二体のサーヴァントが睨み合う少し前、セレクター陣営が倉庫街に着いた最初の時から見晴らしの良い
「戦況はどうだい、綺礼?」
通信魔術礼装を通して自身の屋敷の工房にいる時臣からの声が綺礼の隠れ家である室内に響いた。
「セイバーとキャスターと思しきサーヴァントが接触しました」
「……璃正神父が今朝、未明に話したことは本当なのかい?」
「はい、教会に設置されている霊器盤によれば七体のサーヴァントが召喚されたのは間違いありません。アサシン達に冬木市及び近隣の街を捜索させサーヴァントらしき存在も七体確認できました。
ですが
「此度の聖杯戦争には正規のクラス外のサーヴァントが現界したということか。そして我々は運が良い、早速そのイレギュラークラスに集中して警戒ができる。ステータスとマスターの方は?」
「今回のセイバーはステータスが特に優遇されています。パラメーターからスキルまでその殆どが平均Aランク相当です。マスターは銀髪の女です」
マスターの容姿を聞いた時臣に疑問が浮かぶ。
「待て、銀髪の女だと?」
「はい、銀髪に赤い瞳を持つ白人の女性です。余りにも人間離れしている容姿を見るに」
「アインツベルンは、迎え入れた魔術師殺しの傭兵ではなく鋳造したホムンクルスをマスターに据えたのか」
「おそらくは」
「キャスターらしきサーヴァントは、我々の脅威に成りうるかい?」
「……まだ、わかりません」
思案による沈黙の後に帰ってきたのは予想外の返答であった。
「どういうことだい、綺礼?」
「ステータス自体は大したものではありません。ですがスキルか宝具によるものか属性とクラス別の保有スキルが隠蔽されているのです。師よ」
「分からない以上は仕方ない。マスターの方は?」
「子供です」
「…………は?」
今度は時臣が予想外の反応をしてきた。
「ご息女とそう大して変わらぬ年齢の目と髪が赤い男児です。どうやら魔術による暗示に掛かっている様子で、表情に変化が見られません」
「令呪は確認できるかい?」
「右手にそれらしいモノが間違いなく刻まれています」
「何故、そんな幼子が聖杯にマスターとして選ばれたのだ…………いや、目が赤い?
綺礼、その子は死徒なのかい?」
半ば愚痴に近い呟きを漏らし頭痛がするのか手を額に当て顔を上げた後、その容姿について疑問を持ち尤もらしい予想を立て綺礼に聞いてみる。
死徒とは吸血鬼のことで人によって昇華した、堕落した、進化した、とその在り方に怨嗟したり憧れたりと感じ方は様々だが基本、人の治世から外れた異端として聖堂教会とは敵対している存在だ。
異端狩りを生業としている代行者たちの討伐対象であり死徒と成った者は、擬似的な不老不死となるため姿こそ若けれどその能力は年月を重ねれば人を超えることは容易い。
子供がマスターに選ばれるより冬木の
「いえ、死徒であることは断言できません。もし擬態に特化した魔術を扱う者が本気でその姿を偽るにしてはお粗末過ぎる上に暗示に抵抗する様子がないのも気になります」
「そうか、断言ができない以上迂闊に討つのは忍びない」
様子見ということでこの件は一先ず保留とするようだ。
と話しているうちに両サーヴァントが構え警戒し合う。
「分かりました。両者、動きます……っこれは!!」
普段から感情に乏しい綺礼からは想像出来ないような驚愕の声が伝わってきた。
「どうした、綺礼」
「………キャスターらしきサーヴァントが『黒鍵』を使いました」
『黒鍵』対死徒用概念武装のひとつ。代行者にとっては象徴的な武器であり正式武装だが、扱いが難しく物理的破壊力に乏しいことから愛用する者は少ない。あくまで吸血鬼に堕ちた者を自然の摂理に浄化し滅ぼすための投擲武具である。
通常は聖書のページを精製したもので作られている一メートル弱の刀身で戦闘を行うが、上位の選ばれた代行者なら、魔力で刀身を編んだり、刻印を刻むことで「火葬式典」や「土葬式典」などといった魔術的効果を
それをサーヴァントが使用したのだ。
「代行者の
「難しいかと思われます。我々代行者は聖堂教会内でも神秘の漏洩防止に当たり教会の定めた法の矛盾を正すためだけに存在し。どのような人員が所属するのか厳選します」
「そこに何か問題があるのかい?」
「それ故、討伐した功績に興味を示さない者が大半でして必要最低限な内容のみで済ませ、十分な報告を怠る傾向がありました。
それ以上にあそこは人材の浪費が激しい為、行方知れずの者も調査する必要があるかと。それ以前に武闘派の埋葬機関は基本
「だろうな。だが代行者と予想出来たことで、かの英霊が古い時代の英雄である可能性は潰えた。広域範囲殲滅の対軍以上の宝具を所持している可能性は低い。英雄王であるギルガメッシュの敵ではないな。
隙を見てアサシンを仕向ければ良い」
「、わかりました」
吸血鬼を滅ぼすだけの代行者が何故英雄と讃えられたのか疑問に思いながら。果たしてそう上手くことが運ぶのだろうか?と、綺礼は未だ
鉄面のサーヴァントとの距離は十m、セイバーは不可視の風の鞘に包まれた自信の宝具である聖剣を凛と構えつつもその心境は芳しいモノではなかった。
先程、取り出した刃で結界を張った
自身の
そして、聖杯戦争においては自分の出生を悟らせる宝具を見えなくすることが出来るのは大きなアドバンテージとなる………。
筈であった。
「さあ、聖杯戦争を始めよう。死ぬなよ、セイバー?」
「!?」
しかしそれは、相手が同じ不可視の攻撃手段を用いらず、間合いが自分より長くなければの話となるが。
敵の無造作さに振るう腕の動きに合わせてセイバーは倒れ込むように前屈みになることで、見えない斬撃を辛うじて交わすことに成功した。
直感スキルを持つセイバーのランクは"A"。未来予知にも匹敵するその感覚は数々の危機から自分を助けて来た。
予想外の初撃に斬られた絹のような金色の髪が頬に引っかかる。
続けて第二、第三撃と目の前のサーヴァントが腕を振るいそれに伴って風圧が襲いかかり、とっさに剣を盾に防御する。
今まで経験したことのない程の衝撃が刀身を通じ体内に響くも、セイバーは体勢を崩さずに次の衝撃に備えた。
しかし、
「……?ぐっ、あっゴホッゴホッ」
三撃目が一瞬遅れて、彼女を襲う。鈍器で殴られたと思われる衝撃が腹部に響き、後方へ飛ばされる。
「セイバー、大丈夫!?」
「く、傷の治療。有難う御座いますアイリスフィール」
アイリスフィールが慌ててセイバーに治癒魔術を掛ける。
すぐさま剣を杖に立ち上がり鎧を見ると銀色の装甲には歪な殴打された凹みが残されていた。
「やはり、その正眼。不可視の得物の形状は両手剣。セイバーのクラスで間違いないか。足の運び方や構えによっては戦斧や
「戦局の最中思考恐れ入る、どうやら相手を侮っていたのは私のようだな……」
「いやセイバー、侮っていたのはお互い様だ。英霊ではなく生前と同じように人を殺そうと力を振るった私も迂闊だった」
つまり、エーテルで構成されたサーヴァントの体でなければ殺られていたということ。
「それにしても堅いな。流石、白兵戦において最優のセイバー。耐久性にも優れているのか」
「貴殿が未だに如何様な得物を扱う武人か私には予想が付かない。そちらが無理に応えてくれる必要は無いが敢えて問おう、それは一体何だ?」
"セイバーと同じ宝具?" アインツベルンの仮初めのマスターにしてホムンクルスであるアイリスフィールが見た敵のサーヴァントが持つ武器の第一印象であった。
何も持たずに構える敵のサーヴァントの姿は、風王結界でその知名度故に隠したかの聖剣を持つセイバーと余りに酷似していた。
だが、それとは別に彼女は、二体のサーヴァントの奥に佇んでいる敵のマスターの幼気な姿に困惑していた。自分の娘と同じ年頃の子どもが魔術師しか参加出来ない聖杯戦争に参加しているのか分からないのだ。
冬木の聖杯戦争には、正確には二つ聖杯が必要とされる。一つは冬木の霊脈を六十年掛けて吸い上げ、その魔力を使い万能の願望機を得るに相応しい七人のマスターを選別し七体の英霊を現世に召喚する大聖杯。
もう一つが、アインツベルンが作り上げる聖杯戦争に脱落した英霊の魔力の受け皿としてその魔力を溜め、霊体である聖杯を降臨させる小聖杯。
前回の聖杯戦争で起きた小聖杯が行方知れずになるという失態を繰り返さぬよう此度の第四次においてはホムンクルスの体内に隠すという策をアインツベルンの現当主八代目は考案した。
それが
この聖杯戦争で自分が死ぬという覚悟は造られた時から、夫を愛し、娘を生んだ時から出来ていた。それが自分の宿命であり、
アサシンのサーヴァント以外に二つの人影が倉庫街の建物に潜み各々が自分のチャンスを待ち戦場を静観していた。
セイバーの真のマスター切嗣と協力者の舞弥だ。
『切嗣、敵のサーヴァントのクラスは分かるのですか?』
『最初は
切嗣はスコープを戦場から見晴らしの良いアサシンが陣取っている場に移し悪態を吐く。
これでは、サイレンサーを取り付けた狙撃銃でも撃った途端に
生き残ってくれ、アイリ。 動けなくなった彼が出来る事は機が来るまで耐え、祈ることだけだった。
「私の宝具が何かここで聞くか」
セイバーの問いにセレクターは笑いの含んだ声で答える。
「剣のように鋭く、鎚のように重い。斬撃と打撃を兼ね備えたその
「まあ、気持ちは分からない訳でもないかな?詳しい事は省くが、この宝具は私の一生涯を象徴するモノ。故にその姿は選ばれた者にのみ正体を明かし、最後の役目を果たす時には……セイバーお前にも見える筈だ」
だが、と一度言葉を切り右足を前に出し腰を落しながら構え直すと。
「これは聖杯戦争、己の嘗ての武勲を相手に魅せ、誇りとする『決闘』ではない。敗者が嬲られ勝者がのみが残る文字通りの『戦争』だ。私のことを知りたくば……倒してみろセイバー!!」
掛け声と共に土埃を上げ前へと跳躍しセイバーと再び刃を交える。砂利が舞い上がり、近辺のコンテナが戦闘の余波で歪んだり切り裂かれたりと異なる二つの神秘の塊がぶつかり合う。魔力の風と振るわれる斬撃と衝撃は小さな台風のようにその場を吹き抜けた。
「ハッ、ほざくな!我ら英霊同士が己の願いを掛けたこの戦争を軽んじるならば貴様のその戯言を実現させ後悔させよう」
セイバーは、砂埃で悪くなった視界を
セイバーの代わりにランサーと戦う作品って結構あるけどランサーの代わりにセイバーと戦う作品が無い→だったら作ろう!!というのが創作理由の一つです(テヘペロ)
連絡
しばらく更新できなくなるかもしれません。※勉強仕事いっぱい(泣)気が向いたら活動報告とかやってますのでそちらもどうぞ。