ、分かるとは思っているけど俺はお前のある可能性、つまり未来の英雄さ」
「ふーん、
さらりと灰神は毒を含んだ言葉を吐きながら
「ア、アハハハハッ、良かったな。マスター」
額に冷や汗を垂らし笑顔で答える口元が引き攣っていたのは気のせい。
「続けて聞くけど、セレクターって何だよ。選定者のクラスなんて存在していたのか?」
早速、召喚をして初めに聞かされた聞き慣れないクラス名について困惑を隠さずに慌てながらもちゃんと言葉にして
「いや、この身は淘汰者のクラス。つまりは、
『
「うーん。確実に未来の自分か子孫が呼び出されるように詠唱の一部を改竄したことによる影響なのかな?」
だからこそ、灰神は納得し顎に手を当て考えるように俯きながら何度も頷く。
「てっきり、
「因みにだが、
未来の自分の多様性に若干呆れながらソファに据わると体に疲労が溜まって来たことに気付き大きく伸びをする。
「大丈夫かマスター?令呪のラインによる魔力供給と、この部屋の様子から見るにマスターは無理をして聖杯戦争に参加しているようだが魔力の補充は大丈夫なのか?」
魔力の補充、という言葉に灰神は辛うじて生かしておいた家族の仇の男の存在を思い出しリビングの壁際に下半身不随に両肩脱臼の虫の息で倒れている龍之介を指差し。
「あれを殺して魂を食べて。一応魔術回路持ちだから一般人より多く補給できると思うから」
「了解したマスター」
目には見えないがセレクターの背中から灰神のベクターと同種の不可視の腕が伸び龍之介の身体を持ち上げ更に二本、首を絞めるように宛がうと一瞬龍之介の顔がブレた。するとゆっくりと頭と胴体がギロチンに掛けられた時と同じように真っ直ぐ切り取られていた。
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サーヴァントデータ
真名:ハイガミ ヤナギ
マスター:灰神 柳
クラス:
属性:中立・中庸
パラメータ
筋力:E
耐久:E
敏捷:E
魔力:C++
幸運:B++
宝具:A+
クラス別能力
適宜選択:B+
保有スキル
精神異常:B
威圧(殺気):E~EX
治癒:A
透過干渉:EX++
魔力放出:A+
魔道:B+
工房作成:C
宝具
新徒の見えざる手腕:D~A++
幻惑の鉄面:C
早く戦わせたいよぅ(泣)