「な、なななな何を考えていやがりますかこのバカはぁぁ―――!!」
怒涛の雷鳴とともに現れた二頭の神牛に引かれる戦車の上に乗っていたライダーに彼のマスターであるウェイバーはライダーの名乗りに悲鳴を上げ非難する。
彼の憤りは尤もな物だ。
本来、聖杯戦争に召喚されたサーヴァントは自らの真名をみだりにさらけ出すことは在り得ない。サーヴァントにとって真名を他の陣営に知られるということは、あらゆる情報を明け渡すことと同義であるからだ。
通常、過去の英雄である
即ち、生前どのような武勲を打ちたてたのか、死因や戦術、苦手なものといった弱点を曝すことと同義であるのだから。もっとも、逆に弱点の無い若しくはソレを突くことが出来ない逸話を持つ者、未来や並行世界でもって活躍する知名度が低い英霊にしてみれば然程の問題ではない。
歴史に語られる征服王であるイスカンダルの最後は病死……呪術の類を軽視する現代の魔術師にしてみればこれといった弱点には見えないので問題は無いだろうと判断したのか……あるいはただの馬鹿か。
「ブゲラッ!?」
そんな彼の憤りをライダーは強烈なデコピンを喰らわせ(撃)沈黙させた。
「セイバーにキャスターよ、うぬらが聖杯に何を期すかは知らんが余と剣を交わす前に問うておきたい。その願いは天地海山を喰らう大望に比してなお重いものであるのかを!」
ライダーが大振りで話し始めた頃、セレクターはセイバーの方を見てこちらに警戒していないことを確かめると切り裂かれた腕をベクターで掴み上げ浮かび上がらせ肉屋に吊り下げられた肉塊を見るような動きで切断面の様子を確認し、早々に患部同士を接着させ治癒を始める。鉄のメットに顔を隠しているので分かり難いが切断された神経を繋ぐ度に激痛が走り体を捩る。
「貴様、何が言いたい?」
セイバーはライダーの言葉に反応し不可視の剣を構え直し、セレクターが治癒をしていることも知らずに神牛を操る大男をにらめ付ける。
「噛み砕いて言うとだな。ひとつ我が軍門に降り聖杯を余に譲る気はないか? さすれば余は貴様等を朋友として遇し世界を征する快悦を共に分かち合う所存である」
その後、ライダーがセイバーとセレクターとの戦いに横槍を入れた理由をまとめると『お前ら自分の願いを捨てて一緒に世界征服をしようぜ!!』といった聖杯戦争に参加する他のサーヴァントの事情を度外視した、まさに
セレクターは、治癒に集中し話の半分も聞いていなかったがこれは大きな機転であると大きく口元を笑顔にゆがめた。
「……そのような戯言を言うために貴様は私と、そこのキャスターの戦いを阻んだというのか?」
対してセイバーは、ライダーの提案そのものが相容れないためか顔を落とし怒りに声が震え……否、セイバーは自分自身に腹を立てていた。
白兵戦において最優と称される
だからこそ。
「騎士として許し難い侮辱だ」
セイバーは、騎士王として自分を見失わずに自分を律する。
そしてやはりあの男と言葉を交わし互いに理解する必要性が出てきたこと考え、この状況を脱し一度合流した後彼の目を見て話し合うことを決める。
「……対応は応相談だが?」
「くどい!!」
ライダーと自分の願いはその方向性から考えて互いにぶつかり合うもの。セイバーは大きく否定しなおも勧めるライダーの言葉を切り捨てる。
「重ねて言うなら――私もまた一人の王としてブリテン国を預かる身だ。いかなる大王といえども臣下に降るわけにはいかぬ」
「ほう? ブリテンの王とな? こりゃ驚いた名にしおう騎士王がこんな小娘だったとは」
「――その小娘の一太刀を浴びてみるか? 征服王」
自分から真名を連想させる身の上を語るこの騎士王も征服王とある意味同等かもしれない……主に天然という意味で。コンテナと倉庫の影に隠れている切嗣が自分のサーヴァントに向けて小さく舌打ちをしていた。
「やれやれ、セイバーとは交渉決裂だわい」
「逸話通りであるのなら生前に生きた時代こそ貴様の方が古い時代だが。実際に生きた年数は彼女の方が上だぞ?」
それまでずっと右腕の治癒を行っていたセレクターが諦め気味に頭を掻くライダーに軽く訂正を入れる。
「うむ?……確かに年長者は敬わねばならんわな。こりゃ一本とられた」
豪快に笑うライダー。
その視線の先にセレクターは腕の調子を見るために掌を何度も開いたり閉じたりしながら血に汚れた体と切り裂かれたカソックの右袖部分を見て右半身のみ霊体化させ直ぐに実体化する。
自身の腕と元通りの服を見てメット越しでもわかるほど不思議そうに「実際に体験してみなければわからなかったが
「して、そこまで博識な貴様は如何様な英霊か? キャスターにしてはかなり珍妙な宝具を持っておるようだが」
セレクターは、生前身元を悟らせない様に角と顔を隠すために作り上げた認識阻害の魔術礼装が数々の偉業による伝承により宝具化した自身のもう一つの宝具『幻惑の鉄面』がうまく機能している様子に満足する。この宝具は魔力の込める量によって隠せるステータス情報の範囲が変わってしまうのが難点であるが今回はそれを逆手に属性とクラス別スキルのみを隠蔽することでイレギュラークラスであることを隠し通せたのだ。
無論、聖杯戦争の監督役である教会側のアーチャーとアサシン陣営は異常に気付くも放置すると見ている。最強のサーヴァントを有するが故に態々未知の敵の正体を暴くような行動は今回の戦いに何のメリットがないと考えるであろうからだ。
その正体について(あくまでキャスターとしてだが)興味が湧いているのは征服王も同じであったようだ。
セレクターはライダーの言っていることの意味が一瞬わからず呆けてしまうも直ぐに彼の言いたいことを察する。
「ん? それは私の真名を聞いているのか?」
「当然であろう、三人の内二人のサーヴァントが己が名を馳せたのだここで一人だけ名無しと終わらせるのも後味が悪かろうて。ほれ!!」
さも当然のようにセレクターも真名を話すであろうと思っていたライダーは真名を明かさない態度でいたセレクターに発破をかける勢いで名乗りを上げさせようとする。
「……ここで駄々を捏ねられても仕方ないか。――生憎と私は貴殿らのような対魔力のスキルを持ち合わせていない脆弱なクラスであるからな。流石に真名を名乗る気は無いが『座』に記録されていた私の死後の通り名を王である貴殿らに習って名乗るのなら――――。
『淘汰王ルイス』
『淘汰王……か』
『「ルイス」という名前からしてフランス語圏内の英霊でしょうか?』
三体のサーヴァントが互いに戦いを一時止め名乗りを上げている様を建物やコンテナを隠れ蓑に二つの人影が見下ろしていた。
アイリスフィールには、非常時の際には逃げの一手を取るように言ってある上に、サーヴァントに対する絶対命令権である令呪は切嗣が所有している。いざという時にはセイバーに宝具を使わせる必要がある状況になるやも知れない。
そうしたことを想定していたのだが乱入者であるライダーの言葉には現実性が一切無い。だからといって狂っている様子も無いことから本気で相手のサーヴァントを自分の部下にできると思っていたのだろう。腹を割って話すという言葉があるがライダーの場合、相手の都合を無視し過ぎている。とてもじゃないが勧誘する手段として下策であった。
それ以上にもう少しで敵のサーヴァントを脱落させることが出来たかもしれなかった先程の状況を逃がしたのは惜しかった。見れば、キャスター(セレクター)はライダーの勧誘演説とそれに噛み付くセイバーが話し合っている隙に魔術か宝具かは判らないが肢体を切断されたのにも関わらずに戦う前の汚れひとつ無い姿で佇んでいた。
『いや、結論を出すにはまだ早い。奴が死後と言った以上いつの時代にそう呼ばれていたのか確かめるのは難しいだろう。それよりも、こちらの騎士王様の軽薄さには呆れたと言ったところか……よりにもよってキャスターに真名を知られるとは』
名乗りを上げないキャスター(セレクター)を咎めるセイバーに呆れ切嗣は全盛期のころには想像も出来ない愚痴交じりにセイバーの失態を痛々しげに吐き出した。
『後悔しているのですか。切嗣?』
『ああ、アハト翁の用意した聖遺物は一級品だが僕との相性は最悪だ。あのキャスターのほうが
『…………!? 切嗣!』
どう応えるべきか悩む舞弥が沈黙を貫いていると突如どこから発せられているのかが判らないよう拡散された怨嗟の声が響き渡る。男か女か老人か若者か人物を特定できないように調節されたそれは明らかに魔術的嗜好を凝らしたもの。クレーンのアサシンも辺りを見渡すがその姿は確認できていないようだ。
戦場にこそ現れていないがこの近くにいることは間違い無い。切嗣はサーマルスコープを設置し舞弥に指示を出し使い魔達との感覚共有をさせる。
『四人目が現れた。舞弥、こちらでの狩りを始めるか』
『はい』
「貴方には、戦士として、聖杯に招かれた英霊としての誇りや威厳は無いのか!! 我々がこうして名乗りを上げた以上、其方も真名を掲げるのが礼儀であろう」
真名を名乗らずに王を語るセレクターにセイバーは
「ハッ、知るかよんなもん」
セイバーの暴言にも近いその噛み付きに対して冷めた返事をしたセレクター。今まで建前であっても崩さなかった口調を崩し本音が詰め込まれた、その言葉にこの場の状況を探る手段を持つサーヴァントと魔術師達はそろって驚きの感情を露にする。
セレクターの保有スキル 精神異常:Bは健在であったようだ。
セイバーやライダーのような正規のサーヴァントとは英霊として格というよりも質が違うのだろう。けだるそうに構えを解き、ゆっくりと黒鍵の柄を弄びながら先程のライダーの乱入により
「お前たちの名乗り合いに律儀に足並みをそろえる必要性を感じないと言った方が適切だな。騎士王は尋常な勝負をご所望であるようだが弱者であるこちら側の都合を考えない輩に何を言おうと無駄だろうがな。まあ、生前の私は魔術師というよりも魔術使いとして身を置いていた節がある。研究の成果よりも私自身にとって最適な結果を生み出せるのであれば英霊であるこの身であろうと手段を選ぶつもりはない」
主にセイバーに対しそう言い切ると、結界を形作る五本の支柱のうち二本の刀身に皹が入っているのを確認すると新たに黒鍵を顕現させ欠損の見られる二本とを刺し替える。
ライダーが落雷を伴い飛び入りした
「して、その手段を選らばぬ淘汰王。お主の答えは?」
さらに、熱を上げて斬りかからんとするセイバーを挟むようにライダーはセレクターに自身の軍門に下るかどうかの答えを待つ。セレクターが真名を名乗らずにいることにはセイバーとは違い不満が無い。寧ろそのセレクターの本音を垣間見たせいで玩具を見つけた子供のように余計に興味を持ったようだ。
「条件次第だな」
「はぁ!?」
そのはっきりとした即答にウェイバーは再び驚愕する。それはアイリスフィールとセイバーも同意見であったようで呆れを通り越し理解を諦めたような溜め息を漏らした。魔術師としての行き方を知る彼らにとってキャスターを偽るセレクターの行動は常軌を逸している。魔術師は基本群れることを嫌う傾向にある自分の秘儀を盗まれることは己の一族の歴史を盗まれることと同義であるのだからだ。自身とその後継者である子孫以外は師弟や子弟であろうと敵とみなせば一族の成果を守るために躊躇無く殺すことなど珍しくない。
魔術協会はあくまで神秘の漏洩防止と保(管)護を担うだけの魔術師同士が互いの利益のために互いを利用するための場であるのだ。
中には切嗣のような例外もいるが、はっきり言ってしまえば誤差の範囲に片付けられてしまう規模で普通であれば自然と他の勢力に吸収か淘汰されることが常でありどこにも属することなくフリーの魔術師専門の殺し屋を続けられる者などいやしない。事実、切嗣は自身の師の死後アインツベルンに迎え入れられるまで雇われるという形で魔術協会の依頼をこなしてきた。
アイリスフィールは夫と同じように彼の英霊も正規の魔術師ではないと考えればその奇行に見える行動も納得が行った。切嗣と同じくこのサーヴァントは効率という言葉を何よりも重点に置いていることを。
「ほぅ。して、その条件とは?」
ただ一人ライダーは、楽しげに口元を歪め相手の出方にドンと構えるも、内心は交渉は自身の専門外なのだが、とけして顔には出さない焦りが湧き上がっていた。
「ルーシー」は男性名だと「ルイス」と成るそうなのでそこから引用
ケイネス先生まで行かなかったー(悔)
次回はアーチャーを出すとこまで行きたいです
あ、後活動報告とか時々やっているんでよろしければどうぞ